第2296話 未知の素材 ――採掘場――
来たるべき邪神との戦いに備えて『振動石』を手に入れるべくルナリア文明時代の非合法組織の隠れ家へとやって来ていたカイト。そんな彼は非合法組織の隠れ家の最深部にある採掘エリアへと続く隔壁にたどり着いたものの、隔壁は物理的な鍵により封鎖されている事が発覚する。
というわけで、彼は合流したユリィらと共に隔壁の真横に設けられていた守衛室を調べる事にする。そうして、守衛室の調査開始から数十分。なんとかそれと思しき鍵が見付かっていた。
「多分、これがそうだと思うんだがね」
『あとはやってみんとわからんか』
「こればっかりはな」
ティナの問いかけに、カイトは一つため息を吐いた。彼の手には鍵の束が握られており、幾つかは割れたり欠けたりしている様子だったが、大凡はまだ使えそうであった。
「幸い戸棚の中に収められていたから、風化はさけられたようだ。なんとかなりそうか」
「その戸棚を開けるの、すごい苦労したけどねー」
「そりゃ、鍵の管理だからな。鍵の管理は厳重にしましょう、ってなるさ」
「もうちょっと楽でも良かったのだと思うけれど……というかいっそ、全部壊しちゃえばよかったかもしれないわね」
ユリィとカイトの愚痴とも取れる会話に、カナタがため息混じりに口を挟む。なぜか鍵を仕舞う戸棚の鍵を探すという二重に鍵を探す羽目になっており、しかもこちらはどうやら守衛が持ったまま死んだらしく、別の部屋までわざわざ探しに行く事になってしまったのであった。というわけで、げんなりした様子のシャルロットがそれに応ずる。
「それも手だったかもしれないわね」
「なんでウチの女どもはそうも暴力的なんかね……」
「ルナリア文明の嗜みよ」
「そんな嗜みはないわ。単に面倒なだけよ」
「乗ってくれても良いのに」
胡乱げなシャルロットの返答に、カナタが口を尖らせる。とはいえ、シャルロットその人も同意していた事は事実で、カイトはただただ肩を竦めるばかりであった。
「ま、何はともあれ見つかったからこれでよいだろう」
「それはそうね。とりあえず、それで開くか試してみましょう」
「アイアイマム」
シャルロットの指示に、カイトも一つ頷いて応ずる。というわけでそちらにそちらに向かうことにするのであるが、単に守衛室を出るだけだ。すぐにたどり着いた。
「さて……じゃあ、やりますかね」
兎にも角にもやってみよう。カイトはそう判断すると、いくつもの鍵の中から適当に鍵を選んでは鍵穴に差し込んで回るかどうか試してみる。そうして試すこと、数回。もう少しで二桁に突入するところだ。ついに正解を引き当てた。
「ん……回った。こんなあるとは思っていなかったが……」
「他のはなんの鍵なんだろうね」
「さてなぁ……ティナ。こいつはこのまま持ってても大丈夫か?」
『そうじゃのう……まぁ、最終的に軍に引き継ぐから持っていっても問題はあるまい。それに、採掘場に立ち入るのはおそらくお主らだけじゃろうて。気にすることもないじゃろう。となれば、ここから先に鍵の掛かった扉がある度に戻ってきて鍵を、とする方が面倒じゃろうて』
カイトの提案を受けたティナが、少し考えた後に許可を下す。というわけで、カイトは内側に来ている黒の軽鎧に取り付けられている専用の金属に鍵の束をフックで取り付けておく。
「なんか久しぶりにこれに取り付けた気がするな」
「実際、久しぶりなんじゃない?」
「そもそも異空間に収納する魔術を手に入れたら、そっちメインで使うようになっちまったからなぁ……家で使うこともないし」
この金具を使うのは基本、旅先でのことだ。なので使わないで良いことの方が多いし、今となっては道具を出しながら両手を空けておきたいことの方が少なかった。
「あまりジャラジャラとさせているのは好きじゃないんだが」
「ま、無いで困ることはあってもあって困ることはあんまり無いでしょ? そのままで良いんじゃない?」
