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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2337話 幕間 ――一方その頃――

 設営中の研究施設へ導入する機材の視察のため、リデル領リデル郊外で行われているコンベンションに参加する事になったカイト率いる冒険部。そんな中でカイトはふとした事をきっかけとして冒険部専用の飛空艇の必要性を再認識する事になり、会場の外で行われている飛空艇の展覧会に参加する事になっていた。

 というわけで、同じく飛空艇の購入を考えているイングヴェイ、実際に使う者となるソラや瞬と共に飛空艇の視察を行っていたわけであるが、一方その頃の会場内ではティナらが研究機材の視察を行っていた。


「ふむ……やはり三百年も経過すると面白い物が色々と出ておるのう……魔道具開発に使えるプリンタも良いのがありそうじゃのう……」


 魔術のありとあらゆる分野において天才と言われるティナであるが、その専門はと言われると魔道具の開発と高性能化が主――主なのであって他にも色々専門的な知識は備えているし出来る――と言われている。飛翔機なぞ彼女の代表作の一つで、言うまでもなくエネフィアの歴史を大きく変えた物だろう。

 他にも遺跡から発掘された製紙技術の解析と簡略化、量産化の成功はエネフィアの歴史を記すのに多大な貢献を果たしているし、魔導炉の安全装置の高性能化は見過ごせない。技術者としての彼女の功績は枚挙にいとまがなかった。と、そんな彼女のつぶやきを通信機を介して聞いていたカイトが笑って問いかける。


『お前の性能に対応してるのか?』

「簡易な魔道具を作るなら、高性能な装置は必要ない。こんな程度で十分じゃ……ぶっちゃけお主や余に対応する魔道具を作ろうとすると無理なだけで、冒険部で使う物であればこういう物で良い……後は設計用の魔道具をどうするか、という所であるが……」


 カイトの問いかけに対して、ティナは努めて真面目な顔で返答する。基本的にカイト達が使うような魔道具はもはや職人芸にも等しい調整がされているわけで、作るとなると専用の装置が必要になる。そしてそんな装置が市販されているわけもなく、自分達でこれまた作っている。ティナ達の性能を最大限発揮する事は出来なかったが、冒険部で使う分には困らなかった。


「ふむ……一個あると便利かもしれんかのう」

『開発設計が可能な設備か……確かにあるとあるで便利ではあるが』

「うむ。無いと困るが手に入らぬなら自分達で用立てる、というのは冒険者の基本じゃろう。そうなると、一つ開発設計が可能な設備は持っておいて損はなかろうて」

『ふむ……わかった。そこらの設備もめぼしいものがあったらリストアップしておいてくれ』

「よかろ。ま、これについては余の専門分野故にな。余に任せい」


 流石に自身の専門分野だ。他の誰よりもティナが一番詳しく理解しているし、この分野でティナに勝る者は居ないだろう。というわけで技術班ではここらの設計開発に使われる魔道具の視察はティナが請け負っていた。なお、流石にこれについてはそこまで多くないそうなので、これが終わった後は転移術の研究に使う機材の視察になる。


「ふむ……」


 どの程度の品が冒険部で今後長く使えるだろうか。ティナはそこらを考えながら、数々の機材を確認していく。自分用にあるとはいえ、使う事になる事はあるのだ。なので見る目は真剣だった。

 というわけで幾つものブースをハシゴしながら時にカイトからの連絡を受けつつ進んでいく事になるのであるが、そこでふと彼女へと声が掛けられた。


「お嬢さん。少々、よろしいかな?」

「む? お主は……」

「お初、お目にかかる。儂は」

「構いませぬよ。流石に余も魔術の研究者。その研究者で御老公の名を知らぬは言えまいて」


 柔和な笑みを湛える年齢不詳の老人に対して、ティナは口調こそ尊大――単に翻訳機の機能でそうなってしまうだけだが――であるものの敬意を表した語調で笑う。


「ふぉふぉ……それは長く生きた甲斐があると言うもの……っと、このままでは話しにくい。少々、場を移そうかのう」


 とんっ。老人は杖で床を軽く小突き、二人の周囲にだけ結界を展開する。意外な事ではあるが、実はこのコンベンションではこうやって秘密に話せる結界を展開しても問題はない。

