第2285話 未知の素材 ――探索開始――
ヴァールハイトからの依頼の達成の報酬として手に入れたルナリア文明の非合法組織が見付けたという『振動石』の鉱脈の場所。それは偶然にもマクダウェル領北西部の魔族領との境目付近にある山の中であった。
それを受けてカイトは皇国側とやり取りを交わし、マクダウェル家を中心とした発掘隊を組織することを決定。それと共に、事前調査として自身が率いる冒険部の遠征隊を出して現地の調査へと赴くことになっていた。というわけで、雪山に到着して半日。日が落ちる前に、拠点の確保は完了していた。
それを受け、カイトは今回来ていた幹部陣営――瞬率いる部長連合の部長達や冒険部としての上層部の面々――を集めて簡易のミーティングを行っていた。
「これで全員か?」
「そっすね……だよな?」
「ああ……まぁ、遅れても別に問題はない。単に現状確認と明日からの行動について話し合うってだけのミーティングだからな」
瞬の確認を受けたソラが、更にカイトへと確認する。これに彼は一つ頷くと、別に不参加でも問題無いことを明言。あくまでも簡易のミーティングであることを伝えておく。というわけで、一応全員が揃っていることを確認した後、カイトは現状を全員に伝達する。
「まず現状だが……これについてはモニターに表示している通り、拠点の確保は完了。ただし、今回は見てわかる通り外でのテント設営は無し。基本的には司令室はこの飛空艇の艦橋とする。ソラ、信号の増幅器は?」
「設置は終わってるし、動作チェックもしたよ。問題無し。一応、一条先輩に頼んで一キロ先まで問題無く届いていることを確認してる」
「良し……基本的に今回は雪山での行軍になるから、クレパス等に落下する可能性はある……まぁ、冒険者に単なる落下ダメージを期待する方がどうかしてるが、一応の注意はしておくように」
昔言われていたことであるが、基本的にもう冒険部の大半が単に落下しただけではよほど高所かつ受け身を取らない限りは少し痛い程度でなんとかなる。なのでクレパスに落下した所で致命傷や即死にはならないし、落ちたとてよほど足場が悪くない限り自力で脱出は可能だった。とはいえ、もし万が一脱出出来ないでも問題はなかった。
「まぁ、落下しても万が一の場合にはフロドとソレイユも居る。基本的にはあまり離れすぎないことは鉄則だが、万が一はぐれても問題はない」
「あまり離れすぎない、と言っても基本ここら周辺十キロは僕らの監視下だから、意図的に隠れてる魔物とかでもない限りは僕らが見てるから遭難はしないと思って良いよ」
「でも吹雪いてる場合は話は別だからねー」
フロドの言葉に続けて、ソレイユが一応の所を明言する。まぁ、吹雪いていても魔眼を使えば問題はないだろうが、それを頼みにされて勝手な行動をされても困る。それは言わぬが花という所であった。
「とまぁ、そんなわけだ。増幅器があるから、通信については問題無いだろう。それで明日からの行動だが、これについては通達通り遺跡の出入り口の探索になる」
「この山にあるのは確実なのか?」
「それについては確実、と判断して頂いて構いません」
情報の正確性に対する問いかけに、カイトははっきりと真実である旨を明言する。これについては今までのヴァールハイトの行動やカナタとコナタのことを考えると嘘はないと考えられており、彼の提供してきたサンプルも『振動石』であることがわかっていた。そうしてそこらの言及を終えたカイトは、改めて話を本筋に戻す。
「それで話を戻すと、情報によれば洞窟の一つを改造して施設に通じている『転移門』を設置したとのことだ。ただし、これはあくまでも二千年以上も前の話だ。なのでこの洞窟が崩落している可能性は大いにあり得る。故に部隊は二つに分ける。発見された洞窟を探索するチームと、用意している探査機を用いて埋没してしまった『転移門』を探索するチームの二つだ。どちらも危険性についてはさほど変わらないものの、洞窟に入るチームは戦闘時に崩落しない様に注意する必要がある」
