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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第94章 子鬼の王国編

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第2398話 子鬼の王国 ――情報収集――

 『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』からの夜襲を受けて事態が尋常ではない事を悟ったカイトやベルクヴェルク伯爵。そんな彼らは現状を鑑み、一度国からの指示を仰ぐ事を決める。

 そうして皇都からの対応を待つ間、カイトはベルクヴェルク伯爵軍の手を借りながら冒険部の怪我の治癒を行うと共に、人を出して偵察を行わせていた。


『って感じだな……突っ込んでなんとかなりそうな気配はない。敢えて言うなら厳戒態勢? そんな感じだ』

「そうか……考えられていた事じゃあるが」

『奴ら、飯とかってどうしてるんだ? そっから入れないか?』

「飯は基本問題無い……奴らは魔物。最悪は飲まず食わずでもなんとかなる……それか地下に魔力が染み込んだ水源でも見付かったか。そうなると更に最悪だな」

『うへぇ……』


 偵察部隊を率いて闇夜に紛れ行動していた翔であるが、飲まず食わずで問題無いというゴブリン達に盛大に顔を顰める。こちらは飲まなければやってけないのに、相手は飲まず食わずでも問題無いというのだ。それが魔物だと言われればそれまでであるが、敵として考えれば厄介そのものだった。そんな二人の会話に、ソラもまたしかめっ面だった。


「飲まず食わずでも動けて、しかも恐怖とかも無いか。最悪だな」

「それを望む奴は多い……裏でも表でもな」


 頭の痛い話だ。カイトはソラの言葉にため息を吐いた。しかもこれで自律的な行動まで可能なのだ。コントロールこそ失敗して脱走された様子だが、上手くやれば確かな兵力になる可能性は高かった。


「翔、もう良い。見付かる前に戻ってくれ」

『了解。すぐに戻るよ』


 カイトの指示に翔は一つ頷いて、偵察部隊と共に闇夜にまぎれて帰還する事にする。すでに敵陣は厳戒態勢。砦攻めと同じになるだろう。


「……はぁ。面倒になっちまった」

「これから、どうするんですの? 依頼は取り下げで?」

「わからん。とりあえず皇都の軍部の返答待ちだ」


 瑞樹の問いかけに対して、カイトはため息混じりに首を振る。一応、当初の予定では明日には返答が来る事になっているはずだが、状況からどうなるかは不明瞭だった。そんな彼に、ソラが問いかける。