 費用や悪評になりかねない話をする事もあるため、必要と認められていたのである。というわけで結界を展開した後、老人が相好を崩して懐かしげに頭を下げた。


「お久しゅうございます、魔王様」

「もう元じゃて。お主が元大臣であると同じ様にな。息災、変わりない様子で安心した」


 どうやら老人はかつてティナが魔王であった頃に大臣として同じく国を治めていた側近の一人だったらしい。そんな老人が困った様に笑う。


「ははは。これでも少し衰えを感じておりますよ。あの頃は仕事が多すぎて老いを忘れられたものですからな」

「それは仕事を割り振った余へのあてつけかの?」

「ふぉふぉ」

「ははは」


 冗談めかした二人はかつての様に冗談を交え、楽しげに笑い合う。そうして、ひとしきり笑いあった後にティナが改めて懐かしげに問いかける。


「にしても……<<古き偉大なる魔術師エルダー・ウィザードリィ>>とまで言われたお主がこのコンベンションに参加しておるとはのう。何かめぼしいメーカでもあったか?」

「それなら新進気鋭のハイビスカスは良いメーカと言えるやもしれませんな。大きなハイビスカスのマークが目印です。あれはまだ荒削りな商品も多いが、十年ほど経てば良い品が出るやもしれません」

「ほぉ……それは見ておこう」


 やはり自身が大臣まで任せた賢人だ。その言葉は迷いなく傾聴に値する言葉であり、ティナはそのメーカの名を覚えておく事にする。そうして、暫くの間両者はこの二日で見ていたメーカの論評を雑談を交えて話し合う。


「ふむ……やはりお主から見ても現代の飛翔機の構造は甘かったか」

「ええ……如何せん魔王様の技術はブラックボックスが多すぎますからな。高度すぎるが故に、という所ですが」

「それは余にはなんとも言えんがのう……」


 時代を先取りしすぎたが故に解析が出来ず、結果としてブラックボックスになってしまった。正確な所はそれなのであるが、それ故にこそ不十分にしか性能を発揮出来なかったのが現代の飛翔機だった。


「で、それはそれとして、じゃ。そういや、すっかり聞きそびれたが何しに来たんじゃ? お主、今は研究者ではなく教鞭を執っておろう?」

「ええ。魔族領南部の都市にて教鞭を」


 ティナの確認に対して、老人は一つ頷いた。元々ティナが彼に任せていたのも教育大臣。魔族達の教育に関する仕事だ。それが連盟大戦で散り散りになった後、クラウディアらの招集を断って教鞭を執っていたのである。

 理由も従えない、などの理由ではなく単にその時も教鞭を執っていたためで、教え子をほっぽりだしてはいけない、という理由だった。なので意見が必要なら聞きに来てくれ、と言ってくれていたので連絡は取れる場所に居てくれていた。


「じゃろうて。今回のコンベンションでは別段そういった教育関連の品はあるまい。それにわざわざ魔族領から来る意味もさほどなかろうて」

「教育の一環です。なのであまり長話も出来んのですが……」


 ちらり、と老人が結界の外で魔族領のメーカが出している製品の視察を行う若い従業員らしき数人に視線を向ける。彼らはかなり若く、どこかぎこちなさや緊張も見て取れた。そうして、そんな老人が楽しげに来訪の詳しい理由を告げた。


「少し昔のですが卒業生が興した魔族領のメーカに学生が数人研修に出ておりましてな。それで研修の締めくくりにこのコンベンションに参加する、という事でしたので少し冷やかしでもしてやろうかと思いましてな」

