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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2250話 戦士達の戦い ――作戦変更――

 マクダウェル家とハイゼンベルグ家により行われていた合同軍事演習。それに冒険部として参加したカイトであったが、彼は戦場そのものを囮として戦場を迂回。ハイゼンベルグ陣営の最後方へと肉薄する。が、そんな彼を待ち受けていたのは叛逆大戦時代の英雄達で、カイトはそれとの戦いと相成っていた。

 そうして戦いが始まり、暫く。流石に人数差と全力が出せない不利があり防戦一方に追い込まれたカイトであるが、そんな彼は撤退のチャンスを掴むべく戦いながらもティナと連携を取っていた。


『難しいのう。爺様の奴。前面の防御艦はそのままにしておる。これでは支援砲撃をしようにも難しい。一葉らの様に高精度の砲撃で防御を迂回出来るならまだしも、じゃがのう』

『ちっ……ってことはやっぱ、次の一手を探っていくしかないか』

『そうじゃのう……今暫くは、堪えてもらうしかあるまい』

『早めに、してくれ。流石に彼らを相手に延々戦うなら本気でやらんとキツい』


 そこで無理というではなくキツいというあたり、やはり最強の勇者なのだろう。ティナはカイトの言葉に僅かな苦笑を浮かべる。が、実際苦戦しているのは紛れもない事実だ。そして彼がこのまま使えないのは、ティナ達としても有り難くない。


『うむ……余らとしてもお主抜きの作戦は立てとらんからのう。基本、お主は主軸じゃ。ここであの阿呆共がおれば、また話は別じゃがのう。それも無し、クオンらも抜き、という現状ではお主しか主軸になれる者がおらぬ。しかもお主近辺の超級の奴らまでそっちじゃからのう。動くに動けん』

『代役、鍛えて欲しいもんだねぇ』

『無理言うでないわ』


 カイトの言葉に対して、ティナは更に苦笑の色を深める。こればかりは信頼度の関係だ。ティナからしてみれば、カイトほどの戦闘力を有しながら自身の采配を理解し、完璧に実行してくれる『駒』は知らない。色々な意味でティナにとってカイトとは替えの利かない相手なのである。というわけで、ティナはプランBを立案し実行する為にも一旦カイトの回収作戦を立てる事にする。


「さて……各所での戦況を改めて報告せよ」

「はっ……まず左右の戦況ですが、現在左右は完全に膠着状態。ヴァイスリッター少尉以下、<<暁>>の神殿都市支部長等特記戦力も総じてハイゼンベルグ陣営の特記戦力に足止めを食らっている状態です」

「やはり、そうなってしまうかのう……」


 こればかりは完全に読み違えてしまった自分達の不手際があるか。ティナは左右からの増援はまず望めないとため息を吐く。そうして、彼女は一人ごちる。


「そも、叛逆大戦の英雄なぞ呼ぼうとして呼べるものでなし。多くは各家の初代様じゃぞ。それを一斉動員なぞ、大凡爺様でしか出来るものではない。そして普通はやるものでもなし……」


 それを切られた。ティナは自身をして完全に想定していなかった事態に、ため息しか出せなかった。当然だが、ここの英雄達も戦闘力は三百年前のエース達と比較して対等と言える戦闘力を有している。

 カイト達が演習という事で三百年前のエース達の大半を動員しなかった関係上、英雄の数であれば圧倒的不利に立たされていたと言っても過言ではない。


「唯一のありがたい点は流石にこれで動いては大人げないと攻め込んでこん事かのう……まぁ、攻め込めんのじゃからそこは何ら一切変わらんのじゃが……いや、そこは良いか。中央の戦局は」

