第2254話 戦士達の戦い ――昼休憩――
マクダウェル家とハイゼンベルグ家が合同で実施している合同軍事演習。どちらもそれぞれ切り札や策を切りつつ進んでいた両陣営であるが、カイトの最前線への到達をきっかけとして両陣営は一時的な中断を決定。ほぼ同時に戦場を後にして、昼休憩となっていた。
「はぁ……やっぱ強いな、彼らは」
「先輩。実際、どんなもんだったんっすか?」
「強い。一言で言うまでもなく、強い」
基本的に昼休憩の間はギルド単位で纏まっている様に指示が出ている。なので冒険部の上層部もそうしており、カイトのしみじみとした言葉にソラがふと瞬へと問いかけ、瞬ははっきりと明言する。
「多分、基本的なランクで言えばA相当は確実。上の人達だとランクSは確定だろう。あのアンナイルさん……だったか。アイナディスさんのお祖父さんらしいんだが、おそらく俺一人だと勝てないだろうな」
「勝てないさ。あの人は先代の……あれ、先々代だったかな? まぁ、どっちかの近衛兵団長だ」
「やはりか……なんとなくだが、そんな気がしていた」
どうやら瞬はアンナイルの圧倒的な強さから、彼が七百年前にはそのぐらいの地位に居てもおかしくない、もしくはいないとおかしい、と思っていたらしい。カイトの情報にしきりに頷いていた。が、一方のソラは盛大に肩を落とす。
「ってことは、あんな人がまだ数十人も居るってことっすか……」
「……まぁ、そうなるか」
「そうなるな……普通に考えてやばい話だが」
ソラの指摘で事実に気付いた瞬が唖然となり、一方のカイトはそんな事は何時もの事なのか、言葉に反して特段気にしている様子はなかった。
「気楽そうだなぁ、お前……」
「気楽そうっていうかなんていうか……面倒な事態が増えれば増えるほど、諦めるしかない。諦めろ。あがいた所で現実は変わらん。なら、諦めて現実を受け入れる。それが何事も肝心だ。んで、諦めたら腹括れ。腹括ったら大抵の修羅場はなんとかなる……ならないと死ぬからな」
「なんというか……」
「お前が言うと説得力あるなぁ……」
瞬もソラも、カイトが勇者カイトであればこそその言葉にある実感が理解できた。これに、カイトは呆れる様に笑う。
「あっははは……ま、やるしかねーからやるしかねーんだよ。なら諦めて腹括るしかないってだけだ」
「やらなきゃならないからやる、ねぇ……」
そうやって出来る奴は、この世界に何人居るのだろうか。ソラはカイトの言葉にそう思う。実際、これはカイトの持つ稀有な性質として、多くの者には認識されていた。というわけで僅かな沈黙が舞い降りるが、一転してソラが問いかける。
「……で、腹括って、どうするんだ? 何か妙案あるのか?」
「ねぇよ……腹を括るは良いが、現状は打つ手なし。相手に戦力が整い過ぎてる。つーか、正直やりすぎだ。あのジジイ……よりにもよってレジスタンスの人達を連れてくるとか、冗談じゃねぇ。ぶっちゃけ、どうすっかなー、レベルの話だ」
「結局それかよ!」
完全に投げっぱなしのカイトに、ソラが思わず声を荒げる。とはいえ、カイトとて何も考えていないわけではないらしい。
「いや、正直なぁ……先輩も言っただろ? アンナイルさんの時点で並の戦士じゃタイマンは無理だ。で、あの領域でもまだ中堅。ソンメルさんとかのガチ勢になると、もう頭を抱えたくなる。ちな、ハイゼンベルグ公は中堅クラスな。アンナイルさんと同格……ま、アンナイルさんは兎も角、あっちは軍師だからな」
「あの人で中堅なのかよ……あの人、俺以上だってのに……」
ソラはかつて見たハイゼンベルグ公ジェイクの腕を思い出し、それでなお中堅という層の厚さに肩を落とす。これに、カイトも呆れる様に笑いながら肩を落とした。
「そーいうもんだ、英雄達なんてのは」
「いや、その一番上がお前だろ……」
「まーな……まぁ、その最強も戦えなきゃ意味がない。今のオレは所詮はランクA上位の冒険者って所だ。何か手は考えんと、どうしようもない」
「なんか、手ねぇ……」
カイトの言葉に、ソラが思考を巡らせる。そこに、瞬が問いかける。
「そういえば、現状の冒険部の戦力はどうなるんだ?」
「昼からは再開、ではなくゼロから、になる話はしたな?」
「ああ。そう聞いている」
「なので冒険部も全員復帰状態で戦闘開始だ。負った怪我も全回復。やられて外に出された奴も中に戻ってこれる」
「ふむ……そうなると、昼からは最初の編成で開始で良いのか?」
一応、戦いの中盤で戦力の再編成を行い別働隊を新たに組織していたが、それはあくまでも被害があったのでそれに合わせて編成を練り直しただけだ。全員が復帰するのであれば、敢えてそうする意味もない。と、これにカイトが少し考える。
「ふむ……どうするかな……」
「何かあるのか?」
「ふむ……トリン。一つ意見を聞きたい」
「え、あ、はい。なんですか?」
今まで今回の演習で得られた情報を集約し解析していたトリンであるが、唐突なカイトの問いかけに顔を上げる。それに、カイトが問いかけた。
「現状、ハイゼンベルグ公が取るだろう手として一番可能性が高いのはレジスタンスの面々を最前線に配置する事だと思うんだが……どう思う?」
「そうですね。僕もその意見には同意します……全員かどうかは別にして、ですが」
