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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第93章 古き世界より編 

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第2350話 神葬の森 ――遠征任務――

 リデル領リデル郊外で行われていたコンベンションの視察を終えて、マクスウェルへと帰ってきたカイト達。そんな彼らは視察で手に入れた情報で次へ向けての方針を定める事になるのであるが、その一環で冒険部では冒険部専用となる飛空艇の購入を決めそれに向けて動き出す事になっていた。

 そしてそれと共に今後の活動に備えてウェポンパックの購入を決意したソラに使い勝手を学ばせるべく軍の旧型のウェポンパックを使わせるため、軍の倉庫へやって来ていた。そうしてそれも終わった所で、カイトとソラはオーアと別れてギルドホームに帰ってきていた。


「え、ってことは俺も行く事になったの?」

「ああ……なんとかな」

「マジか……無理だと思ってた」

「おいおい……」


 当然であるが、ソラを『神葬の森』に連れて行く事は彼にも伝えていた事だ。が、話を聞いたソラは無理だろうな、と思っていたらしい。まぁ、彼もマクダウェル領以外のエルフの排他性は知る所であり、これは別におかしな反応ではなかっただろう。


「というわけで、遠征が続く事になるが……最近座学ばっかりで丁度よいと思ってくれ」

「おけ……あ、流石にウェポンパックは無しだよな?」

「あー……流石に高火力のウェポンパックは禁止だな」


 今回向かうのは森の中。それも『神葬の森』とまであだ名される神聖な深い森だ。ここでは火気厳禁であり、森を焼く事になる武装は一切が禁止だった。とはいえ、せっかくの遠征だ。そのまま何も無しというのも味気ない。というわけで、彼は立ち止まって通信機を起動する。


「オーア。聞こえるか?」

『ん? 総大将かい。何かあったか?』

「ああ……まだ倉庫か?」

『そだね。片付けは終わってるけど……さっきもちょこっと言った通り保存状態が完璧じゃないのがちらほらあったからね。そいつらの確認やってるとこ』


 カイトの確認に対して、オーアは一つはっきりと頷いた。どうしても倉庫に保管されていたのだ。使えない程度にまで悪化している事はなかったが、それでも全てが全て万全の状態で保管されていたわけではない。

 それを受けてオーアは特にひどい物やこのまま放置しているといざという時に使えない可能性がある物を持ち帰って――それ以外はカイトが軍に命じて整備させる――修理する、とその確認していたのである。


「そうか……確かさっきちらっと見えたんだが、旧型の飛翔機あったな? あれを一つ整備しておいてくれ」

『うん? 飛翔機? ソラの小僧にゃ使わせないって話じゃなかったか?』

「そうなんだが……ちょっとな」


 訝しむオーアに向けて、カイトは先程の話と自身の考えを語る。


『あー……確かにその面子だと飛べないと話にならんね』

「だろう? 連れて行く手前、飛べないってのは絶対的な不利だ。さらにはただでさえ周りが……だからな」

『あー……確かに足手まといも良い所だからねー』


 流石に近くにソラが居るので明言はしなかったカイトに対して、その言外の言葉を読み取ったオーアはなるほど、と納得する。今回組織されている調査隊の戦闘員はソラを除けばアイナディスを筆頭にランクSだったり、ランクSに匹敵する猛者ばかりだ。ソラが加わればその面子の実力が出せない可能性があった。


「まぁな……そういうわけだから、飛翔機の準備だけ頼むわ」

『りょーかい。ちゃちゃっとやっとくよ。飛翔機は整備状況悪くなかったしね』


 カイトの依頼に対して、オーアは一つ頷いた。これは単にソラに対する再調整と傷んでいる部位があればその修繕という程度だ。先の保存状態が悪い物とは別だった。というわけでオーアに依頼を行うと、カイトはそれをソラに告げる。


「飛翔機? マジで?」

「ああ……ぶっちゃけ、先に話した通りお前に戦闘力は求めてない。というより、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>の力を蓄えるために向かうわけだからな。そこで消耗させちゃ世話がない」

