第2252話 戦士達の戦い ――侵攻――
マクダウェル家とハイゼンベルグ家による合同軍事演習。その最中で起きていたアイナディス、瞬、エルーシャの三人と彼女の祖父アンナイルとの戦い。これはアイナディスが打った策により、アンナイルはソラの神剣の光に飲まれて戦闘不能と判断されてしまう事となる。
「はふぅ……」
「お疲れ様」
「おう。サンキュ」
ソラはトリンから差し出された回復薬を受け取って、<<偉大なる太陽>>の使用に伴う魔力の減少を癒やす。
「流石に……これで大丈夫、だよな?」
「流石にね。今の直撃はどうやっても避けられなかったし、直撃も直撃。完璧に入ってた。十分、戦闘不能だよ」
「なら、大丈夫か」
トリンの返答にソラは<<偉大なる太陽>>を改めて腰に帯びる。と、そんな所にアイナディスに放り投げられた瞬とエルーシャが着地する。
「ととととと!」
「とぉ!」
「っと! 先輩、それとエル」
「ああ……上手くいったか?」
「うっす。なんとか」
瞬の問いかけに、ソラはひとまずの結果を明言する。これに、瞬もまた一息ついた。
「そうか……アイナディスさんは?」
「アイナさんなら、あっちっすね……?」
アンナイルが放っていた閃光の残滓の中に居たアイナディスを指し示した次の瞬間、銀色の閃光が通り過ぎたのをソラは見る。そうして恐る恐る横を見ると、銀髪に変貌したアイナディスが立っていた。
「ふぅ……二人共、無事ですね……どうしました?」
おそらく数キロを一瞬で移動したらしいアイナディスであったが、その速度は確かに<<銀閃>>の名に相応しいものであった。が、それにソラは只々唖然となるばかりであった。確実に、<<雷炎武>>展開時の瞬の速度さえ超過している様子だった。
「なんでもないっす」
「こっちは二人共、問題無いです。そちらは?」
「私も、幸いな事に問題は一切ありません。随分楽に終われたぐらいです」
あれで楽なんですか。三人はアイナディスの言葉に揃って言葉を失う。とはいえ、彼女からしてみれば加護を三つ使ったぐらいで終わっている。祖父を相手にするならそれこそ加護を使うか、もっと長期戦を想定したい、というのが彼女の考えだ。それを考えれば、確かに楽は楽だった。これに、ソラは唖然となりながらも話を進める事にする。
「そ、そっすか……と、とりあえず……これで、なんとか第一段階はオッケーっすかね」
「ええ……これで、第一段階は問題ありません」
ソラの問いかけに、アイナディスもまた笑みを浮かべ頷いた。そんな彼女には自分達を警戒するハイゼンベルグ陣営の戦士達の様子がありありと見て取れており、十分な警戒が確認出来た。それを見ながら、アイナディスは通信機を起動させる。
「……ティナ。十分な効果が得られそうなほど、相手は警戒している様子です」
『うむ……流石に今の一撃は警戒せねばなるまいて。ソラ。後どれぐらいで復帰出来そうじゃ?』
「行く分には、もう行けるよ。大体、感覚は掴めてきた」
『ほぉ……良い事じゃな』
これは実戦ではないのでまた感覚は違うのだろうが、それでも<<偉大なる太陽>>をある程度使いこなせる様になってきた、という事に間違いはない。それそのものについては戦力不足にあえぐカイト達としてもありがたい事だったし、皇国としても看板の一つとして掲げられるので良い事ではあった。とはいえ、それは今は関係の無い事だ。故に彼女は告げる。
『まぁ、それならそれで作戦を早めよう。どうせなら、早い方が効果的であるが故にな』
「おう」
ぐっぐっ、とソラは拳を握り、荒々しい笑みを浮かべる。そんな彼からの視線を受けて、アイナディスが頷いた。そうして、彼女は雷鳴を轟かせて雷を降り注がせて号令を下す。
「では、行きましょうか……皆、私に続きなさい!」
「「「おぉおおおお!」」」
