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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2331話 コンベンション ――申し出――

 天桜学園にて設営する事になった研究施設の中に導入する機材の参考にするべく訪れていたリデル領リデル郊外で行われるコンベンション。そこに冒険部を率いてやって来たカイトであるが、彼は機材の視察をティナ・灯里率いる冒険部技術班に任せると、自身は実働部隊を率いるソラ・瞬の両名と共に外に設けられていた各種の魔導鎧の展示会に参加する事になっていた。

 というわけで、ヴィクトル商会が今後主力として設定した半魔導機の展示エリアを少し離れた所から見たカイトであるが、その後彼はティナの納得もあり軍用の半魔導機のエリアの横。作業用の魔導機が展示されている一角へと足を伸ばしていた。


「ふむ……」


 こちらのエリアに設けられているのは作業用の半魔導機だ。というわけで並んでいるのも各社の社長やそれに準ずる発言権を持っている者、実際に使う作業員達を指揮する立場に居る者が殆どだった。


「ティナ。一つ聞いておきたいんだが、作業用の半魔導機の機構はかなり簡略化してるんだよな?」

『そうじゃな。ま、それ故に低出力の魔導炉でも動かせる。無論、それは戦闘は不可能である事とトレード・オフなんじゃが』

「それはわかってるよ……整備面の話が聞きたい」


 やはり気になったのは、先程戦闘用の半魔導機のエリアで小耳に挟んだ整備性の悪化についての話だ。特に民間で使われる半魔導機で整備性の悪化は致命的だ。現地である程度の修理が出来てくれねば困るし、勿論それ以前の話として壊れない様にしていないといけなかった。


『そっちについてはかなり保たれておるよ……ぶっちゃけるとスペックアップもさほどしておらん。やったのはコクピットブロックの換装とそれに伴う操作系統の改修ぐらいかのう』

「それでもスペックアップと」

『そりゃそうじゃろ。戦闘向けではないので攻撃に対する防御機能としては最低限でしかないが、最低限でもコクピット・ブロックの安全性確保のために空間と位相のズレは生じさせておる。そしてそれに伴い動かしやすさも格段に向上。そこから来る操作性の向上や、今までのワイヤ方式から信号伝達に変更した事で追従性、反応性も向上しておる』


 カイトの問いかけを受けたティナは改めて彼へと作業用の半魔導機の性能向上についてを語る。これに、カイトが再度問いかけた。


「費用は?」

『そこは若干高値にはなったが……それも今後出回って廉価に抑えられる事は考えられておる。今はまだ新機軸の機構を設けておるが故の、という所じゃな』

「新製品にありがちな最初は値段が高い、という所か」

『そういう事じゃな。これについてはしゃーない。スペックアップと引き換えと言うしかない。後は需要と供給が伴えば、という所じゃ』


 カイトの言葉にティナは一つ頷いた。こればかりは新技術という事でまだまだ量産体制などが整っておらず、少数生産しか出来ない事が問題だった。今後需要が増えて供給量を増やす事ができれば、それに伴って生産性も向上させられる。

 となれば必然一機あたりの費用は安くなっていく見込みだった。勿論、生産技術も向上するだろうから、そこでも費用を抑える事は出来る様になっていくだろう。というわけで、カイトが更に突っ込んだ所を問いかける。


「現状の見込みとしては、どの程度切り替えが出来そうだ?」

『そうじゃのう……一応、余らの想定としては十年後には過半数を半魔導機に切り替え。二十年後には大凡すべての新機種が半魔導機に切り替わり、という所じゃ』

「長いな……当然だが」

『まぁのう……どうしても高額商品じゃ。地球で言う所の重機と一緒。高くはなる』


 参考までにであるが、地球のブルドーザーで数百万円から数千万円という所だ。後は拡張性に応じて値段は上下するが、それでも数十億にはならない。最低数千万、高くても数億円という所である。

 戦闘用は本当にピンきりなので桁が変わる事もあるし、作業用より少し高い程度で抑えられる事もあった。それはさておき。とりあえずそんな作業用の半魔導機をカイトは見る。


「ふむ……やはり飛翔機は無いし、かなり肉抜きはされているな……」

『そりゃ、装甲なんぞ必要なのは戦闘を考えるからじゃ。重要な部分さえ守れればそれで良い。そんな大爆発に巻き込まれるような事はまず無いじゃろうし、あったら惜しまず捨てて逃げた方が良いからの』

