第2325話 コンベンション ――デモンストレーション――
冒険部の活動の参考にするべく参加したリデル領でのコンベンション。その最中にカイトはソラ、瞬の二人へと飛空術の解説を行うと、そのまま魔導鎧にオプションで取り付けるための飛翔機の話を繰り広げていた。
そうしてその話も終わったところに現れたリデル公イリスの要請によりリデル家が開発したこれまた魔導鎧用のウェポンパックの観覧に向かう事になったのであるが、そこでカイトはリデル公イリスの要望によりデモンストレーションに参加する事となる。というわけで、彼はリデル家でのウェポンパックの開発責任者であるアラムと少しの話し合いを行った後、無数のドローンに似た小型ゴーレムが浮かび上がるのを見る事となる。
「さて……」
小型ゴーレムが飛び立ったのを見ながら、カイトは僅かに呼吸を整える。今回はあくまでもデモンストレーションだ。飛び立ったと同時にデモンストレーションの開始なら兎も角、その指示もないのでまだデモンストレーションは始まっていなかった。
(全部で百五十体のゴーレムか……相対距離はおよそ3キロ。遠距離戦の距離だな。こちらの装備としては殲滅戦を主眼とした重装備。相手にするのなら小勢ではなく多勢。想定としては敵集団への強襲か)
小物だらけとはいえ百を超える魔物と一度に相手にする事はなかなかない事ではあった。が、それは数ヶ月前までは中々にないという話だったが、今はもうありえる可能性と言うしかない。この重装備が求められているのも、そんな本来なら中々なかった事態への対処だった。
(まずは正面からの斉射。それでどの程度敵を撃破出来るかだが……)
流石に数が数だし、ガトリングというのは命中率は低い。なので完全に近付かれる前にすべての敵を撃破は難しいと思われた。更にここに、魔銃特有の問題も絡んでくる。
(ガトリング型の難点は攻撃力の低さ。元来、制圧射撃用に作られているから仕方がない事ではあるんだが……まぁ、実弾と魔弾のメリット・デメリットというところか)
魔弾は謂わばSFで語られるところのレーザーライフルと考えて良い。なのでその威力は必然として出力に左右されてしまう。弾数に限りが無いところは利点だが、連射力を上げれば上げるほど一発に込められるエネルギーは反比例して低下する。
なので超速度での連射を可能にしたガトリング型は現在のエネフィアの技術では威力がかなり低く、一撃で魔物を仕留められない事は多かった。というわけでカイトも肉薄されない可能性は無いと断じており、次の手を考えていた。と、そんなところにアラムから通信が入ってきた。
『カイトくん。ゴーレム全機展開完了だ。後は君の準備が完了次第、何時でも行動に入れる』
「わかりました。こちらもすでにすべての支度は完了しています。何時でも大丈夫です」
『わかった……時計は見えているね。それで五分後にスタートする。改めて今回のデモンストレーションの内容を説明しないといけないのでね』
カイトの返答に一つ頷くと、アラムは五分後のスタートを明言する。今回はあくまでもデモンストレーション。何をするか、と話しておく必要があったらしい。というわけで、カイトは最後の動作確認を行いながら時間を潰す。そうして、数分後。再度アラムから通信が入った。
『カイトくん。こちらの説明が終わった……定刻通りにデモを開始する』
「はい……さて」
通信の終了と共に、カイトは一旦首を鳴らして気合を入れる。大凡の流れは決められているが、そのやり方はカイトの一存に任せられている。そもそも今回カイトがデモンストレーションに参加させられたのは、冒険者達が行う荒い動きに対応出来る事を示すためだ。なのでアラム達側からこうしてくれ、と言われる事はなかった。アラムの説明が手短だったのも、そこらが大きかった。
「……」
時を待つ事、数分。カイトは魔導鎧に魔力を通して順応させながら、久方ぶりのその重さに僅かにやりにくさを感じていた。
(やはり重いな、魔導鎧は……)
現在のカイトは白のロングコートを標準装備としている。それで十分なだけの防御力を有しているので問題はないが、それ故に彼が鎧を着込む事はまずない。
