第2278話 過去を求めて ――発見――
『天使の子供達』の痕跡を求めてやって来たレインガルドにて、当時の情報から『天使の子供達』の痕跡と思しき情報を見つけ出したカイト達。そんな彼らはその情報を基に、『天使の子供達』がゴーレムのメンテナンス用の資材に偽装して運び込まれたのではないか、という推測を立てていた。そうしてその推測を頼りに、カイトはカナタと共に運び込まれたと思しき一角へと足を運ぶことになっていた。
「ティナ。地表へ戻ってきた。どこから入るのが最適だ?」
このレインガルドは広大な敷地面積を誇り、地下第二層もまた相当な広さを保有している。なので適切な場所から地下に入らないと相当移動することになってしまうため、どこから入るかは重要であった。そんな彼の問いかけに、ティナが告げる。
『ちょい待て……出たぞ。第三出入り口じゃな。第三じゃと……うむ。今で言う所の道場付近じゃのう。ひとまず、そちらを目指せ。まぁ、そこからも遠いので覚悟はせいよ。ああ、余もそれに合わせてこっちの管制室に移動する』
「あいよ。あそこらなら慣れてる」
道場と単に言うのだったらあそこか。カイトはかつて自身が師事していた武蔵の道場を思い出し、ひとまずそちらへと移動することにする。と、その道中でカナタが問いかけた。
「そういえば……団長さんはここで昔暮らしていたそうね」
「ああ。昔半年ほどな」
思い出すのは、かつて怪我を負ってその後にここにやって来たことだ。エネフィアの半年は地球の二年に相当する月日だ。なので基本カイトはレインガルドの大半を歩いたことがあり、その足取りに迷いはなかった。が、それ故にこそカナタは笑う。
「何か妙な気分ね。私ではなく団長さんが私を案内してるなんて」
「あはは。それはそうだがな」
カナタは今の時代でいえば古代人。そしてレインガルドも謂わば古代の文明の遺産だ。なので本来は、カナタがカイトを案内しているはずだろう。にも関わらず逆な状況に二人は楽しげに笑っていた。とまぁ、それはさておき。そんな雑談を交わしながら二人は歩いていくと、あっという間に目的の場所にたどり着いた。
「ここが、第三出入り口だな」
「本当に慣れてるのね」
「道場から訓練する時は、ここから入ることが多かったからな。まぁ、何時もと違うルートを使いたいとかの場合は、他の入り口から入ることもあるが……」
それ故、武蔵の道場の門下生達はレインガルド各所へと足を運ぶことになり、カイトもまた各所へ足を運んで地理を覚えていたのである。
「そうなの?」
「先生の意向でな。一にレインガルド防衛のための地理を覚えるため。二に一つのルートで慣れたら成長にならんので別のルートから入って何時もと違う経験を、だそうだ」
「ふーん……でも、今回は一番慣れ親しんだ所なのでしょう?」
「ああ……ティナ。第三に到着した」
ひとまず第三出入り口に到着した二人は、何時も通り訓練を行うべく準備運動を行う武蔵の門下生達を横目にティナへと連絡を入れる。これに、ティナが応答した。
『うむ。余の方もレインガルドの管制室に移動した。ここからなら、研究所全域に通信が可能じゃからのう』
「道案内は任せても?」
『良いぞ……と言っても、もしやするとお主の方がわかっておるかもしれんがな』
何度も言われているが、カイトも元々はここから入って訓練を何度も行っている。彼自身の意向――武蔵も許可済みかつ時には同行した――で普通の門下生と違うルートでの訓練を行うこともあり、基本は大半の場所には行ったことがある。なのでティナの指摘に、カイトもまた同意した。
「まぁな……ま、そういってもここから入るのも何時以来か、ってレベルだ。おまけにオーバーホール後は初だ。案内は頼みたい」
『うむ……ああ、別にそんな所でのんきに突っ立っておる必要もあるまい。入れ』
