第2293話 未知の素材 ――探索開始――
カナタの父にして稀代のマッド・サイエンティストと謳われたヴァールハイトが非合法組織に協力していた時代に見付けたという『振動石』の鉱脈。それを求めてルナリア文明時代の非合法組織の隠れ家跡へとやって来たカイトであるが、そんな彼はヴァールハイトが報酬の一環として寄越してくれた地図と、一時期ここに滞在していたカナタの道案内を受けながらまずは施設全体の統括を行う司令室の制圧を目指し動いていた。
そんな彼らがたどり着いた司令室であるが、予想に反して破壊はあまりされておらず、なんとか通信機を接続する事ができそうな様子であった。というわけで、遠隔でのティナやレガドの助力も借りながら司令室のコンソールと通信機の接続を終わらせていた。
「これで……良し。まぁ、電源が入ってないから大丈夫かは責任が持てんが」
『そっちについてはしゃーない。お主らが繋げたのはあくまでも単独で動く通信機のような物じゃ。それそのものに電源はあるが、コンソール全てを補えるほどではない』
「わかってる……で、そっちはどうなんだ?」
どうやら瞬達が向かった動力室に設置されていた魔導炉であるが、修理が必要な状態か点灯しても安定しなかったらしい。ティナが向かって小型の魔導炉を設置する作業を行っていたとの事であった。というわけで、設置作業を進めていたティナが、現状を報告する。
『設置そのものについては終わっておるよ。ただ、今はシステムのメンテナンスを行って流路の取捨選択が出来るようなアップデートを行っておるんで、もう暫く時間は掛かる』
「そうか」
先にカイトも言っていたが、電源が入らない以上はこの司令室の設備は一切動かせない。もしかしたら予備の電源装置がどこかにあるのかもしれないが、そこまではカナタも知らないとの事であった。
無論、ヴァールハイトが手に入れた地図にもそこまでは乗っていなかった。後にカナタが言う所によると、あれはあくまでも末端の構成員に配られる物で秘密の区画等が完璧に記されているわけではないとの事であった。
「……結局、今どれぐらいだ?」
『おお、そういえば言っておらなんだな。後三割という所じゃのう。言うてる間には終わろうて』
「そうか……なら、ここでそのまま待っておいた方が良いか」
『じゃのう。何かがあった場合に誰かしらはそちらに備えておいた方が良いじゃろうし、それを考えたら動くのは悪手と言えようて』
カイトのつぶやきに、ティナもまた賛同して頷いた。そしてそういうわけなので、瞬らは魔導炉の再設定を終えた後はティナと共にこちらに来て、後は彼女やその他技術班の面々の護衛に就くのであった。
さてティナの指示に従って司令室の確保を行ってから暫く。魔導炉の稼働と安定化が終わった事があり、カイトは彼女の指示に従って動く事にしていた。というわけで、彼女が来てからもカイトは暫くは待ちの時間だった。
「……どんなもんだ?」
「うむ……メインシステムについては稼働は問題無い。が……やはり多くのシステムがダウンしておるのう……レガド。そちらは入れそうにないか?」
『……やはりダメそうですね。検出出来ません。通信機の大本が破壊されている可能性が高そうです』
「やはりか。まぁ、当時の者共もそこまで阿呆ではなかろう。暫くして通信を介して洗脳が行われた事を察して、無事だった者が破壊したんじゃろうな。が、手遅れであえなく、という所じゃろうかのう」
この施設の破棄は邪神による洗脳が開始された頃合いだろう、というのがヴァールハイトの推測――彼はその前に冷凍刑に処されていた――だった。そこからティナは推測したらしかった。それに、レガドも同意する。
『かと……となると気にするべきなのは、やはりいつもの通りなのかと』
「じゃのう……カイト。パターンはA。当初より想定された警戒を行うべきじゃろう」
「アイアイマム……各隊の隊長に伝達。作戦はパターンAのまま進行で確定。決して班から離脱しないように注意しつつ、行動を行え」
『『『了解』』』
カイトの指示に、それぞれの隊を率いる隊長が了解を示す。それを聞いて、カイトもまた一つ頷いた。
