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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2333話 コンベンション ――二日目――

 天桜学園で設営中の研究施設に導入するための機材の購入の参考にするべく訪れていたリデル領リデル郊外で行われているコンベンション。そこでカイトは自身は会場の外で行われている各種魔導鎧の視察を行っていたわけであるが、一日目も終わってティナらから一日目の視察状況の確認を受けると、彼女らを交えて一日目の内容での購入予定機材を策定する。

 そうしてそこらの話し合いを一通り終わらせ、翌日。この日もこの日で朝から一同は視察を行うべく早朝から行動を開始していた。


「さて……今日からが本番か」

「なんか昨日も結構見た気がするけど……実際今日が本題なのよねー」

「そうなんだよ……まぁ、こっちは昨日も今日もほぼほぼ本題みたいなもんだからあんま変わんないけど」


 疲れるわー、と言わんばかりの様子の灯里に対して、カイトは僅かに苦笑気味に笑っていた。昨日カイトが言っていたが、外は一日目は各種魔導鎧。二日目は飛空艇となにか是非にでも買いたいものがあれば、という程度で良いものばかりだ。

 そしてこちらについては基本研究開発に関係が無いので、そこまで気合を入れて臨む必要はない。が、中は今日こそが本番だった。とまぁ、それはそれとしても灯里はいつも通りといえばいつも通りなので、そんな彼女が何時もの調子で一つ問いかけた。


「そういえば飛空艇って考えてるの?」

「今の所はあんま……輸送艇はすでにあるし、小型艇もオレに関しちゃ特に用立てる意味もないからな」

「そういやあんた持ってるもんね」

「形見分けだけどな」


 輸送艇は冒険部で保有する飛空艇になるのであるが、それに対してハンナが元々保有していた飛空艇はカイトへと形見分けの形で譲渡された飛空艇だ。

 なのでこれは彼の個人所有となっており、登記上も彼個人が保有している事になっている。無論、それに関わる一切の税は彼が支払っており、メンテナンスなども彼の実費だった。そう言ってもティナらの手が入っているのでメンテナンスについてはほぼほぼ発生しないが、そこはそれだろう。


「ま、冒険者としてやってきゃこういう事は何度か起こり得る。そこを共有財産とするかどうかは、故人の遺志を鑑みた上での判断という所だ……ま、それでもあれを個人所有にしているのはオレのわがままなんだろうが」

「それはそれで良いんじゃない? その人もあんたが使う分には文句言わないだろうし、あんたが決めたんならそれはそれで文句無いだろうし」

「……だろうな」


 朗らかな様子の灯里に、カイトは一つ苦味の乗った笑みで笑って頷いた。そうしてそこらの話をした後、改めて彼は気を取り直す。


「ま、それは兎も角として。輸送艇はあるし、小型艇はさっき言った通り。後は戦闘力を有する戦艦型やら巡洋艦やらになるが……駆逐艦級になるとウチの規模だとイマイチ取り回しが悪い」

「小さすぎるから?」

「んー……というよりも駆逐艦級は戦闘力に特化し過ぎてるから、という所かな」

「どういう事? というか、よく考えれば私駆逐艦だの巡洋艦だの聞いた事あってもわかんない」


 駆逐艦とは小さな軍艦。軍関係の知識は殆ど無い灯里の認識としてはそんな所だ。そしてこれは一般的な認識で間違いはないだろう。


「まー……駆逐艦と巡洋艦に大差は殆ど無い。ぶっちゃけ、サイズや兵装の過多で考えて良いだろう。どっちも攻撃を目的としてるから、簡単にはそれぐらいしか差がないんだ。地球でも駆逐艦とフリゲート、巡洋艦はかなり曖昧になってるしな」

「ふーん……で、それがどうして問題なの?」


 それぐらいしか差が無いなら別に気にしなくて良いか。灯里はそう考えてカイトへと問いかける。


「ギルドで魔物の大掃討作戦を担う事はあまりない。軍の得手だからな。だから攻撃力偏重(へんちょう)の飛空艇はあまり好まれない。どっちかってと輸送艇のほうが多目的に使えるから人気ある」

「あー……確かにそう言われるとウチ、色々とやってるもんね」

「そういう事だな。輸送艇の方が冒険者の用途に合ってるんだよ。荷運びに物資の搬送だの……」


 冒険者達は最悪飛空艇に攻撃力がなくても自分達が攻撃力になれるのだ。なので攻撃力を求めなくても良い点が大きかった。というわけで、それを理解した灯里が結論を口にする。


