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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2311話 コンベンション ――ユニオン会報――

 天桜学園に設営している研究施設に設置するための機材を見るべく、冒険部を代表してリデル家が主催して行うコンベンションに参加する事になったカイト。そんな彼は参加に向けて忙しなく動いていたのであるが、その中で桜から聞いた噂話をきっかけとして灯里を連れて『リーナイト』のバルフレアの所へとやって来ていた。

 そこで彼はバルフレアから以前に意見を求められた流れの研究者達に関する話を行う事になっていたのだが、灯里はその横で今まであまり手にしていなかったユニオンの会報を一読していた。


(へー……ユニオンの会報だって言うからてっきり魔物に関する情報が多いと思ってたんだけど……)


 実際には掲載内容としては半分半分という所かな。灯里は流し読みで読みながら、掲載内容を大凡で掴んでいく。


(にしても……意外かしら。各地の出来事も乗ってる……これ、週刊誌とまでは言わなくてもかなり有用な情報誌なんじゃないかな……)


 乗っている情報は本当に様々。魔物に関する事。先に無料版にも乗っていると言われていた各地の著名な観光スポットに関する事。果ては政変や経済活動に関する出来事まで乗っており、いっそ独立させても良いのではと思える内容まで数々あった。


(というか、料理のページまであるの……どんだけよ。いや、カイト見てそーだけど)


 というかこれ美味しそう。灯里は適当にめくっていたページに掲載されていたどこぞ特有の果物を使ったデザートを見て、灯里は僅かに心惹かれる。

 が、彼女も今がそういう場で無い事、本当に食べたければ後でカイトに言えば良いだけである事を考えて別のページへと移動する。というわけで、一通り目を通した彼女は思う所を素直に口にした。


「あの……これ別に普通にページ増やしても良く無いですか?」

「ん? 早いな。もう読み終えたのか?」

「別に中身を精査するわけではないですから……」


 感心した様子のレヴィの問いかけに、灯里は少し恥ずかしげに頷いた。実際、彼女も魔物に関するページは一つを流し読みしただけで残りはすべて飛ばしており、それ以外の部分についてもどの程度詳しく書かれているか見る程度で後は読み飛ばしていた。


「そうか……まぁ、それでページを増やすか。確かに、それも手と言えば手ではあるが」

「あまり増やしたくもない、ってのはあるんだ」

「はぁ……」


 どこか苦い顔のレヴィの言葉を引き継いで、バルフレアも少し困り顔で笑っていた。これについては本当に冒険者特有の出来事と言えて、立場上は冒険者というだけの灯里に理解が及ばなかったのも無理はなかった。というわけで、カイトがざっくりと語る。


「下手に増やすと読みたがらん奴は物凄い多い……実際、バランのおっさんがその筆頭だったしな」

「バランっていうと……あんたのお仲間だった、っていう武神とか炎神とか言われるバランタイン?」

「それ。会報とかの分厚い冊子見せると自分から脳筋の筋肉ダルマだと言い張るぐらいには、読みたがらん……まぁ、当人が大半の相手なら一方的に倒せるし、おっさんで圧倒出来ない相手だと情報も殆ど無いから読まんで問題無いのも問題だったがな」


 灯里の問いかけに頷きながらも、カイトは当時の事を思い出したのか楽しげに笑っていた。どうやら有料版の会報が分厚かったのは三百年前も変わらなかったらしい。

 なお、カイトも当時はそっち側なので堕龍討伐の旅の最中に読んだ事は殆どなかったが、バランタインやティナらと旅をする様になって以降はティナの指示もあり割と目を通す様にはしていたそうだ。そんな彼であるが、すぐに気を取り直す。


「ま、それはさておきとして。あまり分厚いと持ち運びにも不便になる。見てわかると思うが、それは一度読んでポイ捨てするような物じゃない。何度も読み直したり、切り抜いたりしても大丈夫な様にしてある」

「それは……うん。触ったらわかった。防水加工とか色々と施されてて、ちょっとやそっとじゃ破れなさそう」

「ああ。切り抜くにも専用のナイフが必要な、それこそランクC程度の冒険者の刺突なら、それで防げるような代物だ」

「そ、そんななんですね……」


 レヴィから語られるまさかの情報に、灯里は手にしている会報を見て半笑いで笑うしかなかった。確かに分厚くはあるが、それでもレイピアなどで勢いよく突けば貫ける程度でしかない。