「よし……ティナ。各員への伝達は完了。第二種戦闘態勢のまま探索は続行だ」
「それが良かろう。後は魔物がどの程度おるか、という所であろうが……まぁ、そこについては遺跡探索においてはいつもの通りと言えるので気にする必要もあるまいて」
「まぁな……それはさておいて、だ。次の指示を頼む」
ここまで冒険部では何度となく遺跡の探索を行っている。この一年の件数で鑑みれば専門のギルドと比較しても少なくはなく、冒険部各員についても少なくとも遺跡探索に関しては各個人の判断で動けるだけの経験は積ませた。となると、通常の探索は彼らに任せカイト達は次に進むべきだった。というわけで、ティナもまた次の指示を出す。
「うむ……一条隊はこのまま司令室の確保を行いつつ、当初の予定通り外からのオペレータを護衛しこちらへ」
「わかった……もう移動させるか?」
「そうせい。ここから数日はここを拠点として各隊へのオペレートを行わせる事になる。早めに動かし、こちらの操作に慣れねばならん」
「わかった……カイト。移送は俺が指示する。こっちを任せて良いか? 戻るまでで良い」
「ああ」
「頼む……第一班と第二班は俺と一緒に戻るぞ。それ以外の隊はカイトと共にここで司令室の確保だ」
カイトの応諾を受けた瞬が、率いてきた部隊の幾らかを引き連れて飛空艇へと戻る事にする。その一方、カイトは残留の面子の統率を行いながらティナに現状の確認と次の指示を要請する。
「で、ティナ。オレ達は次にどうすれば良い?」
「そうじゃのう……お主らにしてもらいたい事は割とある。が、この内優先度を決めるのであれば……まぁ、まずは地下の採掘エリアの現状確認じゃのう」
「やっぱりそうなるか」
「うむ……おそらくそちらは魔物がわんさかいるじゃろうて」
それ以外には無いだろう。そんな様子のカイトに、ティナもまた同意する。そんな彼女は採掘エリアの状態を確認するべく、監視カメラを起動させようとしていた。が、芳しくはなかったようだ。
「……ダメじゃな。採掘エリアの監視カメラは総じて死んでおる。この様子じゃと、完全に崩落しとるじゃろうな」
「そこは織り込み済みだし……」
カイトの視線を受けて、ホタルが右腕にドリルを顕現させる。
「調整は完璧です。大半の土壌なら掘り進めます」
「うむっ……ああ、土壌のサンプルの確保は忘れるでないぞ。そのために向かうんじゃからのう」
「了解」
今日も今日とて金属煌めくドリルを満足気に見たティナであるが、一応仕事は忘れずは言い含めておく。ヴァールハイトからの情報で採掘エリアはほとんど整備されていなかった事が記されており、そのままであれば崩落している可能性は非常に高いと思われていた。ヴァールハイトもまたその可能性には言及しており、カイト達も装備にそれを含めていたのである。
「よし……で、カイト。センサーは持っておるな? あれ忘れたら意味ないぞ」
「持ってるよ」
ティナの問いかけに対して、カイトは白いロングコートを上げて腰に吊り下げた銃型の魔道具を示す。これは武器ではなく、特定の素材に反応するようにカスタマイズしたセンサーだった。これ以外にもホタルが同じシステムを搭載した外装を持ってきていた。
「よし……まぁ、先にも言うたがそれにはグリップの部分に『振動石』が仕込まれており、それに反応するように設定されおる。如何せん数が作れん故に、それ一つしかないから失くさぬように気を付けよ」
「一応、失せ物探しの魔術は仕込んでるんだろ?」
「仕込んでおるよ。が、この施設でどこまで有効かはわからぬ。失くさぬなら失くさぬ方が良い」
失せ物探しの魔術。これは一般的に伝わる名で、正式には別の名がある魔術だ。効果としては設定した物を噴出した場合、この魔術を使うとその在処が壁等を貫通して光って見えるようになる、というものであった。今回はこのセンサーを設定している、というわけである。
「そりゃな……で、待っている間になにかする事はあるか?」
「しいていえば、そのセンサーの同期を確認しておく程度じゃろう」
