第2287話 未知の素材 ――山間――
『振動石』を求めてマクダウェル領北西部にある雪山にまでやって来ていたカイト率いる冒険部。そんな一同は雪をかき分けながら、探索の日々を過ごすことになる。そうして調査を開始して三日。雪山の片側の調査を終わらせていた一同は、一度拠点を移すことにしていた。
そしてそういうわけなのでこの日は一度探索を行わず外に出していた物資の回収のみにとどめ、飛空艇を移動させていた。
「結局、こっち側じゃ見付からなかったなー」
「しゃーない。想定はされてた」
「そういや、お前そう言ってたよな? あれ、どうしてなんだ?」
多分、最初三日の調査では見付からないだろうな。カイトは今回の出立前のブリーフィング後に、そんなことを小さく口にしていた。それをソラは聞いていたらしい。これに、カイトが少しだけ照れくさそうに笑う。
「聞いてたのか」
「ああ……で、なんで?」
「お前が設計者なら、どこに置く?」
「へ? どこにって……入り口の話だよな?」
カイトの問いかけにソラは一応念の為、と確認を行っておく。これに、カイトははっきりと頷いた。
「ああ……もしお前が非合法組織の幹部で、上から隠れ家の設置を命ぜられた。なら、どこに置く?」
「そりゃまず見付からない場所だよな。実際、この三日見付かってないし」
「そうだ。見付からない様にする必要がある……じゃあ、どうすれば見付かりにくいか、って話だ」
「どうやれば見付かりにくいか、ねぇ……」
カイトの言葉に、ソラは一度自分の頭で考えてみる。そうして自身の考えをまとめるため、敢えて意見を口にする。
「えっと……まず当然目視で見付かっちゃダメだし、飛空艇があったはずだから上からも見付かっちゃダメだろ……ってなると、メインは地下に設置するのは当たり前か」
「実際、この時代の非合法組織の隠れ家は廃坑等を利用した半地下の設備が多かったそうだ」
「だよな……そう考えりゃ、今もその時代に近づいてるのかもなぁ……」
ソラが思い出したのは、ラグナ連邦での一件だ。あの時も非合法組織は廃坑を利用して地下に隠れ家を形勢していた。その後、ソラが聞いた所によるとボスや幹部達が逃げようとしていた先も地下にある設備らしく、飛空艇による巡回を警戒していることが伺えた。
「そうだな……やはり飛空艇による広域の巡回が出来る様になったことで、どうしても目視で見つけやすい環境が整ってしまっている。故にここ数十年の非合法組織の隠れ家はもっぱら普通の建物に偽装されているか、巨大な設備になると地下に埋没しているというのは多い」
「へー……って、まぁそれはそれとして……で、そっから次だよな……」
飛空艇への警戒は地下に設置することで賄う。であれば、次に警戒するべきなのはなんだろうか。ソラはカイトとの会話を切り上げて、改めてそこに思考を巡らせる。
「……次は……やっぱ冒険者とかの旅人か。ルナリア文明時代に冒険者が居たかはわかんないけど」
「冒険者という名じゃないらしいが、そういう立場の者とそれを統括する組織はあったそうだ」
「じゃあ、やっぱり冒険者を警戒するべきだよな……ってことは、入り口に近付かれることか。当然近付かれて出入り見張ってる奴が見付かるのも面倒だよな」
「当然、始末しないといけなくなるからな」
なにせ非合法組織だ。そこに出入り口が存在していることを知られては困る。ならば口封じを行うしかなかったし、敢えて幸いにして僻地を選んで隠れ家を設置しているのだ。下手を打つことさえなければ、隠蔽は容易だろう。
「ってことは……遠目に見ても見付かっちゃダメになるから……遮蔽物に遮られてる方が良いか。となると……ああ、そっか。山間部側の方が見付かりにくいのか」
「そういうことだな。更には山間部だと急な突風等があり、飛空艇のコントロールもし難い。特に小型艇はそれが顕著だから、どうしても高度を稼がないとならなくなる。結果、発見は困難になってしまうというわけだ」
