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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2338話 コンベンション ――展覧会――

 天桜学園に建設中の研究施設に導入するための機材購入の参考にするため、リデル領リデル郊外で行われているコンベンションに参加していたカイト率いる冒険部。

 そんな中でカイトは飛空艇の購入を考えているイングヴェイの依頼を受けて飛空艇の視察を行っていたわけであるが、その一方でティナは魔道具開発に使われる機材の視察を行っていた。そんな中、彼女に声を掛けたのは彼女が魔王時代に教育大臣を務めていた老人であった。

 そんな彼からもたらされた情報により、ティナは魔術都市『サンドラ』の何者かが自分とカイトを狙っている事を知る事となる。というわけで、敢えてその誘いに乗る事にしたティナは、その旨をカイトと相談する事にしていた。


「へー、アンテス殿が。ご息災、変わり無かったか?」

『それは変わらぬよ。相変わらず深い髭もそのままじゃのう』

「そか。それは良かった」


 先にアンテス――老人の名――もカイトの事を知っていた様に、カイトもまた彼の事を知っていた。なので久しく聞かなかった彼が元気である事にカイトは満足げだった。が、やはり彼も本題を聞いて笑みは浮かべてはいられなかった。


「なるほどね……それは穏便な話じゃないなぁ」

『そうじゃのう……で、これを受けようと思うがどうじゃ?』

「そりゃ……はぁ。まぁ、お前の目的はわかってる。本屋だろ?」

『あったぼうよ。そも『サンドラ』は往来がある程度制限されておるからのう。行こうとすりゃ時間が掛かる。それがわざわざ向こうから招いてくれるんじゃぞ。受けぬ道理がどこにあろう』


 呆れる様に笑うカイトの言葉に、ティナは何を当たり前な、といわんばかりの顔で告げる。これに、カイトはため息を吐いた。


「面倒事との引き換えだがね」

『それは仕方があるまい。が、そんなもん正面から叩き潰せばよかろう』

「目立ちたくないんだがねぇ……」


 ティナにしては珍しい力技の行使の提案に、カイトがため息を吐いて首を振る。そもそも彼らはあまり目立ってはよくない立場だ。特に今回は他国の事になる。なので本来は安易な行動は避けるべきだが、ティナはそれを上回るメリットがあるとカイトへと力説する。


『それはそうじゃが、『サンドラ』へ行くのはそれを上回るメリットがある。あそこにはエネフィアでも神殿都市に匹敵する魔導書が集まる。いや、神殿都市が禁書が集まる事が多いのであれば、一般的に使える魔導書は『サンドラ』の方が多い。それが手に入るのは冒険部にとってもメリットはデカイ』

「はいはい……自分が見たいんだ、ってはっきり言ってくださって良いですよ」

『見たい』

「はい、ありがとうございます」


 許可があるなり即座に断言したティナに、カイトはもうわかっていました、とばかりに深い溜息を吐いた。というわけで、彼が呆れながらも承諾を示した。


「わーったよ。『サンドラ』から招聘があったらあり次第受諾で。まぁ、『展覧会』の予定はわかってるから日程の調整も出来るだろ」

『うむー』

「『魔導書』の持ち出し出来る前提で話をするのはお前ぐらいだな……」

『伊達に立ち入り禁止を言い渡されておる余ではない』


 どやぁ。ティナは通信機の先で胸を張る。というわけで、実はティナは『サンドラ』の本屋に出入り禁止が言い渡されているのであるが、これは『サンドラ』特有の事情があった。


「『魔導書が主人(あるじ)選びし時、それを妨げる事は魔術師たらば恥と知れ』……だったか」

『そじゃな。それがあるが故に余は立入禁止になっとる』

「天才だからなぁ……」


 先にティナも灯里の一件で言っていたが、ティナはほぼ全ての魔導書を隷属させる事が出来るほどの才覚の持ち主だ。なので彼女はやろうとすれば『サンドラ』に収蔵されている魔導書を全て持ち出す事が可能である可能性があり、それ故に本屋には立入禁止とされていたのであった。


「まぁ、良いわ。オレ達を敵に回す事がどれだけ高く付くか。身を以てわかってもらいましょうか」

『そうじゃな。高く付く……金銭的にものう』

「……一応言っとくが、ある程度は遠慮はしとけよ。そこは流石にな」

『わーっとるわい。めぼしいの適当に貰って帰るだけじゃ。金も払う』

「はいはい……」


 ある程度は抑え役として同行しないとなぁ。カイトはティナの暴走を抑えるべく奔走する未来が見えればこそ、がっくりと肩を落とす。とはいえ、自分にとって有益である事も事実なのである程度は好きにして貰うつもりだった。なにより、招くのはあちら側だ。文句を言われる筋合いはなかった。


