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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第90章 過去を求めて編

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第2268話 過去を求めて ――エンテシアの魔女達――

 エンテシアの魔女達の現状を探るべくエンテシア家が古来から受け継いできた邸宅へとやって来ていたカイトとティナ。そんな二人はシェロウにより案内された地下の書庫にて、シェロウ同様に初代エンテシアが生み出した使い魔オイレと遭遇。彼の案内を受け、書庫の中央にあったエンテシア家の家系図を確認する事となる。そうして少しの話の後に家系図を確認した一同であるが、まぁ千年以上もの歴史がある一族だ。家系図は必然、かなり大きなものだった。


「うーむ……一応、この家系図を見れば余は確かに本筋に位置しておるのか」

「途絶えちゃ……いないみたいだな」

「それはそうみたいじゃがのう……はてさて。どう考えたものか」


 一応はエンテシアの魔女のみを記した家系図だからか夫は記されていない家系図であるが、男が誰一人として記されていなかったわけではない。どうやら夫との間に息子が生まれていた場合はその旨も記されており、家系図としてはそこで途絶えているが、名前と共にそこに居た事だけはしっかり記されていた。が、そこにはとんでもない名があったのである。


「のう、シェロウ……マルス帝国の帝室の家名は何じゃ」

『言うまでもないでしょう……マルス、です。あそこに記されております名と同じ』

「わかっとったというか、若干想像はしておったが……まさかマジであったとなると若干余も引くのう」


 家系図にあったのは、マルス帝国――ただし時代としては王国時代だが――の帝室に連なる者を示す家名であるマルスの名。その名が記されているということは即ち、この夫が帝室に連なる者であるという事を示していた。が、これにカイトはさほど驚く様子を見せなかった。


「元々言われていた事だろ。エンテシア家とマルス帝国……正確にはマルス王国の王室とは姻戚関係があったってな。お前のお母さんとて、復権を目論んだ終焉帝の妻となる予定だった、ってのが通説だ……実際、そうだったらしいが」

「そう言われれば、母上もほとほと愛に生きたのう……」


 まぁ、わからないでもないが。ティナも聞く限り相当な老齢だったらしい終焉帝に妻として迎え入れられそうになった母の事を思い出し、そう思う。そこらでの軋轢等もあり、最終的にイクスフォス脱走からマルス帝国の崩壊へと繋がるのであった。そんな事を思ったティナであるが、それ故にこそ呆れ返る。


「まさか余、異世界の族長筋にエンテシア皇国の皇室、マルス帝国の帝室の血を引いておるのか」

「で、お前自身も魔王なので魔王の血筋ですね」

「で、その余とお主の子は魔王と勇者の血を受け継ぐ、と……中二病もやらんようなてんこ盛り設定じゃのう」

「まぁな……」


 言われてみればてんこ盛りであるが、実際には今まで為してきた事の結果があるだけだ。とはいえ、そんなどうでも良い事を話す必要もない為、カイトは改めて家系図に目を向ける。


「……なぁ、シェロウ。このマルスの名。家系図も相当上にあるよな? 一つ気になるんだが……確か初代マルス王国の王様に仕えたのって三代目だよな?」

『ええ……三代目様がマルス王国の建国者や数々のお仲間と共に、戦国乱世の時代を終わらせたのです。今も、目を閉じ少し思い出せば思い出せます。カイン様は農作業が好きな王様でした。抜いたばかりのネギを土を落として、まるかじりされていた事もありました』


 どうやらシェロウにとって、その当時の記憶は非常に良いものだったらしい。穏やかな顔で笑う。これに、ティナが呟いた。


「カイン……灰のカインか」

『ええ……灰のカイン。当時はそう呼ばれておいででした。ふむ……今思えば、やはりユスティーナ様はエンテシアの魔女なのでしょう』

「どうした、唐突に」


 何やらよくわからないタイミングでの言葉に、ティナが訝しげに首を傾げる。これに、シェロウが教えてくれた。


『婿殿は、カイト様はどこかカイン様に似ていらっしゃる。それ故にか、カイン様の周囲にも数々の心地よい方々が集われた。だからこそ、気難しいユーティア様も心をお許しになられたのでしょう』


