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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第94章 子鬼の王国編

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第2396話 子鬼の王国 ――夜襲――

 冒険部専用の飛空艇の購入資金とするべく請け負ったベルクヴェルク伯爵領における『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の討伐任務。それは犯罪組織が意図的に放置した等の通常とは違う側面のある依頼だったが、犯罪組織については尻尾を掴まれた事を悟り逃走する。

 というわけで、それを受けたカイトは改めて討伐任務を本格化させる事にすると、威力偵察から二日後に本格的な討伐作戦を行う事として一日の休みを設けていた。が、そんな討伐の前日。カイトがクズハの要請でマクスウェルへ戻って、更にそこから戻った後すぐの事だ。

 冒険部はゴブリンの群れによる夜襲を受け、あまりに異質な事態に困惑しながらもカイトは単騎他の面々の用意が整うまでの時間稼ぎ兼情報収集に乗り出していた。


「ふむ……」


 遠巻きに射掛け、こちらに近付く様子はないか。カイトは数度の遠距離での応酬を経て、ゴブリン達の現状をそう認識する。こちらが肉薄しない理由は単純に単騎だから、という点と遠くから見て夜襲部隊の全容を把握したい、という二つがあった。


(これが何かの作戦か、それとも単にオレを警戒しての事か……どちらかはわからんな。が、このままだと得られる情報にも限りがある……一度肉薄してみる……か?)


 いや、流石にそれはしない方が良いか。カイトは一瞬だけ浮かんだ油断に蓋をする。とはいえ、同時に接近しなければこれ以上情報を得るのは難しい事も事実だった。故に彼は技を見せる。


「<<陽炎(かげろう)>>」


 使うのは、武蔵の蒼天一流の<<陽炎(かげろう)>>。分身を生み出す(スキル)だ。これでどう反応するか確かめてやろう、という判断だった。

 とはいえ、単なる<<陽炎(かげろう)>>ではなく気を織り交ぜなるべく本体に近い質感を出していて、闇夜に紛れればすぐには気付け無い様子にしておいた。そうして彼は本物に近く偽装した分身を走らせ、一瞬で敵陣営へと肉薄させる。


「っ」


 分身が肉薄したと同時に地面に展開した魔法陣に、カイトはやはり誘っていたのだと理解する。丁度あの位置は第二結界の直前。もし第二結界があのままであれば違和感無く交戦しただろうポイントだ。カイトの指示により第三結界に切り替わっていた事で、ゴブリン達の目論見が外れたのだろうと察せられた。


(ふむ……第二結界の所にトラップを仕掛けるまでは上手かったんだが……そこからが甘いな。どうせなら一当てして撤退時の罠として利用すればベストだったんだが……)


 やはり粗が見える。カイトは今回の一幕に対してそう判断する。無論、これはこれで下手に動けば警戒されるので難しい判断が必要になってくるが、少なくとも今のように一切動かない事でこちらが警戒する事にはならなかった。


「……む」


 どうやら目論見が外れた事を受けて、ゴブリン達は攻勢に出る事にしたらしい。今までうんともすんとも言わない様子だったゴブリン達が一斉に守りを捨ててこちらへと突撃を始める。これに、ホタルの支援砲撃と甲板の上からの支援攻撃が開始されその行く手を阻む。


「四人とも、オレに当てないでくれよ」


 カイオとはそう小さくつぶやくと、敵に呼応したかのように地面を蹴ってゴブリン達へと肉薄する。そうして肉薄した彼は先頭を走っていた一団へと肉薄。一瞬だけその姿をはっきりと確認する。


(速度に長けた『痩せ子鬼(ボニー・ゴブリン)』か。前衛向きといえば前衛向きだが……)


 一太刀に『痩せ子鬼(ボニー・ゴブリン)』という細身のゴブリンを切り捨てたカイトであるが、更に周囲を確認し他の種類が居ないか確認する。そんな彼の前に、今度は盾を持つ大柄なゴブリン種の魔物が現れる。


(『巨体の子鬼(ラージ・ゴブリン)』……盾を持たせたのか。確かに尖兵としては十分……)


 やはりこれはきちんと適性等を考えられて武器を与えられてると考えて良いのかもしれない。個々の判断力とは別に、総体としてしっかりとした方向性が見える。カイトはそれに僅かな警戒を抱く。魔物が知性を持って行動しているのだ。これ以上警戒する事案はなかった。


(……事と次第に応じては、本気で行動に出る必要があるかもしれんか)


 今はまだ、冒険部の長として動いている。だがもし魔物が知性を得ているというのであれば、もはや冒険部の長なぞという生半可な立場で臨んで良いとは思えなかった。


「はっ」


 情報を手に入れる必要がある。カイトはそう判断し、盾を持つ『巨体の子鬼(ラージ・ゴブリン)』を盾ごと斬り伏せる。


(材質は……さほど良くはない。鋳造品……だな。廃鉱を利用しているのか?)