 それが様々な加工が施されている結果、冒険者の刺突でも貫けないほどの強度があるらしかった。というわけで、唖然とする灯里にバルフレアが続けた。


「ま、俺達冒険者は荒い使い方をする奴も多いからな。雨風に濡れても大丈夫で、魔物に殴られたりしてもちょっとやそっとじゃ破れない。それぐらいの頑丈さはある、ってわけさ」

「はぁ……」

「そういうわけなので紙一枚の費用もそれなりには掛かる。大量生産を行う事で原価はある程度下げてはいるがな。それでも、一冊につき人件費などを含めても原価は金貨一枚はしている。そこに情報料なども含めるともう少しする、という所だろう」

「んー……妥当かどうかはあんまりわかんないですけど……確かにそれなら売値も納得ですか」


 一応、ユニオンとしての一冊の販売価格は金貨三枚だ。そこから各種の割引などを行うとの事であるが、そこらを考えると確かに適正価格なのかもしれなかった。というわけで、そんな理解にレヴィは一つ頷いた。


「そう考えてくれると助かる。この値段は時代による物価の変化や土地の物価により多少前後しているが、昔からの取り決めで大凡がどの程度とは決まっている。その水準からは逸脱していない」

「はぁ……ということは、あまり増やすのも増やせないと」

「まぁ、そうだな。いや、増やそうとすれば増やせるが……原価が高くなり価格の改定を考えねばならなくなる。特に今回はコラムを一つ増やす事になりそうだ。需要の増加も認められそうなのでそこはそれ、という所ではあるが……」


 どこか困った様に、レヴィは灯里の言葉に同意して頷いた。特に今回の場合ボトルネックになっているのは、彼女の言う通り掲載内容を新たに追加するという点だった。どうしても内容を増やす事になるため、そのままでは原価が増えるしかなかったのだ。


「うーん……それだったらいっそ別にまとめるとかどうなんですか? 分冊、という形とでも言いますか……」

「ふむ……なるほどな。確かに分冊という形式なら別途買わせる事になり費用を抑える事は可能か……ふむ……確かに研究施設の情報なぞ大半の冒険者には不要なものだし、何より冒険者以外の研究者も購買させる事を考えると分冊は良いか……」


 どうやら灯里の提案はレヴィに答えを与える事になりそうだったらしい。色々と考えている様子が見受けられた。そうして暫くの後、彼女がバルフレアへと告げる。


「……良し。私としても分冊という形式には賛同する。また、それに合わせて幾つか考えた事がある」

「教えてくれ」

「ああ……統合版と分冊版の複数種での刊行だな」

「それか……あんまりやりたくはないなぁ」


 レヴィの提案に対して、バルフレアは少しだけ苦い顔で椅子に深く腰掛ける。そうして彼が口を開いた。


「前に言ったけど、分冊にするとそれしか買わない奴が出てくる。それはそれで仕方がないっちゃ仕方がないが……」

「わかっている……が、知っての通りやはり高価になってしまっている点が一つ問題になっているのもまた事実だろう。だからこその統合版と分冊版の二種類という事だ」

「うん? ということは……今までの形式と共に分冊版も出す、って事か?」

「そう考えてくれて構わん」


 自身の提案の肝を理解したバルフレアの発言に、レヴィは一つ頷いた。が、そんな彼女にバルフレアが再度苦い顔で告げる。


「まぁ、そりゃそれが出来るなら俺もそれが良いとは思うけどなぁ……編集部の奴らが首を縦に振るかどうか」

「そこはなんとかするしかない」

「そりゃそうなんだけどよぉ……」

「編集部なんてのまであるの?」

「ユニオンにゃなんでもござれだ」


 どうやら一瞬外部委託が頭をよぎっていたらしい灯里であるが、まさかの自分達で作成していた事に驚きを隠せなかったらしい。小声でカイトと話をしていた。というわけで、彼が小声で実は、と教えてくれた。


