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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2259話 戦士達の戦い ――終了へ――

 マクダウェル家とハイゼンベルグ家による合同軍事演習。それに冒険部を率いて参加していたカイトであるが、彼は奇策を弄してフロド、ソレイユという現代ではエネフィア一と言われる弓兵の師にして自身はエルフ一の弓取りと名高いファロスという女弓兵との戦いを繰り広げていた。

 そんな戦いはカイトが地球で手に入れた武器を使用する事によりなんとか勝利を収める事になり、遠距離戦においてはマクダウェル陣営側が僅かに有利な状態となっていた。


「うーん……これは少し拙いかな」

「おぉおおおお!」

「っと」


 瞬の猛烈な突き立てをゆうゆう回避しながら、ソンメルは全ての意識をそちらに避けない現状に僅かに苦笑を浮かべていた。無理もない。ファロスがカイトとの戦いで敗北を認め外に出された事で、フロドとソレイユは自由に攻勢に出る事が出来る様になった。結果、二人が積極的に支援に出られる様になったのである。


「ジェイク。なんとかならないかな?」

『こういう時、イクスに頼んで移動して貰うのが上策なんだが』

「それは言っても始まらないさ。実際、僕らの方だって全員が揃ってるわけでもないしね。何人かは、イクスと一緒に世界を渡ってるしね」

『わかっている……かといって、俺が出るわけにもな』


 こういう時、やはり有効なのは<<龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)>>だろう。龍族最強とも言われる一撃を放てば、十分にソレイユやフロド達の攻撃を迎撃する事は出来るだろう。が、それは総大将であるハイゼンベルグ公ジェイクがその姿を大きく晒す事に他ならず、悪手と言うしかないだろう。


「だよね……で、どうするんだい? 多分……向こうはまだ手札を隠しているよ」

『……』


 だろう。ハイゼンベルグ公ジェイクはソンメルの指摘に笑う。なにせマクダウェル公爵軍において誰よりも有名な二人が居ないのだ。何かを狙っている、としか思えなかった。


『考えるべきは、どうやれば左右の陣営を突破出来るか。そしてこの分厚い中央を突破出来るか、だ』

「どうやるんだい?」

『手が無いわけではない。幾つも手はある……その中で、姫様がどのような手を取られるか。それを考えると……』


 手は少なくなる。ハイゼンベルグ公ジェイクは笑う。喩え傍に居られなくとも、旧友のヘルメスと共に常にその動向は見守ってきたのだ。ならば取るだろう手はわかろうものであった。


『おそらく、あれを出してくるはずだ。いや……もう出しているかもしれんな』

「そっか……まぁ、それは君に任せるよ。僕らは、君を、イクスを信じて戦うだけだからね」

『ああ……その点で、我らも彼らも変わらない』


 その点はやはり親子なのかもしれない。ティナがカイトと共に歩む事について、ハイゼンベルグ公ジェイクは母親との類似性を見出す。そうしてレジスタンス一同はティナの繰り出す次の一手を待ち構えつつ、前線の維持に務める事にするのだった。




 さて、一方のティナはというと、カイトがファロスを打倒した事により次の一手を打つ絶好のチャンスと捉えて、次の行動に移るべく状況を見極めていた。


「左右、戦況どうじゃ」

「左右の戦況、膠着状態。どちらの陣営も名のある猛者達は全て戦闘中となります。残るも僅か……十分、行けるかと」

「良し」


 マクダウェル陣営もハイゼンベルグ陣営も前半戦となる午前の戦いで大凡めぼしい戦力は晒している。ティナとしては懸念事項だったフードの戦士達もレジスタンスの戦士達とわかったし、わかった以上は手の取り様もある。


「こちらの状況は」

「こちらも、言うまでもなくほぼ全ての戦力が戦闘中です……流石に叛逆戦争の英雄達に余力なんてありませんので……」

「んなもん、当たり前じゃ。あの者たちが誰か、なぞお主らの方が良く知っておろう。こちらがウチのバカども出さぬ限り、余力なぞ無いわ……それでも堪えられるのはひとえに、マクダウェル家という名に集まる猛者が多い事多いこと、と言って良かろうて」


