題2297話 未知の素材 ――予定変更――
『振動石』の鉱脈を探しにルナリア文明の非合法組織の隠れ家へとやってきたカイト達。そんな彼らは隠れ家の発見を経て、地下の採掘エリアにたどり着く。そうしてたどり着いた採掘エリアであるが、人為的に崩壊させられていることを確認し、探索初日を終えていた。というわけで、明けて翌日の朝から一同は掘削用の装備に換装したホタルを護衛しながら、再度採掘エリアの前へとたどり着いていた。
「さて……ホタル。わかっていると思うが、お前は隊列中央で全周囲にセンサーを展開しろ」
「了解」
「よし……隊列もよし。じゃあ、やるか」
カイトは一度だけ後ろを向いて隊列を確認。問題無いことを確認し、隔壁に手を当てる。すでに鍵は開けており、後は押し入るだけであった。というわけで、一つ気合を入れた彼は隔壁を足で押し開ける。
「おらよ!」
「失礼するわ!」
カイトが隔壁を押し開けると同時に、カナタが一気呵成に採掘エリアへと突入する。そんな彼女の手には村正流の流れを組む刀が握られていた。昨日とは入れ替わりにカイトが押し入ると同時に牽制で魔弾を放ち、カナタが肉薄して切り捨てるつもりだった。
というわけで彼女は一息に採掘エリアの中を巡回していたらしいゴブリン種の魔物を切り捨てると、そのまま更に地面を蹴って前へと飛び出す。が、その真横をカイトの魔銃から放たれた魔弾が通り過ぎ、更に先に居た蛇状の魔物を撃ち貫く。というわけで、あっという間に崩落エリアまでの魔物は殲滅されることとなった。
「こんなもんか」
「やっぱりこの程度は楽しめそうにないわね」
「だろうよ……が、こっから先はどうなってることやら、だが」
「割と、濃密な魔力が漂っているわね。ちょっとは楽しめるかしら」
「厄介な話だ」
基本的な話として、大気中に含まれる魔力の濃度が高ければ高いほど強い魔物が生息していることになる。というわけで、そんな匂いを感じ取ったカイトはティナへと即座に連絡を入れる。
「ティナ。採掘エリアの先。結構やばい匂いがしだした。おそらく上が弱いのは、この崩落により魔力が遮断されてしまっているからだろう。さらには隔壁が浸透を阻止していることもあるんだろう」
『なるほど……魔力が地下から上に上がって来ておるのか。が、下でせき止められておるがゆえに、結果として上は魔物が予想より弱い、というわけじゃったか』
それなら辻褄が合う。カイトの報告にティナは納得を示す。そもそも上の領域の魔物が弱いというのは当初から言われていたことだし、カイト自身も実感としてその認識があった。その原因がこのエリアの崩落による物だったのなら、合点がいくのであった。
「みたいだな……ティナ。作戦の変更を提案する」
『じゃのう。一旦は施設全体の結界を再稼働させる方が良かろう。が、そうなるといささかこちらで作業をやらんとならんか』
「どれぐらい時間が必要だ?」
『システムの書き換えそのものはさほど時間は要らん。が、一部は物理的に書き換えてやる必要がある。その点をなんとかせにゃならんじゃろう』
先にも言われていたが、魔力濃度と敵の強さは比例関係にある。そして基本的には他の物質と同じく、魔力も大気中で一所に集まらず拡散していく。
なので隔壁や崩落が取り除かれた後は、濃度を均一化しようとする作用で上にも濃密な魔力が上がっていくことになる。となると、今まで以上に強い魔物が現れることになることが予想された。
「どうする? そっちもオレ達が動くか?」
『……いや、何から何までお主らがやる必要も無いじゃろう。他の者たちにやらせよう。さほど難しい物ではないからのう。それに、いくらか急場しのぎも考え付いた。お主らがやらずとも良い』
「そうか……それならそっちは任せよう。こっちは?」
少し思案した後に返答を行ったティナへと、カイトは重ねて問いかける。何をどう判断して彼女がこう結論したかはわからないが、専門家がそういうのであればカイトは素直に従うだけであった。というわけで、彼女は次いでカイト達へと指示を出す。
『施設全体の対応は良いが、隔壁側の対応はお主らにやってもらおうと思う。そこについてはかなり面倒な作業になりそうじゃからのう』
「面倒なのね」
『冒険部にとっては、じゃ。お主ら領域であれば児戯にも等しい。単純にあれらでは時間が掛かり過ぎて話にならんから、お主らにぱぱっとやって貰うというだけじゃ』
「あいよ」
それならそれで良いんだが。カイトはティナの解説に一つ頷く。そうして彼はホタルの方を向いた。
「ホタル。お前はこのまま掘削を開始してくれ。が、先にも言った通り、完全開通はさせるな。その前に一旦停止だ」
「了解。では、掘削を開始します」
「ああ……他はホタルの護衛をしつつ、好きにしておいてくれ」
掘削用の装備を展開し崩落したエリアの掘削を開始したホタルを尻目に、カイトは開いたままになっていた隔壁を見る。そうして、彼はティナへと問いかけた。
「で、やるのは人や物資の往来は出来つつ、魔力を遮断する膜を展開すれば良いんだな?」
『なんじゃ、わかとったのか』
「伊達に勇者はやってねぇよ。おおよそ何すりゃ良いかってのはわかる」
意外感を滲ませるティナに対して、カイトは一つ肩を竦める。悲しいかな、いろいろな所で便利屋として動かされている結果、何をすれば良いかわかってしまうのであった。
「要は結界の応用だろ? で、魔力を通さないだけだから……隔壁にルーンを刻んでおけば十分だろ」
『ほぅ……ルーンか。なるほど、その場であれば最適な選択じゃな』
