第2257話 幕間 ――炎使いとの戦い――
マクダウェル家とハイゼンベルグ家による演習。それは昼を経て改めて作戦や陣形の組み直しが行われ、第二部となっていた。そんな第二幕はハイゼンベルグ公ジェイクが早々にレジスタンス時代の仲間というある意味では大人げない手札を早々に切った事により、マクダウェル陣営はなんとか早急にレジスタンスの戦士達を攻略する事を強いられる事になってしまう。
というわけで、そんな現状を受けてティナはマクダウェル陣営の腕利き達によるレジスタンスの戦士達の速攻の撃破を指示。カイトはその腕利きの一人として、戦いに参加。
同じく腕利きの一人として参戦した瞬やフロド、ソレイユ達の支援を受けレジスタンスの戦士達の前線を突破して、前線でも最後尾に控えていたファロスという女弓兵との戦いに臨んでいた。その一方、ソラと瞬はというと先の流れのままソンメルとの戦いに臨んでいた。
「うん! 君達も中々にやるね!」
「いやいやいや! どんな芸当っすか!」
数十の分身を操りながら戦闘を行うソンメルに、ソラが思わず声を荒げる。さすがのソンメルもカイトが相手でないのなら手加減をしようと思ったのか、分身一つ一つの戦闘力はカイトに対して出していた分身とは比べ物にならないほどに弱い。なのでソラでもなんとか対応出来ている、というところであった。
「そうでもないよ! これはあくまでも、君がやっている事を更に高度にやってるだけさ!」
それはわかるけど。ソラは同じく<<風の踊り子>>を操りながらも、やはり練度や技術の差が大きい事を理解していた。だからこそ、彼もまた一人では挑んでいない。
「はぁああああああああ!」
「うん! 面白いほどに君は槍を投げられるね!」
どどどどどっ、と降り注ぐ槍の雨を切り払いながら、ソンメルが笑う。が、こんなもので彼を止められるのなら誰も苦労はしない。なので瞬もこれは次の攻撃への布石としか認識していない。そうして、ソンメルが切り払う必要がないと判断し地面に突き刺さった無数の槍が雷を帯びる。
「<<雷帝の雷槌>>!」
「おっと!」
「ソラ!」
「うっす!」
瞬の声掛けを受けて、ソラは上空へと舞い上がったソンメルに向けて<<偉大なる太陽>>を構える。
「おっと! それは拙いね!」
地面では槍が共鳴しあい雷の網を張り、着地は難しい。かといってこのまま上空に居てはソラの<<偉大なる太陽>>の餌食だ。ソンメルはレジスタンスの戦士でも有数の力量を有しているが、今回は演習という事もあって<<偉大なる太陽>>を本気で受け切れるだけの力は出すつもりがない。なので直撃イコール敗北と考えて良い。そんな彼に、ソラは容赦なく<<偉大なる太陽>>を振り下ろした。
「<<偉大なる太陽>>!」
「っと!」
「あ、ちぃ!」
分身を足掛かりにその場から高速で移動したソンメルに、ソラは思わず舌打ちする。が、そうして移動した先に、瞬が先回りしていた。
「問題無い! 俺が居る!」
「おっと……でもね!」
しゅぼんっ。そんな音を立てて、ソンメルの持つ両手剣が発火する。そうしてそれをまるでジェット噴射の様に吹かせて、彼は一気に加速した。
「はぁ!」
「っ!」
加速したソンメルの一撃を、瞬は槍で防いでなんとか凌ぐ。が、そもそも空中で移動する術をほとんど持たない彼だ。どうする事も出来ず地面へと叩きつけられた。そうして雷の網の中に叩き落された瞬であったが、そもそもこの雷は彼が生み出している物だ。別に何らダメージはなかった。そんな彼を見下ろして、ソンメルは僅かに苦笑する。
「追撃は……無理そうだね」
「いけっ!」
「はっ! <<雷鞭>>か! 久しぶりに見たね!」