「なるほどね……地形を利用して隠すってわけか。魔術だけが道具じゃない、ってお師匠さんも言ってたなぁ……」
どうやらカイトとの会話でふとソラはブロンザイトの教えを思い出したようだ。そんなことを話しながら人員の乗り入れを行って、飛空艇が緩やかに離陸する。
「次はどこに着陸する予定なんだ?」
「それは上の奴らに聞くしかない……どこか下りられそうな場所、ありそうか?」
『んー……結構厳しいかもねー。正直、このサイズの飛空艇は割と大きめだし……ソレイユー。そっちどうー?』
『厳しいかなー』
「あー……輸送艇だからなぁ……」
フロドの返答に、カイトは困った様に笑う。そもそも冒険部が保有する飛空艇は大人数や多数の物資を輸送することが目的の輸送艇がベースとなっている。
なので規模としてはかなり大きな飛空艇で、離着陸にはある程度の面積が求められていた。とはいえ、それでも垂直離着陸機同様に垂直に離着陸が出来る分、地球の同規模の飛行機より随分マシではある。それはさておき。どうするかな、という塩梅のカイトへとソラが問いかけた。
「もし下りられない場合、どうするんだ?」
「下りられる場所を作るしかない。あんまやりたくないんだが……」
「作る? どうやって」
「そりゃ、魔術を使って突貫工事しかないだろう……ティナー。やっぱ無理そうっぽいから支度頼むわー」
『しゃーないのう。魔術師部隊使うぞー』
「そーしてくれ。幸い素材はたくさんある。こっちはオートパイロットに切り替えた後、魔道具の設置行うわ」
やっぱりそうなったか。そんな雰囲気で返答したティナに、カイトは頭を掻きながら自分の行動を口にする。
『そうせい……むぅ……やっぱこういう時には人員が足りぬのう。アルらも連れてけよー。お主一人じゃと本気でやらねば時間が足りまいて』
「あいよ……アル、リィル。どっちか聞こえてるか?」
『なんでしょう』
「離着陸不可領域への着陸を行う。ルーファウスに事情を説明し、手伝う様に伝えてくれ」
『わかりました。倉庫にて物資を入手後、甲板で合流します』
「そうしてくれ」
カイトの指示に、リィルが早速行動に入る。これについては軍では比較的頻繁に行われていることらしく、内容を伝えられるだけで自分達が何をするか理解できたようだ。というわけで手早く指示を出したカイトへと、ソラが改めて問いかけた。
「何をするんだ?」
「着陸できそうになければ、着陸出来る場所を作るしかないってさっき言ったろ? で、お前を呼んだのはそうなった場合にオレが艦橋を離れるから、お前に操縦を任せるって話だ」
「ふーん……」
元々ソラもカイトが艦橋を離れるかもしれないので艦橋に来てくれ、と言われてやって来ていた。別にこれは瞬でも良かったのだが、二人で話し合って瞬が物資や人員の統率を行い、ソラがこちらに来たのであった。とはいえ、そんな彼に対してカイトは詳しくは説明しなかった。
「まぁ、論より証拠と言った方が良いだろう。どうせここに居て貰うから、お前はよそ見でもしてなけりゃ見ることになる。見てりゃ何するか、ってわかる」
「お、おぉ……」
「じゃあ、後は任せる。オレは外に出て作業せんとな」
「おう」
兎にも角にも、カイトは魔術師部隊と共に外で何かしらの作業を行わないといけないらしい。ソラはそんな彼から操縦を引き継いで、しかしすでにオートパイロットに切り替わっているので特に何もすることもなく外を眺めることになる。その一方、カイトは甲板に出てティナと合流する。
「おーい。さっさと隊列組めー。さっさと戻って温かい中に戻るぞー……っと、カイトか」
「おう……ああ、三人共来たか。ルーファウス。話は聞いてるな?」
「ああ……ああ、説明なら不要だ。教国でも軍での練習で何度も練習している」
カイトの先手を打つ様に、ルーファウスは詳しい説明は不要とはっきりと明言する。教国でもやはり飛空艇は存在しているのだ。となると、今回のような事態には何度となく見舞われることになるため、飛空艇を運用している部隊では必ずと言ってよいほどに練習させられるのであった。
