第2273話 過去を求めて ――未踏破領域――
かつてヴァールハイトから頼まれた『天使の子供達』の情報を求めてレガドへとやって来たカイトとティナ。そんな二人はルナリア文明に縁のあるシャルロットとカナタ、レガドに縁のある武蔵と旭姫と共に、『剣神社』の境内中央にあった未踏破領域への入り口を通って秘密の区画へと足を伸ばす事になっていた。そうして、『転移門』を通った先でカイトはいの一番に通信機を起動させた。
「ティナ。中に入った。罠の様子は無し。外からこっちはわかるか?」
『ふむ……いや、わからん。が、どうやら『転移門』を介して通信は確保出来ている様子じゃ』
「ということは、それが途切れると外からわかりそうにないか」
『かのう……ま、想定された範囲内ではあるが』
ここはルナリア文明でもかなり厳重に秘密にされた区画だ。となると先のオプロ遺跡の様に区画そのものが検知されない様にしている可能性は十分に高く、通信が届かなくても不思議はなかった。とはいえ、それでは困る事もまた事実。故に、対策は考えられているはずだとカイト達は予想していた。
「レガド。お前はオレの声が聞こえているのか?」
『はい。どうやらその区画の一通りの装置は生きている様子です』
「そう言えば、オーバーホールでここは見てなかったのか?」
『見れるわけがあるまい。そもオーバーホールを始めたのは大陸間会議の後すぐ。夏の話じゃ。それに対してシャルが目覚めたのはついこの間の事じゃぞ。その時には大半終わって慣らし運転やっとった頃じゃ。今更完全オーバーホールなぞ出来ようはずがない』
カイトの指摘に対して、ティナは肩を竦める。シャルロットが目覚めた時点でオーバーホールも大詰めという所で、この秘密区画についてはどうするか、という所であった。実際、ここの点検等もやれればやりたかったそうだが、結論から言えばシャルロットの権限がなければ入れそうになかったので取りやめとなったのであった。
「まぁ、エネフィアで総力あげてやってたからなぁ……」
『急務じゃったからのう……世界各地から著名な学者や技術者が集まっての大工事じゃ。十二ヶ月ほどもあればこれだけ巨大であろうと終わろうもんじゃ。最終調整こそ、余らが統括して行ったがのう。まー、やっとったらおそらく今もまだ終わっとらんかったじゃろうて』
「しゃーないか」
どちらかと言えば終わっていない方が問題か。カイトはティナの言葉を聞きながら、仕方がないと諦める。というわけで諦めた彼は改めて話を進める。
「そりゃ良いか。それで、レガド。お前を介してなら上とも通話可能か?」
『可能です。その区画の立ち入りは最高権限が必要になりますが、一度入ってしまえば後は割とザルです。ノーパスでいけます』
「辛辣ぅ」
『それだけ、本来は見付からない様にされているのです。私も、貴方方でなければお教え致しません』
楽しげなカイトの言葉に、レガドもまた楽しげに笑う。実際、彼女もお教えしません、とは言うがシャルロットの権限があってはじめて教えられる事だった。
更に言えばカイトへとこの区画の事を語れたのだって、各種の検査により彼がシャルロットの神使と断定されたからで、本来は教えられてさえいなかったのである。
「あはは……シャルロットさまさまという事で……さて。『転移門』閉鎖。それと同時にリンクしてくれ」
『はい……これでどうでしょう』
「こちらカイト」
『聞ことるよー。どうやら問題無く繋げられた様じゃのう』
カイトの言葉を受けて、ティナが声を返す。これで、『転移門』を閉じた状態でも情報のやり取りを行う事が出来そうだった。そしてであれば、後は情報を収集しつつ調査を続行するだけである。というわけで、一同が揃ってこちらにやって来た。
「ふぅ……ここが、見ようにも見れなんだ精錬工場か。確か魔鋼鉄までの精錬が可能なんじゃったの?」
『はい……あくまでもまでの、ですから全てが全てアダマンを精錬する為の施設ではありませんが』
「そりゃわかっておるよ。精錬効率は相当に悪いんじゃろう?」
「そもそも試験的かつ実験的に運用されている施設よ。効率なんて求められる水準じゃなかった」
ティナの指摘に対して、シャルロットが首を振る。そしてそれに、レガドもまた同意した。
『はい……魔鋼鉄で効率は二ヶ月でおよそ1トン。それも理論上のフル稼働で、です。当然、通常稼働ならもっと効率は落ちます』
「最大年24トンと……ティナ。参考までに、だが。魔導機一機作るのに何ヶ月必要?」
「月ではなく年。それも数年必要じゃのう。まぁ外装や装備等で重量は大きく変わるので一概には言えんが。ちな、お主の専用機はだいたい500トン必要になるぞ」
「わーい。十年以上だー……やってらんねぇな……」
「ま、魔導機や飛空艇を作ろうなぞ考えねば良いだけの話じゃ」
魔導機にせよ飛空艇にせよ、総重量は数百トンの世界になる。それを作るとなると年単位を要するのであって、剣や防具を作るなら十分すぎる量だろう。が、これにシャルロットが首を振る。
「そっちをやるなら問題はないわ。ほそぼそ採取出来た分だけでも十分事足りる……問題なのは飛空艇の修繕に必要になる量の確保に難儀する事でしょう」
「それも、そうじゃがのう……ああ、レガド。それ以外の素材はどうじゃ?」
『それ以外についても各階層に分かれて精錬していました。今は、どの設備も止まっていますが』
そもそもこのレインガルド自体、数千年の間通常稼働さえ出来ていなかったのだ。それに合わせてこの地下にある精錬施設そのものも稼働を停止しており、機材もかなりガタが来ている様子だった。
「……動かさないと動かさない分、ガタが来ちまうか」