「ってことは、本当に今欲しいの無いのね」

「そうだな……まぁ、流石にギルドの規模を考えればもう一隻欲しい頃合いといえば欲しい頃合いだが」


 現在冒険部の規模は三百人近くになっている。母体となるマクダウェルが巨大都市である事、そこを拠点としている唯一のギルドである事からこの規模になっていた。そしてそれ故、カイトは一隻欲しいと思っていたのである。そしてこれは灯里もなんとなくだが理解できた。


「あー……そういえば今の輸送艇って一応天桜との共用だもんねー」

「そうなんだよ……当然あっちでも必要に応じて使うし、こっちでも任務で週単位で使うからな……もう一隻……いや、欲を言えばもう二隻欲しい」

「うわー……」


 考えたらそうなってくるんだ。灯里はカイトの悩ましげな言葉に顔を顰める。まぁ、こればかりは今後を考え今買うか、後で絶対に必要になったら買うかのどちらかだろう。今決められる事でもなかったし、決める事でもなかった。というわけで、改めてそこを認識したカイトはため息と共に一つ頷いた。


「んー……あー……そうだなぁ……ソラ、先輩」

「「ん?」」

「悪いが、今日も初手は一緒に来てもらえるか? 飛空艇を見ておきたいんだが……ちょっと真面目に考えておきたい」

「え、マジで検討するわけ?」


 確かに今の話しぶりなら真面目に検討しないといけないのかも、とは思わせる言い方だったが、そこまで真剣に考える事だとまでは思っていなかったようだ。ソラは驚きを隠せないで居た。とはいえ、そんな彼にカイトが問いかける。


「お前だってもう一隻ぐらいあっても良いかもなー、とか思う事はあるだろ?」

「まぁ、そりゃ遠征やってりゃ思う事あるけどさ……そこまでガチに思った事……いや、結構あるか……?」

「まぁ……なくはないが」

「っていう時点で結構逼迫した問題というわけだ。検討ぐらいはしとかないとなぁ……」

「「「……」」」


 流石ギルドマスター。組織の統率に関しては色々と悩みはあるらしい。深い溜息を吐いた彼に全員そう思う。というわけで、ソラも瞬も否やはなかった。


「わかった。必要だろう、という意見には俺も同意だ」

「っすよねぇ……おけ。じゃあ、とりあえず飛空艇見ておくかー。まー、どうせ決めるなら見たいし」


 カイトの苦悩を見てそれなら、と決めた瞬に対して、ソラとしてはどうせ買うなら自分も選びたい、という理由があったようだ。というわけで、今日も今日とて三人は最初は一緒に行動する事になり、それ以外の技術班の面々もそれぞれ行きたいブースを決めて一同は会場に向かう事になるのだった。




 一同が今日の行動を大凡決めてからおよそ一時間。開始前の程よい時間に会場入りした一同は興味を持ったブースへと散会していく事になるのであるが、そんな中でカイトはソラ、瞬の二人と共に入り口で待機していた。そうして待つこと十分ほど。今日のもう一人の同行相手であるイングヴェイがやって来た。


「おーう、って三人共一緒か」

「いや、真剣に飛空艇買おうか悩んでな……」

「ん? いや、お前らもう飛空艇あんだろ」


 何を今更飛空艇を買おうと悩んでるんだ。カイトの顔色を含め訝しみながら、イングヴェイは首を傾げる。これに、カイトが冒険部の実情を明かした。


「ウチの規模で一隻で足りると思うか?」

「え? あれから一隻も用立ててないのか?」

「「あ、そっちなんだ……」」


 仰天した様子のイングヴェイの発言に、逆にソラも瞬も驚きを浮かべていた。が、これにイングヴェイは驚いた様子のまま告げる。


「そりゃ、お前ら……ウチみたいに移動しまくり人数も二十三十って所のギルドならまだしも、拠点抱えてその周辺を動くギルドなら大体百人で輸送艇一隻って割合が妥当だぞ。移動の足だって馬鹿にならないんだからな。その三倍総人数居ながら一隻って……正直よく回って……ないか」

