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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第93章 古き世界より編 

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第2354話 神葬の森 ――深き森――

 邪神復活に備えて各地が動く中発見されたエルフ達の国エルアラン奥地にある『神葬の森』での未踏破領域。その調査をアイナディスを介してスーリオンから依頼されたカイトは自身率いるエネフィアでも有数の戦士達に加えシャムロックからの助言により<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>へ神域の神気を蓄えるためにソラを同行させる事にして、出発する。

 そうしてエルアランに飛空艇で到着した彼は三百年前に新人兵士であったというロルカンという男が率いる艦隊に護衛されながら、『神葬の森』と呼ばれる深い森へとたどり着いていた。そんな『神葬の森』を見て、ソラは思わず絶句する。


「……なんだ、こりゃ……」

「『神葬の森』だ……<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>は知っているか?」

『ああ……にしてもここは数千年前と変わらず壮大なものよ』

「そうね……昔も今も、ここは変わらず……でもないわね。少し伸びたかしら。エルネストが案内してくれた時より少し大きい気がするわ」

『確かに……そうやもしれませんな』


 どこか懐かしげなシャルロットの言葉に、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>もまた僅かに微笑んで同意する。そんな二人に、ソラが問いかける。


「え、これ……そんな前からこんななのか? 数千年で成長した、とかじゃなくて……」

『うむ……この『神葬の森』は我らが活動するより更に昔から、エルアランがここに国を構えると定めるより遥かに昔から存在する森よ』

「え? シャムロックさん達より古いのか?」

「流石にそれはないわ。ここ……この異空間が見付かった時にはすでにあったけれど、発見したのは私達だし。だから、ここのエルフ達も一応は私達の系譜に入るのよ」


 驚いた様子のソラに対して、シャルロットがこの異空間発見の歴史を語る。その後色々とあってエルアランと言う男にこの異空間の統治を認めた事で、エルアランが興ったのであった。なお、エルアランは家名で人物名ではない。


「はー……なんていう木なんすか?」

『結晶樹』(けっしょうじゅ)よ」

「『結晶樹』……」


 ソラはシャルロットの言葉に『結晶樹』なる木を見る。確かにその枝葉にせよ幹にせよ樹冠にせよ、透き通るような白さで若干の輝きを有していた。間違いなく地球人類が知り得るどの分類の樹木とも異なる木々だった。そんな彼に、カイトは異空間から『結晶樹』の枝を取り出した。


「それがあの枝か?」

「ああ。『結晶樹』の枝は様々な用途で使われる高級素材だ。これで作られた杖はかなり優れた物として、一流の魔術師なら一本は欲しいと言わしめるほどの物でもある」

「へー……なんでんなの持ってるんだ?」

「拾った」

「あ、高級つってもそこまで高級じゃないのね」


 あまりにあっけらかんと告げられた言葉に、ソラはそんな勘違いをする。が、そんなわけがなかった。故に、シャルロットが呆れ気味に首を振る。


「そんなはずは無いでしょう……その枝を手に入れるのは間違いなく難行の一つよ。それがいくら三百年経過したからと変わるとは思えないわね」

「へ?」

「まぁな。平然と素手で触っている様に見えるから申し訳ないんだが、この枝は凄い繊細な物質なんだ。加工して安定させると素材として使える様になるが……」

「その安定は、楽な話ではないのう。余も回収の際にはカイトに頼む事が多いぐらいじゃ」


 カイトの言葉を補足する様に、ティナが口を挟む。そんな彼女にシャルロットが更に続けた。


「いつもの事だけれど、下僕がおかしいだけよ。参考にはしない様にしなさいな……そもそもこの下は聖域にして神域。生半可な戦士では立ち入る事さえ不可能な領域よ……エルネストの記憶を継承したのであれば、少し貴方は『神葬の森』について勉強をしておくべきだったわね」

「す、すんません……」


 返す言葉もない。ソラはシャルロットの苦言に頭を下げて項垂れる。実際、先にシャルロットがエルネストの事に言及していた様に、エルネストはここに何度か足を運んでいる。そしてその理由を彼女が語る。


「アーネストの杖の一本はこの『結晶樹』の枝がベースよ。特に攻撃に特化させた杖がここの枝だった。だから失われる事が多くて、何本も作り直してたんだけど……あいつが何度も足を運んでいたのは、種族等もあってあいつでないと取りにいけないためね。武芸や活動に関係する記憶が継承されているのなら、『結晶樹』に関する知識も必ずあるはずよ。あいつが『結晶樹』の重要性を知らないわけがないもの」