更に言えば鎧を着込めば彼の持ち味である身軽さも失われてしまうため、必然として鎧を着る事がなく、鎧を着込んだのは数ヶ月ぶり――必要なら着るだけの分別はある――というほどであった。と、そんな益体もない事を考えていると、デモンストレーションの開始を示すアラームが鳴り響く。
(始まったか)
カイトはアラートが鳴り響くと同時におよそ三分の一が自身を目指して動き始めたのを見て、デモンストレーションの開始を理解する。そうしてデモンストレーションの開始と同時に、カイトは背面のウェポンベイに接続したウェポンパックを下ろして地面にしっかりと固定する。まぁ、固定すると言ってもここらは完全に自動だ。カイトがやった事は単に背中から下ろすだけであった。
「タレットモード起動……チャージ率表示」
これは仕方がない事であるが、このウェポンパックには魔導炉は搭載されていない。ティナらが使うような超小型魔導炉はほぼほぼマクダウェル家の専売特許と断言して良く、よしんば実装出来ても今度は価格が非常に高騰してしまう。なのでこのウェポンパックを魔導鎧から取り外して使う場合の動力は魔導鎧に接続中に充填された使用者の魔力だった。
(使用可能時間……最大出力で五分か。まぁ、順当か。さて……どのぐらいの連射力があるか、見せてもらおうか)
カイトは左右で展開しているタレットモードにしたウェポンパックを横目に見ながら、僅かに笑う。どの程度の威力でどの程度の連射力を有しているか。それはこのウェポンパックで最も重要な部分だった。
荒い取り回しに対応するか、なぞ所詮それに加えたオプションでしかないのだ。そうして展開したウェポンパックのコントロールを取りながらも、しかし彼はまだ攻撃を開始しない。そんな様子に、軍の高官達は感心した様に頷いていた。
「ほぅ……」
「使い方はわかっている、か」
「武器使いの名は伊達ではない、という事でしょう」
やはり皇国が鳴り物入りで喧伝しているのだ。カイトの事を知っている軍の高官達は多く、何人かはカイトの事を見知ってもいた。なので彼が魔導鎧を身に着けていない事を知っている者も少なくなく、本当に使えるか半信半疑だったと同時に、お手並み拝見という様子があった。その一方、カイトはデモンストレーションを取り仕切るアラム達に自身がしようとしている事を告げる。
「相対距離1キロで斉射開始。但し射撃は正確性より制圧射撃を優先で」
『了解……設定よし。相対距離1キロとなった時点で制圧射撃を開始します』
「お願いします」
先に言われていたがこういったタレットモードを搭載しているウェポンパックでは、飛空艇などと連携して精密な操作が可能としている物は少なくない。なのでそれを想定して詳細な設定をしてもらったのである。そうして標的となるゴーレムの一団との相対距離が縮まっていき、1キロを切った時点で制圧射撃が開始された。それに合わせて、カイトも左腕部に取り付けられた魔銃で攻撃を開始する。
「ふむ……」
「どうするつもりでしょうな」
「あの程度ですべて倒せるとは思っていないでしょう。が、流れとしてはまずはこれというところですかな」
軍の高官達はひとまず魔銃の斉射で以って応対するカイトを見ながら、彼の次の動きを見守る。そして彼らが見通した通り、正確性・威力共に十分ではないガトリング型での攻撃では足止めにはなるが殲滅には事足りていなかった。
本来はカイト一人ではなく、同じ装備で何人も集まって殲滅するための装備なので仕方がなくはあった。というわけで制圧射撃でゴーレム達を足止めしていると、こちらの戦闘を嗅ぎつけたのか更に残るゴーレム達がこちらへの進撃を開始する。
(さて……ここからだな)
制圧射撃を行いながら、カイトは全部の標的がこちらへ移動するのを見て次の段階へ移行する事にする。そうして、彼は飛翔機に火を入れて地面をしっかりと踏みしめた。
「突撃か……彼らしい」
「なるほど……しっかり引きつけるつもりだな」
収束する飛翔機の火を見て、軍の高官達はカイトの次の一手を理解する。そうして、その理解とほぼ同時にカイトが地面から弾き出される様に一気にゴーレムの軍勢に向けて肉薄した。
「さぁて……」
一瞬一瞬で近付いてくるゴーレムの軍勢を見据えながら、カイトは僅かに舌なめずりをする。そして、数秒後。一息に1キロを飛び抜けたカイトは敵陣ど真ん中へと切り込むとそこで目の前のゴーレムに向けて右腕のブレードで一閃。自分が舞い踊るだけのスペースを確保する。
