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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2334話 コンベンション ――飛空艇――

 天桜学園の敷地内に建造中の研究施設に導入するための機材を検討するべくリデル領リデルにて行われていたコンベンションへと参加していたカイト。そんな彼であるが、幾つかの話し合いをきっかけとして飛空艇についての購入を真剣に検討しなければならない、と考えを改める事になっていた。

 そうしてそんな彼の要請により改めて本格的に飛空艇の購入を検討するべくソラと瞬もカイトと共に飛空艇の視察に向かう事になったわけであるが、そこに前日ソラを介して飛空艇の解説を受けたいと申し出ていたイングヴェイが合流。

 彼から彼のギルドが購入を考えている飛空艇の希望を確認し、四人は連れ立って会場の外にある飛空艇のブースへと足を運んでいた。というわけで外に繰り出した所で、ソラが早々に首を傾げる事になった。


「……ん? 今日って確か飛空艇がメイン……だよな?」

「ああ。一日目魔導鎧各種、二日目飛空艇各種だな。まぁ、例えば小型の揚陸艇のようなそこまでスペースを取らない奴なら一日目に紹介してたりする事もあるがな」

「だよな……なぁ、なんであの大型そのままなんだ?」


 ソラの指差した方角には、昨日も展示されていた大型魔導鎧が置かれていた。一応横にはコンテナもあるので移動させようとした痕跡は見て取れたが、それにしたってそのままである意味が考えられなかった。そんな彼の指摘にカイトもそちらを見て、なるほどと一つ頷いた。


「あー……多分あれは大型魔導鎧専用の輸送機のデモに使うんだろう」

「専用の飛空艇?」

「ああ……空母型が出来たのは本当につい最近の話だ。それまではあんなコンテナに入れて専用の飛空艇で輸送するのがメインだった。操縦者が保たないからな」


 大型魔導鎧の動力源はあくまでも操縦者の魔力だ。なので長距離を移動すれば移動するほど戦闘可能時間が減ってしまう。その分最大出力も低下してしまうので、良い事は一切なかった。


「それ以外にも作業用だとそもそも戦闘力も機動力も無いから、魔物から逃げ切るのに一苦労だ。勿論、操縦者も非戦闘員である事が多い。輸送機に載せて運ぶのが一般的というわけだな」

「なるほど……確かにそっちのが安全だもんな……」

「そういう事だな」


 自身の言葉に納得を示したソラに対して、カイトは一つ頷いた。というわけで彼の納得を経て暫く歩いていくわけであるが、その道中でイングヴェイがふと三人へと問いかけた。


「そういや、お前さんら飛空艇の免許って持ってるのか?」

「まぁ、全員持ってるが……それがどうした?」

「いや、どれぐらいで取れるのか、ってのとどこで取るのが一番良いか、ってのが気になってな」

「持ってないんっすか?」


 カイトの返答に少し恥ずかしげなイングヴェイに、ソラが少しだけ驚いた様子で問いかける。これに、イングヴェイが頷いた。


「まぁな。そろそろ取ろうとは思ってたんだが……ダイヤロックの一件で思った以上にまとまった金が入ったからな。若干予定を繰り上げて先に頭金払って免許取っておこうって腹だ」

「へー……で、カイト。そこらどうなんだ?」

「そうだなぁ……まぁ、実習を考えればウチでやっとくのが一番だとは思うが。歴史も一番古いし、設備や訓練用の飛空艇も完備されてる。戦闘用から限定的な装備しかしていない物まで各種対応可能だ」

「やっぱ、そうなるか……」


 カイトの助言にイングヴェイは少しだけ悩ましげに考える。一応彼のギルドではイングヴェイを筆頭に弟のリディック。その他幹部達は全員免許を取る予定にしていたらしい。

 というわけで今全員で急ぎでどこが良いか検討しているらしく、知り合いに助言を貰っている所だったそうだ。と、そんな彼の顔色に瞬がいぶかしげに問いかけた。


「……少し苦そうですね」

「んー? まぁなぁ……俺達冒険者ってのはどうしても座学のお勉強ってのは苦手でな。なるべく実習だけで終わらせたいっちゃ終わらせたいんだが……」

「やめておいた方が良いだろう。飛空艇の運用で各国で共通ルールを設けている。それを知っておかないと後々面倒を引き起こしかねん。更に言えば、練習用の飛空艇は多少強度は高いし操縦も簡易だが……」