「そういう事だ……」


 回ってないから買おうと考えた。そんなカイトの思惑を理解して、イングヴェイはなるほどと理解する。確かに飛空艇は高額商品といえば高額商品であるが、百人で割り勘と考えれば実はそう高い買い物というわけではない。特に輸送艇は武器も防御も抑えめにされているので魔導炉の出力もそう高くなくてよく、地球の大型旅客機の様に超高額にならないのである。


「ま、俺としちゃ有り難い。一緒に居る理由になるからな」

「そうだな……こっちとしてもオレとあんた二人だけで居るより、全員一緒に居た方がおかしくない……で、先に聞いておくが、何がご要望だ?」


 兎にも角にも解説が欲しい、と言われてもどんなものが欲しいかまず把握しておかない事には意見は述べられない。なのでここを確認しておく事は必須だった。というわけで、イングヴェイも今回の購入の主用途を告げる。


「っと……そうだな。今更お前さんらに言うまでもないが……ウチは基本は移動が多いギルドだ。だから移動の費用は馬鹿にならなくてなぁ……数年前からちょくちょく費用をプールしてたんだが、この間のアストール家の一件で頭金の目処が立ってな」

「あー……飛空艇のチケット、案外高いの多いっすもんねぇ……」


 やはり遠征隊を率いる事が多いソラだ。飛空艇をチャーターするか乗り合いの便を使うか検討する事は多く、その度に飛空艇のチケットの値段は見ていたのでイングヴェイの言葉が理解出来たらしい。そしてそこらを見ているだろうと理解しているイングヴェイも苦い顔だった。


「そうなんだよ……距離で変わるってのはしゃーないとは思うがな。だが年がら年中ギルドで移動してる俺達だ。一回平均一人金貨二枚だとしても、人数分用意すりゃあっという間に大ミスリルが飛ぶ。仕事上月で大ミスリルが飛ぶ月だってある。年になると考えたくもねぇわ」

「大ミスリル……うへぇ……」

「大ミスリルは確か日本円で百万だったか……となると一月で……うぉ……」


 しかめっ面のイングヴェイの言葉にソラも瞬も顔を盛大に顰める。この移動費は冒険部でも常に頭を悩ませている問題ではあるが、拠点を持つ彼らを遠方に呼び出す関係で移動費が依頼人持ちという事も少なくない。

 イングヴェイ達も仕事上の必要経費なのである程度は補填されるし報酬に含まれるそうだが、そこらを上手く抑えるのも彼らに求められる事だ。移動に費用が掛かれば掛かるほど、最終的な報酬が減ってしまう事が多いのである。


「ってなると、年間の移動費差っ引いて野営地の資材やら差っ引いて何年ぐらい使えるか、維持管理にいくらかってのを考えると小型の輸送艇か拠点代わりになる飛空艇を一隻用立てたいんだよ」

「なるほどね……狩人(ハンター)ギルドで飛空艇を拠点にしてる、ってのは上位ギルドじゃよく聞く話だ」

「だろ? ってわけで、ウチもそっちの集団に仲間入りってわけだ」


 カイトの納得にイングヴェイは笑って頷いた。が、ここら飛空艇は流石に彼にとっても専門外の分野と言える。なので、カイトの出番というわけであった。


「で、あんたの出番ってわけだ。伊達じゃないだろうからな」

「ま、そうだな……それについては請け負おう」


 敢えて主語を抜いた言葉に、カイトは頷いた。何がどう伊達じゃないか、と言われるとそれはカイトがマクダウェル公カイトであるという事だ。

 マクダウェル家こそエネフィアで最も飛空艇開発が盛んな地。その地の領主であるカイトが飛空艇の事に詳しくないのは自領地の特産品を把握していないに等しく、それはひいては自領地を理解していないと同義だった。

 というわけで、カイトもそれは言えるわけもないので二つ返事で請け負っていた。そうしてそんな彼が一応のイングヴェイの要望を総括する。


「となると……必要なのは速度と居住性か。どっちを優先だ?」

「そうだな……まぁ、俺個人としちゃ居住性って言いたいんだがな。流石に速度にしといてくれや」

「あいよ……人数は? 正確な所を頼む」

「常時は二十三。が、半分ウチみたいな奴が居たり客を乗せたりする事を考えりゃ、三十から四十は欲しい」

「そうか……わかった。後は値段との相談か」

「そうしてくれ」


 カイトの言葉にイングヴェイも一つ頷いた。そうして、イングヴェイの要望を聞いたカイトはひとまず会場の外に設けられている飛空艇のためのエリアへと移動する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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