「なんじゃ。そんな理由か……で、偶然余を見かけか?」

「ふぉふぉ……そういう所ではあるのですが……」


 ティナの問いかけに笑った老人であったが、一転して少しだけ真剣な顔を浮かべる。そうして、彼がここに来た裏の理由を語る。


「偶然魔王様を見かけたのは事実です……が、近頃連絡を取ろうと思っておったのも事実です」

「ふむ……聞こう」

「はい……魔術都市『サンドラ』はご存知ですな?」

「何を今更。余に『サンドラ』の名を聞くなぞ釈迦に説法も良い所じゃろうて」


 魔術の天才と言われるティナに魔術都市と知られる『サンドラ』の名を問う老人に、ティナは少し呆れた様に首を振る。というわけで、老人もまた一つ頷いた。


「ですな……これは有り難い事なのですが、儂の勤める学園では毎年数人『サンドラ』から交換留学生を受け入れておりましてな」

「<<古き偉大なる魔術師エルダー・ウィザードリィ>>が教鞭を執る学園じゃ。『サンドラ』の学生にとっても良き収穫はあろうて。何も不思議はあるまい。それどころか『サンドラ』から招聘があったとも聞いたぞ?」

「ははは。お恥ずかしい」


 どこか茶化すようなティナの言葉に、老人は再度笑う。そうして少し笑った後に、老人が告げた。


「まぁ、それは良いでしょう。そういうわけですので、時折『サンドラ』には行く事がありましてな。ついこの間も次の交換留学生の話があり、出向いた所です」

「ほう……『サンドラ』でなにか良からぬ話があったと見るが」

「流石は、魔王様です」


 <<古き偉大なる魔術師エルダー・ウィザードリィ>>と呼ばれる老人であるが、すでに老体である上に地位としてもかなりの高い立場だ。直々に遠方の『サンドラ』――魔術都市『サンドラ』はエネシア大陸南部にある――にまで行くのはよほど大事か、彼が望まない限りはあり得ない話だった。今回の案件を考えれば、後者しかあり得なかった。


「『サンドラ』で開かれる魔術の()()()は、覚えておいでですか?」

「無論じゃ。数度観覧に招かれ、一度参加したのう。まぁ、叩き潰してくれ、という話じゃったが」

「は……今でも伝説として語られております」

「うるさいわい」


 冗談めかした老人に、ティナは少し恥ずかしげにそっぽを向く。これは彼女が魔王時代の話で、天才と名をはせた彼女だ。何度か来てくれないか、と魔術都市側から要請があり、交流を深める目的で観覧に出向いたのである。

 そしてそれと共に一度腕を見せて欲しい、と頼まれた事があり圧勝してみせたのである。なお、あまりに圧勝し過ぎて翌年からは観覧でお願いします、と観覧のみである事を念押しする一文が添えられる様になったとか。というわけで、そんな彼女が恥ずかしげに先を急かす様に告げる。


「それは良いわ。展覧会がどうした」

「は……実はここ数年、参加者が行方不明になっている事件が起きているとまことしやかに囁かれておりましてな」

「……ほう」


 きな臭い話が漂ってきたな。ティナは老人の語る内容に僅かに目を細める。そしてこの時点で大凡の筋は読めていた。


「卒業生か在校生が巻き込まれたか」

「卒業生ですじゃ……惜しい事に準々決勝でその年の優勝者に敗退したのですが……そこから暫く連絡が取れぬ様になりましてな。はじめはショックで落ち込んでおるだけと思ったのですが……数年前、偶然冒険者をしている同級生が見付けたと聞いて少し叱ってやろうかと会ってきたのです」

「命に別条はなかったか」

「そこは幸いにして」


 ティナの問いかけに、老人は一つはっきりと頷いた。少なくともその点については一安心という所で、ティナも僅かに眉間のシワを緩める。とはいえ、これで終われば時折ある連絡が付かなくなっただけという程度で、老人がわざわざティナに連絡を取ろうとする程度の話ではない。故に、彼が告げる。


