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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2313話 コンベンション ――資料室――

 リデル家が主催するコンベンションに参加する事を決めた事に端を発する幾つかの事案に対応するべく灯里と共に『リーナイト』を訪れたカイト。そんな彼は『リーナイト』で起きていた魔物の群れによる襲撃に対処すると、そのままバルフレア、レヴィの両名と共にユニオンで発行されている会報の話を行う事になる。

 そうしてその話も終わらせた二人はマクスウェルへと戻ったわけであるが、冒険部のギルドホームへの帰還でカイトは灯里から資料室で起きている異変についてを聞く事になる。それを受けて彼はティナと共に原因究明に務める事になっていた。


「そういえば……オレが資料室に来るのは割と久しぶりかもしれない」

「まぁ、お主の場合は資料室に行く用事がほぼ無いからのう」

「椿ちゃんも居るしねー」


 ふと思ったカイトのボヤキにティナと灯里が応ずる。実際、なにか資料が必要でもそういった雑務を頼むために椿が居るのだ。彼女に別の用事を任せているならまだしも、そうでないなら自らで行く事はあまりなかった。


「なんだよなぁ……別にここにある程度の魔導書なら必要も無いし」

「そりゃ余もそうじゃがのう……実際、ここの資料室は何をしに来ると言われても余も特段思い付かんのう。ここにある程度の魔術であれば余、すべて修めておるし」

「まぁな……灯里さんは何しに来てたんだ?」


 カイトもティナも共に冒険部にある資料室には基本的には来る用事が無いと言えば無い。彼らの言う通り、冒険部で保有しているような魔導書に記されている魔術はほぼほぼ網羅しているからだ。というわけで滅多に来る事が無い資料室になぜ灯里が来ていたかがカイトは気になったらしい。


「あぁ、私はここにある化学……あ、化け学の方の化学ね。それの教科書が見たかったのよ」

「化け学の教科書? なんで今さら」


 今更であるが、灯里はアメリカで大学院まで飛び級し卒業している才女である。一応専攻は物理学なので化学は専門外は専門外であるが、それでも高校程度の化学は普通に修めている。何を目的として教科書を見たかったのかがさっぱりカイトには想像が出来なかった。これに、灯里が教えてくれた。


「化学合成のレシピが見たかったのよ」

「化学合成……ねぇ。見るは良いが使えないだろう?」

「そりゃ、そのままじゃ使えないわよ。そもそも必要な触媒だって手に入らないもの……エネフィアじゃ水酸化ナトリウムとか塩酸とかの有名な奴も貴重品だし」


 これまた今更だが、エネフィアの科学的・化学的水準は地球の中世ヨーロッパ~近現代ヨーロッパとほぼ同等だ。なので地球であれば溶媒として一般的に普及している素材とて滅多には手に入らない。となると必然、化学的な合成を行う事はほぼ不可能に近かった。というわけで、これにカイトは同意した。


「だな……まぁ、そのために錬金術を使うわけなんだが」

「そーそー……素材さえあれば作れるのが錬金術の強みだもの」

「で、素材知るのに化学の教科書が必要と」

「そーいうこと」


 カイトの言葉に灯里は一つ頷いた。そうして、彼女がカイトに改めて話をする。


「ほら、基本的に地球の化学的な話とかってウチだと封印の間行きになってるでしょ? 下手に盗まれても困るからって」

「ああ……防犯上の理由と後はまぁ、技術漏洩を防止する観点からだが」

「でしょ? で、ちょっと今試してる事があって……」

「「試してること?」」


 基本的にカイトもティナも灯里の錬金術の腕前を身内贔屓無しで認めており、彼女には公爵家として一つの研究室を与えている。そして彼女の性質上好きにさせた方が良い事を知っているため、思った事はとりあえずやって良いと言っていた。なので何をしていたか、というのは二人も知らなかった。というわけで、彼女が今研究している事を教えてくれた。


「ちょーっと思ったんだけど、逐一塩酸とか作るのって手間じゃん。今までなら溶媒用意して更に錬金術を使って、って迂回してたわけだけど、いっそ全部一気にやれれば良いんじゃないかなー、って思うわけよ」