「だろうな……まぁ、こんだけ肉抜きしてりゃ飛翔機を最低限の出力にしてしまえばなんとかなりそうだな……」


 先にティナが言っていたが、装甲で覆われているのはあくまでも重要な部位だけだ。なので骨組みの部分も多くが見えており、本当に戦闘は考えていない様子だった。


「ふむ……高所作業用の半魔導機は?」

『低出力の魔導炉を搭載しておるから、些か高値にはなっておるが』

「ふむ……」

『……何考えておる』


 なにかろくでもない事を考えていそうだな。色々な半魔導機を見ながらなにかを悩むカイトに、ティナが僅かに半眼で問いかける。これに、カイトが完全に思い付きを口にした。


「いや、いっそ極限まで肉抜きした半魔導機とか出せば安上がりになりそうかな、と」

『安うはなるぞ、安うはな……安全面完全無視じゃが』

「そこはまぁ……移動砲台的な使い方をするとか」

『む……まぁ、それならある程度は考えて良いが……ふむ』


 どうやらカイトの思い付きはティナにまた何かのアイデアを与えたらしい。少しだけ悩む様子が見え隠れしていた。


『……まぁ、一度検討してやっても良いじゃろう。そこまで大規模な村や街でない中小規模の村を守る切り札的に用意させるのは良いかもしれん』

「そうか……そっちもまた試案が進めば報告してくれ。改めて稟議しよう」

『うむ』


 カイトの指示に対してティナは一つ頷いた。そうして、その後もカイトが現場で色々な半魔導機や大型魔導鎧の確認を行い、ティナが自分は自分で研究で使う機材を見聞きする事になっていたのであるが、ある時ソラからの連絡が入る事になる。


『カイト。ちょっと良いか?』

「なんだ? なにか良い物でも見付かったか?」

『いや、それがそっちは値段があって決めかねてさー。ガチで飛空術覚えないとなー、って思ってるとこ』

「そっちはそうした方が良いだろうな。特にお前は持久力も十分だ。飛空術に手を出してみても良いだろう」

『やっぱかー……』


 カイトの問いかけにソラは少しだけ後ろ髪を引かれる様子で同意を示す。どうやら飛翔機を搭載させて楽に、という心情と個人で買うにはかなり高い飛翔機の値段、自分の力量を天秤に掛けてかなり飛空術の習得に傾いていたようだ。

 とはいえ、この様子だと大凡結論は出ていたようなものだし、カイトもソラの発言から違うだろうとは見抜いていた。なので彼が本題を問いかける。


「そっちは、って事は別の用事か。どした?」

『ああ、偶然イングヴェイさんと再会してさ』

「ああ、あいつか……別に不思議はないだろ。イングヴェイは<<道具使い(アイテムマスター)>>。自身が知恵者としても知られているから、このコンベンションには間違いなく招待状が送られていたはずだ」


 何より同じ冒険者だしな。カイトはイングヴェイとの話で何度か出ていた魔道具の新製品の事を思い出す。イングヴェイが興味を見せた物についてはカイトも一度確認しておかねば、と考えており、この半魔導機や大型魔導鎧のブースの確認が終わり次第そちらに向かう段取りを立てていた。


『だろうな。例年参加してた、って聞いたし』

「だろう……それだけか?」

『ああ、いや……で、イングヴェイさんから明日時間取れるか聞いて欲しい、って言われてさ。今目の前に居る』

「明日?」


 確かにイングヴェイとは懇意にしているといえば懇意にしているが、そこまで馴れ合っているわけではない。なのでわざわざ時間を確保して欲しいという意図が見えず、カイトは僅かに首を傾げる。が、少し考えた所で彼はふとある噂を耳にした事を思い出した。


「ああ、なるほど……という事は、あの噂は真実か」

『なんかわかんのか?』

「多分、だ。後は本人に確認してみんとわからん」

『どうする? つなぐか?』


 一応、今はソラの目の前に居るというのだ。そして<<道具使い(アイテムマスター)>>として知られるイングヴェイだ。通信機は基本は最新型にしている可能性は高く、最新型との互換性をもたせている冒険部の通信機に搭載されている中継機としての機能を使って彼と話す事は不可能ではなかった。