 だとすれば、もはやこれはここに偶発的に『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』が発生したのではなく、誰かの意図によりこの廃鉱を利用されたと考えるしかない。


(魔物であるか否か……確かめる必要があるが……確かめられるのは最後だけか。となると……)


 オレが最前線で進むしかないだろう。カイトは自身が先陣を切る事を決める。本来ソラと瞬に前線は任せ自身は総指揮を執りたい所なのであるが、そう甘い対応が出来る状況ではなかった。


(やるしかない、か)


 そうなれば。カイトは覚悟を決めると、今回の案件は一人の戦士として動く事にする。そしてそうなれば、後は彼は本来の戦い方を選ぶだけだ。


(敵……ゴブリン種複数種。混合部隊……適性に見合ったと思われる武装……っ)


 何かが来る。僅かに本気を見せるカイトの感覚が、何かが肉薄するのを知覚する。その直後。彼の背後の地面がめくれ上がり、巨大な腕が伸びる。


(『ブラッディ・オーガ』……いや、違う。この腕の大きさ。『クリムゾン・オーガ』。飛空艇を直接狙いに来たか)


 全身の感覚で、カイトは地中に潜むゴブリン種が『クリムゾン・オーガ』なる巨大なゴブリン種である事を把握する。そしてであれば、と彼は即座に敵の一手を理解した。


「はっ!」


 どんっ。カイトが地面を強く打つ。すると轟音と共に砕けそうになっていた地面が硬化して、這い出ようとしていた巨大な何かの出現を阻止する。


「ホタル! 緊急浮上!」

『了解。緊急浮上。乗組員各員は緊急浮上に備えよ』


 カイトの指示を受けて、ホタルが戦闘開始から万が一に備え離陸直前に持っていっていた飛空艇を緊急浮上させる。と、そうして地面に手を着く事で『クリムゾン・オーガ』を縫い止めたカイトへと、無数のゴブリン種達による槍が迫りくる。


「<<金剛体(こんごうたい)>>」


 流石に現状では転移術でも使わねば不可避。そう判断したカイトは、蒼天一流の中でも防御力を極限まで引き上げる(スキル)を使用。金剛石の如くの硬度を得た彼の身体に弾かれ、全ての槍が甲高い音を上げて弾かれる。そこに、アリス達からの支援が飛んできた。


『カイトさん! 今の内に!』

「すまん」


 無数の白銀の魔弾に撃たれ隊列を乱した所へ、カイトは足に力を込めてその場から跳び上がる。そしてそれと共に地面の硬化も解け、今まで縫い留められていた赤黒い肌を持つ巨大なゴブリンが姿を見せた。これに、飛空艇から出立直前で待機していた瞬が手すりに掴まりながら声を荒げた。


『何だ!?』

「『クリムゾン・オーガ』……もしくは『真紅の巨大な鬼ギガ・クリムゾン・オーガ』・『ブラッディ・オーガ』の別種。魔術より肉体面に重きを置いた亜種だ。が、この体躯で魔術も使える」

『あいつか……聞いた事はあるな。だがどこに隠れていた』

「……考えたくはないな」


 言われてみれば尤もな発言だ。カイトは瞬の指摘に苦いものが広がる。こんな巨大なゴブリンが隠れていられるスペースなぞどこにもないはずなのだ。にもかかわらず、今の今まで掴めていなかった。何故か、と考えたくもない話であった。


「先輩。こっちはそっちに任せる……そいつはオレが潰しておく」

『その方が良いか……わかった。一瞬、食い止めて貰えるか?』

「そうしよう……が、気を付けろ。まだ一体どこかに潜んでいるはずだ」

『もう一体?』


 これ以上まだ隠し玉が居るというのか。カイトの忠告に瞬は驚きを隠せなかった。これに、カイトは頷く。


「ああ。こいつは魔術を使えるが、どちらかといえば肉体派。『ブラッディ・オーガ』ほどには魔術は使えん……地中に潜れるとは思えん。もう一体、どこかに潜んでいる」

『そうか……横槍に気を付けよう。他はおおよそ見ていた』

「そうか。気を付けろよ」

『了解』


 カイトの言葉に頷いて、瞬は改めて隊列を整えさせる。本来は第三結界の中で隊列を整え攻勢に出るつもりだったのだが、10メートルほどとは言え飛空艇が浮かんでいるこの状況ではそうも言っていられない。順々に着地して即座に隊列を整え、とする必要があり早急な作戦の練り直しが必須だった。と、そんな事をしていると今度は飛空艇の甲板の上から機を見計らっていたアル達が飛び立った。


