第2261話 戦士達の戦い ――礎達の戦い――
勇者カイト。それは三百年前の戦いにおいて、数々の悲劇に見舞われながらも終戦へと導き、その後も皇国貴族として国家安泰の礎となった伝説の勇者。
革命家ジェイク。それは七百年前の建国の戦いにおいて、一度は虜囚の憂き目に遭いながらも後の主君となるイクスフォスとの出会いにより脱獄。その後は彼と共に数々の転戦を繰り返し、遂には国家の末期症状に陥っていたマルス帝国を打倒し、皇国の基礎を作った伝説の革命家。
その両者は、それぞれが興した家を率いて演習に臨んでいた。そんな演習であるが、午前中の第一幕はハイゼンベルグ陣営がレジスタンス時代の英雄達を呼び寄せていた事により若干ハイゼンベルグ陣営が優勢のまま停止。午後からの第二幕は両陣営初手から総力戦に挑む事になるも、ティナが一手ハイゼンベルグ公ジェイクを上回った事により遂にカイトとハイゼンベルグ公ジェイクの直接対決にもつれ込んでいた。
「さて……アイギス。ぶっちゃけちまうと、実はオレジジイの龍形態見るの初めてなんだが」
「そうなんですか? 確かマスターの後見人と記憶しているのですが」
「まぁ、そう言われているな。実際、ウチの爺さんの遺言はそうなってる、って話だ」
「ヘルメス様の遺言状とか見た事無いんですか?」
「ねぇな。が、あのジジイがそんな嘘を言う男じゃない」
完全に信頼関係により成り立っているだけの話。カイトはアイギスへと言外にそう告げる。そうして、そんな彼は改めてハイゼンベルグ公ジェイクを見る。それに対してアイギスは計器を確認していた。
「ハイゼンベルグ公のデータ、表示します。意味があるものではありませんが」
「良い。この戦闘中、今の体躯から変えることはないだろう」
「イエス」
カイトはアイギスにより表示されるハイゼンベルグ公ジェイクの龍形態の体躯を見る。それによると、大凡魔導機と同程度の大きさだったらしい。まぁ、合わせたと考えて良いだろう。
というわけで、距離を取ったカイトであるがそんな彼に対してハイゼンベルグ公ジェイクが虚空に手足を付けて四つん這いになる。
「マスター」
「良い。避けたら避けたで厄介だ。一直線に来ちまったからな」
「……イエス。ただ直撃は避けてください。ハイゼンベルグ公の出力を鑑みるに、直撃すればこの子では保ちません」
「了解した」
ハイゼンベルグ公ジェイクの行動の意図を理解し、カイトは防御を選択する。いっそ攻撃を阻害するでも良かったかもしれないが、せっかくなので一発貰う事にしたらしい。
「……ふぅ……」
一瞬、カイトは呼吸を整えハイゼンベルグ公ジェイクの行動を観察する。ハイゼンベルグ公ジェイクの顔の前には巨大な光弾が出来上がっており、明らかに攻撃の意図が見て取れた。そうして、直後。ハイゼンベルグ公ジェイクの<<龍の咆哮>>が解き放たれる。
「はっ!」
放たれた<<龍の咆哮>>に対して、カイトは真正面からそれを捉え一刀両断に切り伏せる。が、それと同時に、ハイゼンベルグ公ジェイクが四つん這いの状態からタックルを仕掛けて彼を吹き飛ばした。
『ふんっ!』
「ぐっ! ちっ。ダメージは?」
「極小。ダメージと言えるほどでは」
「良し」
虚空に大剣を突き立て急減速しながら再度の激突に備えるカイトは、現状に一つ頷いて背面の飛翔機から虹色のフレアを迸らせる。そうして、大剣を再度バックパックに接続し急減速から一気に急加速してハイゼンベルグ公ジェイクへと肉薄した。
「おぉおおおお!」
『甘いわ!』
一直線に迫ってくるカイトに、ハイゼンベルグ公ジェイクはその巨体に見合う拳を振るい迎撃する。そうして、鋼の拳と龍の拳が激突。轟音を上げて僅かな押し合いが行われる。
『ぐっ……』
「アイギス。タイミングは任せる」
「イエス」
ぎぎぎぎぎっ、と音を上げて競り合いを行う二つの拳であるが、その片方であるハイゼンベルグ公ジェイクが若干きつそうなのに対してカイトは魔導機という有利を活かして余裕を持っていた。故に彼はこの次を想定しすでに動いていた。そうして、そんな彼が飛翔機の出力を更に上げてハイゼンベルグ公ジェイクを押し込んだ。