「で、以上か?」

『うむ。ま、遠からず『展覧会』の招聘があろうて……何が目的かも見えておるしのう』

「やれやれ……人の娘を拐おうだなんて。悪い事を考える奴も居るもんだ」


 何が目的か。カイトはそれを察していればこそ、呆れた様に首を振る。アンテスからの情報を統括すると、『展覧会』の優勝者だか誰かが珍しい魔導書を狙っている事は想像に難くない。

 その点で言えばカイトの持つアル・アジフとナコトは最も珍しい魔導書であると断言出来る。そしてこの二つは『天音カイト』としての切り札の一枚として晒している。それをどこかで掴んで狙ったとして、不思議はなかった。


『だから、高く付く事を教えてやるんじゃろ?』

「そうだな……じゃあ、やってやりますかね」

『うむ……ああ、そうじゃ。『展覧会』じゃが、お主結局何をするかわかっておるな?』

「それは勿論」


 というかそうじゃないと今まで知ったかぶりで話をしていた事になるしな。カイトはティナの確認に対して一つはっきりと頷いて口を開く。


「『展覧会』とはお上品に言った物だが、要は自分が習得した魔術で戦おうってだけの話だろ? 単に武闘派の武闘会と一緒にすんな、ってだけの魔術師達のエゴの塊で実態は武闘会だな。ルールこそ魔術師向けに調整されているが」

『言ってやるでないわ……そうなんじゃが。主催者達の言い分としてはあくまでも魔術の素晴らしさを説くためにやっている、という話じゃからのう。それでバトっとる時点で武闘会じゃろう、という指摘は正しいがの』


 カイトのズバリとした発言にティナは困った様に笑う。実際、彼女自身も魔王時代に『展覧会』をはじめて聞いた時には使者を前に武闘会と何が違うんじゃ、とド直球に聞いた事があったそうである。なので彼女も否定は出来なかったし、していない口である。


「ま、良いわ。とどのつまり真正面から叩き潰しゃ良いんだろ……どーせ開祖マグナスの言葉を理解出来ん奴らが多そうだから、一発どでかいのぶちかましてやっても良いだろう」

『そりゃ面白そうじゃのう……トリニティ・フォームじゃったか?』

「あー、名前どうしよっかなー、って悩んでる所。マギウス・スタイルやら双翼形態でも良いかなー、とか思ってる」

『まーだ決まっとらんのか』

「名前決めるの難しいんだよ。スタイルチェンジは多いからなぁ……」


 どうやら今二人が話しているのはカイトお得意――でありながら勇者カイトとして使いまくった所為で使えない――のスタイルチェンジの話だったらしい。しかもこれは地球で手に入れた新スタイルの一つらしく、まだ名前が決まっていないらしかった。


「まぁいっそ本気モード・開始とかでも良いんだけどな」

『安直すぎる……』

『安易』

「という風に却下を食らうのであります」


 カイトから出された提案に、アル・アジフとナコトの二人が即座の却下を下す。というわけで、このスタイルは魔導書絡みであるのでこの二人の意見も聞いている結果、良いアイデアが決まらないのであった。


『そうか……ま、仲が良いのは良い事じゃし、好きにせい。余の方はもう決まっとるしのう』

「へー……ん? 余の方?」

『内緒じゃ』

「ふーん」


 楽しげなティナの様子に、カイトは彼女が何かしらの手札を新たに手に入れたのだろうと察する。ここら二人の場合悲しいかな、こういった切り札を切れる相手や状況が限られてくるため使う事が稀になってしまっていた。なのでカイトも知らない切り札があっても不思議はさほどなかった。


「まぁ、良いか。兎にも角にも『展覧会』とは名ばかりの武闘会だろ? まぁ、魔術師じゃないから相手の土俵で戦う羽目になるんだが……別にお前相手じゃなけりゃ問題もない」

『あ、そじゃ。余、出んからな。流石に余が出たらまた圧勝しちまうじゃろうし。それにお主も魔術師としてならせいぜいランクSの魔術師相当という程度でしかない。ぶっ飛んだ魔術師ではなかろう』

「ま、そりゃそうだな」


 何度も言われているが、カイトは近接戦闘主体の戦士だ。なので本来魔術師と魔術で戦って勝てる道理はないが、ティナの薫陶と大精霊達の支援もあり魔術師としてもかなり高水準な領域になっている。この内大精霊達の支援をオールカットしても魔術師としても十分戦えたのである。と、そんな彼がふと思い出した。