「探査機の使い方は?」
「それについては明日チーム分け後、簡単なレクチャーを行うことになっている。それに従ってくれ」
流石にこの場で探査機のレクチャーをする意味はない。なのでカイトは明日必要な人員に対してのみ行う、としていたようだ。そうして、その後も暫くの間明日からの探索に関する簡易のミーティングが続くことになるのだった。
さて、明けて翌日。冒険部の部隊は二つに分かれて行動することになるのであるが、その班分けからカイトは独立して動くことにしていた。基本何でもできる彼なので、情報を集約するティナの直接的な指示を受けて動く人員として動いた方が良いからだ。
「さて……ソラ、先輩。どちらも雪山は初だろう。気を付けて行動してくれ」
『おう』
『ああ……そうだ。ソラ、もし万が一戦闘になった場合などはすぐに呼んでくれ。おそらくこちらの方は時間が余り気味になるだろうからな。それに、戦闘力としてはこちらの方が強い奴が多い』
『あー……そっすね。その時は頼んます』
今回の班分けとしては基本は先の演習と同じくソラ隊と瞬隊の二つに分かれている。瞬は洞窟内部の調査を行う部隊、ソラが外部で探査機を使って崩落していないか確認する部隊だ。
更にそこからいくつかの班に分かれて行動するが、最終的な統括は二人が行うこととなっていた。が、やはり戦闘があり得る可能性が高いのは瞬側で、戦闘力が高い人員もそちらに多く割り振っていた。
『ああ……まぁ、そういってもそちらは問題無い可能性は多いがな』
『あー……そっすね』
なにせ全体的にはフロドとソレイユの二人が見ているのだ。そして射程距離は数千キロにも及ぶと言われるこの二人である。この雪山全体が二人の射程圏内と断言しても過言ではなく、瞬らが駆けつけるより前に終わる可能性は無いではなかった。
まぁ、そんなことを言ってしまうとそれ以前に見つけ次第狙撃され、外では一度も出会わない可能性さえあったが。と、そんなことを話し合いながら二つの部隊が飛空艇を後にして、調査を開始する。その一方で、カイトは飛空艇の甲板の上に立っていた。
「はぁ……やっぱ少し寒いな」
「人肌が恋しくて?」
「まだ恋しい時間じゃない」
少しだけ冗談混じりなシャルロットの問いかけに、カイトは笑って首を振る。幸い昨日の報告から下り坂となることはなく、今は比較的晴れ間が見えていた。が、かなり冷え込んでおり、吐く息は白かった。そんな彼が何をしているかというと、ソナーを使って地形を観測する機械の設置作業だった。
「良し……これでオッケーかな。先輩。設置作業が終わった。これで信号が発信され、洞窟がわかる様になる」
『そうか……どれぐらいで結果がわかる?』
「すぐだ……ほら、返ってきたぞ」
瞬の問いかけとほぼ同時に、放たれた信号を基にして周囲一帯の地形データが可視化される。それをカイトは持ってきたヘッドマウントディスプレイに転送させ、洞窟を探そうという考えであった。雪に埋もれていない洞窟については、これで見付かるだろう。
「良し……んー……まぁ、いくつかあるか。先輩。簡易型のヘッドマウントディスプレイは忘れていないな?」
『当たり前だ。それを忘れると仕事にならないからな』
「良し……じゃあ、そちらに情報を転送する。それを使って洞窟へ向かってくれ。ただし、洞窟内には魔物が潜んでいる可能性は非常に高い。その点は注意する様にしてくれ」
『わかった……おー……凄いな。こんな風に見えるのか』
片目に取り付けるタイプのヘッドマウントディスプレイを装着して、瞬がわずかに驚きの声を上げる。彼の目にもカイトが見ているのと同じ映像が見えている様子だった。後はこれを使って洞窟を探索するのである。