「「あー……」」


 なるほど。確かにそれは可能かもしれない。カイトもティナも灯里の指摘に道理を見て思わず得心する。というわけで、ティナが感心した様に口を開いた。


「確かに、錬金術の基本は解析し分解し再構築じゃ……そして化学的合成法で行われている事も基本は触媒などを用いて別の物質への再構築……とどのつまり分解を起こした上で再構築を行っているに等しい。機械や科学的に行うか、魔術でそれを代用するかの差でしかない。可能は可能じゃな」

「だな……いや、まぁむずいはむずいが」


 そんな事が簡単に出来るなら誰もがやっているわけで、やれていない以上は色々と難しい制約が存在しているからに他ならない。というわけで、今の話を聞いたティナが考えられる問題点を口にした。


「まず問題になるのはやはり反応を一気には出来ぬ事じゃな。どうしても溶媒を拵える必要がある以上、一気に錬成は出来まいて」

「うん。出来てない……今手間取ってるのは一度の錬金で段階を踏ませられないか、って所」

「ふむ……そこがやはりボトルネックか」


 どうやらティナが問題として発生するだろうと考えられたポイントが、灯里も実際にやってみて問題として発生した問題点らしい。というわけでティナもこれについては興味が湧いたのか少し真剣に考えている様子だった。


「となると……ふむ。遅延術式に似たなにかを行わねばならぬが……いや……別に分解はここでは要らぬか。必要な状態に一度再構築し、それを更に再構築。連続の再構築を行わせねば……」

「そうなのよ。でもそうなると今度は再構築の連続になって、安定が難しくて……」

「ふむ……そうじゃのう。どうしても分解した段階では不安定。通常はそこから再構築を行う事で即座に安定させるのが錬金術の基礎で、この再構築までどれだけの時間を要するかが錬金術師の腕の見せ所とも言える。今回の場合は一度その不安定な状態で留めねばならん……ふむ……既存のやり方では難しいやもしれんのう」


 そうなるとやはり一度何かしらの溶媒などを拵えてから、それを分解して再構築するのが良いのかもしれない。ティナと灯里は相談を繰り返しながら、試案を重ねていく。と、そんな二人にカイトがおずおずと切り出した。


「あー……二人共?」

「む? なんじゃ。何か妙案が浮かんだか?」

「何ー?」

「悪いんだが、後にしないか? 一応今来てるのはそっちの話をするためじゃなくて、灯里さんが気になってるなにかを調査するためだろう?」

「「……あ」」


 カイトの指摘を受けて、ティナも灯里も資料室に来た本題を思い出す。偶然内容からティナが興味を見せたから脱線してしまったが、今回は事が事なので資料室は一度立入禁止にしてしまっている。長話をして利用者を困らせるのは頂けなかった。というわけで、ティナも灯里も恥ずかしげに気を取り直した。


「そ、そうじゃのう……ではとりあえず封印の間へ入るかのう」

「そーね……じゃあ、お願いね」

「うむ」


 兎にも角にも封印の間へ入らない事には何も始まらない。というわけで、三人は封印の間を封じている術式に問題が無い事を確認して扉を開く。

 そうして入った封印の間の中ではやはり魔導書などを収蔵している事もありそれが共鳴して妙な力場が発生している状態だった。魔導書などを封印の間に収めている理由の一つには、この共鳴により妙な力場が発生してしまう事もあった。というわけで、そんな妙な力場の発生にカイトは僅かに顔を顰める。


「やっぱりこの魔導書を収める書庫の雰囲気には慣れんな……灯里さんは大丈夫なのか?」

「慣れたから気にならないわねー。というか、あんたは慣れないの?」

「慣れてはいるが、それとこれとは話が別だろう? この値踏みされるような感じは慣れるもんじゃないし、慣れたいもんでもない」


 顔を顰めながら、カイトは灯里の言葉に肩を竦める。魔導書は意思を持つ。故に入ってきた存在が主人として相応しいかどうかを見極めようとするため、こういうような雰囲気が生まれてしまうらしかった。

 なお、カイトはすでに高度な魔導書二冊に選ばれているし、基本的には懐にそれを忍ばせている。なのでこの二冊の存在に気付けばすぐに影響は失せるらしいので、それまでの辛抱という所だった。