今まで足止めされていたアイナディスが戦線に復帰し、しかも先のソラの一撃によりハイゼンベルグ陣営の最前線の一部はごっそりと抉れている。攻めるなら、確かに今しかない。それは誰の目にも明らかで、故に彼女の号令に戦士達が鬨の声を上げて呼応。一気に攻め掛かる。これに、ソラと瞬も続く。
「良し! 冒険部各員も一気に侵攻! このまま敵陣を突破しろ!」
「全員、行くぞ! おぉおおおおおおお!」
「「「おぉおおお!」」」
やはりこういう時には瞬が先陣を切るのが一番良いらしい。彼の<<戦吼>>に奮起した冒険部別働隊が一斉に走り出す。
「ソラ! お前は兎に角敵陣ど真ん中まで突っ走れ! そこまでは俺達が援護を引き受ける!」
「うっす! すんません、頼んます! おら! どけどけどけどけ!」
瞬の言葉に、ソラは<<偉大なる太陽>>に力を蓄積させながら駆けて行く。これに、ハイゼンベルグ陣営の戦士達が一気に目の色を変えた。
「やばい! あいつの持つ剣は明らかに何か曰く付きだ!」
「気を付けろ! 直撃を貰えばひとたまりもないぞ!」
「絶対に、あいつらを行かせるな! 何が何でも食い止めろ!」
そりゃそうなるよな。ソラは自身が敢えて目立つ様に敵陣のど真ん中を突破しようとしているのを受けて殺気立つハイゼンベルグ陣営に、そう思う。が、そこにアイナディスが笑う。
「おや……私を無視してなんとかなる、とお思いで?」
「……」
「<<雷鳴の姫騎士>>……」
「八大の風紀委員長……ハイ・エルフの姫騎士か」
ごろごろごろ、と轟く雷鳴と輝く白銀の髪を棚引かす一人の美少女に、老若男女の戦士達が思わず気圧される。そんな光景は、即座にハイゼンベルグ公ジェイクへと報告された。
「そうか。さて、どういうつもりだ……?」
真正面からの突破。確かにアンナイルが倒された事をきっかけとしての行動としては悪くはないが、ティナ達とてハイゼンベルグ陣営側にまだまだ戦力が隠されている事は百も承知の筈だ。
なら、これで攻めきれない所か逆に手痛い被害を被る事になりかねない事はわかっている筈で、その意図が気になる所であった。とはいえ、取らなければならない手は決まっている。何もせずに手をこまねいているとやられる事に違いはない。なら、動くしかない。
「あいつらに連絡を。カイト達に掛り切りの半数を前線に投入」
「はっ!」
流石にアイナディスだ瞬らだ、となってくるとレジスタンスの面々でないとどうしようもない。更に言えばソラの<<偉大なる太陽>>に威圧される前線の士気を立て直す事を考えても、彼らに動いてもらう事は必要だった。というわけで、ハイゼンベルグ公ジェイクの要請を受けて即座に彼らが動く。
「なんだ……?」
「あれは……」
「まさか、あの時のお嬢さんがここまで強くなっていたとはね」
「そりゃ、俺達の大半が孫どころかひ孫ぐらいまで抱えてる身だ。当たり前だろ」
轟く雷鳴を意に介さず最前線へと歩いていく戦士達に、ハイゼンベルグ陣営の戦士達が僅かな困惑を生む。とはいえ、逆に勢いに乗るマクダウェル陣営にとっては、単なる邪魔者の一つに過ぎなかった。故に、相手が誰かをはっきりと理解していないマクダウェル陣営の戦士達が、襲いかかった。
「気にするな! 今、一気に攻め取れ!」
「たった数十人だ! 全員で攻めかかれば、問題無い!」
「「「……」」」
まぁ、仕方がない事だが舐められたものだな。レジスタンスの面々は、自分達が何者かわかっていない様子のマクダウェル陣営の猛者達に僅かに苦笑する。とはいえ、今回の集められた理由もあり、敢えて強圧的な風格を纏いながら告げてやる。
「舐められたものだな……」
「これでも、かつては名の知れた奴らだったんだが……」
「「「っ……」」」
ごくり。漂うあまりに強大な圧力に、誰しもが息を呑む。そうして、顔を真っ青にした誰かが気が付いた。
「……っ……そうだ。思い出した……見た事があったんだ」
「な、なんだ?」
「こいつら……いや、この方達は……全員、皇王陛下と共に戦った人達だ……」
「は?」