周囲の雷の網を操り鞭の様に一本にした瞬の中距離攻撃に、ソンメルは笑いながらそれを炎を纏わせた剣で斬り裂いた。が、切り裂けたかの様に見えた雷の鞭はそのまま彼の剣に絡み付く。斬り裂かれる一瞬前に、瞬が鞭の先端を分裂させたのだ。
「む?」
「ソラ! 今だ!」
「うっす! もう一発!」
「おっと……」
これはかなり拙い。ソンメルは地上を照らす太陽の如く極光を放つ<<偉大なる太陽>>を見ながら、楽しげに笑う。このまま両手剣を手放さねば、<<偉大なる太陽>>の一撃をモロに受ける。かといって剣を手放せば、武器を失う。痛し痒しであった。とはいえ、ソンメルの選択なぞ決まっている。
「<<偉大なる太陽>>!」
「っと!」
ソラの<<偉大なる太陽>>の一撃が放たれる一瞬前。武器を手放したソンメルが手のひらから炎を放って緊急離脱する。そうして武器を失った彼が、少し離れたところに着地した。
「ふぅ……」
「なんとか……っすかね」
「なんとか、か。手加減されてはいるが」
まだまだ余裕綽々という具合のソンメルの姿を見ながら、ソラと瞬が僅かに頷きを交わす。確かに手加減はされているが、それでも武器を失わせる事が出来ただけ十分だろう。と、思ったのは早計だった。
「はっ……うん! 久しぶりだ! 久しぶりに、<<白焔剣>>ソンメルとして戦おう!」
「「……」」
もしかして今までは<<炎剣>>ではなかったのか。ソラと瞬は楽しげに笑うソンメルに、そう思う。そんなソンメルの手には、白い炎で編まれた剣が握られていた。そんな彼であったが、困惑気味な二人を見て小首を傾げる。
「あれ……聞いてないかな。僕は実は元々は<<白焔剣>>のソンメルって言われていてね。<<炎剣>>は単に縮められて言われる様になっただけだね。スーマルとの関係もあったし」
「す、すんません……初耳っす」
「す、すいません……自分も……」
少し残念そうなソンメルの言葉に、ソラと瞬は申し訳無さそうに謝罪する。これに、ソンメルは僅かに肩を落とす。
「そっかー……まぁ、君達は来て少しだし、僕らの世代とは関わらないだろうからね。覚えておいてくれると嬉しいな」
「うっす」
「はい」
致し方がないとはいえ自分が知られていないとなると、やはりソンメルも少し残念そうだった。そんな彼だったが、一転気を取り直してソラと瞬の返答に一つ嬉しそうに頷いた。
「うん、ありがとう……まぁ、ついでだから教えてあげると、僕は<<白焔剣>>。兄弟のスーマルは<<黒焔拳>>と呼ばれててね。ほら。今あの子と戦ってるのが、スーマルだよ」
ソンメルの言葉に、ソラと瞬はエルーシャと炎の拳を交えるスーマルを見る。エルーシャの拳は赤い炎だったが、スーマルの拳はソンメルの言う通り黒い炎だった。
なお、この二人の一撃一撃で爆発が起きて爆音が轟いているが、誰も気にしてはいなかった。そうして一度スーマルとエルーシャの戦いを見た三人は、改めてお互いを見る。
「さっ……お話はこれぐらいにして、そろそろ戦いに戻ろうか」
「「……」」
おそらくここからが本番なのだろう。ソラも瞬も再度気を引き締める。そんな二人の前で、ソンメルは感覚を確かめる様に白焔の剣を振るう。
「はっ……うん。十分かな」
「「えぇ……」」
軽く素振りしただけで地面がマグマ化したのを見て、ソラも瞬も頬を引き攣らせる。明らかに一撃が先程までと比較にならなかった。
「……ソラ。悪いが、フォローを頼む。俺だと一撃受ければ確実に消し炭だろう」
「うっす……下手すっと俺も一撃貰えば消し炭になりそうっすけど」
「大丈夫か?」
「うっす……アルから幾つか手は聞いてるんで」
