第2255話 戦士達の戦い ――第二幕――
マクダウェル家とハイゼンベルグ家。その二つによる合同軍事演習。それは昼を挟んで、改めて第二部となる事になっていた。というわけで、改めて両陣営作戦を練り直し、隊列を整えていた。そうして整えられたハイゼンベルグ陣営の隊列を見て、上空の皇帝レオンハルトは楽しげに笑っていた。
「まぁ、こうなるしかないか」
「はぁ……」
「わからんか?」
楽しげな自分に対して生返事な従者に、皇帝レオンハルトは楽しげに問いかける。これに、従者は首を振る。
「いえ、こうなるしかない、というのはわかります。流石に、その……なんと言いますか、ハイゼンベルグ公が用意された戦力は格が違う。この陣形しかマクダウェル家は取る事が出来なかったでしょう」
「ああ……まさか、各家の初代達を呼んでくるとはな。これはハイゼンベルグ公にしか出来ぬ芸当であろう」
おそらく、自分でも無理だろう。皇帝レオンハルトは権威と権力が別物である事を理解していればこそ、各家の初代達を呼び出す事の難しさを理解していた。
彼らは大半がすでに隠居している身だ。なので隠居を理由に現代の当主達が基本的には動き、如何に皇帝でも特段の理由がなければ初代達を指定して呼び寄せる事は出来ない。道理にそぐわないからだ。
が、同じくレジスタンスの戦士であったハイゼンベルグ公ジェイクなら、仲間であればこそ呼び出せる。と、そんな事を思う皇帝レオンハルトに、ふと従者の一人が問いかける。
「そう言えば……ふと思ったのですが」
「なんだ?」
「どうしてハイゼンベルグ公は未だ引退されないのでしょう」
「引退して欲しいのか?」
「い、いえ! そんなわけでは」
どこか冗談めかした皇帝レオンハルトの言葉に、提起した従者は大慌てで首を振る。と言っても、これは単なる皇帝レオンハルトの冗談だ。故に、彼は噂話、と告げる。
「これは、まだ俺が皇太子となるより前に聞いた噂だが……ハイゼンベルグ公がマクダウェル公が地球に戻り半ば隠居に近い状態になってなお一線を引かない理由は、何よりマクダウェル公が地球に戻ったからだという」
「とどのつまり……かつての仲間の遺児が戻ってきた際の土台を作る為、そしてフロイライン代行の後見人を務める為、と」
「普通に思えば、そう思うだろう」
カイトの為。確かにこれはあり得るといえばあり得る理由だろう。改めてになるが、カイトはエネフィアでは皇国の初代宰相にしてハイゼンベルグ公ジェイクと双璧を成す賢者ヘルメスの養子だ。
そのヘルメス翁の死の遠因と自身を考えていたハイゼンベルグ公ジェイクにとって、カイトとアウラは共に亡き戦友の遺児だ。立場云々より優先されるもので、三百年前の戦争以降彼が引退しない理由は一般的にはそう考えられていた。
「が……この光景を見て俺は少しだけ、考えを改めた」
「違う、と」
「ああ……正直、実は俺はこの光景を見る前はハイゼンベルグ公がここまで強くレジスタンス時代の繋がりを持ったままだとは思っていなかった。無論、一部の戦士達とは三百年前のこともあり繋がりを持っていたとは思っていたが……」
皇帝レオンハルトは先にカイトが戦った<<炎剣>>と呼ばれるソンメルの事を思い出す。皇帝レオンハルトもバーンシュタット家の血を継ぐ者として火属性にはそれなりの適性を有する為、優れた火属性の使い手たるソンメルの名は聞き及んでいた。実は何度か話もしており、薫陶も受けていた。そのソンメルを紹介したのはハイゼンベルグ公ジェイクだった。
「<<桜剣>>、<<飛剣>>鳳華……それ以外にも数多の歴史に消えた猛者が居るか。この演習が決まって、探そうとして探せるわけもない。どこに居たのやら」
「……元々即座に連絡が取れる様にしてた、というわけですか」
「そうだな。何時でも連絡が取れる様にしていたのだろう……マクダウェル公と同様にな」
英雄だから同じ様にしていたのか、それとも何か別の理由があったのか。それは皇帝レオンハルトにはわからぬものの、兎にも角にも即座に連絡が取れた事だけは確定だろう。未だ繋がりを持ち続けていた事の証左だった。そうして、彼はハイゼンベルグ公ジェイクが一線を退かない理由を述べた。
「……おそらく、レジスタンスの者たちが動ける土台を維持する為、そのまま残っているのだろう」
「動ける土台? 必要……でしょうか」
彼らは言うまでもなく、この皇国を築いた英雄達だ。各家共にその意向を無視する事は不可能に近く、彼らが動くといえば動ける。が、これに皇帝レオンハルトは笑う。
「ははは……彼らなりの遠慮よ。初代があまり好き勝手しては、当代達も立つ瀬があるまい。それ故にハイゼンベルグ公が残り、動ける土台となってやったのだろうな」
「ではマクダウェル公は一切無関係、と」
「いや、違うだろう……理由までは察せられんがな」
従者の問いかけに、皇帝レオンハルトはそううそぶいた。彼はティナが自分達とは違う血統のイクスフォスの子孫である事を知っている。そしてカイトが知っていた事もまた知っている。
なのでカイトがその土台となる事で一線を退くつもりであったが、三百年前の事件によりカイトが引いた事で必然としてハイゼンベルグ公ジェイクが引退できなくなったのだ、と皇帝レオンハルトは考えていた。