「歴史の教科書だよ! それで見たんだ! 彼らは……彼らは、建国大戦の英雄達だ!」
「「「!?」」」
誰かの叫びにも似た言葉に、マクダウェル陣営の誰しもが遂にレジスタンスの面々である事を理解し、驚愕に包まれ言葉を失う。が、これにアイナディスはそっけない。
「はぁ……だから、なんですか? お祖父様がいらっしゃった時点で私はその程度想定内。でしょう?」
「うっす」
「「はい」」
アイナディスはここで敢えて、ソラらに視線を向け同意を確認する。それに、レジスタンスの戦士達が笑う。
「あっはははは。ま、そうだな。俺達も単独じゃお前には敵わない」
「だが……これだけの数を相手には、お前も進めないだろう?」
「そうですね。それは認めます……が、それで問題はありません」
「「「うん?」」」
足止めされれば、後は左右からじりじりと押していき戦線を立て直すだけだ。その未来が見えている筈なのに問題無いと明言するアイナディスに、レジスタンスの面々は首を傾げる。そうして、その一人が問いかけた。
「まさか、そこの神剣持ちか? ここから届くとでも思っているのか?」
「さて……どうでしょうね」
かちゃん。そんな音と共に、アイナディスがハイゼンベルグ艦隊旗艦に向けて細剣の切っ先を向ける。その意図を察し、レジスタンスの面々は敢えてそうさせる。そうして、アイナディスの細剣の切っ先から銀閃が迸った。
「ふっ!」
迸った銀閃であるが、これは迸ったと同時に地面を蹴っていたレジスタンスの剣士により簡単に切り捨てられる。そこに、ソラが<<偉大なる太陽>>の力を迸らせた。
「はぁあああああ!」
「くっ……その程度、避けられぬと思うか!」
なるほど。ちまちまと一人ずつ消していくつもりか。レジスタンスの戦士達はハイゼンベルグ公ジェイク狙いではなく、自分達が狙いだと把握する。
そして実際、<<偉大なる太陽>>の一撃をまともに受ければいかに彼らでも無事ではいられない。そしてアイナディスの牽制も入るだろう現状であれば、一度射線上から立ち退くしかなかった。そうして、すでに回避の姿勢を取っていたレジスタンスの剣士がその場を飛び退くと同時に、<<偉大なる太陽>>の輝きが彼方へと飛んでいった。
「あっはははは。中々な威力だな」
「そうだな。これなら、未来を任せるには十分だろう」
神剣から迸るまばゆい光を見ながら、レジスタンスの面々は僅かに目を細める。これなら明日を任せ、共に戦えるだけの十分な芽が育っている。そう信じるに足るだけの力だった。そしてそれ故に、彼らは気合を入れる。
「やるぞ!」
「ああ! 若い奴らには、まだまだ負けんさ!」
「全員、本気でやってやれ!」
「来るぞ!」
「全員、構えろ!」
ソラの<<偉大なる太陽>>の輝きとアイナディスの言葉は、十分にマクダウェル陣営の戦士達を元通りにするだけの力があったらしい。気合を漲らせるレジスタンスの面々に対抗するべく、全員が構えを取る。そこに、ハイゼンベルグ陣営の戦士たちも鬨の声を上げる。
「俺達も初代様達に続け! 彼らこそ、もう一つの我らの英雄だ!」
「俺達の力を、彼らに見せろ! 彼らが作り、三百年前の英雄達が紡いだ、俺達の力だ!」
「「「おぉおおおお!」」」
どちらの陣営の戦士達も、共に気合十分に激突を開始する。が、この時点でティナ達の目的が達成されていた事に気付くのは、この直後であった。そうして、戦場のど真ん中に無数の武器が降り注いだ。
「なんだ!?」
「これは……武器!? どこから!? うわぁ!」
「マスター。ここの、全部やっちゃって良いんですかぁ?」
「はぁ……やーっと逃げられた……おう。存分に、やってくれ」
響くのは、どんな戦場だろうと余裕を崩さないだろう英雄の、勇者の声。そしてそれと共に戦いに臨んだ獣王の娘の声だった。そうして、遂にカイト達が最前線に舞い戻ってくる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




