第2284話 未知の素材 ――雪山――
ヴァールハイトよりの依頼で『天使の子供達』を見つけ出し、その対価として『振動石』の鉱脈の情報を手に入れたカイト。
そんな彼は邪神対策の一貫として鉱脈があると思しき山へと向かうことになったのだが、色々な側面から冒険部として遠征を行うことを決定。事の次第も相まって急ぎで支度を整えると、遠征の決定からおよそ一週間と少しで出立と相成っていた。
「さて……ソラ。人員の乗り込みと物資の積み込みは?」
『物資は七割終わってる。防寒グッズとかはもう積み込んでるから、一応は出れるけど……』
「そこまで急ぐわけじゃない。それより壊さない様に積み込みを行わせてくれ」
操縦席に腰掛け飛空艇のチェックを行うカイトは、後方のハッチから物資の積み込みの指揮を行うソラの報告に続行を指示する。そうしてそこの状況を確認したカイトは、ついでティナへと問いかける。
「ティナ。そっちの装置類のチェックはどうだ?」
『こっちはなんとか、という所かのう。多分、検出器は正常に動いてくれる……はずじゃ』
「珍しく自信なさげだな」
『仕方があるまい。如何せんサンプルが足りておらん。手に入っているサンプルだけでチェックしておっても、絶対数が足りぬ。鉱脈が見付かれば、それも解決するんじゃがのう』
カイトの指摘に対して、ティナはため息混じりに首を振った。そもそも鉱脈が見付かっていないというのが現状だ。なのでサンプルはどうしても手持ちの僅かな分で行うしかなく、ティナとしてはサンプルが足りていないので確証が得られなかったのであった。
「その鉱脈を見付けるのが、今回の遠征の目的だ。そこさえ見付かれば、か」
『うむ……まぁ、それでもサンプルがあるおかげである程度はなんとかなる。近くまで近付けば、という所であろうて』
カイトの言葉にティナもまた同意する。というわけで、そんな話を繰り広げながら各所の積み込みと調整が終わるのを待つことになるのであるが、そんな彼の所にソレイユとユリィがやって来た。
「にぃー」
「カイトー」
「んー? 今手が離せないが、何か用事か?」
計器類のチェックを繰り広げながら、カイトはぴょこっと現れた二人に問いかける。これにユリィが要件を告げる。
「一応、魔族領側から連絡が入ったよ。北側の山だけど付近を巡回してる部隊があったんだって」
「お、そうか。そりゃ有り難い。実際に行ってみて確認するか、と思ってたんだが……予めわかってたならそれに越したことはない」
元々今回の遠征に際して、魔族領側ともやり取りを行っていた。そしてマクダウェル領と魔族領の関係は良好だ。なので向こう側が近くを通る部隊に指示を出して状況を確認してくれていても不思議はなかった。
「んー……で、天候だけど若干荒れ模様だって。若干だから吹雪いてたりブリザードってわけじゃないらしいけど」
「そうか……となると、後はここから下り坂かそれとも晴れていくか……そこらを考えないとか」
「そこばかりは行ってみないと、なんとも言えないねー」
カイトの言葉にユリィもまた同意する。こればかりは現地で確認するしかなく、カイトもそのつもりだった。
「そうだな……良し。計器類のチェック完了。問題無いな。後は断熱材がどの程度聞いてくれるかだが……」
「そこらへん、改良させたんでしょ?」
「ああ。双子大陸で開発された輸送艇は断熱材が甘いことが多いからな。こっちで使うならそこらはしっかりしとかないと後々痛い目にあう」
ユリィの問いかけに、カイトははっきりと頷いた。やはりここらは世界中を旅したカイトで、尚且飛空艇の開発の先駆けとも言えるマクダウェル家を率いているからだろう。各地の気候とそれによる構造等の差を理解している様子だった。とはいえ、それはユリィも一緒なので、これに特別疑問は抱かなかった。
「だねー……その点、ウチのはそこらの断熱材やら防水やらもしっかりしてるんだけど」