「わーってるって……ただ他の奴があんま乗り気でないって話だ」


 カイトの苦言に対して割って入ったイングヴェイは変わらずの苦い顔で首を振ってため息を吐く。こればかりは多くの冒険者達に共通した問題でもあり、同時にイングヴェイやカイトのような統率者達の悩みでもあった。と、そんなカイトであったがそこでふとイングヴェイへと問いかけた。


「そういや、弟さんは? 昨日はちらっと見かけはしたが……」

「ああ、リディか。リディは飛空艇に入れる色々を見てくれてる。俺はガワだ」

「そういう事ね」


 飛空艇に入れる色々、というのは謂わば生活雑貨や家電製品という所だ。飛空艇に備え付けで販売されているものもあるにはあるが、飛空艇の購入はやはり大きな買い物だ。しかもエネフィアでは冒険者に応じて必要な要素が異なる。色々とこだわりたいという需要は非常に多く、冒険者向けの飛空艇では特に別に導入出来る様にされている事が多かった。というわけで、それを思い出したイングヴェイは少しだけしまった、という様子でカイトへと告げる。


「ああ、そうか。そういやそこも重要か。一応、ガワと中は別に作れる物が良い。ま、こっちは別にウチの用途に応じて使えるのがあれば話は別だから、第一条件ってわけじゃないがな」

「りょーかい」


 最重要というわけではないから忘れていたらしい。カイトはイングヴェイの一応の申し出に一つ頷いた。そうしてそこからは更に冒険部で必要となるような要素やイングヴェイ達が必要と思う要素を話し合いながら歩いていく。


「へー……いや、道理っちゃ道理なんっすけど。そんな部屋あるんっすか」

「そーなんだよ。狩人(ハンター)ギルドってのはやっぱ狩りがメインだからな。ニオイ消し専用の部屋ってのはあるに越したことはない。魔物にせよ獣にせよ、匂いに敏感な奴は多いからな。部屋の匂いが身体に染み付いたらまずいわけよ。ってなると、部屋の匂いも極限まで薄めた部屋が必要になるわけ」

「「はー……」」


 やはり別の業種のギルドとの話はソラや瞬にとっては興味深い内容だったらしい。自分達では想像もしていなかった作業があったりしたようだ。と、そんな話をしながら歩くこと暫く。一同はまずはここだろう、というブースにたどり着いた。


「まずは……まぁ、ここか」

「まー、まずはここだよなぁ……」


 カイトの言葉にイングヴェイも納得した様に頷く。一同がやって来たのはヴィクトル商会のブースだ。そこは今日のコンベンションの中でも最大規模のブースだった。並んでいる飛空艇の数は五隻。大きさの違う戦闘用の物が二隻、同じく大きさの違う輸送艇が二隻、数人で使う小型艇が一隻だった。


「流石に軍向けの戦艦や巡洋艦級は不要だろう……特におたくの所の場合、戦闘より逃走の方が多そうだしな」

「よくおわかりで。血の匂いが染み付いちまうと洗うのが手間だからな。最悪は装甲の総取っ替え。余計戦艦は使えねぇわ」

「だろうな……」


 マジか。カイトとイングヴェイの会話にソラも瞬も内心で驚きを得る。これもまた、主軸を置く分野の差だった。これに対して冒険部は遺跡の探索が主眼なので、状況次第では遺跡に蔓延る魔物の討伐もある。なので外におびき出して戦艦の火力で一掃も手だ。購入は視野に入った。


「で……さっきの話を聞くに目的に合致するのはあの中型の輸送艇か。カタログには小型もあるにはあったが……」

「小型は流石にな……小さすぎるわ」

「だろうな……サイズから中小規模の運送会社向けか」


 カイトとイングヴェイはブースの端に掲示されていたその他の飛空艇に関する資料に目を向けて、冒険部もイングヴェイ達も用途に合致しない事を認識する。

 小型の飛空艇の収容人数は十数人。最大でも二十人までとイングヴェイ達のギルドの人数よりかなり少なかった。無論、冒険部の規模だと到底まかない切れない。

 小型や中型だと数隻買う事になり、大型の輸送艇を一隻買う方が結局は安上がりだった。というわけで、イングヴェイは掲示されていた情報の中からカイトの紹介した中型輸送艇のスペックを確認する。


