第2251話 戦士達の戦い ――決着――
自分達の策が外れた事により、敵陣の最後方より更に後ろで叛逆大戦の英雄達に包囲される事になってしまったカイト。そんな彼はホタルら万が一に備えた戦力と共になんとか戦い抜いていたものの、幾つもの不利になる要因があった結果、防戦一方に追い込まれてしまう事になる。
それを受けたティナは彼抜きでの勝利はほぼほぼあり得ないということで、カイト達の救出作戦を立案。その実現に向けて各所を動かしていた。とはいえ、それを実現させるにも、まずはアイナディス達がアンナイルとの戦いを終わらせる必要があった。
「さて……」
自身が提案した作戦の変更を受けて、アイナディスは改めて気を引き締める。兎にも角にもこのまま自分の祖父一人に猛者が三人も手をこまねいている状態は彼女としては有り難くない。なのでそろそろ、ここらでアンナイルにはご退場願うつもりだった。と、そんな彼女にアンナイルが問いかける。
「どうした、アイナ。ユスティーナ様とのお話は終わりか?」
「ええ……そろそろ、お祖父様にはご退場願おうと思いましたので」
「く……まぁ、お前なら可能であろうがな」
先に述べられていたが、アイナディスとアンナイルであれば前者の方が圧倒的に強い。そもそも風の加護しか持たないアンナイルに対して、アイナディスはエネフィア全体で見ても非常に珍しい契約者だ。この時点で差は歴然なのに、当人達の素の戦闘力でもアイナディスの方が上だった。
なのでアンナイルも出来るのはせいぜい足止めぐらいで、それとてどこまで出来るかは未知数とハイゼンベルグ公ジェイクに告げていた。フードを被っていたのは自身の正体を隠すと同時に、そうする事で彼女に全力を出させない様にする為だった。
「が……私とてこれでもイクスと共にあの戦いを戦い抜いた戦士だ。早々に退場させられると思っているのであれば、舐められたものだ」
「……」
しゃんっ、と細剣を構えるアンナイルに、アイナディスは僅かに笑う。彼女とて、自身に剣技のいろはを叩き込んだ祖父が弱いだなぞと思っているわけがない。それどころか猛者の一人であると敬意を払ってもいる。単に祖父なので身内の応対をしているだけだ。
「そうですか……では、私も少しお祖父様に合わせ本気を見せる事にしましょう」
「……やる気か?」
「何を、でしょうか」
先に述べていたが、アイナディスはアンナイルを尊敬している。なので契約者となるべく雷の大神殿に挑む際、アンナイルに相談している。となると当然、アンナイルもアイナディスが契約者である事を知っていた。が、これにアイナディスは敢えてうそぶいて、それにアンナイルが問いかける。
「例のアレだ」
「ふふ……いえ、お祖父様にさえ隠していた、もう一つですよ」
「……は?」
楽しげに笑うアイナディスに、アンナイルは思わず呆気にとられる。当たり前だがアイナディスとて何から何まで彼に相談しているわけではない。知らない事の一つや二つ、あっても不思議はない。故に、彼はこれがブラフとして慌てて気を取り直そうとして、真実であった事に思わず仰天する事になった。
「っ」
「<<土よ>>!」
「なに!?」
アイナディスが展開した土の加護に、さしものアンナイルも仰天の声を上げる。アイナディスが二つ加護を持っていた事は知っていたが、三つ目は知らなかったらしい。そして知らなかった以上、否が応でも反応は遅れる事になる。
「ぐっ! 三重……だと!?」
「ええ……カイトと懇意にしていると、どうにも加護が大盤振る舞いされてしまいますね」
「……」
カイトの介在と言われればもはや納得しか出来ないが、それ故にこそアンナイルはもはや呆れれば良いのか称賛すれば良いのか判断に困る所であった。