 ユーティア。どうやらマルス王国の建国の祖に仕えた三代目はそんな名だったらしい。そんな事を語った彼女に、カイトが問いかける。


「……なぁ、もう大凡はわかってるんだが。一応、聞いとくぞ? 三代目の下に、マルスの名があるんだが」

『……まぁ、そういう事です』

「ですよね!?」

「じゃよな!」


 どこか楽しげに認めたシェロウに、カイトとティナが声を大にする。というわけで、ティナが念の為の確認を行った。


「つまり何じゃ? 余、マルス王国の建国の祖の血統も受け継いどるのか?」

『そうなります……そしてそれ故、ユスティーツィア様の身が狙われたのです。母体として。古来よりカイン様の血を受け継いでいるエンテシアの魔女達は、マルス帝国の帝室……いえ、王室も直系にしか扱えぬような数々の魔道具を扱う資格を有します。末期には薄まり使えなくなった魔道具を使う事で、帝室の復権を図ったのです』

「なるほど……それで、先の話に繋がるわけじゃな」


 納得出来た。ティナは終焉帝の判断を理解し、納得する。何度か言われているが、王侯貴族にとって重要なのは神秘性、カリスマ性だ。それは皇国も然りだ。そしてそうである以上、マルス帝国もそうである事に疑いはない。それを、終焉帝が補完しようとした判断は為政者として正しいものだった。


「はぁ……一応聞いておくんじゃが。このユーティア様はご存命か?」

『分かりかねます……というより、過半の当主様達は適当に数十年から百年ほど当主を務めると、まるで面倒になったとばかりに当主の座を子に譲り隠居されたり旅に出られたりされておりました。ときに、ふらりと戻られる事はありますが……それも百年経過された後だという事さえチラホラ』

「余の一族じゃと言えば納得も納得じゃが……」


 それで良いのかエンテシアの魔女達。ティナは歴代の当主達にそう思うが、そんな彼女を見ながらカイトは口を開く。


「お前もそうする未来しか見えん……」

「あー……まぁ、それはあるじゃろうが。余の場合はお主の事もあり、補佐はしてやるじゃろう。多分」

「多分ね……」


 確かにオレからしても多分としか思えない。ティナの言葉にカイトは肩を落とす。


「まぁ、良いわ。とりあえず……他の者達。特に一番下に名を連ねる者たちの事についての話に戻ろう」

『はい……基本、ユスティーナ様の封印まで私が存命を把握していたのは下二段。この内……』


 シェロウはティナの言葉に同意すると、魔術を使って幾つかの名前にばつ印を付けていく。


『この方々は正式に死去が確認されております。マルス帝国による葬儀も執り行われ、埋葬にも立ち会っております』

「お主が言う以上、嘘はなかろうか」

『何名かは死を偽られておりますが、それは省いておりますよ』


 ティナの言葉にシェロウは笑う。とはいえ、これはあくまでも叛逆大戦以前に亡くなった者だけをバツした形で、それ以降に死んだ者。さらにはそもそも生存しているのか死去しているのかさえわからない者たちについては三角印が浮かんでいた。そんな家系図を見ながら、カイトは首を振る。


「とはいえ……思う以上に多いな……主に三角が」

『あはは……それは言わないでください。私も、エンテシア様の一族の方々の放蕩っぷりは呆れておりますから』

「ティナ。この内、フィオから貰ったリストを比較してくれ。探すべき人物をリストアップしちまおう」

「うむ」


 兎にも角にもここに刻まれている全員を探す必要はない。探す必要があるのはフィオが依頼した者だけだ。というわけで、そこから更にフィオや母のティエルンさえ知らない上の世代の魔女を除いていく。そうして気付けば、膨大な家系図もかなり狭まっていた。


「こんな所かのう……やはりさほど多くはないが」

「今思えば、これで男もと言われたら悪夢だったな」

「ま、それはそれで面白いがのう」


 現時点でフィオから依頼を受けているのはエンテシアの魔女に限定されている。そして魔女族には女性しかいない。故に探すのは女だけで良かった。


「さて……これでとりあえず誰が生きてて誰が生きてないかがわかったわけだが……」

「問題は、これらがどこに居て何をしておるか、であろうな」

「お前の一族だと確定で異世界探索もしてて不思議ないからなぁ……」


 なにせ魔女の一族である。魔術に関しては一家言存在しており、異世界へ出ていたり自分の異空間を持っていたりする可能性は高かった。


「それのう……他に異空間も持っとるのは少なくあるまい」

「異空間になると、それはそれで面倒になるな」

「痕跡が見当たらぬからのう……シェロ、オイレ。何か手がかりは無いか?」


 自分たちがなんだかんだと話していても答えは見つからないのだ。ならば、古くからエンテシアの魔女に関わってきた二人に聞くのが一番だろう。そう判断したティナの問いかけに、シェロウが口を開いた。