「そうか……それなら助かる。オレが一番遠くへ向かうから、お前は一番手前をやってくれ」
「一番奥でも良いが」
「あはは……アルは氷属性に長けてるし、リィルもお前と同じく炎属性が得意だ。別に遠慮したわけじゃない。後は今後を考え、どう余力を残して貰うのが一番良いかと考えただけだ。魔力保有量を勘案に入れれば、こうなる」
「なるほど……」
確かにそう言われてみれば、こうしておけば平均的に余力を残しておける。ルーファウスはカイトの采配に納得したようだ。
「じゃ、納得がしてもらえた所で……ティナ。そっちは?」
「こちらも準備完了じゃ」
「良し……じゃあ、行くぞ」
「「「了解」」」
カイトの号令と共に、アルら三人が一斉に甲板から飛び降りる。そうして飛び降りて即座に飛空術で一挙に移動していく。それを見ながら、ティナが魔術を組み上げる。
「目標は向かい側の山の斜面で良いな?」
『流石に現状でそこまでの文句は言えん。が、あまり高くはしてくれるなよ』
「心得た……では総員。余が取り仕切る故、魔術を同期させよ」
「「「了解」」」
ティナの指示を受けて、冒険部に所属する魔術師達が一斉に氷属性の魔術を展開する。それらをティナは一つ一つ分解――もちろん簡単に分解出来る様にしている特殊な魔術だが――し、全て自身がコントロールする。そうして、彼女は対面の山の斜面の最も魔力の満ちている場所へと魔術を展開した。
「<<氷の高原>>」
ティナの口決と共に、生み出された魔法陣を中心として氷が生み出される。それは一息に盛り上がっていくと、あっという間に氷の台地が出来上がった。広さとしては百数十メートルほど。飛空艇が離着陸し、物資を外に置いておくには十分な広さだった。
「良し……散会だ」
出来上がった氷の台地を見て、カイトはアルら三人に向けてジェスチャーで散会を指示する。そうして散会する三人に合わせ、カイトが最も遠くへと移動。氷の台地の根本の部分へと降り立った。
「さっぶ……見えてない……よな。良し。シルフィ」
『はいはいー。根本の雪を吹き飛ばせば良いんだね?』
「ああ。頼む」
『はーい』
カイトの依頼を受けて、シルフィが風で根本の雪を吹き飛ばす。そうして山肌が見えた所へ、カイトが氷の台地ごと貫く様に力強く筒状の魔道具を突き立てた。
「はっ! 一つ目セットっと……」
後はこれを繰り返すだけか。カイトは持ってきた筒状の魔道具の更にもう一つを取り出すと、次の場所へと移動する。そうして立て続けにいくつもの魔道具を四人で共同して設置していく。
「良し……オレの方は全部終わった。そっちは?」
『俺ももう終わった』
『私もです……アル。貴方は?』
『ごめん。ちょっと時間掛かってる……と言っても最後の一つだけど……』
どうやら何かしらの事情でアルは埋め込みに手間取っているらしい。これにカイトがそちらへと移動して問いかける。
「なにかあったか?」
「ああ、カイト……どうやらここから姉さんの所まで広範囲に凍結しちゃってるみたいでさ。上は溶かさず下だけ溶かして、ってやらないとダメみたいだ」
「なるほど……上の維持はお前が頼む。下の溶解はこっちでやろう」
「ありがとう」
カイトの提案に、アルはそれを受け入れる。というわけでアルが氷の台地の維持に務める一方で、カイトはその下に入り込んだ凍結を溶解させてしっかりと魔道具を埋め込んだ。
「良し……ティナ。魔道具の設置終了だ」
『良し……では魔術の維持を解除する』
「ああ……安定確認。問題なさそうだ」
『うむ。ソラ。飛空艇を移動させ、あの台地の上に着地させよ』
『お、おう……無茶苦茶だな……』
どうやらソラはここまで大きなことをするとは思っていなかったようだ。驚いたような呆れたような声を漏らしていた。そうしてカイト達の頭上を飛空艇が移動していき、構築された氷の上に着陸することになるのだった。
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