「あいよ……行くぞ」
「ええ」
ティナの指示を受けて、カイトとカナタはひとまず遺跡の中へと入ることにする。そうして慣れた足取りで中へと入ったカイトが見たのは何時もと同じ見慣れた光景で、しかしどこか違う光景だった。
「おー……なんか新鮮だな。前はここらの壁とかもうボロボロでさ。外壁が崩れてたりして、少し先の通路やらが見えてたこともあったんだが……」
「今はもう、ね」
「ああ……なるほど。これなら確かに遺跡よりもう研究所の体裁が整ってるな」
先にカイトも聞いていたが、このレインガルド地下の遺跡は外の崩壊度合いと内部の崩壊度合いもリンクしているらしい。なので数千年の月日と六百年前の争い、三百年前の戦争やらという幾度もの危機に見舞われ動いていることが不思議だった状況ではこの遺跡もボロボロになっていた。
が、先のオーバーホールとレガドの復活により多くの箇所が修繕され、今はもはや遺跡とは呼べないほどの真新しさが見受けられた。とはいえ、だ。それ故にこそカイトはティナへと問いかけた。
「とはいえ……こうなると流石に何時ものルートの多くが使えそうにないな。訓練だと崩壊した壁の間を通ってショートカットとかしてるからな」
『そうじゃのう。基本的には、もうそのようなことは出来ぬ様になったと思って良い……っと、その前に一応のマップを送っておこう。そっちあった方が話はしやすいからのう』
カイトの言葉に同意したティナが、カイト達の周辺から目的地までの部分の地図を送信する。それを受け取って、カイトは一度ウェアラブルデバイスに搭載された空間投影技術を使ってカナタにも見える様に表示させた。
「良し。確認した」
『うむ……まぁ、基本はその地図の通りじゃ』
「あいよ……かなり迂回しなきゃならないか」
『目指すのは一番外郭のしかも一番遠い所じゃからのう。行こうとするとそれが目的でなければなかなか厳しかろう……まぁ、もしやするとどこかに地図には記されておらぬ抜け道等があるやもしれんがな。そこは流石に現状ではわからぬよ』
先にも言われていた通り、今回カイト達が目指すのは一番外郭のメンテナンスエリアだ。遺跡の規模もあり相当な距離があった。というわけで、二人はそこからかなりの時間を掛けてひとまず外郭を目指すことになるのだった。
さて、それからおよそ一時間ほど。幸いレガドが目覚めていることで警備のゴーレム達はシャルロットの神使たるカイトを敵と見做さない様に出来たらしく、交戦もなく外郭までたどり着いていた。
「ここを抜ければ、外縁部か。ここまで来るのは本当に久しぶりだな。オレの主観的にも十年以上前かもしれん」
「その時は何をしに来たの?」
「単に訓練か。ここが一番遠いだろ? なんでサバイバル訓練にもなるし、持久力を鍛える意味でも有用だった。まぁ、オレの場合は連戦を行うことで自身の出力調整を上手にできる様になりましょう、って側面が大きかったけどな」
元々生まれた時から地球人としては規格外の莫大な魔力を保有していたカイトだ。エネフィアに来て訓練をした後はエネフィア全体で見ても膨大な魔力を保有していた。
そんな彼にとって体力面以外の持久力はさしたる問題がなかったのだが、そこに来てコアの移植による出力の大幅な増大だ。結局は丁度よい状況に落ち着いたとも言えたのだが、それでも出力の調整が出来なくて良いわけではなかった。というわけで、普通の門下生とは異なりここまで彼だけは来ていたのである。そんな彼が、ティナへと通信を入れる。
「ティナ。外郭に到着した。ここからどうすれば良い」
『うむ……これは当然の話じゃが、基本はメンテナンスエリアは入れない様にされておる。普通の職員が入る意味もないからのう。なので詳細な場所はお主も知らぬはずじゃ』
「ああ……それでその場所は?」