「あー……そりゃそうだよな。で、逃げとけか」

「そういうこと……しかもお前の場合、攻撃力で重要なのが<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>だからな。派手な一発は使わない方が良い以上、遠くに居て貰った方が良い」


 自身の言葉に同意したソラに対して、カイトは一つはっきり明言する。まぁ、ここで足手まといとはっきり言わないのは、彼の優しさという所だろう。


「わかった。今回は飛翔機で遠ざかっとくよ。それに上の方なら<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>を使っても問題なさそうだしな」

「そういうこと。使うなら思いっきり上に行って上に向けて撃て。下には撃つな」

「おーう」


 カイトの指示にソラはそうする事を決める。そんな事を話しながらも更に歩いて行くわけであるが、この後は特に問題もなく普通に執務室へと戻る事になった。


「ただいまー」

「戻った……桜。何か変わりは、もしくは依頼の提示はあったか?」

「いえ、変わりも提示もどちらも無しです」

「そうか……ふぅ」


 桜の返答を聞きながら、カイトは自身の椅子に腰掛ける。そうして自身の机に重要書類が無い事を確認すると、改めて口を開いた。


「ソーニャ。少し良いか?」

「依頼の件ですね?」

「そうだな」

「そちらへ向かいます」

「わかった」


 ソーニャの席とカイトの席は僅かだが離れている。別に声を張り上げねば届かないほどではないが、他で仕事をしているのにわざわざ大きめの声で話し合う必要はないだろう。というわけでソーニャが移動してカイトの近くにあった椅子に腰掛ける。


「それで、なにか良い依頼はありそうか?」

「今の所、皇国国内での大規模討伐依頼は三つ提出されています……これが、その三つとなります」

「ふむ……」


 ソーニャの提示した依頼書の三つを見て、カイトは少しだけ考える。今回、彼女に依頼したのは討伐を中心とした報酬の良い依頼だ。そしてそうなると必然基本は公共事業に近い貴族や国からの依頼となり、依頼の受諾にも条件がある物が多かった。


「色々と一癖も二癖もあるな」

「そうでない物の場合、広く参加者を募る依頼となりますので」

「ギルドに出される依頼にはギルドに出される依頼なりの理由がある、か。草原とかだと楽なんだがね」

「楽な依頼は出されませんよ」

「だわな」


 ソーニャの指摘にカイトは笑って同意する。今回カイトが見繕っているのはギルド宛てに出されている依頼だ。なので受諾条件の一つにはギルドマスターの承諾が必須とされている物ばかりで、当然の様に二桁単位での冒険者の参加が必須となっていた。というわけで、カイトはそんな依頼の三つを見繕う。


「さて……これは省いてくれ。湖での依頼は受けたくない。特にこれからの時期はな」

「かしこまりました……費用対効果も悪いですからね」

「そうだな。報酬は一番高いんだが……流石に湖となるとボートやらの用意が要る。費用対効果が見合わんし、危険性も高い」


 カイトが取り除いたのはちょうど皇都を挟んで反対側の領土での依頼だったのだが、湖で魔物が繁殖したのでその討伐依頼というものだった。一応民衆達の生活範囲にはかぶっていないので危険はないそうなのだが、その湖から流れる川を生活用水として使用しているらしい。

 討伐しておきたい、という考えはわからいではなかった。が、冒険部の武装や時期を鑑みるとイマイチ費用対効果が良くなく、省かれたのであった。


「そうなると……この二択か。山岳地の討伐依頼と沼地の討伐依頼……」

「簡易なのは沼地の討伐依頼になるかと。この周辺の魔物のランクはDが中心となります。ただ、沼地である事から地面には要注意かと」

「ふむ……こっちの山岳地の情報は?」

「基本ランクはCですが……最高ランクBまでの魔物が出現する恐れがあります。行くのであれば高ランクの冒険者を含めた討伐隊の組織が必須かと思われます」


 山岳地に加えて大量の魔物。更にそこに高ランクの魔物だ。生半可な装備で挑めば、ギルド一つ壊滅もあり得るといえばあり得た。ソーニャの注意は尤もなものだった。この二つを見比べて、カイトは僅かに険しい顔で地図を取り出す。なにか思い当たる節があったらしい。