「カイト!」

「っ、頼む!」

「りょーかい! ルーファウス! 支援はお願い!」

「わかった!」


 この状況だ。いがみ合う余裕なぞアルにもルーファウスにもなかった。故にリィルを含めた三人は一斉に飛び立つと、地上のゴブリンの群れに向けてガトリング型のウェポンパックで砲撃を行い隊列をかき乱し、放たれる矢や魔術に対してはルーファウスが火炎で焼き払う。それを横目に、カイトは飛空艇を狙う『クリムゾン・オーガ』へと肉薄する。


「速攻玉座狙いは駄目だろう!」

『!?』


 猛烈な速度で迫りくるカイトに、『クリムゾン・オーガ』が驚愕を浮かべる。そこに、カイトは一切の容赦無く殴りかかった。


「!」


 殴りかかった瞬間。カイトは『クリムゾン・オーガ』がたしかに受け身を取った事を理解する。そしてそれが事実である事を示すように『クリムゾン・オーガ』は吹き飛ばされながらも、地面を滑って急減速。ほぼダメージの無い様子でカイトへと逆に巨大な腕で殴りかかった。


「っ、はっ!」


 拳だけでも自身の身の丈ほどはありそうな巨大な腕に、カイトは左手で弾くように掌底を当ててその軌道を逸らす。そうして弾かれた腕を『クリムゾン・オーガ』は強引に押し戻すようにして、カイトを横薙ぎに打ち据えんとする。これに、カイトが闇夜に紛れ僅かに笑みを浮かべる。


『ガァアアアアアア!』

「!?」


 読まれた。それとも咄嗟の判断か。カイトは強引な制動を掛けて腕を引き戻し、逆の手で自身を打たんとする『クリムゾン・オーガ』に驚きを浮かべる。が、そうして迫りくる『クリムゾン・オーガ』の左手に向けて彼は即座に逆手持ちの刀を持つ手とは逆の手に大剣を掴んで、片手で手首を狙い斬撃を放った。


『ガァアアア!』

「!?」


 手首から鮮血を吹き出させる『クリムゾン・オーガ』の苦悶の声が響く中。カイトは同時に苦い顔だった。本来、今の一撃で手首は寸断され地面に落ちているはずだった。が、結果は両断するには至らず、完全に骨を断つ事も出来ていなかった。


(浅い。何かの皮で滑ったか。しかも単なる皮じゃない。油やらを塗ったか染み込ませたか……斬撃耐性持ちの魔物の体液だな……ちっ。こりゃ、厄介な)


 どうやら本当に作戦をもう一度練り直さねばならなそうだ。カイトは更に上に見積もるしかなくなった敵の戦力を受け、はっきりとそう判断する。


(腹巻き、鉢金……その他いくつかの箇所にある皮は同じと見て良さそうか)


 『クリムゾン・ゴブリン』の急所を守るように巻かれた何かの皮の防具に、カイトは苦い顔で顔を顰める。これが何なのか。それは後でも良いが、少なくともしっかり防御するだけの知性の介在だけは事実だった。


「はぁ……」


 あまり遊んでもいられない。カイトは一度深呼吸をして精神を落ち着けると、刀と大剣を異空間に収納。懐から魔導書を取り出す。


「ナコト。バルザイを頼む」

『了解……クトゥグア・セット』

「ご明察」


 自分の意図を察してくれていたナコトに、カイトは一つ笑みを浮かべる。そうして、彼の手に柄の短い特殊な形状の偃月刀が顕現する。そして顕現すると同時に、刀身に地獄の業火を思わせる火炎が宿った。


「クトゥグア・インストール……はっ!」


 轟々と燃え盛る火炎を宿す偃月刀を、カイトは回転させるようにして『クリムゾン・オーガ』へと投げつける。が、こんな物『クリムゾン・オーガ』の体躯からすれば爪楊枝も同然。刺さったとて痛みが少しある程度だろう。故に『クリムゾン・オーガ』は迷いなく偃月刀を上からはたき落とそうとして、しかしそこで急加速した偃月刀に対応出来ず脇腹に小さなキズが出来た。


『グッ……ク』


 効かん。敢えて言葉を当てるのならそんな笑みが『クリムゾン・オーガ』に浮かぶ。が、その次の瞬間。『クリムゾン・オーガ』はその内側から火炎で焼き尽くされ、その身を守る皮に燃え移ると更に火力を増して燃え盛る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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