「が……おかしなことに彼の持ち物で一つ重要なある物がなくなっておったのです」

「あるもの……とな」

「は……魔導書です。件の彼が先祖代々受け継いできた魔導書です。学生時代にはたとえ何を質に入れても質には入れぬと言っていた物がなく、聞けば人にくれてやった、と言うのです」

「ほぅ……誰に、じゃ?」

「そこが、問題なのです。彼に聞けど誰だったか、と思い出せぬ様子。喩え答えてもどこかに粗がある」

「おかしな話じゃな」


 先祖代々受け継いできた魔導書を手放したというのだ。その卒業生にとって重要な出来事であるにも関わらず、それを思い出せない様子なのだ。明らかにおかしな事態だった。


「はい……それで、これは去年の事なのですが……その彼が敗れた優勝者が展覧会に出られましてな。それそのものについてはおかしな話ではありません。名家の出ですからな」

「……続けよ」


 大凡先は読めたが、聞いておく必要があるだろう。ティナは老人に先を促す。これに、老人がティナの想像した通りの話を告げた。


「その者が、その魔導書にしか記されておらぬはずの魔術を行使したのです。それがその魔術であると知るのは限られる。儂も教師として信頼してくれればこそ見せてくれ、わかっただけですからな」

「……怪しいのう」

「はい……よしんば合意の上で譲られたのであれば覚えておって不思議はない。隠さねばならぬ理由はないですからな。にも関わらず、覚えていない」

「……この事はその者には?」

「言っておりませぬ。最悪の事態が想定されましたので……」


 最悪の事態。それは事の真相を思い出す事を起点として魔術が発動し、卒業生が殺されてしまう事態だ。口封じ、というわけである。


「今その者は?」

「儂の保護下に」

「そのままにせい……で、それだけか?」

「いえ……この程度であれば、儂やクラウディア殿らで対処しましょう。引退された御身にお話する話ではない」

「じゃろうて……なんじゃ」


 恐らく自分に連絡を取ろうとしている以上、何かしら自分達に関わる内容が出たからだろう。そう思えばこそ、ティナは先に進めさせた。


「御身とカイト殿を展覧会に招聘しよう、という動きがあるそうです。発起人は……」

「件の優勝者、じゃな」

「は」


 大凡は読めた。恐らく件の優勝者かその周辺がなにかしらの暗躍をしていて、カイトとティナを狙っているという事なのだろう。とはいえ、これにティナは逆に獰猛な笑みを浮かべた。


「良いぞ。お主の思惑に乗ってやろう」

「ふぉふぉ……ありがとうございます」

「相変わらず人が悪いのう……余らに告げればこう動くじゃろうというのはわかっておろうて」

「大臣にまでなって人が良いだけ、というのは珍しいものではないですかな?」


 ティナの言葉に老人が楽しげに笑う。そしてこれはティナも同意する所で、別に気にするつもりもなかった。利益があったからだ。


「とどのつまり、正面から招いてくれるという事じゃろう? いやぁ、些か行けるなら行きたいと思っておった所でのう。どーれ、正面から叩き潰してやるとするか」

「ご随意に。どうにせよ、御身らでありましたら正面から叩き潰す事も裏から密かに刺す事も容易。手を出した事を後悔させるだけでしょうて」

「くくく……ま、手を出した代償は貰っておくがの」


 老人の言葉にティナが楽しげに笑う。そうして要件が終わった事で二人は人知れず別れて、ティナは即座にカイトへと連絡を入れるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 名前も出ない内に死亡フラグが立ってて草 カイトとティナの事ですから馬鹿が一人〆られるだけでは済まず、大騒動になるのでしょうが 少なくとも件の奴は身の程をたっぷりと知る事になりそうですねぇ
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