「は……中央ですが現在、アイナディス様を筆頭にした戦力により若干押し込めている状態です」

「ふむ……ここもまぁ、アンナイル殿がいらっしゃるのは想定外であったが……逆にそれ故にこそアイナの奴は遠慮が無いか。ソレイユ達はどうじゃ」

「マクガイア兄妹は……現在、共にハイゼンベルグ陣営側の弓兵部隊と交戦中」


 ティナの問いかけを受けたオペレーターはモニターにソレイユ達の現状を映し出す。とはいえ、相手方の正体がわかった今、彼女らも自分達の苦戦が仕方がないものと受け入れていたのか、顔からは先程までの真剣味が消えていた。そしてティナもまた、ソレイユ達を防げるのも道理と理解していた。


「お相手は、考えるまでもなくファロス殿か。まさかエルフ一と名高い弓取り……ぶっちゃければソレイユ達の師が来るとは……余も聞いとらんぞ、叛逆大戦に参加しておったなぞ。それもよりにもよってレジスタンスじゃと。世界狭すぎじゃ」

「はぁ……」


 おそらく隠していたのだろうが。ティナはソレイユの師にあたる女弓兵を確認しながら、思わず笑う。どこか気怠げな女弓兵であるが、手付きだけは正確無比だ。

 そしてソレイユの師というのだから連射力はかなり高いし、フロドの師でもあるから威力も十分だ。丁度ソレイユ達二人を足して二で割ると、もしくは彼女の性能を更に特化させたら二人になる。そんな性能であった。


「この微妙な間合い、有り難くない。連射をするにしても強弓で攻めるにしても距離が中途半端過ぎる……」


 どうしたものか。三百年前のエース達が軒並み動けない現状に、ティナは僅かに思考を巡らせる。


(現状、動かせるとなると中央しかあるまいて。が、中央突破なぞ最も難儀する話じゃ。それを敵陣最後方まで行わねばならぬ、となると生半可な力ではどうにもなるまいて……いっそ、突破だけであれば道さえ作れればカイト単騎でなんとかなるんじゃが……)


 ティナはホタルとカナタに与えた兵装を思い出しながら、脱出させるべきはカイト一人と判断する。ホタルとカナタには今回、最後方で万が一が起きた場合に備えて高速移動が可能な兵装を与えている。それを使えば、戦線離脱は容易い。

 元々中央突破でカイトの所へ急行する事も想定していた為、防御も十分だ。が、それはあくまでもハイゼンベルグ陣営の戦力が想定の範囲内であるという想定だ。叛逆大戦の英雄達の追撃も考えれば、カイトの撤退をさせるには不十分だった。


(シャルについては、カイトの影を介し移動出来るからまぁ良かろう。それで言えばカイトも召喚で移動出来るんじゃが……どうにせよ厳しいのう。となると、やはり問題はカイトとかカナンじゃな)


 シャルロットの撤退とカイトの撤退のどちらが楽か。ティナはそれを一瞬だけ考察するも、結論としてはどちらも大差ないと判断したようだ。となると、後問題なのはカイトとカナンの二人を如何に撤退させるか、であった。


「むぅ……」

「ユスティーナ様。中央、ソラ・天城様よりご連絡です」

「む? なんじゃ」

「アイナディスさんらの撤退支援、どうするべきか、という連絡です。如何がなさいますか?」


 何かあったか。そんな様子のティナに、オペレーターが状況を報告する。これに、そう言えばとティナも冒険部の状況を思い出す。


「そういや、そっちも進行中じゃったか……とりあえずアイナにはさっさと仕留めて欲しいんじゃがのう」


 先にも述べていたが、アイナディスは相手が自身の祖父という事もあり一切遠慮せずに戦っている。そして幾ら叛逆大戦の英雄とはいえ、アンナイルとアイナディスであれば後者の方が強い。これは当人達も認めており、ここの勝利に疑いようはなかった。


「ユスティーナ様。アイナディス様からご連絡です」

「次はなんじゃ」

「作戦を一部変更したい、との申し出が」

「ほぅ……聞こう」


 現状、どこもかしこも手をこまねいているのは事実だ。なのでここらで一つ手を変えたい所なのであるが、これがそうなる可能性はあった。なのでティナはオペレーターの一人に取り次がせ、アイナディスへと繋がせる。