というわけで出来たのは、言葉を失うというありきたりといえばありきたりな反応であった。が、呆けてばかりもいられない。故に彼はアイナディスの追撃で空中へと吹き飛ばされながらも、即座に気を取り直す。
「だが、それでも! まだまだ負けるわけにはいかん! っ!?」
「おぉおおおお!」
雄叫びを上げて襲いかかってきた瞬に、アンナイルは僅かに驚きを得る。すっかり忘れてしまっていたらしい。が、やはり瞬と彼であれば、彼の方が腕は上だ。故に瞬の攻撃を軽く受け流す。
「この程度!」
「まだまだ!」
「っ!」
瞬に続けて攻め掛かるエルーシャに、アンナイルは思わず苦い顔を浮かべる。ここから先の戦いを考えれば容赦の無さは喜ぶべきものであるが、攻められているのが自分であればこうもなる。そうして、間髪入れずに叩き込まれたエルーシャの拳打に、アンナイルが地面へと叩き落される。そこに、今度はアイナディスが攻め込んだ。
「はぁ!」
「ぐっ! 良く保つものだ!」
ぎりぎり細剣による防御が間に合ったアンナイルは、加護を三重に起動してなお余力を見せるアイナディスに称賛を述べる。瞬がそうである様に、加護は多重に起動すればそれだけで膨大な魔力を消費する。
なので基本的には加護を三つ同時に起動する事はあり得ない話――そもそも二つ与えられている者が非常に稀。三つになるともはや歴史上数えられるほどだが――で、魔力が良く保つものだ、と感心したのも無理はなかった。
「伊達に、契約者はやっていません」
「ぐっ……そうだったな」
細剣による剣戟の応酬を繰り広げながら、アンナイルは僅かに苦い顔ながらも孫娘が契約者であり、この程度は契約者にとって造作もない事である事を改めて理解する。加護を幾ら使おうと、契約者の本気に比べれば造作もないのだ。そうして、数十の剣戟の後。流石にアンナイルは出力差でアイナディスに押し負ける。
「ぐっ!」
ずざざざざっ、と地面を抉る様に滑りながら、吹き飛ばされたアンナイルは急制動を掛けて停止する。が、そこに先と同じくエルーシャが攻め込む。
「はぁ!」
「おぉ!」
「きゃあ!」
立て直したアンナイルは、タックルじみた動きで前に出て敢えてエルーシャの攻撃を中途半端に受ける事でダメージを軽減。さらにはその勢いを利用して、彼女を大きく吹き飛ばす。
「ふぅ、っ!」
「はっ!」
「ちぃ!」
一息ついたと思えばこれだ。アンナイルは続く瞬の攻めに僅かないらだちを口にする。が、苛立とうがなんだろうが、瞬は止まらない。故に彼は瞬の連続突きを全て細剣で受け流す。そうして戦っている所に、アイナディスが攻め込んだ。
「さぁ、どうです!? そろそろご退場の頃合いでは!?」
「なんの、まだまだ!」
アイナディスの軽口に対して、アンナイルは口では余裕を滲ませる。が、流石に彼もランクSも最上位クラスの猛者とランクAも上位層に位置する猛者二人の絶え間ない攻撃には、苦戦を避けられないらしい。顔の笑みと言葉とは真逆に、内心には苦味が浮かんでいた。
「つぅ!」
「はっ!」
「ちぃ!」
そろそろ堪えなられなくなってきた頃か。アイナディスは三重の加護を一旦停止させ、アンナイルの様子を伺う。とはいえ、先にも見えていたが彼の顔には笑みが浮かんでいた。本当に苦戦しているのなら、笑みも浮かべられないだろう。
何より、アンナイルの最大の消耗の理由は彼女だ。その彼女が先を見据えあまり攻め込んでいない以上、まだ十分な余力はあるだろうと察せられた。
(このままお祖父様の首を上げるとなると、後数時間は必要でしょうが……)
流石にそんな事はしていられない。無論、これが単なる演習で勝ち負けを競うものではないという点を鑑みれば、アイナディスとしてもこのまま延々戦いを続けても良いかもしれない。が、真面目な彼女だ。やる以上、勝ちにいくのであった。というわけで、ここらで作戦を進める事にする。