「あはは……まぁ、そうだろうが。そこらへんにしておいてやれ。流石に全部を一気にやっちまうとアップアップになっちまう」


 実際今回ばかりはソラの不勉強と言われても仕方がなくはある。なので項垂れるソラに対してカイトが一応のとりなしをしておく。というわけで、彼は改めてソラにこの『神葬の森』の注意点を言及する。


「で、ソラ。落ち込むのは良いが、先に仕事の話だ」

「あ、おう」

「まずこの『神葬の森』だが、魔物は出ない。一切な」

「出ない?」

「ああ……さっきシャルも言っていたが、この『神葬の森』は神気に満ちあふれている。それこそ並の戦士なら立ち入る事さえ出来ないほどのな。今のお前でも少しキツイだろう。腹に力を入れるのを忘れるな」

「そんななのか」


 今は飛空艇の中かつ少し距離が離れているから感じないのだろう。ソラはカイトの言葉にそう判断する。そして実際その通りであった。


「ああ……だがだから基本安全は確保されていると考えて良い……邪神共がいなければ、だがな」

「結局そこなのか」

「そうなる。とはいえ、だ。魔物の襲撃について気にしなくて良いのは利点だ。有効活用していく」

「一切の例外無く出ないのか?」


 なにかの条件が重なった場合出て来るのか、それとも一切の例外を許さずなのか。やはり気にするべきはそこだった。故のソラの問いかけに、カイトではなくティナが答えた。


「無論、例外はある……強いていうのであればランクA級までの魔物であれば出ない、と言ってよかろう。それにしても意図的にこの『神葬の森』に解き放たねばならぬ、という前提があるが」

「なにか理由があるのか?」

「魔物の発生する条件はいくつかあるが……その一つに淀んだ魔力が集積する結果があるのはお主も知ろう」

「そりゃ、一番多い発生事由だからな」


 ティナの確認にも似た問いかけにソラははっきりと頷いた。淀んだ魔力というのは、謂わば良くない感情に汚染された魔力と言っても良いだろう。それが凝り固まり実体を得たのが、魔物と呼ばれる存在なのであった。


「うむ……が、そういう事なのよ。この『神葬の森』は神気が強すぎるのでのう。結果、そういった淀んだ魔力が蓄積出来ぬ。すぐに吹き飛ばされてしまうからのう。故に低ランクの魔物は発生出来ぬし、かといって高ランクの魔物が生まれるほど高濃度の魔力が集積出来る事もない。必然、魔物は現れぬというわけじゃな」

「へー……で、とりあえず出ないで理解はおけ?」

「それでよかろ。ここらの詳しい話をしておったら日が暮れるでは済まぬからのう」


 兎にも角にも出ないと明言して良いらしい。ティナはソラの確認にはっきりと頷いた。まぁ一応厳密に言えば絶対に出ないというわけではないらしいが、あまりに条件が厳しいらしくティナは言及しないでおいたようだ。


「そか……」

「ま、そういうわけで基本この『神葬の森』では魔物は出ないと考えて良い。ここでのお前の仕事は飛空に慣れる事。それと<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の修繕に務めることだな」

「りょーかい。とりあえず<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>第一、飛空術第二か?」

「上出来だ」


 ソラの優先順位の定義に対して、カイトははっきりと頷いた。所詮飛空術の練習なぞ後でも出来る。ここでしか出来ない事を優先的にしてもらうべきだろう。と、そんなソラであったが、そこでふと気が付いて問いかける。


「あれ……そういえば『結晶樹』って触れるとどうなるんだ?」

「触れると? ああ、触れると砕け散る。だから持ち帰るのは難行なわけだな」

「もしかして……『結晶樹』に触れたらヤバい?」

「あ、それは安心しておけ。『結晶樹』には触れられない」


 若干おっかなびっくりという塩梅のソラに対して、カイトは笑って首を振った。まぁ、相当高級な素材だというのだ。その原生林で迂闊な事をしたくない、という彼の感情はわからいではなかった。が、その心配は杞憂だったようだ。


「触れられない? でも触れたら砕け散るんだよな?」

「んー……まぁ、これは実際に降りてから見た方が早いか。アイギス。後どれぐらいで着陸地点に到着だ?」

『イエス……地図と速度等から推測される現在位置から照らし合わせ、およそ十五分で到着するかと。すでに護衛の艦隊は離脱しています。先程連絡がありましたが……お話中でしたので連絡は省きました』

