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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第90章 過去を求めて編

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第2267話 過去を求めて ――家系図――

 ハイゼンベルグ公ジェイクの勧めを受けて、エンテシア家が初代エンテシアから代々受け継いできた邸宅へとやって来たカイトとティナ。そんな二人はティナのかつての記憶を辿った後、シェロウの案内を受けて歴代のエンテシアの魔女達が収蔵してきた様々な書物が納められる書庫へとやって来ていた。

 そんな書庫で二人を待っていたのは、シェロウと同じく初代エンテシアが拵えたフクロウ型の使い魔のオイレであった。そうして、暫く。彼へと状況を説明し、協力を仰ぐ事になっていた。


『なるほどのう……それで、ユスティーナ様がここに』

「うむ……ああ、そうじゃ。そういうわけなので今後こやつをここに向かわせる事もあると思うんじゃが」

「あのね……そんな確定として言わないでくれよ……」


 完全使いっぱしり確定のティナの発言に、カイトはがっくりと肩を落とす。これでも一応領主である。それを確定的に使いっぱしりの様に使わないで欲しかった。そんな彼に、ティナは笑った。


「そう言っても使われるのがお主であり、そして動くのがお主である」

「否定出来ないのが悲しい……」

『ふぉふぉ……うむ。良き伴侶に恵まれ、良い事じゃ』


 楽しげなティナの様子にオイレは満足げであった。そうしてそんな彼はこれなら良いだろう、と判断。ティナの求めに応ずる事にした。


『ユスティーナ様は杖をお持ちじゃな?』

「うむ。母上より杖を継承しておる」

『それを使い、この術式を組み上げなされ。この空白部分には、相手の魔力を注がせるんじゃ』

「ふむ……カイト。手を貸せ」

「はいはい……」


 どうやらなんだかんだ言いながらも、カイトも自身の未来はわかっているらしい。若干呆れながらもティナの求めに応ずる様に手を差し出す。それをティナが握り、オイレの教えてくれた魔術を展開。言われた通り、空白部分にカイトの魔力を注ぎ込む。そうして、術式が正常に起動して一つの青色の鍵がカイトの手へと握られる。


「っと」

『これが、ここに入る為の鍵じゃ。この鍵は先の魔力を登録した者しか使えぬ。また、この鍵があればその者のみ、別の道を通ってこの書庫まで来る事が出来る』

「はいよどーも……」


 やりたくはないが、やるしかないのだろう。カイトは若干やけっぱちになりながらも、キーホルダーに鍵を取り付けて異空間に保管しておく。そうしてこの話を終わらせた所で、ティナが本題を続ける事にした。


「うむ、助かる……それで、オイレよ。何かエンテシアの魔女に関する情報は無いか? エンテシアの魔女達の中には、余をも上回る知識を持つ者も少なくなかろう」

『そうじゃのう……おぉ、そうじゃ。良いものが一つある。ついて来られよ』


 ばさり。オイレは翼を広げると、受付のとまり木から飛び立つ。そうして向かう先は、かなり遠い場所だったらしい。シェロウが慌てて口を開いた。


『オイレ。行くなら、飛んだ方が良いとアドバイスをする事を忘れていますよ……あそこは相当遠い』

『おぉ、そうであったな……まぁ、見てわかる通り、ここは飛空術でも使えねば到底端から端まで到底到達出来ぬ場所じゃ。これから行くのも、相当に遠くになる』

「なるほど……じゃあ、行くか」

「うむ」


 翼を顕現させたカイトの言葉に頷いて、ティナはシェロウを杖に乗せて自身もまた杖に腰掛ける。そうして、一同はオイレに従って書庫の中を飛んでいく。その道中、ティナがふと問いかけた。


「そういえばオイレよ。この書庫はどれぐらいの蔵書があるんじゃ?」

『数えた事は無いのう……なにせエンテシア様からして、手当り次第に書物を納めていくような御仁じゃった。様々な性格である歴代の当主達が共通して有すると言える性質も、まさにそれじゃった。御身は、いかがかな?』