「伊達に、チートキャラの弟子やってねぇさ」
隔壁に原初のルーン文字を刻みながら、カイトは少しだけ得意げに笑う。ここから上層階に魔力の流れが向かう場合、流れ等の関係から大部分は隔壁を抜けて上に昇っていく。
ということはつまり、だ。隔壁を魔力は流れていくのだ。そこに反応するようにルーンを刻んでおけば、維持等複雑な構造を設けなくて良いのであった。そしてルーンについては鍛えられていたので、あっという間に組み上がっていた。
「……こんなもんか」
『まぁ、ルーンについては余はあまり範疇に無いので口出しはせんが……よいんじゃないかのう』
「ルーン系はオレのが長いからな」
地球の魔術であれば基本はカイトもティナも同じぐらいの長さしか勉強していないが、やはり魔術に対する適性の差から基本はティナの方が圧倒的に練度は高い。が、ことルーンに限って言えばケルト勢に親しい事、優れた魔術師であるスカサハに弟子入りしている事もありカイトの方が詳しいのであった。そこらを、ティナも思い出す。
『そういや、お主妙にルーンは教えられておるのう』
「あー……フリンの奴とか他の奴もそうなんだが……ケルトやイギリスの連中。魔術にイマイチ興味無くてな。姉貴からは魔術を滅多に教わろうとしないんだと。ま、あいつら大半が考えるより殴った方が早かね、って性格だからな。で、そのしわ寄せが全部オレに」
『あいっかわらずお主そういう所真面目じゃのう……』
カイトをして武芸者として挑んでも勝てるかどうかわからない、と言わしめるスカサハであるが、その実本分は魔術師だ。なので当人も魔術は好き好んでいる。
そして無数の英雄達を教え導いているように、教える事も好んでやっている。が、彼女の教えはある程度の領域にないと教わっても無意味なので、教える相手はきちんと選んでいる。
なので武芸者としても魔術師としてもある程度の水準を持ち、それでいて魔術を教わる事も拒まないカイトは彼女にとって――教えて面白いという意味で――最高の弟子らしかった。
『まぁ、良いわ。そこらルーンに関しては現状はお主に任せた方が良いからのう』
「あいあい……はい、作業完了。これで隔壁を透過できる魔素はかなり少なくなった」
『うむ。後はこちらで最下層の所に幾らか膜を張って、上層部には影響せんようにしておこう』
「あいよ」
とりあえず自分の仕事はこれで終わり。カイトは隔壁に刻まれたルーンを見ながら、一つ頷いた。そうして彼の作業を終えて暫く。掘削を行っていたホタルが報告する。
「マスター。掘削完了まで後30センチ」
「そうか……ティナ。目標地点まで到達だ」
『うむ……うむ。やはりダメじゃな。通信網は完全に断絶しておる。そこから先はまずこちらからのオペレートは不可能と思え』
やはり人為的に破壊させられていたからか、おそらくどこかに埋め込まれていたはずの通信網も完全に破損してしまっていたらしい。此方側から向こう側、向こう側から此方側へいかなる信号も送れない様子だった。
「あいよ……ホタル。わずかに先端が向こう側に到達したら、そこで一旦停止。ゆっくり10センチほどの穴を空けてくれ」
「了解……何をなさるおつもりですか?」
「暗視カメラを使って向こうが覗けないかやってみる。後はドローンを飛ばして、だな」
基本的にここからやる事は今までと同じだが、如何せんこの先の魔力濃度はかなり高い。なので掃討強い魔物が居る可能性が推測されており、いきなりの突入で魔物の大群や強大な魔物から先手を打たれる事だけは避けたい様子だった。というわけで、更に十分ほど。ホタルが停止した。
「マスター。穴が空きました」
「よし……とりあえずカメラをぶっ込んでみて……」
ホタルの報告と場を譲った彼女と入れ替わりに穴の前に立ったカイトは、昨日このエリアへ入る時に使った米軍謹製の暗視ゴーグルの先端を突っ込んで先を見る。
が、殆ど状況は見えず、わずかになにかの影がありそうだ、という所であった。その影とて岩石がそう見えるだけ、という可能性もある。安易な判断は厳禁だった。
「……ダメだな。ティナ、流石にこの暗さだとドローンがあっても厳しいだろう。まぁ、今更の話にはなるが赤外線カメラやらを搭載するべきだったのかもしれんな」
『まぁ、流石にそこまでの大きさに高度なセンサーを設ける事は個人ではかなり難しいからのう。というより、そのサイズでその性能を設けられたブラックスミスはかなり有能じゃろうなぁ』
自分とは違う分野とはいえ、自身も科学者である以上は彼女も優れた技術と認められる事については素直に認めていた。
「そこは同意する……良し。ドローン飛翔開始……信号は明瞭」
『そりゃ良かった……もしこれで無理じゃったら、別に用意しておるドローン型の魔道具を持っていかねばならんかったからのう。そうじゃ。魔力の濃度はどんなもんじゃ? 肌身に感じる程度で良い』
「んー……確かに高いが、おそらくまだ完全開通ではないからだろう。ここに比べりゃ濃密は濃密だが、同時にこの程度なら問題はなさそうだ」
『そりゃお主ならのう……まぁ、良い。とりあえずドローンの映像を確認後、問題がなさそうだったら即座に連絡せい。そこから次の話じゃ』
「りょーかい」
ティナの指示に、カイトは改めて岸壁にドローンのコントロールに戻る事にする。そうして、暫くの間カイトは崩落箇所の更に先にあるだろう終着点を目指して、調査を進める事になるのだった。
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