「おぉ!」
『ぐっ! だが!』
虚空に爪を食い込ませ踏みとどまったハイゼンベルグ公ジェイクであるが、そんな彼はしっぽを使い魔導機を横から打ちのめす。それに、カイトは飛翔機の魔力を切ってその場を離れる。
「っとぉ!」
『ふぅー……はっ』
離れたカイトに向けて、ハイゼンベルグ公ジェイクは無数の光弾を生み出してそれをカイトに向けて投げ放つ。それにカイトは先の一幕で展開していた外装をパージし、基礎となるベースのみで迎撃を選択した。
「アイギス。ナイフと魔銃を」
「イエス……魔銃は拳銃でよろしいですね?」
「問題無い」
アイギスの提示を受けたカイトはそれに一つ頷くと、脇の部分から放たれた魔銃を左手に持ち腕の部分に格納されていた小型のナイフを逆手に持つ。
そうして、放たれた光弾を魔弾とナイフで全て迎撃する。そうして全てを迎撃した時には、ハイゼンベルグ公ジェイクは再度先程と同じ様に四つん這いになり極大の光弾を生み出していた。
「アイギス」
「イエス。タイミングはそちらに」
「良し……行くぞ!」
先程とは異なり、カイトは<<龍の咆哮>>を放とうとするハイゼンベルグ公ジェイクに向けて一直線に突っ込んでいく。それに、ハイゼンベルグ公ジェイクは<<龍の咆哮>>を容赦無く解き放つ。
「ふっ」
『っ』
「はっ!」
放たれる<<龍の咆哮>>を身軽になった事を受けて回避したカイトが肉薄してきたのを見て、ハイゼンベルグ公ジェイクが虚空に立てていた爪を引っ込めて敢えて<<龍の咆哮>>の反動をモロに受ける。
そうして彼が急加速して後ろに下がった事で、カイトの掌底が空振りする。しかし身軽になっていた事で、カイトは即座に次の一歩を踏み込めた。
「こいつは、直撃するとキツいぞ!」
四つん這いのままのハイゼンベルグ公ジェイクの顔面に向けて、カイトは右腕にバンカーを顕現させる。そうしてそのまま一直線に彼の顔面を狙いに行くが、その前にハイゼンベルグ公ジェイクはカイトの進撃を見て<<龍の咆哮>>を弱い威力で解き放つ。
「ぐっ! ちっ。そう上手くはいかんか」
『おぉおおおお!』
弱威力で放たれた<<龍の咆哮>>の一撃で後ろに下がったカイトに向けて、ハイゼンベルグ公ジェイクがクラウチングスタートの様に虚空を蹴って肉薄する。そうして肉薄した彼が思いっきり拳を振りかぶり、これにカイトは虚空を蹴って距離を取る。
「アイギス。魔銃を。ライフル型で頼む」
「イエス」
ライフル型の魔銃を顕現させたアイギスに、カイトは虚空でそれを受け取って即座にハイゼンベルグ公ジェイクへと照準を合わせる。そうして一瞬で照準を合わせた彼が容赦無く引き金を引く。
『ふんっ』
放たれた魔弾に対して、ハイゼンベルグ公ジェイクが拳を合わせてそれを破砕する。そうして、彼は空いていた左手に再度光弾を生み出してカイトへと投げ放つ。それに、カイトは敢えて突っ込んだ。
『ぬ!』
「伊達に、こちとら最前線でエースやってねぇんだよ!」
『ちぃ!』
ここら、やはり軍師とエースの差が如実に現れていた。カイトがナイフで光弾をある程度斬り裂いて、残りは先と同じくアイギスが障壁を操ってダメージを最低限に抑えていた。そうして肉薄した彼は、思いっきりその胴体に拳を叩き込む。
『ぐぅ! っ』
「っ」
吹き飛ばされながらもすぅ、と息を吸い込んだハイゼンベルグ公ジェイクに、カイトはカイトは即座にその場を飛び退くと同時に、大剣を顕現させる。そうしてそれと同時に、<<龍の咆哮>>が迸った。
『がぁ!』
「はぁ!」
飛び退いた所に迸った<<龍の咆哮>>を、カイトが大剣で一刀両断に切り伏せる。が、やはり飛び退いたタイミングでのこれだ。流石に吹き飛ばされるのは避けられない事であった。そこに、ハイゼンベルグ公ジェイクが三度四つん這いになる。
「っ」
来る。カイトは収束する魔力を見て、再度の<<龍の咆哮>>を警戒する。が、そんな所に一瞬でハイゼンベルグ公ジェイクがタックルを仕掛けた。