「まさか山吹き飛ばして終わりに、なんて考えてないよな?」

「それはないな。流石にそれをやるとベルクヴェルク伯に反発されるし、各地からの評判も悪い。最悪の最悪の手段としてはあるだろうが、今取るべき策じゃない」


 どうするべきだろうか。カイトはため息混じりに頭を悩ませる。と、そんな彼に瞬が問いかけた。


「そういえば……奴らここまで組織だって動けるのに、なぜ人質を前面に出さないんだろうか」

「「「ん?」」」

「いや……人質が居るならそれを効果的に使うのが良いんじゃないか、とな」

「そういや……そっすね」


 瞬の指摘にソラは道理を見て納得を示す。が、これにカイトは首を振る。


「……考えた所で魔物の考えだ。わかるわけもない。考えるだけ無駄だ。後は明日に備えて全員ゆっくり休んでくれ」

「それもそうか……悪かったな」

「いや、良い……じゃあ、全員お疲れ様」


 瞬の謝罪にカイトは一つ笑って首を振る。そうして誰もいなくなった後、彼はそこで険しい顔を浮かべた。


「……いや、だが……そうだとすると……」


 誰もいなくなった室内で、カイトがぶつぶつと何かをつぶやく。どうやら何かが思い当たったらしい。


「……となると……取るべき手は……いや、それなら……っ」


 数十分に渡る熟考の中。カイトは何かに気が付いたらしい。がばっと顔を上げる。


「そうか……どうするべきかねぇ……」


 険しい顔の後、カイトに浮かんだのは苦い顔だ。が、先程よりもどこか諦観が滲んでおり、答えは見えている様子だった。と、そんな所に扉が開いた。


「カイトさん。まだこちらにいらしたんですの?」

「え? ああ、瑞樹か。どうした?」

「いえ……部屋にお戻りになられていらっしゃいませんでしたので。ホタルさんに伺うとこちらだ、と」

「あ、あぁ……そうか。すまん。少し考え事をしていた。どうした?」

「いえ……翔さんらが戻られたので一応そのご報告を、と」

「ん?」


 瑞樹の指摘に、カイトは通信機に視線を落とす。どうやら着信に気が付かなかったらしい。それほど集中していたようだ。


「はぁ……そうか。すまん。被害は?」

「無い、との事です」

「そうか。それなら良い」

「……何か悪い事でも?」

「悪いかどうかは、判断が別れる……とりあえず明日考える」

「はぁ……」


 ひとまず眉間のシワは取れているのだ。なので瑞樹も何か重大な事を考えていたのではなく、他愛ない事を考えていた程度しか思わなかったようだ。そうして、カイトは部屋を後にする事にするのだった。




 さて会議室を後にしたカイトであるが、彼は翔から状況を聞き出すとそのまま一路ベルクヴェルク領ベルクヴェルクの空港に入っていた。というより、そこのアルミナと合流するためだ。というわけで彼女に頼んでカイトは再度石室へと入っていた。


「リトス。体調の方は?」

「……」


 石室に捕らえられたリトスであるが、脱走の手引でも考えているのかと思えばそういう事もなく単に椅子に座って読書――カイトが新聞等と共に差し入れた――をしていた。が、カイトが来たのを見て不貞腐れた様子で彼を睨むだけであった。


「あははは。好感度は最低と……ま、それでも良い。どうせ虜囚となった暗殺者なんて末路は見えてる。情報を話そうと話すまいとな。それはあんたが一番わかっているはずだ」

「……だから、どうした?」

「あら……」

「っ……」


 カイトに対して生意気な口を聞いた事に反応し妖艶な笑みを浮かべるアルミナに、リトスは先の『尋問』を思い出して僅かに身体を強張らせる。そんな彼女を手で抑制し、カイトが告げる。


「あはは……ま、改めて聞くが。どうせ解放された所で末路なんてわかってるだろう? ならあんたに出来るのは隠れ潜むか、むざむざ殺されに行くかしかない」

「……」


 笑いながらのカイトの問いかけに対して、リトスは無言かつ無反応ながらも同意する。実際、リトスとしても彼女自身が暗殺者を率いていた側として、一度でも虜囚となった暗殺者は何人も始末してきた。

 組織の情報を喋ったなら当然殺すし、虜囚となるような失態を晒したならそれでも殺す。拷問を受けている最中だったのなら慈悲とでも考えろ、と言って敵対組織と共に皆殺しにした事だってある。

 どちらにせよ殺されるのが運命だ。それが殺し屋のやり方で、暗殺者ギルドとの違いだった。そして故にこそ、彼女はカイトへと問いかけた。


「……どういうつもり? それがわかりながら、私を捕らえておくなんて。敢えて危険を呼び込もうとしているようなもの……です」

「……アルミナさん。ちょっと威圧は抑えて」

「だーめ。こういうのは最初が肝心なの。躾けはしっかりしないとこの子のためにならないわ」

「あはは……ま、それならリトスが注意するってことで」


 自身の要望を却下された事を受けて、カイトはリトスに注意を促す事にする。そうして彼が問いかける。


「一つは、迎撃するため。これだけの事を仕出かせる組織だ。野放しにはしておけんよ」

「……言っておきますが、相手は一介のギルドで相手になる規模ではないです」

「一介のギルドならな」


 リトスの指摘に、カイトは指を一度スナップさせる。すると空間が一部裂けて、本来の姿のティナが姿を現した。今回の一件は流石に遠隔で対応して良いレベルを超過していると判断。彼女も来たのである。


「……彼女は?」

「マクダウェル家の人員だ……状況、理解出来るか?」

「とどのつまり、マクダウェル家に引き渡すと」

「そういう事だな……つまりオレのバックにはマクダウェル家が居る。それで真っ向勝負を仕掛けてくるなら、それはそれでよし。エネフィア最大の規模と人脈を有する組織とやり合う事にほかならんからな」