「実はマクスウェル支部にも編集室は存在してる。というより、大規模な支部には編集室は常設だ」

「そうなの?」

「ああ……その土地土地の情報を小冊子にまとめるためだな。流石に本部刊行の本誌だけだと情報が足りなすぎる。必要だ。今話しているのはその小冊子を格上げして分冊にしてしまおう、って所か」

「なんか……思った以上に大事になってきた気がする……」


 灯里としては適当に意見を述べてみただけであったのだが、思う以上に大幅な改革になりそうで若干当惑気味だった。と、そうこうしている内にバルフレアとレヴィの話し合いも終わったらしい。


「わかった。編集部の奴らはなんとか説得する」

「そうしろ。まぁ、分冊版の方の売上に関する予測も立てさせ、と色々としなければならん。急ぐ必要はさほど無いだろう」

「そうしてくれ。どうにせよ、会報にその旨も乗せなきゃならないしな」


 当たり前の話ではあったが、変えますと言って今すぐに変えられるわけではない。一応ユニオンの会報は本部が出している物なので形式などは本部の一存で変更は可能だが、それでも一定の猶予期間は設ける必要があった。というわけで、今回の会報に分冊版が刊行される旨を掲載して通達する必要があった。


「そういえば会報ってどれぐらいのペースで刊行されてるんですか?」

「ああ、そういえばそこらは話していなかったか……会報は二ヶ月に一冊出している。流石に月イチペースだと印刷から移送が間に合わんからな」

「それに新しい魔物だと情報収集にかなり時間も必要なんだ。それを考えると、大体それぐらいのペースで出すのが一番ちょうど良い」


 レヴィの言葉を引き継いで、バルフレアは会報が刊行されるスパンについてを語る。これに、カイトが更に補足する。


「まぁ、会報はあくまでも本部が必要に応じて出すものだ。今は情報収集もかなり楽に行われているみたいだから二ヶ月に一回出てるみたいだが……大戦期だと半年に一回とかだった事もある、とは聞いてるな。勿論、遠方まで届いてなかった事も多かったが」

「あの頃はなぁ……実際、お前こっちに来てはじめて会報があるって知ったみたいだったし」

「あの時代のエネシア大陸は一番やばかった時代だからな。会報なんぞどこの支部にも届いてなかった」


 どこか懐かしい様子を滲ませるバルフレアに、カイトが笑って肩を竦める。地理的にも皇国はラエリアからの玄関口になっており、その皇国の港が壊滅状態だった時点で会報が届く余地はなかった。なので当時は会報の存在を知っている冒険者の方が少なかったのである。


「だろうな……何度か届けさせようとはしたんだが……検閲に遭ったりしてなかなか上手くはいかなかった」

「かねぇ……ま、昔は昔。今は今だ。とりあえず本件についてはこれで大丈夫か?」

「ああ。助かった……ああ、そうだ。言い出しっぺの法則ってわけじゃないんだが、研究施設の件。マクスウェル支部から始めさせて良いか?」

「別に構わんが……まだ研究施設は完成していないぞ?」


 今回のカイトの提案ではある程度のスパンを置いて各地の研究施設を紹介させる事になっている。そして現状マクスウェルに該当の施設は冒険部保有の研究施設ぐらいしか見当たらず、最初にするのはどうか、と思う所らしかった。


「何時頃完成見込みだ?」

「そうだなぁ……灯里さん。箱は何時完成だった?」

「え、ああ……えっと……一応箱そのものは今月末。もう購入が終わった設備の入れ込みはそれと同時……かな。よほど遅れてるのが無い限りは、だけど」


 カイトの問いかけに、灯里は現在の進捗をカイトへと伝える。それを受けて、バルフレアがそれならと告げた。


「それならちょうど良い。どうせ今回の会報に分冊版の事を乗せて、次回でお試しで作るからな」

「次回は何時だ?」

「次回は来月刊行だな……急ぎで乗せるから編集部にゃ文句を言われるだろうが」

「ま、そこらは任せる」

「そうしてくれ」


 カイトはランクEXではあるが、同時にユニオンの組織として見れば一介の冒険者に過ぎない。なので運営に関して口を挟むつもりはないので、後はバルフレアに任せるだけであった。そうしてユニオンの会報に冒険部の研究施設を紹介してもらう事を取り決めて、カイト達は改めてマクスウェルへと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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