「頼む。一度話をしてみよう」

『あいよ……どぞ』

『おーう。お久しぶり』

「ああ」


 あいも変わらず軽薄な様子を滲ませたイングヴェイに、カイトは一つ笑って邪魔にならない様に会場の影へと移動する。その道中でイングヴェイはカイトへと問いかけた。


『てっきり中に居るもんだと思ってたんだが……今回は機材は取りやめか?』

「いや、中は中で見てる。が、全員で固まって行動する意味はないからな。他の物を色々と見ておきたい」

『なるほど……ちなみに、なにか興味あったのとかあった?』


 やはり色々な伝手を持つカイトだ。自分が知り得ないような情報や知見から魔道具の性能について見てくれている可能性は高く、イングヴェイはそれが聞きたかったらしい。これに、カイトは敢えて冗談をにじませる。


「飛空艇あたりかな」

『そりゃウチだ』

「あっははは……やっぱりか。噂は耳にしてた」


 カイトが耳にした噂というのは、イングヴェイ達がアストール家の依頼の達成報酬を使って飛空艇を一隻用立てようとしている、というものだ。数百人を運搬出来る大型艇や戦闘力の高い戦艦型などを買い求めなければギルドで飛空艇を保有しているというのは珍しくなく、今までの貯蓄もあるだろうから十分に飛空艇の購買は視野に入った。というわけで、イングヴェイは一つはっきりと頷いた。


『おう……ハンター(狩猟)専門のギルドになると、中型を一隻は欲しいからなぁ……高い買い物にはなるが、十分に元は取れる』

「か……で、なんだ? 飛空艇を用立てたいから口利きしてくれ、か?」

『いや、そーいうわけじゃない。いや、してくれるなら有り難く受けるが』


 そもそもマクダウェル家こそが現代飛空艇の発祥の地で、未だ最高性能はどこの飛空艇かと言われればマクダウェル家の飛空艇と言われているのだ。勿論その分高値になっているが、それをある程度割り引いて貰えるならイングヴェイとしても万々歳であった。が、そういう事ではなかったらしい。


「まぁ、それは考えておこう。それで?」

『いや、ソルテール家の関係だ』

「む……」


 イングヴェイの言葉に、カイトは僅かに眉の根を付けて真剣さを滲ませる。先にカイトはアストレア家からの要請を受けてアストール家から依頼を受けている。

 なのでアストール家をライバル視しているソルテール家には若干敵愾心を持たれておりそこは彼も気にしていた。その話となると、話をする意味はかなり大きかった。


『流石にあんたには釈迦に説法だが、ソルテール家は飛空艇開発の名家の一つだ。明日の展覧会にも参加する……一緒にどう、っていうお話』

「ふむ……」


 イングヴェイの目的がなにか、というのはわかっている。早い話カイトの知見を利用したい、それに加えてソルテール家からの敵愾心の緩和だ。とはいえ、これにカイト側の利益が無いかというとそういうわけではなかった。


(確かにここでソルテール家の飛空艇に公平なジャッジを下せておけば、こっち側の敵愾心の緩和にもなる……イングヴェイとの関係性はある程度知られているから、隠す必要はない。となると……利用出来るか)


 カイトにとってはソルテール家を褒める理由と飛空艇のブースを回る理由付けになるし、イングヴェイはカイトから飛空艇の知見を聞く事が出来る。ウィン・ウィンの関係と言えるだろう。というわけで、カイトはイングヴェイの申し出を受ける事にした。


「わかった。明日何時集合にしておく?」

『明日の10時って所でどうだ? 一応、今日中にソルテール家の情報は掴んでおく。持ちかけたのこっちだからな。そっちも忙しいだろ?』

「まぁな……借りとは思わんぞ?」

『それで良いぜ』


 今回はあくまでもお互いの利益のために動くだけだ。なので持ちかけた側であるイングヴェイが事前調査を行う事で決着したらしい。そうして、カイトからの承諾を受けた事でイングヴェイはその場を離れていき、カイトもその後は特段なにか問題が起きる事もなく展示会の観覧に戻る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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