「まぁ、そこはオレも同意だ。あのハイゼンベルグ公がバカ正直に戦力を集中させるとは思い難い。こちら陣営の手札を注視している事もあるだろうしな」
どうやら手をこまねいている、とは言ったもののマクダウェル家として切り札を用意していないわけではないらしい。カイトは暗に手札がまだ残っている事を口にする。が、単にどれもこれもがレジスタンスの面々に真正面から対抗できる札とは言い難いので、というだけだ。と、その二人の会話にソラが口を挟む。
「それでも、前線に出すのか」
「うん……今回のハイゼンベルグ公の狙いは士気高揚。これは皇国全体のね。で、後半戦は初手で切って士気高揚に存分に活用すると思うよ。こっちは、演習でのハイゼンベルグ陣営の士気だね」
「そういや、さっきカイトも言ってたなぁ……」
「ということは、相手はかなり高い士気という事か」
「そうなります」
続く瞬の懸念に、トリンははっきりと頷いた。相手は士気も高く、戦闘力としてはかなり高い面々が主軸となっているという。必然、前半戦より遥かに難局が予想された。それに、瞬は僅かに眉間にシワを寄せる。
「何かを、考える必要があるか」
「ええ……何かを……レジスタンスの方々を食い止められるほどの策を」
「何か思い当たる節とか無いのか?」
「そうだねぇ……」
ソラの問いかけに、トリンは少しだけ困ったような顔を浮かべる。そうして、暫くの後に彼が口を開く。
「カイトさん。現在、本陣ではどんな策が考えられていますか?」
「うん? 一応、ティナからの報告だと幾つかのプランは練られているが……どれも決め手に欠く状況か。流石にあいつもレジスタンスの面々が勢揃いする事は想定していなかった。一応、それでも手は考えているが……最終的にどうするか、という段階だ」
トリンの問いかけに対して、カイトは通信機を介して入ってくる報告をそのまま告げる。
「やっぱり、そうですかね」
「今回ばかりはなぁ……クオンにアイナに、と対応出来る奴が来ちまったのが拙い。おまけに、ソレイユ達のお師匠さんまで来ちまった。遠近共に対応済み。どうしようもない。数が足りん」
『足りん、と言うても始まらん。足りぬなら用意するまでじゃ』
「あー……話聞いてる?」
『うむ』
どうやら通信機がオンになっていた事により、ティナはカイト達の話を聞いていたらしい。というわけで、彼女がカイトへとひとまずの策を告げる。
『で、足りぬなら用意する……となるともう今回は速攻で仕留めるしかない』
「えー……」
「わー……」
カイトはしかめっ面で、トリンは半ば驚いた様に、半ば呆れる様にティナの言葉に笑う。二人共その意図を掴んだらしい。これに、ソラが問いかける。
「どうするんだ?」
『初手フルスロットルでレジスタンスの戦士達を一掃する。士気も高く、個々の能力も高いような奴らと真っ向勝負を挑んでも碌な事はない』
「それが出来ないから困っているんじゃないのか?」
ティナの言う事は尤もであるが、同時にそれが出来ないからこその問題だ。というわけでの瞬の指摘であったが、これにソラがようやく理解したらしい。
「えっと……ちょっと待って? つまり、そういう事?」
『そういう事じゃ』
「うわー……それ、賭けじゃね?」
『賭けじゃのう……が、賭けに勝てねば勝機は無い』
ソラの指摘に対して、ティナは半ば呆れつつ、半ば諦める様に告げる。どうやら彼女も彼女で諦めて腹を括ったらしい。カイトに似た様子があった。と、いうわけでほぼほぼ策を理解した一同であったが、唯一理解出来ていない瞬が問いかけた。
「……つまり、どういう事なんだ?」
「多分……<<原初の魂>>を使って一気に突破……って所っしょうね」
「なっ……そもそもそんな居ないだろう?」
一瞬絶句した瞬であったが、そんな彼は即座に尤もな指摘を行う。そもそもランクSの冒険者が切り札として切るのが、<<原初の魂>>だ。それをバカスカと切れるわけがない。そして当然、これはティナもわかっていた。
『んなもん、わかっとるわ。使うのは一部だけじゃ。それ以外は加護やらブーストで増幅。さっきお主らがアンナイルと戦った際にジュリエットの奴がやった事を更に規模を広げてやろう、というわけじゃ』
「本当にやけっぱちというか……速攻を仕掛けないとまずそうな作戦だな」
『そうせねばなるまい。相手の士気は高く、削り合いになれば負ける可能性は高い。こちらの士気の減少を見ても、初手で士気を稼ぐ必要がある』
「ふむ……」
確かに、ハイゼンベルグ陣営の士気の高さは瞬から見てもわかった。あの時点で引いてくれて助かった、とは内心思っており、瞬としても士気を高める何かしらの策が必要な事はわかった。それが、初手でレジスタンスの面々を抑え込むという事だった。
『正直、両陣営共に被害は大きくなるが……あんなフザケた札を切られては仕方があるまい』
「……ということは、俺もそちらになりそうか?」
『じゃのう……本隊については桜らに率いさせい。兎にも角にもあやつらをなんとかせん事にはどうしようもない』
瞬の問いかけに対して、ティナは彼もまたレジスタンスの面々と戦う主軸になるだろう事を明言する。というわけで、一通りの話が終わった所で、カイト達は改めてしっかりと休息を取り、昼からに備える事になるのだった。
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