「そればかりは、機械の致し方がない所じゃな。それでも、数千年でこの程度というのは驚くべき所であるが……」
『まだ整備用のゴーレムが動いていますので、ある程度の劣化は避けられていた様子です。その整備用のゴーレムも経年劣化で大半が損耗。結果、整備のスパンも長くなり、劣化は避けられなく』
「しゃーない。そも数千年も何もせず、は考えとらんはずじゃからのう」
逆に今まで動かせる状態で保っている事が凄いのだ。ティナはレガドの言葉を聞きながら、そう思う。というわけでそんな施設を横目に、一同は奥へと歩いていく。目指すは、この施設全体のシステムを制御している制御室だ。その道中、カイトがシャルロットに問いかける。
「そういえば、シャル」
「何?」
「制御装置ってお前、操作出来るのか?」
「無理よ。当然……私がこの区画に立ち入ったのだって一度や二度。操作なんてさっぱり。制御室は案内されたけれど、という程度ね」
それ故に足取りに迷いはないが、あとは行ってなんとかするしかないらしい。カイトの問いかけに答えるシャルロットは肩を竦める。そういうわけで、彼女は制御室の案内までが仕事だった。そして更に言えば、今動かすわけにもいかなかった。故に、ティナが口を挟む。
「それで良いよ。現状で動かすにはあまりにメンテナンスがされておらん。先に整備用のゴーレムの整備を行い、それらに一度全体の整備をさせる方が優先じゃろうて。今動かすと逆に壊れる事になるじゃろうて」
「でしょう。機械は案外繊細だもの」
どうせ今動かした所で特別意味のあるものでもなし。ティナもシャルロットもそう判断していた。というわけで歩き続けること暫く。一同は制御室へとたどり着いた。そうしてたどり着いた制御室は、ほぼほぼ完璧と言える状態だった。
「これは……ほぼ完璧な状態で残されておるのう。これなら、もしやすると……レガド。この制御装置の起動やらはどうやれば良い」
『少々、お待ちください……これで、どうでしょう』
「おぉ、すまんな」
異空間から椅子を取り出したティナは、レガドが遠隔で起動させた制御装置の一つの前に腰掛ける。そうしてコンソールを幾度か叩いて、一つ頷いた。
「良し。各精錬装置の状態がこれで……良し。これで各階層各エリアの現状がメインモニターに表示できよう」
「全部オフライン、と」
「うむ。この状態から更にここをこうして……」
たたたたた、とティナはコンソールを操って現在の状況をメインモニターに表示させる。すると各階層に取り付けられているらしい監視カメラの映像等が一気に表示される事となった。といっても、やはり経年劣化の関係で三割ほどがオフラインとなっており、真っ暗だった。
「これで良し……レガド。一つ聞きたいが、このメンテナンスルームとそれに隣接する第二備蓄庫はなんじゃ?」
『整備用ゴーレムのメンテナンスルームですね。備蓄庫は整備用ゴーレムの整備部材を貯蓄しておく部屋です。残量は表記の通りです』
「残量全てゼロ。修復不可……それで、メンテナンス用のゴーレムが動きを止めておるわけじゃな。レガド。重ねて問うが、修理部品の中に劣化等で使えなくなったと判断された物はあると思うか?」
『それはあるでしょう。加えて邪神の騒乱や六百年前の騒乱で破損し、使えないと判断された部材もあるかと』
「修繕出来れば、使えるか……」
レガドの返答に、ティナは少し上機嫌に一つ頷いた。それがあるか無いかで、ここからの動きが変わってくるからだ。というわけで、彼女はレガドの通信機を介して外の技術班へと指示を出す。
「良し……聞いておるな? お主らは一度メンテナンスルームへ向かい、残っておる部品を回収。リバース・エンジニアリングを行い規格に合致する部品の作成を急げ」
『うぃーっす。回収班出るぞー』
『ああ、行くなら分析機持ってきな。部品の使ってる素材さえわかりゃ先に用意しとけるからな』
『おーう』
ティナの指示を受けた<<無冠の部隊>>技術班が一斉に動き出す。そうして彼らが動き出した一方で、ティナがカイトらへと告げる。
「良し……では当初の予定通り、余はここから全体の指示を出す。お主らはオフラインになっておる所を確認し、合わせてどこかに更に秘密の区画へとつながる痕跡が無いか探せ」
「あいよ……ツーマンセル……にする必要はなさそうか? ゴーレムは見えなかったが……」
「無いわね。以前所長から聞いた話だと、ここには警備用のゴーレムは一切置いてないそうよ。置いて設備が破壊された方が面倒だから……それに、この面子で集まる必要も無いでしょう」
カイトの問いかけに対して、シャルロットがはっきりと明言する。ここの設備はほぼほぼワンオフだ。なので設備の部品も一品物に近く、下手に壊れると全ての設備がストップしかねないそうだ。
というわけで出入りを厳重にして、中の警備がザルになったのである。無論、あくまでゴーレムの警備が無いだけで人による巡回と警備は行われていたが、今はそれも昔であった。
「良し。じゃあ、各自で回るか」
「ああ、カイト。お主はカナタと共に最下層へ赴いてくれ。おそらく何かがあるとすると、そこじゃろうからのう」
「あいよ」
今回の目的は精錬施設の確認ではなく、『天使の子供達』の探索だ。そのついでに精錬施設の確認もしてしまおう、というだけだ。というわけで、『天使の子供達』に関係するカナタと戦闘力が最も高いカイトがその探索を行う事になったのだ。というわけで、一同はティナをその場に残して散会して確認に動く事になるのだった。
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