「……なるほど」


 それで<<黄昏(たそがれ)>>が動いたのか。リトスは今までどうしても解せなかったアルミナの介在の理由をはっきりと認識する。裏世界の深い所ではマクダウェル家というよりそのスポンサーであるヴィクトル商会が情報屋を率いていて、暗殺者ギルドと繋がっている事は有名な話だ。

 彼らであれば、暗殺者ギルドの大物を動かす事も不可能ではなかった。が、だからこそリトスは反抗的な態度を崩さなかった。


「調子に乗っていますね」

「あはははは……それは否定はせんさ。危ない橋である事は否定しない。ティナ」

「うむ」

「っ」


 ティナの持つ杖の先端に宿る光に、リトスは僅かな警戒を滲ませる。そうして、彼女の身体を複雑奇怪な魔術式が包み込んだ。


「くっ……何を」

「単なる情報封鎖のための魔術じゃ。こっから先にお主が手に入れた情報は一度この魔術を介して記録される。んで、殺された場合は情報が抹消されるわけじゃな。まー、お主が殺された時のためと考えよ」

「余裕……ですね」

「べっつに問題はないのう」


 特段気にする様子もなく、ティナはリトスの言葉に肩を竦めカイトの出した椅子に腰掛ける。そうして、彼女は特段どうでも良いとばかりに告げる。


「お主ほどの木っ端一人、どうにでも出来よう。なんならお主の歴史……どこで生まれどこで過ごし、といった他愛ない事から聞かれたくないじゃろう秘め事の回数まで詳らかにしてやろうか? お主が数えられんでも何時どこでどういう風に、まで教えてやるぞ」

「っ」


 悪趣味。ティナの言葉にリトスは僅かに睨みつける。が、これにカイトが笑って手を振る。


「喩えだ喩え。こいつにそんな趣味はねぇよ」

「……はぁ。それでなんですか?」

「ゴブリンに施された処置が知りたい。話を聞いている限り、部下がいたんだろ? なら、それ相応に話は聞いていたはずだ。そうしないと仕事にも差し障るしな」

「先にも語ったはずです」


 カイトの問いかけに、リトスはやはり素っ気ない。が、実際もう知っている事はアルミナへを含めて全て話していたし、言える事はこれ以上なかった。


「ああ……だからその上で聞きたい。確かゴブリンの改良をしていた、という事だったな。で、ここの『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』を作った奴がその個体と思しき、とは聞いた」

「……」

「それで研究者達に言われて『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』のゴブリンを捕まえてこい、というのがあんたの仕事だった……実験についてもう少し詳しく聞きたい」

「実験……」


 カイトの要望に、リトスは僅かに考える。これに彼が問いかけた。


「まず改良されたのは知性という事で間違いないか?」

「それは知らない、と言ったはずです。実験内容は一切わかりません」

「そうだったな……なら、捕まえたゴブリン達にどんな実験を施していた?」

「実験……? それなら……そうだ。言葉の有無とか……どこかから捕まえてきた女をあてがって、孕ませてたのをちらりと……生殖能力の有無に影響が無いか。生まれた子供にどんな影響が及んでいるか知るため……とか」


 カイトに問われ改めて記憶を呼び起こし、リトスは思い出す限りを口にする。それにカイトもティナも険しい顔だったが、避けられないので我慢するしかなかった。


「そうだ。後は生ませた子供に対してどんな反応を示すか、というのもしていたはずです。あれは驚いた」

「驚いた、とな?」

「……はい。ゴブリン達に子供を育てるという概念はない。生まれた子供には餌さえ与えない程度の能……にも関わらず、しっかり餌を与えていた。後は……そうだ。母体も壊す様子はなく、餌を与えていた」

「ふむ……」


 どうやら最低限の文化的と言える程度の文化らしきものを手に入れていたと言って良いらしい。ティナはリトスの言葉に険しい顔だった。そうして、カイト達はその後もしばらくリトスから思い出せる限りの詳細を再度聞き取る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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