「時々お前ら妖精が引っ張るから困ることが無いわけじゃないがな」
「なんのことやら」
カイトの指摘に、ユリィはそううそぶいた。まぁ、こんなものはどうでも良いといえばどうでも良い話だ。なのでカイトも特に気にせず、ユリィもまた彼の肩から浮かび上がってシャルロットの所へと移動する。
「さて……じゃあ、開きますかね」
隊列を整え、ひとまずカイトはゆっくりと扉を押し開ける。すでに鍵は開いているのだ。開かない道理はなく、ゆっくりと動いていく。そうして数センチ開いた所で、カイトは愛用している米軍製の偵察用のカメラを取り出して、中を覗き込む。
「……中は……真っ暗闇だな。暗視カメラ起動……」
『いっそドローンでも良かろう。確かヴァン・ヘルシング教授とやらから紹介してもらった道具屋で買ったんではなかったか』
「ああ、あのハイテク教授か……確かにそいつを使うタイミングかもしれないな」
カイトはティナの言葉に壮年の男性を思い出す。これは言うまでもなく吸血鬼退治で有名なヴァン・ヘルシング教授だ。そんな彼は現代でも生きてある吸血鬼を追っているのだが、カイトはそれとは別に少しの理由があって遭遇したのであった。というわけで、カイトはそんな彼の紹介で手に入れた純粋な機械製のドローンを起動させると、ウェアラブルデバイスを接続させる。
「さて……レッツゴー」
今回カイトが使うのは、消音性を重視したモデルだ。聞けばこれはヨーロッパで開発されたものだそうなのだが、それの設計図をヴァン・ヘルシング教授が裏ルートを介して非合法に入手したものらしい。
それを更に彼が懇意にしているブラックスミスが魔術を使う裏社会でも使えるように再設計。ヴァン・ヘルシング教授の紹介でブラックスミスと知己を得たカイトも買ったのであった。魔術を使わないながらも優れた静音性を有しており、今回のような用途に合致していた。
「……中は……やはり真っ暗闇。が……想定されていた通り、周囲は岩壁だな。魔物は……うん。ぐっすりお休み中」
『そこらは想定しておるので気にする必要もあるまい。とりあえず信号が届く限界まで飛ばせ』
「あいよ」
カイトはティナの指示に従って、とりあえず飛ばせるだけ遠くへと飛ばしていく。が、それもしばらくすると、止まることになった。
「……ティナ。崩落箇所を確認。完璧に埋まってる。一直線で分岐もない」
『やはりそうか。想定されておったことではあるが……どんな感じじゃ? 見た所で良い』
「結構派手にいってるな。が、これは……」
『なにか気になることがあるか?』
ティナの問いかけを受けたカイトは、再度崩落した箇所の周囲をドローンで探索させる。そうして、結論を下した。
「……多分、人為的に崩落させられている。破壊の威力と周辺の被害を考えたら、明らかに釣り合わない。意図的にここだけ崩されたと考えて良さそうだ」
『ふむ……映像を回せ。こちらも確認しよう』
「あいよ」
ティナの要望を受けて、カイトはドローンの映像を受け取っているウェアラブルデバイスを更にティナが居る司令室のコンソールへと接続させる。そうして彼女の側で映像が確認できるようになって、彼女も顔をしかめた。
『……みたいじゃのう。これはおそらく人為的に崩落させられたので間違いあるまい』
「ということは、ここで生き残った人たちが採掘エリアへ逃げ込んで、追手を振り切るべく崩壊させたということ?」
『そう考えて良いじゃろうな。となると……おそらく向こう側から繋がる非常口がどこかにあるのやもしれん』
「もしくは、採掘機を使って強引に道を切り開いた可能性もあるかと」
『なるほど……確かにそれはあり得るやもしれんな』
ホタルの指摘に、ティナはそれもまたありえる可能性と頷いた。とはいえ、人為的な崩壊であるのならそれはそれで困ったというしかない。
