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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第92章 コンベンション編

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第2307話 コンベンション ――招待状――

 ルナリア文明時代に存在した非合法組織の一つの地下施設にて『振動石(ヴァイブ・ストーン)』の鉱脈を見つけ出す事に成功し、合わせて地下施設の制圧を成功させたカイト率いる冒険部。

 そんな彼らは戻って翌日は大休止を挟む事にしてそれぞれ英気を養う事にしていたのだが、翌日からは各々思い思いの依頼を受けつつ、平常通りの営業に戻る事になっていた。そんな中、カイトもまたこの日からはいつも通り執務室にて冒険部全体の統率に勤しんでいた。


「ふむ……椿。学園から出ていた追加予算についてはこれで通しておいてくれ。書面などに不備はないし、用途も明白だ。却下する道理はない」

「わかりました。では、その様に」

「ああ」


 基本的な話として、一応天桜学園は桜田校長をトップとして動いている様に公的にはなっているもののその実態としてはカイトが最終的な決定権を持っていると言っても過言ではない。

 そして外貨を稼いでいるのも大半は冒険部という事で、そのギルドマスターであるカイトへは予算案やその申請などの書類が回され、彼の裁可も必要とされていた。この日は朝からそこで出された申請の処理を行っていたのであった。と、そんなわけで予算申請を通した彼が椿へと問いかける。


「そういえば……椿。一つ確認良いか?」

「なんでしょう」

「リデル家からの招待状、届いてないか? そろそろ日程的には届いていないとおかしいんだが」

「そういえば……まだ私も確認しておりません」


 カイトの問いかけを受けて、椿もそう言えば届いていないな、と首をかしげる。この招待状はアストール家からの依頼で参加したアストレア家のパーティでリデル公イリスが述べていたコンベンション兼展覧会への招待状だ。ここで改めてリデル家とのつながりを有している事を示しておこう、というのがカイトとリデル公イリスの思惑だった。


「確かコンベンションの開始は来週末から……だったな?」

「正確には来週の木曜日開始、日曜日までの四日間ですね」


 今回のコンベンションはリデル家が主催するかなり大規模なもので、収穫祭で開かれた展覧会との違いとしては最新技術を用いて作られた発売予定がまだ決まっていないような開発機も公開される事だ。

 なので日程も長めに確保されており、カイトもすでに来週の予定はこれと最優先で空けていた。が、招待状が届かない限りは参加も何もあったものではなかった。というわけで、彼は少し困り顔で椿へと指示する。


「一度、確認をしておいてくれ。ウチとしても参加はしておきたいからなぁ……」

「かしこまりました……御主人様。第二執務室より連絡です」

「あっと……繋いでくれ」


 どうやら会話の終わりとほぼ時同じくして、内線にて連絡が入ったらしい。カイトは第一執務室では気を抜いていた事もあり僅かに気を引き締めて通信に応ずる。が、相手が相手だったので即座に気を抜く事になった。


『カイトー。今ちょっと大丈夫ー?』

「なんだ、灯里さんか」

『何よ、その態度』

「肩肘張らずに助かった、ってだけの話。さっきまでだらけてたからな」


 どうやら灯里からの通話だったらしい。カイトは先程までのギルドマスターとしての態度ではなく、内向けの気を抜いた態度に戻す。これに、灯里が笑った。


『ならよし』

「おうおう……で、どした? 灯里さんが通信は結構レアケースだろ?」

『そうねー。基本通信使うよりそっち行った方が楽だからそうしてるし』


 基本的に灯里はカイトを弄って楽しむ事を生きがいの一つにしている。そして第一執務室側に知り合いも多いし、彼女としても肩肘張らずにやれるのはこちらの方だ。なので内線で済む事でもなにかと理由を付けてこちらに来て話す事は少なくなく、内線を使うのは珍しかったのである。


「だろ? なんで少し肩肘張っちまったってわけ」

『ふーん……あ、それで要件なんだけど丁度ティナちゃん来てて話してて、そこでちょっと疑問が出たんで聞いとこー、ってお話』

「そういう事ね。ってことはティナもまだそっちか?」

『おるぞー』


 カイトの言葉を受けて、ティナが顔を覗かせる。ここは共に冒険部としての技術班を率いると同時に、現在灯里が半ば非公式的に<<無冠の部隊(ノーオーダーズ)>>技術班に所属している事もあり、かなり頻繁に話をしている。今回は何かしらの理由がありティナがあちらへ赴いている時に、なにかこちらに話があったという事なのだろう。


「そか……それで、要件は?」

『ああ、うん……ほら、来週末コンベンションあるでしょ?』

「ああ……それで丁度今招待状が来ないな、と椿と話してて確認させようと思っていた所だ」


 どうやら灯里とティナが離していたのも、丁度来週の事だったらしい。時期的に考えても不思議はなかったし、実際彼らもそれ故に話をしていた。技術班の二人がこの話をしていない方がおかしく、カイトも特段疑問はなかった。