流石にこんな一撃をモロに受ければ一撃でアウトだろう。ソラも瞬もそう認識する。そしてそれは正解だ。故に、二人はお互いの得意分野で応対する事を決める。
「そうか……なら、頼む」
「うっす」
「決まったかな? じゃあ、行こうか!」
どうやら話し合いを待ってくれていたらしい。ソンメルは二人の合意を見て戦いの再開を告げる。そうして戦いの再開を告げた彼であったが、そんな彼が白焔の剣を地面に突き立てた。
「はぁ!」
「「!」」
何が来るかはわからないが、間違いなく拙い。ソラと瞬はそれを察して空中へと跳び上がる。そうして、次の瞬間だ。まるで火山の噴火の様に、地面から無数の炎が吹き出した。
「さぁ、行くよ!」
空中へ飛び上がった二人に向けて、ソンメルは地面から白焔の剣を抜いてそのままの勢いで空中へと躍り出る。そうして彼がまず狙ったのは、瞬だ。
「はぁ!」
「っ!」
「おっと……少し甘くみてしまったかな?」
爆炎を利用してその場を離れた瞬に、ソンメルが笑う。そうして緊急離脱した瞬であるが、彼は地面に着地すると急制動を仕掛ける。これに、ソンメルは追撃は仕掛けなかった。いや、仕掛けられなかった。
「その網。中々に厄介だね」
「はぁ……」
なんとか体勢は立て直せたか。瞬は自身が生み出していた雷の網の中で、一度だけ呼吸を整える。この網の中に突入するつもりはソンメルにも無いらしく、この中はある程度の安全が担保されていた。とはいえ、だからといって攻撃が出来ないわけではない。
「とはいえ……入れないなら、伸ばすまでだよ!」
「っ!」
「そりゃ、無理ってもんでしょ!」
「おっと!」
急激に伸びて瞬を狙うソンメルの白焔の剣に対して、瞬より少し遅れて着地していたソラは<<偉大なる太陽>>の輝きを伸ばして迎撃する。そうして、伸びた両者の剣戟が激突。極光を生み出した。
「おぉおおおお!」
「おっと! っ」
ソラとの鍔迫り合いの最中。ソンメルは嫌な気配とでも言うべきか、そんな気配に気付いて敢えて押し負けて吹き飛ばされる。そうして彼が今まで居た場所を、炎雷を纏う槍が通り抜けた。
「へぇ……今のは中々な威力だね」
こっちも直撃すれば拙そうかな。ソンメルは瞬の投槍にそう判定を下す。そうして空中で姿勢を整えて、彼は改めて二人を見る。
「さて……二人共飛べないのは、少しいただけないかな」
一応、二人も猛者と言えるだけの戦闘力は持っている。ここに<<原初の魂>>等を使えば、十分に自分達とも戦えるだろう。ソンメルは二人の戦闘力についてそう判断を下す。が、それでも、否、それ故にこそ飛空術が使えないという点が気になった。
「うん。これについては勇者くんに言っておこう。とりあえず、今は目の前の敵に集中だね」
飛空術についてはカイトが考えるべき事だし、今は戦闘の真っ最中だ。飛空術について何か考えるタイミングではなかった。というわけで、ソンメルは地面に急降下して、白焔の剣を地面へと突き立てる。
「はぁああああ!」
「「っ」」
またか。瞬とソラは地面から僅かに漏れた炎の予兆を見て、先と同じくソンメルが地面から噴火の様に炎を吹き出させるつもりなのだと理解する。そしてそれで良いのであるが、今回の意図は異なった。
「はっ!」
気合一閃。先程とは違い追撃せずにソンメルが気合を込めると地面が爆ぜて、その上に乗っていた瞬の槍が諸共に吹き飛ばされる。
「これで、地面でも戦えるね」
「「……」」
笑うソンメルに、ソラと瞬は一気に攻め掛かるしかないと判断する。そうして、二人は一気呵成に攻めかかり、ソンメルと戦い続ける事になるのだった。
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