「が……どうする? 人為的に崩壊させられてるのなら、割と掘り進むのはきついかもしれないぞ? こういう場合、得てして先に罠を仕掛けておいて足止め、が常道のパターンだからな」
『そうじゃのう……』
どんな罠が仕掛けられているかがわからない。カイトの言外の指摘に対して、ティナは僅かな考察を行う。そうして少しの後に、彼女は結論を下した。
『まぁ、本来は行くべきじゃないんじゃろうが。現状で保有する戦力を鑑みた場合、十分に行けるじゃろうて。下手に後続の軍に対応を任せると、それが仇となりかねん』
「なーんかあべこべのような気がせんでもないがなぁ……」
『いつもいつも言うでないわ。そんなもん、重々承知の上じゃ』
貴族制度のある世界では本来、軍の役割は危険な場所に向かい領主や領民に危害が加わらないようにすることが仕事だ。にも関わらず、相変わらずカイトが軍に代わって危険を冒しているのはやはりおかしいのだろう。早急になんとかしなければならない話だが、彼以上に有用な札が無い以上は仕方がない話だった。
「はいはい……まぁ、それはそれとしておいておこう。とりあえずは今日はこれで終わりか?」
『そうじゃのう……削岩機やらなんやらは持って行かせたが、使う可能性はそもそも低い。何より、今日はもう結構良い時間じゃ。全員を戻らせることを考えれば、お主も戻った方が良かろう』
「アイアイマム。じゃあ、お仕事はこれで終わりということで」
どうにせよカイトも徹夜で作業を行うつもりはないし、何より徹夜で作業を行う意味はない。仕事時間が終われば、さっさと引き上げるだけであった。というわけで、一同は一切の未練も見せずに隔壁に再度鍵を掛けて、その場を後にするのだった。
さて、カイトたちが最下層の採掘エリアを開封して一日。夜の間に白骨死体はすべて神器の力で消滅させると、随分と歩きやすい環境が整っていた。
「はぁ……やっぱり風化したりしてる白骨死体を見ると精神的に気分が悪いもんだ」
「そうね。一部は魔物化してしまっていたのは致し方がないことだけれど。多くを弔えて良かったと言って良いでしょう」
「そうだな……やはり人骨の魔物は精神的にもあまりよろしくない。あの程度の魔物化で抑えられたことを喜んでおくべきか」
やはり弔われもせず数千年放置されていたのだ。至る所で白骨化した死体を媒体にして魔物化が起きてしまっており、戦闘にはいつも以上の精神的苦痛が感じられる状況は少なくなかった。これ以上精神的なダメージを負う前に浄化しておけたのは、誰にとっても良いことだった。
「ええ……それで、ティナ。今日の作業内容は?」
『今日の作業内容は昨日の続きじゃ。端的に言えば採掘エリアの崩壊した領域の先を探索する作業というわけじゃな』
「具体的にはホタルの護衛になるだけだけどな」
今日は朝から採掘エリアの探索だ。なので今日は最初からホタルは削岩機などの掘削用の装備を装着しており、その代わりとして武装は大幅に制限されていた。センサー類も掘削用に調整された物を装備しているので、戦闘力は大幅に減少していた。そしてここからいくつ崩落が起きているかわからないので、基本的にはここから先はホタルの戦闘力は期待できない。護衛が必須なのであった。
『まぁの……ホタル。再確認じゃが、掘削用の装備一式に問題は無いな?』
「イエス、マザー。掘削用の装備に問題はなし……いつでもいけます」
『よし……では、カイト。今日も今日とて探索を行え。何か面白い物があれば報告せいよー』
「あいよ……じゃあ、ホタル。掘削は頼むが、完全に貫通するより前には一時停止してくれ。罠に引っかかってドカン、だけは避けたいからな」
「了解」
カイトの指示に、ホタルが一つ了承を示す。そうして、本格的な採掘エリアの探索を開始するべく、邪魔な岩やら土砂やらの除去作業がスタートすることになるのだった。
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