「はぁ……とはいえ、そうであるのなら遠からず引退されるおつもり、なのでしょうか」
「かも、しれん」
特に今はティナが自らの血統を認識し、エンテシア家当主となっている。もはやカイトがレジスタンスと皇国の架け橋となれる事は確定的であり、皇帝レオンハルトが見通した理由が理由であれば、もはや引退しない理由が残っていなかった。
「……まぁ、それは今ではあるまい。今は、まだ一線に残らねばなるまい」
皇帝レオンハルトは笑いながら、改めて戦場を見る。そんな彼の見守る前で、昼からの第二部が開始される事になるのだった。
皇帝レオンハルトが従者達と共にハイゼンベルグ公ジェイクの引退しない理由を話し合っていた頃。陣形を組み上げた両陣営の片方。マクダウェル陣営側にて、カイトは笑っていた。理由は簡単。皇帝レオンハルトと同じく、予想していた陣形になっていたからだ。
「やっぱ、こうなったか」
「想定通り、か」
「あー……がち憂鬱……」
カイト、瞬、ソラの三名は昼の間に言われていた通り、レジスタンスの面々に対抗する為の戦力として集められていた。そしてハイゼンベルグ陣営の隊列も、カイト達が見通していた通りだった。これに、瞬が見たままを告げる。
「中央に位置しての正面突破……いや、この場合はこちらの正面突破を防ぐ為の中央の層を厚くしている、という所か。カイト。作戦通り、で良さそうか?」
「良いだろう。というより、この場合は向こうもそれを想定して動いた、という所だろうが……」
改めて、カイトはハイゼンベルグ陣営中央を見る。考えるまでもなく、これはカイト達に対応する為の隊列だろう。とはいえ、素直にこれをそのままと捉えれば良いかは、話が別だ。というわけで、ここからの戦いが見え嫌そうなソラが問いかける。
「……で、カイト。見事に敵陣が想定通りになったわけだけど、そうなると何が狙いか、ってのも気になるんだけど」
「ふむ……まぁ、一網打尽……は考えちゃ居ないだろうが」
する事も難しいだろうしな。カイトはこちら陣営の状況を鑑みながら、そう呟いた。そんな彼に、今度は瞬が問いかける。
「というか、これが想定内になる理由はあるのか?」
「単純だ。こっちが中央に戦力を集中させた場合、あっちも戦力を中央に集中させないと突破されちまうからな。逆もまた真なり……となると、どちらも中央に戦力を集中させる事を警戒してこの陣形になる」
「なるほど……それで、この必然か。敢えて外す意味もないだろうしな」
「そういう事だな。実際の所、中央突破をされるのは何より拙い……よほどの策があるなら別だがな」
そのよほどの策は今の所思いつかないが。カイトは瞬の言葉にそう告げる。こうなってくると後は如何に速攻を仕掛けられるか、という所になってくるが、そこは中々厳しいだろう。が、ティナが言う通りやらねば負けだ。そうして、カイトは僅かに苦味のある様子で告げる。
「どちらも初手からフルスロットル……だな」
「楽しそうではあるが……何か微妙に嫌そうだな」
「そりゃそうだ……ここからは大凡の展開は決まってる。外したいが、どちらも外せん。多分、皇帝陛下は今頃笑ってるだろうがな。参加する身としちゃあまり笑えん」
実際に笑っているわけであるが、これはカイトの預かり知らぬところだ。というわけで、カイトは改めて気を引き締める。
「ティナ……大凡、予想通りで進められそうだが」
『うむ……まぁ、後はなんとかするしかあるまい。こちらも最後方で支援はしよう』
「あいよ……さて」
後は開始を待つだけか。カイトは改めてハイゼンベルグ陣営を確認する。言うまでもなく、その中央には鳳華やソンメル――昼に入った事で彼も復帰した――らが位置しており、楽しげに笑っていた。
「左翼……<<暁>>ハイゼンベルグ領支部支部長フィアンマを筆頭にした冒険者達。右翼……は、ハイゼンベルグ軍特殊部隊か」
どちらも、決して油断出来る相手ではない。が、これをなんとかしない事には、勝利はなかった。
「……アル。そちらの状態は?」
『問題無いよ……相手方も知ってる』
「そうか……ティナ。此方側の右翼は?」
『やる気十分、だそうじゃ。ま、久方ぶりに兄弟喧嘩というところなのであろうな』
カイトの問いかけに、ティナはピュリから寄せられた報告をそのまま彼へと告げる。今回、カイト達はこの陣形を想定していた。なのでアル達マクダウェル軍特殊部隊をハイゼンベルグ軍特殊部隊へ。<<暁>>には<<暁>>をぶつける策を取っていた。
「良し……アル。悪いが、お前には頑張ってもらうぞ?」
『うん……そのために、良い装備やらを貰ってるからね。その分の働きはさせて貰うよ』
「頼むぞ」
当たり前だが、カイト達とて単純に中央突破なぞ狙っていない。出来るとも思っていないからだ。ならば、策の一つも打つつもりだった。そうして一通りの確認を終えた後、彼は戦いの開始までに小さく呟く。
「さぁ、ジジイ……あんたがあんたにしか出来ない事をするってんなら、こっちもこっちにしか出来ない事を存分にやらせて貰おうじゃねぇか」
楽しげに笑いながら、カイトはハイゼンベルグ公ジェイクへと告げる。そうして、そんな彼の意思を受けたかの様に演習再開のカウントダウンが始まるのだった。
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