「中型だと……最大収容人数は四十人か。ちょっと多いな……流石に四十人までは要らんな」

「まぁ……流石にそこを刻んでくれ、というのは無茶だろう。とはいえ、内装の拡張性は非常に高い。その分、若干値は張るが……」

「そこな……そこがマクダウェル家系列の難点っちゃ難点なんだが……」

「そこは性能とのトレード・オフだろうな」

「それな」


 笑うカイトの言葉にイングヴェイもまた笑う。昨日魔導機の話がされた際にマクダウェル家の品は高性能であると言われていたが、その流れはヴィクトル商会の製品にも言われる事であったらしい。というわけで、イングヴェイが笑って続けた。


「最高級品やちょっと良い品を、ってんならヴィクトルをまず見るべきってのは買い物の基本中の基本だ。もうちょい安けりゃな、とも思うが。使い捨て以外のヴィクトルの製品を買う時は若干腹括る」

「しゃーない。高耐久高性能低価格ってのはどだい無理な話だ。どこかでなにかの折り合いは付けなきゃならん」

「わーってる。伊達に道具使い(アイテムマスター)ってわけじゃねぇ」


 カイトの返答にイングヴェイは肩を竦める。やはり道具使い(アイテムマスター)をやっていると冒険者でもかなり道具に関して詳しくなってしまうのだろう。故に彼は少しだけ苦笑気味に今まで見てきた物の共通点を口にした。


「安上がりで高性能ってのは使い捨てが基本だ……次も買えよ、って話だからな」

「あっははは。そうだな……まぁ、そういう話だ。飛空艇は使い捨てとはいかん。今後十年二十年を考えりゃ、高性能の物を一つ選んで長く使った方が良い。特にヴィクトルの物は五年十年先にガタが来た時に中だけ取っ替えるって事も出来る」

「あー……そうか……確かにそりゃ良い考えっちゃ考えか……」


 こればかりは仕方がない話だが、飛空艇も消耗品だ。永遠に使えるわけではない。なのでどこかでは修理や修繕が必要になるし、場合によっては買い替えも視野に入れる必要がある。

 その時にどれだけ安く出来るか、というのは重要な点だった。というわけで、自身の指摘に道理を見たイングヴェイへとカイトが続ける。


「そういう事だな。ヴィクトル商会は民間向け、軍向けの飛空艇販売における老舗。最古の飛空艇メーカだ。ヴィクトルから提供された技術を使って開発をスタートさせた飛空艇メーカは数しれない。他社製品との互換性が最も高い事は有名な話だ。ヴィクトルの製品が手に入らないでも代用品は比較的手に入りやすい。そういった側面から下取りも割と高価格になる事が多い。次に繋げられる品、と言えるだろう」

「……確かにそりゃ有り難いな……」


 それは選ばれるわけだ。カイトの解説にイングヴェイは真剣な顔で納得した様に呟いた。特に冒険者達の場合は戦闘は避けられない。正規品が手に入らない場合の次善の策はまず考えるべき内容だった。

 それに対してのアドバンテージは冒険者達にとってはこれ以上ないアドバンテージと言えたのである。というわけで、それを改めて認識したイングヴェイは感心した様に口を開く。


「やっぱ、冒険者ならヴィクトルを選んどきゃ安牌と言われるだけはあるか……ここでもそれが活きるか」

「ま、そこらは伊達じゃない。確かに他のメーカの特化型にその分野で劣る事はあるが……そこは拡張性でカバー、というのがヴィクトルのやり方だ」

「ふむ……」


 まぁ、拡張性でオプションマシマシにするとその分高くなるから、そこはそれだけどな。カイトの言葉にイングヴェイは眉の根を付けて真剣な顔でヴィクトル商会の輸送艇を見る。

 流石に飛空艇に関してはかなりの見識を誇るカイトが第一案として提案するだけの事はあり、イングヴェイもかなり興味を覚えていた様子だった。とはいえ、これだけで即決する必要はない。なので彼が一つ頷いた。


「おし……わかった。一旦オプション見ても良いか?」

「そうしろ。オレ達もまずはヴィクトルを見ておく必要があるしな」

「助かる……三十分後、またここで良いな?」

「十分だ」


 イングヴェイの提案にカイトも同意して頷いた。飛空艇のメーカはそう多いわけではないので見て回るブースの数もそう多くない。更に時間を確保する事は可能だが、再度見に来ても良いだろう、という判断だった。というわけで、そこでカイト達はイングヴェイとは一旦別行動にして、自分達の飛空艇を確認する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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