「そー……まぁ、私も最初は慣れなかったけど暫くしたら慣れたかな」

「ふーん……ああ、やっと引いてくれた。が……今回は少し長かったか」

「わかんの?」

「そりゃな……ティナ。どうだ? なにかわかったか?」


 いつもならアル・アジフとナコトの存在に気付くとすぐに引くのだが、今回はそれでも若干長いと感じる程度だったらしい。そんな感覚を得たらしいカイトは同じく同じ感覚を得ていただろうティナへと問いかける。これに、ティナは一つ頷いた。


「そうじゃな……まぁ、何時もより少し長めではあったが……故に大凡は掴めた。ちょい待っておれ」


 流石は、天才魔王という所なのだろう。ティナは大凡すべての魔導書を無条件に従わせる事が出来るらしく、いつもと違う感覚から何が起きているかがわかるのである。というわけで、彼女は持ってきていた杖で床を小突くと、そこから封印の間全域に及ぶ力場が発生する。


「さて……どやつが灯里殿を選んだ? 言うてみい。余らに益をもたらすのであれば、主人とする事を許諾しよう」

「勝手に許諾するなよ……」

「え、なんかだめ?」

「いや、あんたも普通に魔導書の主人になるのを許容すな……」


 さも平然と魔導書ゲット、というような感を出す灯里に、カイトはがっくりと肩を落とす。とはいえ、実際の所としてはそこまで怯える必要もなく、もし敵対の意思を見せているのならティナもここまで呑気にやってはいない。相変わらず灯里は持ち前の洞察力の良さでそこらを察していたのであった。そしてカイトもそれはわかっていた。が、それはそれ、これはこれである。


「一応、魔導書には危険なのもあるからな。そこらはきちんとわかっといてくれ」

「それはわかってるー……あんたんち(公爵邸)の封印の間見たし。あれはヤバいわねー」

「あれは……って、あっち入ったのか!?」

「ティナちゃんも一緒よ?」

「それなら良いけどさ……」


 あの魔界に突っ込んだのか。カイトはしかめっ面で幾つかある公爵邸地下の封印の間の一つを思い出していた。今回出た封印の間は魔導書や魔道具の中でも一際危険な物を収蔵している部屋で、危険度故に公爵家が管理する事になった物を収める謂わば危険物貯蔵所だ。

 封印はティナが直々に仕掛けたもので、あまりの危険度からカイトかティナの許可――もしくは代行のアウラとクズハ――が必須になる所であった。と、そんな話をしているとティナの方で結果が出たらしい。彼女が僅かに楽しげな顔で笑う。


「ほぉ……これは……」

「どうした?」

「面白いのう……時折起きるがなるほど。お主は見る目があると言うて良いのう」


 どうやら灯里を気に入ったらしい魔導書が見付かったらしい。が、何があったかティナは珍しい事態に感心した様に頷いていた。そうして、彼女が再度杖で床を小突くと本棚の一つからふわりと一冊の分厚い本が抜き出た。それはふわふわと浮かんで移動すると、灯里の前で落下する。


「わっと」

「そいつが、灯里殿を気に入った魔導書じゃ」

「へー……<<偽りの書(アヴァンチュリエ)>>? アヴァンチュリエっていうと……山師(やまし)?」

「面白い名じゃろう?」


 山師。それは読んで字の如く山を歩き回って鉱脈を見つけ出したり立ち木を売買したりする者の事だが、投機や冒険をする人を意味する言葉でもある。そしてそれが転じたのか、詐欺師と言われる事もあった。


「世界に偽りを見せるが故の<<偽りの書(アヴァンチュリエ)>>。錬金術に関連する魔導書の一冊でもある」

「へー……有名なの?」

「うむ……アルトタスと言う人物が記した魔導書じゃ。その筋では有名な者じゃな」

「あー……思い出した。確かそんな名の錬金術師が居たって聞いた事あったなぁ……」


 どうやらカイトもこのアルトタスという人物を知っていたらしい。なにかで聞いた事があった、と引っ掛かっていた様子だった。そんな様子に、灯里はしげしげと<<偽りの書(アヴァンチュリエ)>>を見る。


「ふーん……読んで大丈夫?」

「大丈夫でなければ渡さぬよ」

「それもそうね……」


 大丈夫かつ自分が選ばれたのであれば、と灯里も興味を抱いたようだ。そうして暫くの間、灯里は<<偽りの書(アヴァンチュリエ)>>というらしい魔導書を流し読みする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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