「流石に旧式の輸送艇にそこらを期待するのもな……ま、そりゃ良いだろう。とりあえずこれで出発の準備は整った。後は、資材の搬入が終わるのを待つだけだな」
「なら後は暇?」
「暇だな」
「じゃあ、トランプだ!」
どうやらそろそろ終わりそうだな、と見越して二人はやって来ていたらしい。笑うカイトにソレイユがトランプを差し出す。そうして、カイトも出発までの暫くの間暇つぶしにトランプに付き合うことになるのだった。
さて、それから暫く。飛空艇で半日ほど移動した後。相変わらず艦橋にて飛空艇の制御を行っていたカイトであるが、そんな彼の目の前には一面の雪景色が見えていた。そんな光景を見ながら、カイトが呟いた。
「完全に雪が積もっちまってるな」
「時期も時期じゃし、場所も場所じゃからのう。仕方があるまいて」
カイトの横。飛空艇の計器に専用の検査キットを接続していたティナがカイトの言葉に応ずる。もう冬まで幾ばくもない時期だ。北部では降雪は普通に確認される時期となっており、ここら一帯では普通に積もっていた。とはいえ、それは自領地なのでカイトからすればわかりきった話で、今更だ。なので言いたいのはそういうことではなかった。
「そりゃそうなんだが……雪が積もっちまうと、探索が面倒にならんか?」
「それもそうじゃがのう……こればかりは自然が相手じゃ。此度は時期が悪かった、と諦めるしかあるまい。かといって、お主とて春を待つわけにもいくまい?」
「そうなんだよなぁ……」
「なら、諦めてやるしかあるまい……っと、アラームが鳴ったのう。ということは、そろそろじゃ」
話している最中に鳴り響いたアラーム音に、ティナがコンソールを操って地図を展開させる。そうして、そこにヴァールハイトの情報を当てはめる。それを見ながら、ティナは現在位置とを更に照らし合わせて目的の山を確認する。
「カイト。速度をゆるめよ。ここらでどこか下りられる場所を探さねばのう」
「だな……山としちゃ、どれになる?」
「あの山じゃ。これについては間違いあるまいて」
「入り口は……探すしかないか」
「そう簡単に見付かるのであれば、そも今までで見付かっておるからのう」
目視で入り口が見付かってくれれば良いのだが、そもそも非合法組織の隠れ家だったというのだ。そう安々と見付かってくれるものではないだろうし、ぱっと見てわかる様にもなっていないだろう。なので後は地道に入り口を探すだけであった。と、それを考えていたカイトがティナへと問いかける。
「そういえばファルシュさんの情報だと、入り口についてはなんて書いてたんだ?」
「入り口については洞窟の一つを入り口として、『転移門』を設置。更に奥に施設を設けておるようじゃ。入り口についても一見するとわからぬ様にしておる、ということであるから、かなり近付かねばなるまいじゃろう」
「最悪は、崩落して見付からない可能性もあるか」
「それも想定はしておるよ。そのための探査機も用意はしておる」
如何せん二千年以上も昔の設備だ。なので出入り口が崩落している可能性はカイトもティナも最初から想定しており、その準備もしっかり用意していた。
というわけで使い魔を使って探査機の調整を行うティナの傍ら、カイトはユリィ、ソレイユ――そのまま一緒に居た――と共に周囲の確認を行い、着陸できそうな場所を探す。が、結論から言ってしまえば、あまり芳しくはなかった。
「んー……一面銀世界であんまりわかんないね」
「思った以上に積もっちまってるからなぁ……」
ユリィの言葉に、カイトもまたため息混じりに首を振る。やはり雪が積もってしまうとどうしても地面は隠れてしまう。そうなると飛空艇の着陸に適している場所はわかりにくく、若干厄介な状況となってしまっていた。とはいえ、そんな状況でも地面が確認できる人物がここには一人居てくれていた。
「ソレイユ。お前の方でなにかわかるか?」
「んー……あっちなら着陸出来そうかも?」
