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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2262話 戦士達の戦い ――終わり――

 勇者カイトと革命家ジェイクの戦い。それはお互いに本気ではないものの、演習の最後を飾るに相応しい戦いとなっていた。が、その戦いはカイトが相打ちじみた展開を決めた為、カイトはハイゼンベルグ公ジェイクの<<龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)>>を、ハイゼンベルグ公ジェイクは魔導機の胸部に取り付けられた魔砲の一撃を至近距離から受ける事になる。そうして吹き飛ばされながら、カイトは魔導機のコクピットから飛び出てハイゼンベルグ公ジェイクへと肉薄する。


「はぁ!」

『ぐっ!』


 生身で肉薄したカイトが、吹き飛ばされるハイゼンベルグ公ジェイクへと踵落としを叩き込んで地面へと叩きつける。そうして地面に叩きつけられた彼の胸の上に、カイトが着地した。


「チェックメイト」

『くっ……魔導機という鎧を相手に、生身で挑んだ儂の不手際か』

「はぁ……ま、そこはそれってことで」

『……良かろう。負けじゃ』


 どうやら現状で負けを悟っていたからだろう。ハイゼンベルグ公ジェイクは先程までとは違いカイト達の前で晒している何時もの性格で敗北を認める。それを受けて、演習場全体の戦闘は終わりを迎える事になる。


「っと……」

「はぁ……ジジイ相手にもう少しは手加減しよう、とは思わんかのう」

「思うかよ……あんたに何度ボコボコにされたと思ってやがる」


 呆れた様子のハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に、カイトは肩を竦め笑う。まだ彼がフロイライン邸に起居していた頃、ハイゼンベルグ公ジェイクにも剣の稽古をしてもらった事がある。

 その当時のカイトは言うまでもなく戦士でもなんでもなく、単なる異邦人の少年だ。勝てる道理なぞどこにもなく、ただ良い様に遊ばれるだけであった。


「そうじゃのう……しかしもう、勝ち目なぞあるまいて」

「そりゃ、オレは最前線を戦う戦士。あんたやティナみたく、最後方に控え支援したり指揮したりする奴じゃない。一緒にされても困る……というより、軍師でそこまで戦える時点でその時代のヤバさを物語っているっての」

「まぁのう……」


 カイトの言葉に、ハイゼンベルグ公ジェイクは最近になり冒険部に加入したトリンの事を思い出す。彼も系統で言えば、ティナやハイゼンベルグ公ジェイクと同じ軍師だ。

 が、言うまでもなく戦闘力はこのどちらにも遠く及ばず、そしてそれが普通なので誰にも何も言われない。この二人の様に戦士としても一流の戦闘力を持っている方がおかしいのだ。と、そうして少しの語らいを交わす二人であったが、同時に上を見る。


「終わりか」

「うむ……お互いに、皇帝陛下が来られる以上は一度身だしなみを整えた方が良いじゃろうて」

「か……ま、一度戻るか」

「うむ……では、また後でな」


 カイトの言葉にハイゼンベルグ公ジェイクも同意して、その場を後にする。そうして、両陣営共に一度整列し、皇帝レオンハルトの言葉を待つ事にするのだった。




 さてそれから暫く。演習の終了に伴い両陣営後片付けに入ると同時に、カイトとハイゼンベルグ公ジェイクはそれぞれの旗艦から皇帝レオンハルトの言葉を受けていた。


『まずは両公共、見事であった。特にハイゼンベルグ公。レジスタンス時代の戦士達とは、俺も想定していなかった』

『ありがたきお言葉』

『うむ……それで、マクダウェル公。貴公も見事であった。最後のハイゼンベルグ公との戦い。実に見ものであったぞ』

「ありがとうございます」


 楽しげに笑う皇帝レオンハルトに、カイトは頭を下げる。そうして一通り先の演習に関する質疑応答が繰り広げられる事になるが、その後。皇帝レオンハルトが問いかけた。


『そういえばハイゼンベルグ公。実施予定の全軍での演習ではレジスタンス時代の仲間も来るのか?』

『無論、そのつもりです』

『そうか……であれば、特段情報統制の必要性等はあるまい』

『は……元より我らは皇王陛下の御世よりこの皇国と共に在りし者。この国の危機とあらば、骨を折る事にためらいなぞございません』


 皇帝レオンハルトの問いかけに、ハイゼンベルグ公ジェイクははっきりと頷いた。一応、今回の演習には報道関係者も同席している。なのでハイゼンベルグ陣営の裏で行われていたカイトとレジスタンスの戦士達との戦い以外はほぼほぼ撮影されていて、全員がそれを理解の上で演習に参加していた。