『ソラ。準備は、どうですか?』
『うっす。いつでもいけます。ただ、微調整は出来ないんで確実に射線上に乗せてください』
『わかりました』
演習場の中心を基点として正反対の所に居るソラの返答に、アイナディスは一つ気を引き締める。どうするべきかは、わかっている。ならば、そうするだけだ。故に彼女は瞬とエルーシャの二人がかりで抑え込まれるアンナイルに、自身もまた攻め込んだ。
「っ! 来るか!」
「当たり前です! 二人共、下がりなさい!」
アイナディスは常に加護を展開しながら攻撃が出来るが、流石に瞬もエルーシャもずっと戦っていられるわけではない。今後を考えても瞬とエルーシャには温存して貰う必要があり、その間はエルーシャが攻めを引き受けていた。というわけで引いた二人に対して、アイナディスは内心で僅かにほくそ笑む。
「はぁ!」
「はっ!」
アイナディスとアンナイルの剣戟が交差し、火花が散る。が、そんな彼女は敢えて加護を切ってアンナイルと激突し、敢えて僅かに押し負ける。それに、アンナイルは僅かに眦を決する。
「先を見据え、戦って勝てると思うか!」
「無論、そのつもりです! 私とて三百年前の戦いを生き抜いたエースの自負があります!」
「くっ……あっはははは! 言う様になったではないか!」
これはカイトの影響なのだろうか。孫娘が見せる自信の現れに、アンナイルは僅かに嬉しそうな笑みを浮かべる。が、それならそれで自分がその余裕を見せては勝てないと思わせれば良いだけの話だと自負する。というわけで、アンナイルは今までで一番の気合を入れて地面を蹴って、アイナディスへと肉薄する。そこに、瞬とエルーシャの二人も追撃に入った。
「エルーシャ!」
「ええ!」
「来いっ! 三人同時に相手をしてやろう!」
アイナディスをまっすぐに見据えながら、アンナイルは自身を追撃する二人を気配だけで把握。楽しげに敢えて追撃するに任せる。そうして彼とアイナディスが瞬ら二人に先駆けて、激突した。
「はっ!」
「ぐっ」
「どうした! 加護なしで倒してみせる、と豪語したではないか!」
「「はぁあああ!」」
「甘いわ!」
アイナディスが吹き飛ぶと同時に肉薄した瞬とエルーシャに対して、アンナイルは気合一閃アイナディス側に向けて二人をまとめて吹き飛ばす。これに、急制動を掛けて停止したアイナディスが二人をキャッチした。
「では、行くぞ!」
二人を避けず守ったのが、お前の悪い癖といえば悪い癖だ。アンナイルは瞬らへのダメージを厭って盾となったアイナディスに、魔術を展開して追撃を仕掛ける。この位置かつこの状況からなら、瞬とエルーシャのどちらかは戦闘不能に出来る――流石にアイナディスは無理だが――可能性が高かった。そして収束する魔力に、アイナディスもそれを察していた。故に、彼女は地面を蹴って空中へと躍り出る。
「そこだ!」
アイナディスの移動速度等を見極めて、アンナイルは極大の魔力をレーザの様に解き放つ。それに、アイナディスは瞬とエルーシャの両名を投げ捨てる様に、彼方の自陣営に放り投げる。が、これにアンナイルは笑った。
「そう来るだろうと思っていたぞ!」
「ええ……私も、そう思っていました!」
「ぬ?」
僅かに楽しげなアイナディスが自身の魔力の光条に最小限の力で防御したのを、アンナイルは見る。そうして、直後。彼が彼方から迸った神剣の輝きに気付いて、しかし如何な防御も出来ぬままにその光に飲み込まれる事になるのだった。
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