「便利だねー、魔眼」
「雪山で雪に紛れられると面倒だからねー」
ユリィの称賛混じりの言葉に、ソレイユが嬉しそうに笑う。カイト達としても別にやろうとすれば積もっている雪を無視して地面を見ることはできるが、やはりソレイユより正確性は欠ける。なので彼女に頼んでいたのであった。というわけで、彼女の指示に従って着陸できそうな場所へと飛空艇を着陸させると、カイトはソラに指示を飛ばす。
「ソラ。着陸が終わった。周囲の安全の確保を頼む」
『おう。良し! 全員降りて周囲の安全の確保! 一気に結界の展開しちまうぞ!』
カイトの指示を受けたソラが、連れてきた人員の指揮を開始する。それを聞きながら、カイトは飛空艇の設定を再確認する。
「ティナ。魔導炉の安定やらを確認したい。ダブルチェック頼むわ」
「うむ。ここらで魔導炉が止まると面倒じゃからのう。最悪は凍死しかねん」
「ああ……まぁ、地球とは違ってガソリンやらの燃料が必要無いのは助かるがな」
「そこは幸いじゃのう……良し。こちらも情報確認……オールグリーンじゃな」
「こちらもオールグリーン、と……安定性に問題は無し」
「安定性問題無し確認……良し。一度システムを全部オフ……再駆動問題なし。まぁ、問題無いじゃろ」
積雪していることからもわかる様に、ここらはすでに氷点下の気候になることもある様子だ。なので魔導炉は常に稼働させて暖を取れる様にしておく必要があり、喩え専門機関でのメンテナンスをしていても安定性に問題が無いかの再チェックは重要だった。そしてそちらと共に、カイトが予備魔導炉のチェックを開始する。
「良し……じゃあ、メイン停止」
「メイン魔導炉停止確認……サブの魔導炉起動……問題無し。ホタル。そっちどうじゃ?」
『こちら問題ありません、マザー。安定性にも異常は見受けられず。メインも同じくです』
動力室にて魔導炉の安定をチェックしてくれていたホタルが、ティナの問いかけに現状を報告する。幾ら計器が大丈夫だからと計器そのものが故障している可能性が無いではない。なので彼女にチェックを頼んでいたのであった。そうして彼女の返答を受けて、カイトは一つ頷いた。
「良し……じゃあ、これで全体的に大丈夫そうかな」
「じゃろうのう。ま、どうにせよ今日一日は動けまいて。そこで何かあればまたその都度対処するしかあるまい」
「そうだな……良し。ソラ。こっち飛空艇の問題が無い事を確認した。このままこっちはその他装置類のチェックを行う。なにかがあったら戻れ。後、あまり遠くへ行くなよ。今日はあくまでも魔物避けの結界と万が一の場合の防御用の結界を張れる準備を行うだけだ。ここじゃ野営も無理だから、テントとかの用意も必要無いからな」
『わかってる……こっち、今の所魔物も居なさそうだ。今のうちにさっさと作業しちまうよ』
カイトの注意に対して一つ頷いたソラは、そのまま作業の続行を明言する。今回の演習では上層部も大半が揃っている。居ないのはレイアの関係で来れない瑞樹とその補佐で魅衣、全体の統率を取る桜に加え桜の補佐に楓が一緒だ。
戦闘員として瞬やアルらも参加しているため、万が一の戦闘が起きても対処は可能――特にアルやリィルら軍からの派遣組は雪山での行軍経験もある――だった。
「そうか……頼む。こっちも明日には作業開始できる様にしておく」
『おう』
「良し……じゃあ、次か」
「うむ。こちらで引き続き飛空艇に接続する機器類のチェックは行う故、お主は積荷の中にある子機側のチェックを頼む。ああ、当然じゃが中継機のチェックも忘れるでないぞ」
「あいよ……じゃあ、二人共行くぞー」
「「はーい」」
カイトの言葉に、ユリィとソレイユも立ち上がる。そうして、一同は明日からの本格的な調査に備えて活動を開始することになるのだった。
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