「そんなもんか……ああ、そうだ。そういえば聞いてなかったんだが、このセンサーの有効射程距離はどんなもんだ?」
「数十メートル、という所かのう。正確には70メートルじゃが、どうしても間に挟まる素材次第で前後はしてしまう」
どうせ瞬が帰ってくるまでは暇だし、現状ティナは施設各所の状況確認をしている所だ。それ次第では優先的に動く必要があるかもしれず、瞬が戻ってきてもそちらが終わらなければカイトは動けなかった。
というわけで、センサーの再調整と試験運用を行っていると、瞬が飛空艇の艦橋にて各員のオペレートを行っていたオペレーター達を連れて戻ってきた。
「カイト。助かった」
「ああ……ティナ」
「うむ……コンソールは左から順番に一番二番と割り振る。余はこのメインを使って各所の確認を行いつつ、基本はカイト達に指示を出す。お主らは割り当てられたコンソールを使い、当初の予定通り割り当てられている班へのオペレートを行え。使い方については今のうちに慣れておけ」
「「「了解」」」
カイトの促しを受けて、ティナはオペレーター達へと即座に指示を出す。それを受けてオペレーター達は無事だったコンソールの前に腰掛けると、コンソールに持ち込んだオペレート用の装置を接続。各隊へのオペレートを行えるように準備していく。それを横目に、瞬がティナへと問いかけた。
「ユスティーナ。俺は次はどうする?」
「暫くは待機で良い。というより、お主らは各所で魔物が出た場合等に増援として動いてもらう。現状はどうなるかわからんからのう」
「なるほど……わかった。そうしよう」
現在、この隠れ家跡地全域にどれだけの魔物が居るかはわからない状態だ。更に言えば警備システムが不意に復旧してしまう可能性等もあり、下手に部隊を分けて動いて被害を被る事を厭ったようだ。
そして瞬もその意見には賛同する所であり、すんなりと受け入れていた。というわけで、彼の問いかけが終わった所で今度はカイトが問いかける。
「で、ティナ。施設全体のチェックはどの程度終わった?」
「五割、という所かのう……一応、非常電源は無事じゃった様子じゃからそちらから施設全体に非常用のランプを点灯させる事は出来るが……どうする?」
「そうしてくれ。視界の確保が出来るならそちらをした方が良い」
「魔物が起きる可能性もあるがのう……まぁ、先手を打たれぬようにする方が肝要か。良かろう。が、通達は出しておけよ」
「わかってる」
ティナがコンソールを操って通路の明かりを再起動させるべく動き始めた一方、カイトはカイトで冒険部各員へと非常用のランプが点灯する事を告げて警戒を促す。こちらから見える、ということはあちらからも見えるという事だ。警戒しなければならなかった。
というわけで、カイトが各員へと通達を出すとほぼ同時に、非常電源が作動してランプが点灯。薄暗くはあるものの先々まで見える程度には明るくなった。
「これで大丈夫か」
「うむ……監視カメラもそれに伴い一部復旧しおったわ。やはりこの施設全体を賄うには小型魔導炉では無理か……そりゃそうなんじゃが」
「そうか……ティナ。魔物は?」
「おるのう……」
「俺達の出番、か」
ティナの視線を受けて、瞬が一つ気合を入れて首を鳴らす。まさにそのとおりだった。そして同時に、カイトへも指示が飛ぶ。
「カイト。思うたより魔物の数が多そうじゃ。このまま放置すれば警備システムが再稼働した際にゴーレム達が一斉に動きかねん。先に討伐した方が良いじゃろう。オペレーター全員、まずは魔物の掃討を行うように指示を出せ。お主らは先手を打たれぬようにしっかり注意してやるんじゃぞ」
「「「了解」」」
「……じゃ、オレ達は各自散会して動くかね」
カイト達は言うまでもなく戦闘力としては冒険部全体でずば抜けている。なのでここは集団で動くより一人一人で動く事で身軽に動く事にしたようだ。そうして、ティナを筆頭にしたオペレーター達の案内を受けながら、各所の魔物を討伐していくのだった。
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