「ほぅ……」
「やはり近接戦闘はお手の物か。左腕の魔銃で遠距離。肉薄したゴーレムに対しては右腕のブレードで対処……装備の正しい使い方だ」
「しかもタレットがあるから、彼にのみ集中という事も出来ん。上出来か」
「まぁ……」
彼ほどの腕前の戦士でなければあんな事は出来ないだろうが。軍の高官達はカイトの腕に僅かな苦笑を浮かべる。しかも仕掛けられる遠距離攻撃に対しては時にブレードで斬り伏せ、時に魔導鎧で底上げされている障壁で対応し、と正確無比な対応をしているのだ。並の兵士にこれを求めるのは些か酷だった。
そしてカイトもそれはわかっており、何時までもこの動きを重ねるつもりはなかった。というわけで、彼は第二陣となる本隊が到着すると同時に、飛翔機の出力を最大にして背面に飛ぶ様にその場を離れる。
「む……あの魔導鎧……新型だという話だが」
「中々良いバランサーを搭載しているな……」
背面を見る事なく飛翔しながらも、追撃を牽制するカイトの射撃はズレていない。正確に動きに追従して自動でバランスを取っていたのである。というわけで魔導鎧の性能に感心を浮かべた軍高官達の前でカイトは背面に飛翔する。
そうして、彼が勢いそのままに二つのタレットモードで駆動するウェポンパックの合間を通り抜ける瞬間。彼が両手を左右に伸ばしてウェポンパックを回収。腕を交差させる様にしてウェポンベイへと接続する。
「ほぉ……あの挙動を取りながらウェポンベイに接続出来るのか。タレットモードからの切り替えも悪くない」
「当然だが左右の互換性も大丈夫、と。勿論、無理な接続をした後の位置調整も自動で行われている……位置調整の速度がかなり上がっているな」
なるほど。新型は確かにスペックアップしているらしい。カイトの動きに合わせてタレットモードから魔導鎧の外装としての機能に即座に切り替わったウェポンパックに軍高官達は感心する。
そうしてそんな彼らの前でカイトはウェポンパックと左右の脚部に取り付けられたグレネード型の魔導砲を乱射しながら、ゴーレムの軍団を正面に見ながら円を描く様に飛翔する。その挙動に、軍の高官達が僅かに目を見開いた。
「む……」
「強襲戦闘パターンか……デルタか、シグマか……」
「いや、あながちシータの可能性も……」
どうやらカイトの行っている挙動は軍の兵士達が使う挙動らしい。ゴーレム達を中心へ中心へと追い込む挙動に、軍の高官達は僅かな驚きを露わにする。
まぁ、今回のデモンストレーションの相手はメインが軍の高官達だ。なので彼らが運用する事を念頭に置いて、カイトは動きを構築していたのである。そうしてゴーレム達を円の中心へと追い込んだカイトであるが、ある程度追い込めたところで片方のウェポンパックを手持ちに切り替え砲撃を繰り広げ、唐突にそれを地面に投げつける様に強引に展開する。
「……む?」
「ほぅ……あの勢いで地面に設置しても大丈夫なのか」
「なるほど……強度は十分か」
やはり戦闘だ。かなり無理な勢いで地面に設置する事はあった。その強度をカイトは実証してみせたのである。そうして再度一瞬でタレットモードに切り替わったウェポンパックがその場で斉射を開始して、更にカイトは逆側のウェポンパックも勢いをそのまま円を描く動きの最中に地面に投げつける様に設置。そのまま自身は地面を踏みしめ強引な急制動を掛けて、停止する。すると、ウェポンパック二つとカイトが三角形の頂点になるような位置取りとなり、ゴーレム達へ三方向からの攻撃を開始した。
「デルタパターンか」
「なるほど……あの動きが出来るなら、戦闘でも十分耐えきれるか」
「後はあの動きをした後のメンテナンス性だな……」
今の動きに対応出来る事は理解した。となると、次は何を見るべきだろうか。軍の高官達はカイトの動きとそれに追従したウェポンパック、魔導鎧の性能に納得した様に頷いていた。そうして、軍高官達の納得と満足が得られた事でデモンストレーションは終わりを迎える事になるのだった。
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