「言われとるぞー」

「何も言い返せんのう……」


 楽しげなカイトの言葉に、ティナは少しだけ照れた様にそっぽを向く。それに、楽しげに問いかけたオイレもまた楽しげな笑みを深めた。


『ふぉふぉ……それでこそ、エンテシアの魔女。歴代当主の座を継ぐ女性じゃ。また整理整頓が忙しくなる』

「余も蔵書をここに納めた方が良いのか?」

『それは好きにされよ……が、歴代の当主達も似た様な事を仰っしゃりながら、なんだかんだ結局はここに納められたのう』

「うーむ……余にもその未来が見えるのう……」


 歴代の当主達が何を言って最終的な結論に達したのか。ティナには手にとるようにそれがわかったらしい。


「ぶっちゃけ、数十万冊もの書を管理するの、非常に面倒臭いからのう」

『ふぉふぉ……皆、そう言うんじゃ』

「じゃろうなー」


 なにせ自分の祖先達である。その血を色濃く受け継ぐ自身と同じ様に、最終的には面倒になってやめた事がティナには考えなくてもわかったらしい。楽しげに笑っていた。そうしてそれを理解していた彼女は、諦めるのも早かった。


「良し。余の蔵書もここに預けよう……ざっと数十万冊はあるんじゃが……良いか?」

『ふぉふぉ……何も問題にはならんのう。なにせエンテシア様の時代からすでに百万は超えておった。かつてのルナリアの蔵書も集められるだけかき集められたからのう。なんじゃ聞けば図書館を一つ見つけたとの事であったか。あの時の興奮っぷり。久方ぶりに見た領域であった』

「ぐっ……負けたか。初代様は流石か。いや、地球に置いてきた蔵書も合わせれば百万は行ける」

「何を張り合っとるんじゃ……」


 妙な張り合いを見せたティナに、カイトは呆れ返る。と、そんな彼であったが、そこでふと気が付いた。


「ん? 今、ルナリアの書庫を見つけた、とか言わなかったか?」

『うむ……何やら相当争ったらしいのう』

「なんと! どの一角じゃ!」

「はーい! こっち先にしましょうねー!」

「余の旧文明の資料!」

「お前のだけどお前のじゃねぇよ!」


 目の色を変え急旋回して収蔵されているという旧文明の書物を探しに行こうとしたティナに対し、カイトが翼をはためかせて強引に制止する。そうして暫くの後、一同は再び移動を再開していた。もちろん、向かう先はオイレが最初に行こうとしていた所である。


「はぁ……」

「いや、すまんすまん。ついうっかり我を忘れた」

「そのうっかり、が年何回あるんだお前には……いや、月何回か」


 楽しげに笑うティナに、カイトは一つ首を振る。が、これにオイレは楽しげだった。


『ふぉふぉ。やはりエンテシア様の子孫じゃ……さて、着いたぞ』

「これは……」

「ここは中心……の様子じゃのう」

『ああ、なるほど。確かにこれなら、エンテシア家の情報を知るのに丁度良い』


 どうやらシェロウはオイレが案内した場所にあった何かしらを知っていたらしい。得心がいった様に頷いていた。そうしてそんな一同が地面に舞い降りると、そこにあったのは一つの碑石のようなものだった。


『エンテシアの魔女の事を知りたければ、まずはこれを見れば良いじゃろうて』

「これは……余の名じゃ。その上には……母上の名……その上は……これは……家系図か?」

『ふぉふぉ……一番じゃろう?』


 笑うオイレの言葉に、ティナは巨大な碑石に貼り付けられた羊皮紙に似た何かに刻まれている名前を下から順に追っていく。そうして一番上までたどり着いた所で、思わず目を見開く事になった。


「そして一番上にはエンテシア・ヴァルプルギス・ヘクセ……まさか、初代様のフルネームか!?」


 エンテシアの魔女とは言うが、そもそも初代エンテシアは家名がエンテシアというのではなく、その名がエンテシアだ。現代ではもはや誰もエンテシアのフルネームは知らない。であれば、これこそがその伝説の魔女エンテシアの可能性は非常に高かった。が、これにオイレは首を振った。


『厳密には、違うらしいのう。本来はもっと長く、時にはマギサ等とも名乗られていらっしゃった。そのどれもが、エンテシア様曰く本来の名をもじったり短縮したりされていたそうじゃ……どこまで本当かは知らぬがのう』