「……あ。そういや吸収どうしよ」

『……あ』


 吸収。それは勇者カイトが大精霊達より授けられたと言われる全属性を完全に無効化するだけでなく吸収して自らの魔力として取り込む力だ。それは無属性以外全ての属性に対して有効で、しかも外す事も出来ないある意味では呪いの装備一歩手前の魔道具だった。

 これはどんな魔術に対しても有効で、特に今回の『展覧会』を考えれば非常に強力な武器と言えるだろう。これを使う事がすなわちカイトの正体の露呈である事がなければ、であるが。


『……しゃーない。余がなんとかしよう。ま、擬似的にダメージを受けられる様にぐらいは……出来ると……思う』

「自信ねぇなぁ……」

『仕方があるまい。大精霊様方のお力なぞ余も太刀打ちできぬ最強の盾じゃ。故にお主には無属性攻撃以外通用せん……まぁ、高位の魔術師になって属性魔術を多用する時点でその腕はたかが知れているというものであるがのう』


 上に到達すればするほど、敵もまた属性攻撃に対して概念的な守りを持つ。そして敵が何を無効化するか、なぞ初手でわかるわけもない。

 なので属性魔術を得意とする者でも基本的には無属性魔術で攻撃して敵の守りを解析して弱点を見つけ出す、というのが基本的な戦略となる。ティナの言う通り、属性魔術の多用はその時点で無属性魔術を使えません、と言っているようなものだった。


「……確かに、それはそうか。その程度の魔術なら無効化しても問題は無いな」

『じゃて……面倒なのは無効化を無効化してくる奴らじゃが……』

「ソシャゲのプレイヤーへの対策を思い出すね」

『そりゃ、単なる後出しの嫌がらせじゃ。こっちは無効化も道理があり、道理がある以上その道理を解き明かして無効化を無効化する事は出来よう。無効化を更に無効化、というのは道理に則った物じゃ』


 楽しげに笑うカイトに、ティナは首を振って道理に則ってされている物である事を明言する。この無効化を無効化する魔術は全てが最高位の魔術に位置しており、基本的に本気のティナが使うような属性魔術は全てこれに属していた。というわけで、全属性の無効化を無効化する魔術を手に入れている彼女がカイトへと攻略の指針を指南する。


『そうじゃのう……ノーダメでやるとなるとカウンター戦術が良かろう。特にお主の場合は武芸者としてもカウンターを得手としておるから、それに沿った戦い方であれば特別疑問は出まい』

「無効化を無効化を解呪するのか」

『そういう事じゃな。無効化を無効化しそれを更に無効化するのは間違いなく天才の所業よ。それは流石にお主は出来てはならぬじゃろうな』

「実際、そこまでなると出来ないしな」


 カイトはティナの指摘に首を振る。まぁ、その代わりとしてカイトには吸収が与えられており、一切合切が通用しないのだ。が、何にでも例外はあるものだ。故に、カイトは一応の所とそれを口にする。


「まぁ……呪炎(じゅえん)呪氷(じゅひょう)だとかが出て来るとやばいが……流石にそんな物を使う奴が大会に出られるとも思えんか」

『あれは世界を侵す毒じゃ。属性魔術と同一としてはならん。禁呪の類じゃし、対人使用は厳に禁じられておる。真っ当な魔術師は研究目的以外では使わぬよ。真っ当でなくてもそんなものを対人で使用した事が発覚すれば、良くても国や都市から追放される。禁呪の対人使用は基本は極刑じゃ』


 カイトの言葉にティナもまたあり得ない、と同意して首を振る。やはり禁呪には禁呪と言われるだけの理由があり、という所らしい。なのでティナも禁呪をカイト以外で対人で使用した事はなく、そのカイトにだって属性の吸収がどこまで通用するかを確かめる同意の上かつ大精霊達の指導の元の話だった。とはいえ、だからこそ禁呪に限っては通用する可能性が高いと判断されており、カイトも警戒していたのである。


「そうだがな……相手が真っ当でないなら、警戒はしておいた方が良い」

『それは否定はせぬよ……が、呪毒術(じゅどくじゅつ)は習得と行使は非常に難しい物でもある。余とて使用するなら魔導書の補佐はさせる。あまり気にせん様にせい』

「りょーかい」


 発動の兆候を見切れる以上、カイトの腕前であれば対策は容易だろう。ティナはそう判断すればこそ、カイトへとそう助言を与えておく。そうしてカイトとティナは少しの相談を終えると、再びそれぞれの視察へと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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