「アイナか。どうした?」

『はい……若干、お祖父様が年甲斐もなくはしゃがれています』

「みたいじゃのう」


 おそらく三百年前ぐらいには戦っているだろう。ティナは遠目に見えるアンナイルの様子を見ながら、そう思う。これに、アイナディスが告げた。


『ええ……が、あまり身内に時間は掛けたくありません。そこで、一つご提案が』

「聞こう」

『はい……』


 ティナの促しに、アイナディスはアンナイルと戦いながら変更の概要を説明する。これに、ティナが笑った。


「お、お主……一応祖父じゃろうに。容赦無いのー」

『年甲斐もなくはしゃがれ、また腰が、なぞ言われてもたまりません。お祖母様が何をおっしゃられるかもわかりませんし……いい加減、自身の現実を見て頂こうかと』

「ま、そこは余は何も言わぬよ……が、良かろう。作戦の変更、許可しよう。巻き込まれるでないぞ」

『承知しました』


 ティナの返答に、アイナディスは一つ笑って通信を終わらせる。そうして各所へと作戦の変更を伝達する傍ら、ティナはふとカイト達の回収作戦に妙案を思い付く。


「む……そうじゃ。であれば……うむ。これならなんとかなりそう……かのう。問題が無いではないが……後は、当人がなんと言うか、じゃのう。こればかりは、話してみぬと、という所かのう。となると……ソラに繋げ」

「はっ」


 こればかりは当人に確認してみるしかない。そう判断したティナは即座にソラへと通信を繋がせる。そしてどうやら、先程連絡を入れさせたばかりだからかソラもすぐに応ずる。


『ティナちゃん? どした?』

「おう。すまんのう。若干話しがあってのう」

『そりゃそうだろうけど』


 そもそも今は演習真っ只中だ。全軍を率いているティナが無駄話をしに通信を繋がせるとは毛ほども思えなかった。というわけで、ティナは単刀直入にソラへと作戦の概要を説明する。


「と、いうわけじゃが……どうじゃ? やってみる気はあるか?」

『やってみる、っていうかやれるかどうかだと思うんだけど』

「ま、そうじゃな。やらぬならやらぬでも問題はない。別案を考えるだけじゃからのう」


 これは言ってしまえば現在思い付いた策の一つ、というだけでティナの脳内では分割した思考が更に別の手も幾つか浮かび上がっており、ソラが受け入れないなら受け入れないでも問題はなかった。単に一番手間が掛からないのがこれだった、というに過ぎないのだ。そうして暫くソラはトリンと相談したり、自身の状況を確認しながら、ティナの策を受け入れるか考える。


『……わかった。やるよ……なんとかなる……とは思うし。でも本当に一発だけだぞ? 追加でもう一発は多分無理。さっきの変更もあるし……』

「そこは、無理は言わぬよ。それで脱出出来ぬのなら、別案を使うしかないからのう」

『そか……なら、やってみる』


 ティナの返答に、ソラは腹を括ったらしい。彼女の策を受け入れる。そうして、一通りの作戦の概要が決定した所で、彼女はカイトへと連絡する。


「と、いう感じじゃ」

『わーお……またかーなーりヤバそうな撤退作戦で』

「しゃーない。お主らを撤退させようとすると、ぶっちゃけかなり厳しいからのう。こういう作戦になるのも無理あるまい」

『ま、そうだわな』


 なにせ自身が居るのは敵陣の最後方の更に先だ。迂回も難しい以上、敵陣をどうにかして突っ切るしかない。それはカイトもわかっており、であれば、と彼も受け入れた。


『わーった。タイミングは一切そちらに合わせる。何か連絡は必要無い』

「好機は、逃すでないぞ」

『わかってる。じゃ、また後でな』


 ティナの言葉に頷いたカイトは、それで通信を終わらせる。そうして、カイト達の撤退支援を行うべく、マクダウェル陣営が動きだす事になるのだった。

お読み頂きありがとうございました。

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