『そうですね……ひとまずティエルン様を探されるのが良いかと思われます。先にも申しましたが、ティエルン様はエンテシアの魔女の中でも最も精力的に世界中を奔走されていらっしゃいます。何か情報を持っていらっしゃる可能性は大いにあり得るかと』

「やはり、最終的にはそこに行き着くわけかのう」


 元々ティエルンはフィオの母という事もあり、最初から探させていた。そしてこれについてはすでに大凡の情報が集まりつつあり、もう少しで見付かる公算は高かった。と、そんな所にオイレが口を挟む。


『ふむ……それ以外となればおそらくここに使い魔を置いておくのも良いじゃろうて。エンテシアの魔女達はここの書庫をそれなりには頻繁に利用していた。常には顔を見せぬ者の生存を知るのも、ここの書庫を求めての事が多かった。ここへの鍵は継承しておろう?』

「っと……そうじゃった。それで思い出した。一応、ここへの行き方は把握したが、ここへの転移の鍵等はどうやって作るんじゃ?」


 そもそもこのエンテシア家の本邸がある場所は異空間で、カイトぐらいでないと鍵無しでは来る事が出来ないような場所だというのだ。であれば気になるのは、鍵をどうやって作るのか、何か条件が必要なのか。今ある鍵の権利をそのまま継承させる場合はどうすれば良いか、と気になる所であった。これに、オイレも頷く。


『おぉ、それか……それなら後で書を持ってこよう』

「すまぬ……まぁ、それを流用すればもしやすると鍵を持つ魔女については居場所が探れるかもしれんからのう」

『なるほど……確かに、それは可能やもしれませんね』


 ティナの推論に、シェロウも一つ頷いた。これはあくまでも推論に過ぎないし、最悪は同じ様にエンテシアの魔女達も考えて対処されている可能性はあったが、それでも可能性は可能性だ。やらないより良かった。


「では、こんなものかのう……お、そうじゃ」

『『「ん?」』』


 唐突に何かを思い付いたティナに、カイト達は揃って首を傾げる。そんな三人に、彼女は告げた。


「のう、シェロにオイレ。一つ問いたいんじゃが……」

『なんでしょう』

「エンテシア様は確か最後放浪の旅に出られたとの事であったな?」

『ええ……最後は私をお作りになられ、何処かへ旅に』


 そしてそれ故、エンテシアその人が生きている可能性はあると言うのが、シェロウの言葉だ。と、そこで彼女がオイレへと問いかける。


『そういえば……オイレ。貴方は私より更に古くからいますよね?』

『まぁ、そうじゃのう。儂はエンテシア様の作られた使い魔の中でも相当古参じゃからのう』

「むぅ……使い魔技術であれば才覚は余を上回っておるかもしれんのう」


 シェロウがそうである様に、オイレもまた使い魔としては相当に見事な出来栄えと言えた。なのでティナとしても使い魔技術は下手をすると自分を大幅に上回っているのでは、と思っていたが、古参のオイレの段階でこの出来栄えなら才能は彼女の方が上だろう、と思わせたようだ。が、これにオイレは笑う。


『ふぉふぉ……そうは言っても、エンテシア様が何体使い魔を作られたかは儂にもわからぬ。一応、古参とは言うが……儂より古くの使い魔はおるし、かつて聞いた話ではそれらさえエンテシア様が何時、どこでお生まれになられたかは存じていないという。誰も、何も知らんのじゃよ』

「むぅ……ほとほと謎の人物じゃ」


 結局、現在までにわかっている事は初代エンテシアは優れた魔女だという事と、最後は旅に出ると言って行方知れずになったという二点だけであった。なので実質的には何もわかっていないも同然で、才能についてもわからなかった。と、そんな事を改めて認識したティナであるが、彼女は気を取り直した。


「まぁ、良いわ。それであれば、何か異世界への転移に関する書等は無いのか?」

『ふむ……まぁ、ありますのう』

「なんじゃ。歯切れが悪いのう」

『それもそうじゃて。異世界への転移に関する知識は確かにある。あるが……色々と理由があり、まだまとめきれておらん。一応、エンテシア様曰くその研究を行っていた秘密の研究所から持ち出した、との事であったが……』

「なんじゃと?」


 そもそもレガドも言っていた事であるが、異世界からの召喚術に関する研究はレガド以外の研究所で行われていた。そこから研究成果を使い召喚を行う為、隔離された空間であるレガドが使われたというだけだ。

 が、そこは秘密の研究所であった為、大凡の情報を持っていたレガドでさえどこかわからなかった。そこを、初代エンテシアは知っていたという。そうして、話はかつて存在したという召喚術の研究所に及ぶ事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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