『そうか……なら、良い記事になってくれるだろう』

『それは、記者次第。なんとも言えませぬ』

『うむ……まぁ、それは兎も角としてだ。マクダウェル公。ヴァイスリッターとバーンシュタットの子ら。思った以上に育ったではないか。俺としてもまさかレジスタンスの戦士達を抑え込めるとは思っていなかったぞ』

「ありがとうございます……ですが、まだまだです」


 皇帝レオンハルトの称賛に一つ礼を述べたカイトであったが、そんな彼は一転して首を振る。そうして、その理由を口にした。


「陛下もご存知とは思われますが、かつての戦争ではソンメル殿らさえ大怪我を負われたような猛者が相手でした。鳳華殿からも何度となく苦戦を強いられた、と聞いております。あの方々と単騎で互角に戦えてはじめて、我が友達と並び立てるのです。今でようやく、あの二人の背が遥か遠くに見えたという所。あの二人と並びたければ、最低でも契約者にはなってもらわねばなりません」

『そうか。そうだな……俺もそうだが……あの二人は貴公の友にして百年に及ぶ戦争を終わらせた英傑の子孫。その血を受け継ぐ者。これからもより一層、精進してもらわねばならぬな……が、公よ。最低でも契約者になってもらわねば、と軽く言うあたり、公らしい』


 カイトの言葉に納得し同意した皇帝レオンハルトであるが、一転してカイトらしい水準に笑う。契約者なぞ歴史上数えるほどしか出ていない存在だ。それが最低と言うのはあまりにあり得ない話であった。これに、カイトもまた笑う。


「それが、私ですので。そして必要とあらばやるだけです」

『うむ……一応聞いておきたいのだが、契約者となれる芽はあるのか?』

「さて……こればかりはなんとも。そも、契約者は万人が成れる可能性を有するものです。彼女らの試練を突破出来るか否か。それに過ぎません」

『ふむ……そこら、俺も詳しくは知らんのだが、結局それはどういう意味なのだ? 歴史上名を遺した契約者達は総じて、誰もが契約者に成れると言葉を遺している』


 そう言えば一度も聞いた事がなかった話に、皇帝レオンハルトは今更ながらに疑問を呈する。ここらそれが常識として語られるがゆえにスルーしていたが、今更気になったのだ。


「そのままの意味と捉えて良いかと……陛下は契約者について、どの程度御存知ですか?」

『ふむ……大精霊様の神殿に赴き、そこで大精霊様が課す試練を乗り越えた者だけが契約者と成れると聞いている。相違無いな?』

「間違いございません。私も、大神殿に赴き試練を乗り越えました。いくらかは、試練と知らずではありましたが」

『歴史上、そういった者が何人か居るとは聞いている』


 カイトを最たる例として、歴史上には同じ様に試練と知らずに乗り越えて契約者となった者が居るらしい。というわけで、そんな彼は皇帝レオンハルトの言葉に頷いた。


「はい……ですがその大神殿に赴き、というのがいささか誤解を招きやすい話になっておりまして……確かに、自らの意思で契約者となる場合は大神殿を見つけ出し、試練を乗り越えねばなりません。ですが逆に向こうより招かれる事もあるのです。力を貸してやろう、という塩梅ですね」

『なるほど……それで同じ大精霊様の契約者でも、契約者によって妙な違いがあるわけか』

「そういうわけです。限定的な契約者、とでも言いましょうか。この条件を満たす間は力を貸す、というわけですね」


 長年の疑問が解決した。そんな様子の皇帝レオンハルトに、カイトも一つ頷いて詳細を述べる。大精霊達がこの世に生きる全ての者の動向を見ている、というのは誰もが知っている事だ。なので力を貸してくれる、という話は理解出来る事だった。そうしてそこの話をしてから、カイトはアルとリィルについてを述べる。


「その上で言いますと、二人は自ら試練に挑まねばならないでしょう。これは良くも悪くも、私が介在してしまうからではありますが……」

『公が居る事で何かあるのか?』

「はい。かつて私が居る場合、大神殿の探索は省かれる旨はお話したかと思います」

『公の推挙の場合、大神殿を探すというある意味最も困難な部分は省かれるであったか』


 これは何度か言及されていた事だし、実際ルクスやバランタインも大神殿の探索を省いて直接試練に臨んでいる。そしてこれが最も困難なのは、契約者になりたい、と大神殿を探しても向こうが招いてくれなければ大神殿には入れない。