「別に構わんよ……とはいえ、そういう事ならそろそろ出た方が良いか」

『イエス……丁度そこらも含めてご報告しとこうかな、と思ってた所ですね』

「りょーかい。一旦オレが外に出て状況の確認を行う。ティナに計器の操作系を預けてくれ」

『イエス……マザー』

「うむ」


 どうやら着陸地点までかなり近付いていたらしい。ソラとの会話を一旦切り上げて、一同が慌ただしく着陸の準備を開始していく。と、その一端で甲板に向かうらしいカイトが、後ろ手にソラへと付いてくる様に指示する。


「ソラ。お前も来い」

「え、おう」

「身体を慣らしておいた方が良いだろう。他の面子は慣れてたりするから問題はないだろうが……お前はな」

「あ、そういう……」


 それは納得だ。ソラはカイトの言葉に納得すると、彼に続いて甲板へと向かって歩いていく。そうして少し歩くと、甲板へと続く隔壁の前にたどり着いた。


「アイギス。甲板の隔壁に到着した。開いてくれ」

『イエス……結構凄いですよー』

「オレには関係無い……ソラに言ってやれ」

「そんなヤバいのかよ……」


 アイギスが茶化すぐらいには凄いらしい。ソラは僅かに怯えを見せるも、腹に力を入れて気合を入れる。そしてそれが功を奏した。


「うぇ!?」

『小童。腹に力を入れろ……今以上にな』

「お、おう……っ」


 <<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の助言に、ソラはかつてバーンタインが威圧してきたと同等の心づもりで気合を入れる。これがもし最初に気合いを入れておかなかったら、一瞬危なかったかもしれない。ソラをしてそう思えるほどの神気だった。ここでこれだ。森の中だとどれほどのものか、考えたくもなかった。と、そんな彼にカイトが僅かに心配そうに問いかける。


「キツイか?」

「若干。ちょっと、ってぐらいだ……なんとかはなる」

「それなら良いだろう。まぁ、ここらは所詮慣れだからな。慣れろ」

「おう……すぅ……はぁ……」


 カイトの助言にソラは数度深呼吸を繰り返して、身体を順応させていく。それを横目に、カイトは告げた。


「ソラ。お前は少しの間ここで神気に順応しておけ……<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>。悪いが、ソラがぶっ倒れたら呼んでくれ」

『手間を掛けるが、その時は頼む』

「ああ……じゃあ、オレは一旦下に降りる。お前はこのままここで慣らしておけ。辛くなったら戻って回復も忘れるな」

「おう」


 多分大丈夫だとは思うけど。ソラは段々と楽になってきた現状を鑑みて、カイトの言葉にそう返す。それを尻目に、カイトは飛空艇の甲板から外に舞い降りる。そんな彼が僅かに飛空艇から先駆けて舞い降りたのは、こういう場合に飛空艇で着陸可能な一角の中でも今回見付かった出入り口に一番近い場所だった。


「……ティナ。計器類の調子はどうだ?」

『……うむ。なんとか正常な範囲内じゃな。流石は『神葬の森』。様々な数値がとんでもない値じゃが……荒れ狂っておるわけではない。安定は安定じゃ』

「それなら良いか」


 この場の面子ならさほど問題無いだろうし。伊達にシャルロットをしてここから『結晶樹』の枝を持ち帰る事を難行と言わしめるわけではないのだろう。


『で、そっちの実感としてはどうじゃ? なにか肌身に感じる事は』

「んー……いや、特に問題はなさそうだな。邪気の類も感じん……はずれ、かねぇ」


 カイトは自身が単身降り立ってなお何も感じない状況に、邪神の尖兵が隠れ潜む事は無いかもしれないと考える。実は敢えて彼が一人で先行したのは気配の揺れ等が無いか確かめるためで、神陰流の使い手たる彼であれば僅かな揺れでも見極められると判断したからでもあった。


「ソレイユ。そっちは?」

『んー……だめっぽいねー。私の目でもなーんにも』

「だめかぁ……こりゃ、いよいよ本格的にハズレか」


 自身に先駆けて甲板に出て外の監視を行ってくれていたソレイユの報告に、カイトは一つため息を吐いた。元々さほど期待はしていなかったが、この様子だと本当に偶然同時期に発生しただけ、という可能性が高そうだった。と、そんな落胆の様子を見せる彼に、ティナが告げる。


『ま、そこらを調べるために来たんじゃ。ハズレならハズレで良かろうて』

「そだな……良し。ティナ、どっちにしろこっちの支度は大丈夫そうだ。そっちの準備が整い次第、降りて来い」

『うむ』


 カイトの言葉にティナが応じて、飛空艇が着陸の準備に入る。そうして、数分後には一同を乗せた飛空艇は『神葬の森』へと着陸する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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