『洞窟探索用の子機でもこれと同じ物が見えるのか?』
「基本はそうだと考えてくれ……が、ルナリア文明もこういった物は使っていたと聞いている。おそらく当たりを引き当てた場合、無効化されるだろう」
『これはお前達が作ってる物じゃないのか?』
以前のオプロ遺跡で探査機が有効だったのは、技術の基本ベースが地球の技術だったからという点が大きい。なので今回もそうじゃないか、と瞬は思っていたようだ。訝しげにカイトへと問いかける。これに、カイトは首を振った。
「流石に違うさ。こいつはエネフィアの技術がベースだ……地球の技術をベースにして、というのも考えちゃいたんだが……どうしても音波測定がベースになる。今回の任務には向いてない」
『なぜだ?』
「洞窟だ。コウモリ型の魔物とかの音に反応する魔物が居た場合、厄介なことになるぞ」
『あ……そうか。そうだったな』
カイトの指摘に、瞬も地球の技術をベースにした物が使えない理由を理解して納得する。どうしても洞窟内部となると真っ暗闇ということは少なくない。となると魔物達も基本目に頼らないことが多く、コウモリの様に何かしらの信号を放ってその反響で物を見たり、音に敏感な魔物は多かった。と、それに気づいた瞬はふと、立ち止まる。
『……ん? それならこの子機は大丈夫なのか?』
「大丈夫か大丈夫じゃないか、で問われれば大丈夫じゃない。が、一切の情報も無しに洞窟に突入したいか?」
『それは……そちらも嫌だな』
「そういうことだ。最低限行き帰りのルートがわかっている方が良いだろう? 魔力の波の反響だけに留めておいた方がまだ安全だ。それに、それなら中で動く奴もわかる。不意打ちは避けられる」
『そういうことか……まぁ、どうせ戦闘は織り込み済みだ。この程度のリスクは問題無い』
元々洞窟組は洞窟内部に潜入することから、戦闘は起きるものとして考えている。なのでどちらかといえば中がわかって不意打ちを受けない方が有り難いと瞬も考えたようだ。これについては納得した様子で、探索に向かっていった。それを遠目に見送って、カイトは改めて立ち上がった。
「良し……後は、ひとまずは待ちだな」
「その間どうする?」
「どうもこうも無い。ひとまずはティナの指示が無いと動くに動けん。指示待ち人間ってわけじゃないがな」
ユリィの問いかけに、カイトは空を見上げそう笑う。別に動こうと思えば動けるが、下手に動いてティナの要望に答えられない方が問題だろう。十分な人員は連れてきている以上、問題はない筈だった。
「アル、リィル。二人とも、上空からの様子はどうだ?」
『僕の方は今の所問題無いよ。何か大型の魔物も見当たらない』
『こちらも同じくです』
カイトの問いかけに、上空から広域の探索を行う二人が明言する。せっかく飛空術が使えるのだ。わざわざ歩いて地道に探索する意味は無いだろう、とこの二人には万が一誰かがはぐれたりした場合に救援に入れる様にしてもらっていた。なお、ルーファウスについては瞬と共に主力の一人として洞窟に入る様にしてもらっている。そんな二人に、カイトは一応の所を告げておく。
「そうか……持久力には気を付けてくれ」
『『了解』』
やはりここから暫くは飛空術を使っての行動になるのだ。魔力の消耗はこの二人が一番だと言っても過言ではなく、補給は大切だった。
「良し……こんな所か。ソレイユ。オレは一旦戻るが、後は任せる」
「はーい」
甲板に設置された彼女ら用のテントの中から、ソレイユが手を振って艦橋に戻るカイトを見送る。彼がここに居たのは装置の設置が必要だからであって、終わった以上はここに残る意味はなかった。そうして、彼は艦橋に戻って暫くは待ちとなるのだった。
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