「お主も知らぬのか」

『ふぉふぉ……エンテシア様は何時も何時も本当か嘘かわからぬ事を仰られる。秘密を生む事も、秘密を解き明かす事も楽しんでいらっしゃられた。あの方の本来の名も、秘密の一つという事なのじゃろう』


 懐かしげに、それでいて楽しげにオイレが笑う。とはいえ、それに真実が含まれていないわけではない。故に、彼が告げる。


『とはいえ、これが全くの嘘であるわけでもなし。エンテシア・ヴァルプルギス等と名乗られた事があるのも事実』

「ヘクセではなく?」

『ふぉふぉ……それがあの方の面白い所じゃった。エンテシア・ヴァルプルギス。ヘクセ・ヴァルプルギス。マギサ・ヴァルプルギス……かように、幾つもの名で名乗られたわけじゃが、その多くはヴァルプルギスの姓を使っておられた。時にはエンテシアの名もヴァルプルギスの家名も使われず、全く関係の無い名を名乗られた事もある』


 これはエネフィアでもそうなのであるが、基本的に家名はわかりやすい様に名前の一番前か一番後ろに置かれる。なのでこの場合、ミドルネームを省いたエンテシアの名はヘクセ・エンテシアとなるかエンテシア・ヘクセになるはずだ。なのになぜか、ミドルネームである筈のヴァルプルギスを家名の様に使っていた。それへの疑問を提示したティナに、オイレは笑う。


『が、そのどれしもが本名に関係する名だ、との事であられた』

『懐かしいですね。確か、ご息女にさえどれが本当の名と思うかしら、と楽しげに言われていらっしゃった』

「魔女らしい方じゃのう……というか、ご息女にさえ本名教えとらんのか」


 我が祖先ながら呆れるしかない。ティナはエンテシアの初めて知る側面に呆れが隠せなかった。とはいえ、伝説的と言われようと、どこかに正体が隠れている。これが、その正体の一端という事だった。が、驚くべきはここからであった。それを、シェロウが明かす。


『というより、ご息女が本当のご息女だったのかさえ私達にもわかりかねます。ご息女さえ、わからないわ、と仰られていらっしゃいました。魔女にとって子とは血ではなく研究や理念、信念を受け継ぐ者。血がつながらなくとも、その遺伝子(ミーム)さえ繋がっていればその子がその魔女にとっての子なのよ、がエンテシア様のお言葉でした』

「無茶苦茶じゃな……まぁ、わからぬではないがのう」


 やはり同じくエンテシアの魔女だからだろう。血の繋がりの有無ではなく、その親の、師の理念や研究を受け継ぐか否かが重要。ティナは初代エンテシアの言葉に呆れながらも、納得を示す。というわけで、そんな彼女は改めて初代エンテシアを頂点とした己の家系図を見る。


「ふむ……初代様の下には……これは二代様か。二代様には子が……三代目には……む? そういえばこの家系図。何かおかしいのう」


 上から数人を見たティナであるが、妙な違和感を感じて首を傾げる。これに、すでにその違和感の正体を突き止めていたカイトが告げた。


「夫の名が無いんだ。流石に魔女族と言えど、単性生殖は無理だろ」

「おぉ、それじゃ……これはあくまでもエンテシアの魔女の名という事で良いんじゃな?」

『そうですな……これはあくまでもエンテシアの魔女の家系図。故に伴侶の方々の名はここには刻まれてはおらぬ。別の所に保管されておるのよ……先の通り、エンテシア様以外じゃが』

「そこはやはり無いのか」


 別に興味が無いといえば無いが、エンテシアの実子であったかどうかもそれでわかるかも。そう思ったティナであるが、どうやらそこは秘密らしかった。とはいえ、そんな返答にティナは一転気を取り直す。


「まぁ、良かろう。兎にも角にもこの家系図があれば、ある程度はわかる。精査するとしようかのう」

「デジカメで写真、撮っておくか?」

「やめといた方が良かろう。撮影という概念に反応してもおかしくはないからのう」


 カイトの問いかけに、ティナは一つ首を振る。そうして、一同は改めて家系図の精査に入る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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