 あちらもこちらも戦力はほぼほぼ供出済みだろう。ティナは現状を鑑みて、そう判断する。だからこそ、彼女は戦況を見極め、今こそ好機と判断した。


「アル、リィルに指示を……突破せよ、と」

「了解……指示伝達。ハッチ、開きます!」

「良し……では、そろそろ一気に押し込む頃合いじゃ」


 報告を聞きながら、ティナは僅かに笑う。そんな彼女の見守る中、モニターの中に表示されていた空母型の飛空艇のハッチが開く。それを見て、ティナは椅子に備え付けの通信機を起動させる。


「二人共、聞こえておるな。作戦は伝達した通り。フルカスタマイズした魔導機を使い、敵陣を一気に突破せよ」

『『はっ!』』


 ティナの指示に、アルとリィルの両名が承諾を示す。そうして、その会話を最後に魔導機の発進許可が下される。それを、ハイゼンベルグ艦隊の旗艦に乗るハイゼンベルグ公ジェイクは見て笑った。


「やはり、そう来るか」


 ティナの本分は言うまでもなく技術者だ。なのでティナがここで切るのは後半戦になってから姿を見せていないアルとリィルの両名専用にカスタマイズされた専用機だろう、と踏んでおり、何も問題がなかった。そんな彼に、オペレーターから質問が問う。


「大型魔導鎧を動かしますか?」

「いや、魔導機には勝てん。特にあの二機は伝説の魔王ユスティーナが専用にカスタマイズしたカスタム機。乗るのはアルフォンス・ヴァイスリッターとリィル・バーンシュタット。実力、機体性能共に優れた組み合わせだ」


 ハイゼンベルグ公ジェイクは白と赤の二機の魔導機の肩にデカデカと刻まれている両家の紋章を見て、はっきりとこの二機がアルとリィルの乗機であると断言する。

 この二人の力量は現在では皇国全軍で見てもかなりの上位に位置している。そこに魔導機という札まで揃えば、大型魔導鎧では勝てるわけがなかった。


「残るレジスタンスの残存兵力を全て両機の阻止に向かわせろ。それでどうにでもなる」

「了解しました」

「さて……」


 これで切り札は潰したが、これで終わるような相手でもないだろう。ハイゼンベルグ公ジェイクはティナの次の一手を考える。ここまでは、想定の範囲内だ。何も問題はない。が、ここから先に何が来るか、が見えなかった。それを考える彼に、数秒後。戦闘開始の報告が入る。


「レジスタンズ残存兵力、魔導機との交戦を開始」

「そうか……ふむ……」


 報告を聞きながら、ここまでは何もおかしな事は起きていない、とハイゼンベルグ公ジェイクは僅かに眉を顰める。


(ふむ……読みであれば交戦の直前か最中に、何か奇策を弄してくると思ったんだが。その兆候も見えんか)

「フロド、ソレイユの両名はどうか」

「両名共、中央の戦線に支援攻撃を継続中。結果、互角に持ち込まれています」

「構わん。それは想定内だ」


 言うまでもないが、レジスタンスの戦士達と今回集まっているマクダウェル陣営の猛者であればレジスタンスの戦士達の方が数も多いし質も高い。

 が、三百年前のエース達は質ならレジスタンスの猛者達を上回っており、ファロスさえ撃破してしまえば数の不利を覆し互角かやや優勢とする事が出来た。その意味でも、カイトの勝利はマクダウェル陣営にとって重要な意味を持つものだった。


(となると……剣姫クオンは鳳華がどうにかしている。あちらも鳳華相手に戦えるのはクオンだけだし、彼女の天将もこちらの猛者がなんとかしている。剣姫クオンを考える必要はないだろう。アイナディスは……考えるまでもない。彼女が中央の要。こちらもそれを見越した動きをしている。彼女は攻略の糸口には成り得ない)


 午前中に引き続き上空で戦う――邪魔が入るのを厭った為――クオンと鳳華らを見ながら、ハイゼンベルグ公ジェイクはティナがどんな一手を考えているか考察する。が、どれだけ考えても、現状で突破可能な戦力が見当たらなかった。