「……ああ、やっぱりか。この沼地の依頼は無しだな」

「沼地の方ですか?」

「ああ。かなり昔に知り合いの冒険者に聞いた話なんだが……この沼地の辺りは秋の終わりから冬の初めに掛けて、頻繁に雨が振るそうなんだ。詳しい事はオレも知らないが……とりあえず雨が多いそうだ。しかも朝は冷え込むから、朝露も割とある。なんで日によってはぬかるみが酷く、沼地は避けた方が良いそうだ。まぁ、オレもどこまで情報が正しいかわからんから、事前調査が必要になるが……」


 苦い顔でカイトはソーニャへと断る理由を語る。なお、これを語ったのはかつて共に旅をしたウィルで、その時は敢えて沼地を突っ切る際に語った内容だった。

 その理由も少人数かつ自分達が腕利き揃いである利点を活かして時の魔王軍からの追撃を逃れるためで、事実この沼地に足を取られた魔王軍からの追撃を逃れる事に成功していた。


「なるほど……とはいえ、雨が降れば数日は動けなくなりそうですね」

「ああ。さらには今の時期だと冷え込んで体温を奪われる事もあるかもしれない。ランダム性が高すぎる。この地域を熟知しているなら兎も角、安易に踏み込むべきじゃないな。こっちはこっちで費用対効果が悪い……春か夏ぐらいだと、事前調査だけでも良いかもしれんがな」

「確かに……確かに、そういう面で言えばこの山はまだ良いやもしれません」


 カイトの指摘に納得したソーニャは一転して最後に残った山岳地での大規模討伐依頼を見る。こちらは魔物のランクが高い以外にも山岳地である事による足場が不安定である事があり、高額な依頼になっていた。


「だな……こちらの依頼だと気を付けるべきは高ランクの魔物の出現と魔物の多さ、足場の不安定さ……が、山岳地での不安定な足場は普通だ。特別気にするほどの事でもない……大量発生した魔物のメインを教えてくれ。流石にそこが無いわけがないだろう?」

「はい……この依頼における主要な魔物はゴブリン種。どうやら大規模な群れが発生している様子です」


 カイトの問いかけを受けたソーニャが山岳地での依頼の概要を改めて説明する。が、そうして主力となる魔物と状況を聞いて、カイトはかなり苦い顔を浮かべる。


「山岳地でゴブリン種……しかも大量発生。あまり良い予感が無いが」

「……現在まで確認はされていませんが、その可能性は非常に高いかと思われます」

「……ユニオンからの救援部隊の同行は可能か?」


 どうやらカイトもソーニャもあまり良くない状況になっている事が想定されたらしい。どちらも苦い顔で話をしていた。というわけで、ソーニャがカイトの問いかけに一つ頷いた。


「申請を回す事は可能かと」

「そうしてくれ……状況が状況だ。起きている可能性は非常に高い……まさかユニオンに依頼が回された理由はそれか?」

「はい。本依頼の受諾にはユニオンからの信頼度が入っています。本ギルドはその受諾条件を満たす物、として依頼書の閲覧が可能になっていました」


 なにかに気づいた様子のカイトの問いかけに、ソーニャはユニオンの裏を語る。これで、カイトはこの依頼に含まれる裏の要件を理解した。


「なるほどね……要救助者の救助も依頼に含まれるか」

「そう捉えて頂ければ」

「ちょっと厄介だが……それだと報酬の増額も視野に入るか……一応、裏取りだけはしておくか。よし。ありがとう。とりあえずこの山岳地の依頼を受諾の方向で頼む。どうせこんな依頼だ。受諾者は多くないだろう」

「ええ……出て暫くではありましたが、どこもあまり受けたがってはいないみたいです」


 面倒な依頼だからな。カイトは大規模な攻撃による一掃が難しい癖に強い魔物も少なくないだろう依頼を見て冒険者達がそう考えても仕方がない、と判断する。というわけで、カイトはすぐに情報屋に依頼の裏取りを頼みに行く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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