「ぐっ! アイ……ギス!」
「イエス! 飛翔機出力最大!」
「おぉおおおお!」
唐突な衝撃に一瞬だけ意識が点滅したカイトであったが、即座に意識を取り戻しハイゼンベルグ公ジェイクをがっちりと受け止める。そうして雄叫びを上げたカイトが、思いっきり上空へと彼を放り投げた。
「はぁ……アイギス」
「イエス。照準、良し」
「撃て」
ハイゼンベルグ公ジェイクを放り投げたカイトは、即座に外装を顕現させ取り付けられたランチャーを起動。照準類をアイギスに任せ、自身は一瞬だけ呼吸を整える。
「はぁ……」
「攻撃着弾。ハイゼンベルグ公……消えました!」
「っ」
閃光が晴れた瞬間には、ハイゼンベルグ公ジェイクの姿はそこにはなかった。が、この理由がわからぬカイトではない。即座にハイゼンベルグ公ジェイクの妻が転移術で逃したのだと理解し、どこに消えたかを探し当てた。
「そこっ!」
『ふんっ!』
消えたハイゼンベルグ公ジェイクであるが、彼はカイトの真後ろに転移していたらしい。放たれる貫手に対して、カイトは大剣を振りかぶって即座に応対する。
そうして、数度の貫手と大剣の応酬が行われる事になるのであるが、これは流石に結果が見えていた。故に、劣勢に立たされる事を想定していたハイゼンベルグ公ジェイクが、至近距離で口を開く。
「っ、まずい! アイギス!」
「イエス! スラスター、逆噴射!」
貫手にしていたのは、最小限の魔力で最大の結果を得られるから。それを理解したカイトとアイギスは即座に魔導機の全身に取り付けられた小型の飛翔機を吹かせその場を離脱する。
そうして直後、ハイゼンベルグ公ジェイクの<<龍の咆哮>>が地面を舐める様に解き放たれた。そしてその反動で、ハイゼンベルグ公ジェイクもまた後ろに吹き飛ぶ。
「アイギス。今までの所、ジジイとこちらの出力ならどちらが押し勝つと思う?」
「ギリギリ、ハイゼンベルグ公ですね。流石に魔導機の出力は足りますが……公的にマスターが出せる出力を超過してしまっているかと」
「そうか……仕方がないか」
どうしても、今回の戦いはマクダウェル公カイトとしての戦いではない。故にカイトとハイゼンベルグ公ジェイクが真正面から押し合いとなれば、ハイゼンベルグ公ジェイクが勝つ事になるのは仕方がない話だ。
「……アイギス。胸部の魔導砲、チャージ状況は?」
「現在最大出力の八割に到達。後五分でフルチャージ」
「至近距離なら、現状の出力でジジイの障壁を貫けると思うが……どうだ?」
「……イエス。高確率で至近距離かつ虚を突く事が出来るなら、なんとかなるかと」
カイトの問いかけにアイギスは条件付きなら、と口にする。これに、カイトは一つ頷いた。
「そうか……わかった。なら、そうしよう」
「イエス」
一瞬の作戦会議の後、カイトは虚空を蹴ってハイゼンベルグ公ジェイクへと肉薄する。それに対抗する様に、ハイゼンベルグ公ジェイクも虚空を蹴る。そうして、両者が最初と同じく拳を交える。
『「おぉおおお!」』
再度、鋼の拳と龍の拳が激突する。が、ここからはやはり第二幕の差が出た。次の一撃が交わされるより前に、ハイゼンベルグ公ジェイクが口を開いて<<龍の咆哮>>を放つ準備を行う。これに、カイトは敢えて避ける素振りを見せなかった。
『む!?』
「おぉおおおお!」
自身の最大の一撃である<<龍の咆哮>>に対して回避しようとしないカイトに、ハイゼンベルグ公ジェイクが僅かに目を見開く。が、ハイゼンベルグ公ジェイクは一切の容赦なく<<龍の咆哮>>を放った。
「損傷甚大! が、いけます!」
「よっしゃ! ファイア!」
「ファイア!」
カイトの指示に、アイギスが胸部のカバーを内側から弾け飛ばして魔導砲の一撃を解き放つ。そうして、両者は相打ちの様に大きく吹き飛ばされていく事になるのだった。
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