「……カイトはどうか」

「現在、最前線から一歩引いてギルドの統率に入っています。どうやら最前線のフォローに入る事にした模様」

「相変わらず小器用な奴だ……奴からの監視は決して外すな。一度でも監視を外せばどうするかわからんぞ」

「了解」


 おそらく現状自分が最前線で戦うより、一歩引いた所で支援役に回った方が良いと考えたのだろう。実際、現状はどちらの陣営も数が多い事から勇者として戦えない彼が頑張った所でさほどの意味もない。支援役として戦力を減らされない様にする事の方が全体的な役に立った。


(カイトも動く事はないか……支援しているのはおそらく本物だ。となると、次の一手を打つなら他の……まさか、姫様が直々に出られるおつもりか? 確かに、姫様も並の冒険者ではない、となっているが……だからといって、姫様お一人でどうにかなる段階はもう過ぎている。後方で準備していた……とするには兆候が無い。これも違うか)


 となると、後は誰があり得るか。ティナも動かない公算が高い以上、ハイゼンベルグ公ジェイクには何が考えられるか見えず、僅かな困惑を露わにする。


(マクダウェル陣営側の猛者は全て出ている。こちらがレジスタンスの戦士を出した時点で、あちらには人員の意味で手札を隠していられる余裕は無い……そもそも隠してもいなかったが。では、何だ?)


 カイト達が勝利を狙わない可能性はハイゼンベルグ公ジェイクはあり得ない、と判断していた。彼ららしくないし、演習だからと不必要なまでに手を抜くのも彼ららしくない。


(……わからん。何が、足りていない)


 おそらくこの次の一手こそ、本当のカイト達の切り札だ。ハイゼンベルグ公ジェイクはそうわかっていればこそ、苦い顔だった。が、その次の一手が読み切れないのだ。故に、総当たりでマクダウェル陣営の手札を潰していく。


「カイト麾下の三人娘は」

「マクダウェル艦隊周辺にて支援砲撃を実行中」

「スカーレット達の妹はどうか」

「最前線にて交戦中。古代文明の生き残りの少女。アイナディスと共に要となっています」

「ちっ……」


 ここも外れか。マクダウェル陣営の中でもティナに近く、実力の高い猛者四人が外れの現状に一度だけ舌打ち。苛立ちを追い出す。そうして、彼は更に数名の名を上げてはそれら全てが外れである事を確認する。


「……っ……まさか……」


 数分の間、徹底的にあり得る札を潰していったハイゼンベルグ公ジェイクであるが、そこで唐突に目を見開く事になる。そんな彼の視線の先には、レジスタンスの戦士達の上空で戦うアルとリィルの魔導機の姿があった。


「カイトは!」

「は? い、以前支援を行っておりますが」

「本物か?」

「はい。旗艦の甲板にて魔術師が目視で確認しております」

「となると……」


 どうやってこの状況からそうするつもりだ。ハイゼンベルグ公ジェイクは僅かに逡巡する。が、その答えは、すぐに出て来た。


「マクダウェル艦隊空母、ハッチ開きます!」

「っ! 来るか! バカ正直に!」


 現状、完全に膠着状態だ。ここから押し込むとなると強大な戦力が必要だが、それが見えなかった。そしてカイトもそうはなれない。なのでどうすれば良いか考えたが、考えるまでもなかった。単に引いて支援役となっている彼を乗せれば良いだけだ。


「え? 大丈夫なんですか?」

「問題は無い! あの機体は魔導機の開発機として登録されている! 唯一の、複座機だ! 複雑な操縦は一切がサブパイロットが行う! 誰でも、扱える様になっている!」


 忘れていた。ハイゼンベルグ公ジェイクは現在はカイトの専用機のみに搭載されている複座機としての機能を思い出し、笑う。どうすればカイトが魔導機のパイロットとして動けるか。魔導機が一人乗りと思ってしまった彼の失策だった。そうして、彼の見ている前でカイトが彼専用機にして開発機である魔導機に乗り込んで、一気に突っ込んでくるのだった。

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