『うむ……まずそこから右に曲がって暫くまっすぐ進め。で、目的地までたどり着いたらそこにランプが点灯しておるので、そこで止まれ。あんま大きくないランプなので見逃し注意じゃぞ』
「了解。じゃあ、とりあえずはまっすぐだな」
現在はあくまでも外郭に到着したという形だ。というわけでカイトとカナタは一旦右に曲がってまっすぐに直進する。そうしておよそ十分ほど歩いた所で、小さなランプが点灯している扉の前にまで到着した。
「ティナ。青いランプの点灯している研究室があるんだが……これか?」
『うむ。目印らしい目印を出せなんだでな。しゃーないので研究室の標識にある使用中のランプを点灯させた』
「じゃ、ここがその前か……まだ奥にも通路は続いているが、ど真ん中で良いのか?」
『良いよ。外郭は一周する様に出来ておるからのう……ああ、ではしばし待っておれ。こちらでメンテナンスエリアへの隔壁を開く』
カイトの確認に、ティナは一つ頷いた。そうして、彼女が何かしらの操作を行うこと暫く。研究室の扉とは逆側の壁の一部が唐突に上に動いた。
「ん……開いたぞ」
『うむ……そこがメンテナンスエリアに通ずる通路じゃ。多分、修繕もされておると思うんじゃが……どうじゃ? そこらはカメラには映らぬからのう』
「問題なさそうだ。ボロってる様子もない」
開いた扉の中を覗き込み、カイトは何か問題は無いだろうと判断する。というわけで崩壊の危険性は無いと判断したカイトは、カナタと頷きを交わしてメンテナンスエリアへと通ずる通路へと入る。
「……問題無いな。このまま進む」
『うむ。と言っても、すぐに次の扉じゃろうがな』
「まな」
通路の先はそもそもで見えていた。なのでカイトもティナの言葉に笑い、そしてそれと同時にすぐにメンテナンスエリアへの扉に到達した。
「良し。扉の前に到着した……どうやって開けば良い?」
『む? いや、そこの扉は基本は普通に自動ドアじゃから開くはずじゃぞ?』
「うん?」
「……開かないわね」
おかしいな。そんな様子のカイトが首を傾げ、同じ様に扉の前に立ってみたカナタもまた開かないことを確認する。これに、ティナがため息を吐いた。
『はぁ……もしやすると運悪く修理に反応しなかった扉なのやもしれんのう。しゃーない。こちらで何かできるかやってみよう』
確かにオーバーホールで大凡は修理出来ているわけであるが、如何せんレインガルドは巨大かつ二千年以上も昔の施設だ。なので完璧な修理は到底無理な話で、どうしても一部は壊れたままにされてしまっている。今回開かなかったのもその一部の影響なのではないか、とティナは考えたようだ。が、これにカナタがわずかに真剣な顔で首を振った。
「そういうわけでもなさそうね」
『む?』
「ロックが掛かってるわ……これは……オプロ遺跡でもかなり厳重な警備を行っている一角に付けられてる鍵ね……それも後付でしょう。普通に考えれば、ここにこんな鍵を取り付ける意味なんて無いもの」
「『……む』」
となると、当たりを引いた可能性は高いかもしれない。カイトとティナはカナタの見付けたロック解除用のコンソールを見てわずかに真剣さを露わにする。
「……どうする?」
『引き返す道理はない……が、安易にぶっ壊すのも危険じゃろう。カイト。ハッキング用のツールは持って行っておるな?』
「ああ」
『取り付けよ。余側でハッキングする』
「了解」
下手にぶち破って中に居るかもしれない『天使の子供達』が交戦状態に陥っても面倒だ。なので安全策として、二人は時間を掛けてでも鍵を開けることを選択したようだ。そうして、カイトとカナタの二人は暫くの間ティナの解錠を待つことになるのだった。
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