 つまり、永遠に見つからないのである。故にある意味では大神殿の捜索こそが最大の試練と言われる事もあり、これを省けるカイトの介在はとてつもない恩恵と言って過言ではなかった。


「は……私が居るからこそ、大神殿には普通に到達してしまえます。向こうも拒む事はありません。ただ結果、試練には挑まねばならぬものと向こうは認識しているのですよ。結果、自らの死力を尽くし、試練に挑まねばならぬ事に」

『なるほど……知らずに突破、という事が出来ぬのか』

「ええ……限定的な契約は難しいのです。無論、やらなくもない、とは彼女らの言葉ではありますが……はてさて、という所でしょう」


 少しだけ困った様に、カイトは笑う。そういう事なのでアルとリィルが契約者になれるかは未知数との事であった。そうして、そこらの話に納得した皇帝レオンハルトは一つカイトへと問いかける。


『で、公よ。その上で言えば、その公算はあるのか?』

「こればかりはなんとも。何より今はまだ扱えるだけの地力が存在しておりません。友ルクスや友バランタインが契約者となった時にはすでにティナよりの訓練を受け、今の彼らの数倍の地力を有しておりました。そこが、最低条件と言っても良い」

『結局、最初の話となるわけか』

「は……最低でも陛下と同等にならねば契約者となった所で意味はありません」


 最初の話。それは二人がまだまだ弱い、という話だった。そもそも二人はまだ皇帝レオンハルトと比べてさえ弱いのだ。これでは契約者の力は何も使えないも同然と言って良かった。と、そんなカイトの言葉に、皇帝レオンハルトが笑う。


『と、いう事は俺はなろうとすればなれるのか?』

「まぁ、そうですね。陛下であれば地力は十分と言って良いでしょう……が、興味本位や遊び半分でやろうとは、されない方が良いかと」

『思わんよ、そのような暴君の所業はな。ただ、可能か不可能か知りたかっただけだ』


 大精霊達の偉大さ、というのはエネフィアで生きるなら全ての者が等しく理解している事だ。皇帝レオンハルトもその一人である以上、巫山戯て契約者になる、とは口が裂けても言えなかった。が、こう言われて少し気になったのも事実だ。なので彼はあくまで興味本位、という形で問いかける。


『なぁ、マクダウェル公。もし興味本位や遊び半分で挑んだ場合、どうなるのだ?』

「その場合は、向こうも興味本位や遊び半分で相手にされます」

『となると、どうなるのだ?』

「興味本位だった場合、まだ良いでしょう。到底クリア不可な試練が出されるだけです。遊び半分だった場合……これはやらない方が良いでしょう。最悪は彼女らの勘気を買う。現実を突きつけられるだけなら、良いのですがね。最悪は……それ相応の始末を得る事になるでしょう」

『……そうか』


 おそらくカイトが冗談や大げさに言っているわけではないのだろう。僅かな真剣味を覗かせる彼の言葉に、皇帝レオンハルトは遊び半分では絶対に挑まない事を心に決める。そうして、彼は一応念の為に問いかける。


『……一つ、念の為に聞いておきたいが』

「居た、そうですよ。詳しくは私も存じませんが、彼女らの勘気を買っていたが為にわざと大神殿まで招かれ、そこで再起不能にされた愚か者は。幸い地球でもエネフィアでもない世界の話、との事でしたが」

『……そうか』


 それがどこの世界の何者なのかはわからないが、少なくともエネフィアの民でなくて良かった。皇帝レオンハルトは内心で胸を撫で下ろす。

 せっかく、カイトという彼女らのお気に入りが居るのだ。このまま良い関係を続けていきたかった。そうして、僅かに顔を青ざめさせた皇帝レオンハルトが少し慌て気味に総括に入った。


『ま、まぁそれは良いか。兎にも角にも、両公共に今回の演習は短い準備期間の中、見事な差配であった。この後の事も順次各地で演習が開かれる。それに意見を求められる事があった場合、両公は忌憚なく助言を与えてやってくれ』

「『かしこまりました』」


 皇帝レオンハルトの言葉に、カイトとハイゼンベルグ公ジェイクは一つ頭を下げる。そうして、それを最後に通信は終了して、演習もまた完全に終了となるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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