『あ、そだったの……今しがたティナちゃんが招待状届いたぞー、って持ってきてくれたんだけど』

「あ、そうだったのか」

『うむ。丁度さっきまでシールドの件で研究室におったからのう。それが一区切り付いたので戻るか、と思った所に丁度届いたと連絡があったのでついでに持ってきたんじゃ』 


 今回の一件はリデル家から冒険部宛に招待状が送られる事になっていたが、リデル家が絡む関係でマクダウェル家を介して届く様にして貰っていた。なので椿にもそちらに確認してもらう様にしていたのだが、その必要はこれでなくなった。


「そうか……それなら確認の手間が省ける。で、要件は?」

『ああ、うん……予算どんなもんって思って』

「予算かぁ……」


 コンベンション。それは一般には展覧会などとも同義で扱われる事もあり、基本的にはエネフィアでも同じ扱いとして考えて良い。今回のコンベンションでは最近販売されたばかりの製品や直近で発売される予定の製品も取り扱われており、相手が応諾すればその場で契約を結ぶ事も可能だった。というわけで、カイトは告げる。


「どちらの立場で回りたいか、によりけりだな。冒険部としてなら予算は設けているが、オレ単独でなら青天井で構わん」

『うぉ……お金持ちー』

「実際に金持ちだし、投資の意味がわからん教育はされてねぇよ。必要なら金は出す」

『お主の場合口も出すがのう』

「そりゃ、お前が変な研究開発に予算を組むからだろ。まっとうな予算案なら口出しはせん……した方が面倒だし」


 基本、カイトは面倒くさがり屋と言って過言ではない。彼の人材収集癖はそこに起因している。なのでまっとうな予算案だと思う物については詳しい話を聞かなければならなくなる方が面倒だと感じるため、下手に触れない様にしていたのであった。

 まぁ、それが真っ当な予算案とわかるだけの知識があればこそ、出来る事ではあっただろう。というわけで、辟易した様子の彼であったが一転して気を取り直す。ここで下手に話して要らぬ話題に飛びたくなかった。


「ま、そりゃ良い。そういうわけだから基本灯里さんは何も気にせず頭空っぽにして見て回れば良い」

『頭空っぽで見て回れるなら、頭空っぽにするけどねー』

『できぬのが研究者の辛い所じゃのう』

「さいですか……まぁ、本当に好きに見て回れば良い。コンベンションの端から端までなんていう意味のわからん事を言わん限り、問題はない」

『りょーかーい。とりあえず好きに回ってみるー』


 やはり灯里は日本に居た頃から研究者であった事もあり、仕事でコンベンションに参加する事はあったらしい。そうなると色々と気にして見回る必要があったが、かなり気楽にやれそうだと肩の力を抜けたようだ。


「あいあい……で、ティナ。お前もわかってると思うが、もう一つの仕事は忘れないでくれよ」

『わーっとるよ。来る奴は来るじゃろうし、来ぬ者は来ぬじゃろ。魔女とはそういうものじゃ』

「お前見てると良くわかるよ……」


 ティナの返答を聞いて、カイトは心底理解した様に首を振る。と、そんな所に灯里が問いかけた。


『もう一つの仕事?』

「古い魔女族の行方を探してくれ、っていう依頼を前の総会の時に受けててな。魔女と言えばティナだろ?」

『あー……そういえばなんか魔女の人と会ったー、とかなんとか言ってたわねー』


 どうやらティナから灯里はフィオと出会った事を聞いていたらしい。大凡の話の筋を理解してくれたようだ。まぁ、それ以上にこれ以上は興味がなかった事も大きかっただろう。


「そっちはそれで良いだろう。魔女なんぞ変人奇人の集まりだ。来る奴は来るし、来ない奴は来ない。ティナの言う通りな……」

『そういうこっちゃのう……それはそれとして、後で招待状は持っていく。それが無ければ話にならぬからのう』

「頼む。お前の言う通り、それが無いと前二日の招待客限定のコンベンションは参加できないからな」


 今回のコンベンションであるが、日程としては先に言われていた通り四日の予定だ。が、そのすべてに一般客が参加出来るかと言われるとそうではなく、前二日は招待された招待客のみが参加出来る特別な物になっていた。カイトが招待状を待っていたのも、それ故だった。


『うむ……ああ、ついでにコンベンションの参加企業一覧と地図などについても持ってきておるから、それもついでに持っていこう』

「いや、それはそのままそっちで持っておいてくれ」

『先に見ておかんのか?』

「結局、オレは専門家(お前ら)に任せるだけだからな」


 ティナの言葉にカイトは一つ笑う。規模が規模なので招待状と共に参加企業の一覧が書かれた冊子も届く事になっており、それも彼女が持っていたのだろう。

 が、基本的にこういった研究開発に関する事は彼女に任せるだけだ。なので実質持っていても意味はなかったし、それより先にティナや灯里に見ておいて貰った方が良かった。


『そうか……ま、それならそれで良かろう』

「ああ……まぁ、そういうわけだし招待状についても届いているなら問題はない。急がんから、一通り確認ができたら持ってきてくれ」

『わかった』


 カイトの返答に、ティナは一つうなずいた。そうして、招待状の確認の取れたカイトは再び書類仕事に戻る事にして、ティナもティナで灯里と共にコンベンションの準備を行ってから彼の所へと向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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