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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2244話 戦士達の戦い ――強襲――

 マクダウェル家とハイゼンベルグ家が主催している合同演習。その中で冒険部はマクダウェル陣営側の戦力として、演習に参加していた。

 そうして最初の一当てが終わり初手で攻めきれなかったマクダウェル陣営であったが、その中で冒険部別働隊率いるソラが同じく別の別働隊率いる瞬の救援を行い、二つの別働隊は一旦後退。前線を構築する陣営の一つとして、散発的な戦闘を行いながら作戦会議を行っていた。そんな作戦会議はトリンの策に乗る形でティナらが修正を加え、要員として他のギルドの腕利き達を集め実行される事になる。そこに、別働隊をソラに預けた瞬が参加していた。と、そんな彼の前には瑞樹と彼女率いる竜騎士部隊が一緒だった。


「前にカイトから紹介を受けてたから、見た事があったけど……実際に間近で見るのは初めてねー」

「そういえば……一応お話はしておりましたが、レイアを見るのは初めてですわね」

「うん……へー。きれいな色」

「ありがとうございます」


 エルーシャの称賛に、瑞樹が一つ顔を綻ばせる。この演習で瑞樹が居る以上、そこにはレイアも一緒だ。彼女も、今回の作戦で必要なので集められた人物の一人だった。と、そんな所に同じく集められた<<暁>>幹部の一人が笑う。


「確かにギルド単位で竜騎士部隊なんて持ってるのはお前の所ぐらいか。ウチも一応持ってるが……こっちの支部じゃ持ってないからな」

「あはは……確かに、ウルカの本部にはありましたね。まぁ、ここまで整ってたか、って言うと微妙な気もしましたが」

「ま、あっちはな」


 笑う瞬に、<<暁>>の幹部もまた笑う。そんな彼であるが、重武装のドワーフの男性だった。かつてカイト達が出会ったバシルという男だった。神殿都市支部の中でも有数の防御力を有していた為、今回の作戦では最適だろう、とピュリから増援として差し向けられたのである。


「で、瞬。お前さん、大丈夫なのか?」

「一応、戦闘力基準としてはランクA相当にはなってるらしいので……大丈夫そう、との事です」

「ランクAねぇ……まぁ、ピュリから色々とあった、とは聞いてるけどなぁ」


 あの小僧が一足飛びに強くなったもんだ。バシルはどこか感慨深い様であり、様々な因縁を抱えてしまっただろう瞬に僅かに苦いような顔を浮かべていた。


「まぁ、それは仕方がない事かと。実際、ソラもまたそうでしょうし……」

「そうか……まぁ、そこらの生まれる前の宿業だけはどうしようもねぇっちゃどうしようもねぇか」

「かと」

「ま、死なねぇようにしろよ。必要なら、ウチもお前さんにゃ力を貸してやる……叔父貴の事もあるしな」


 小さく声のトーンを落としたバシルが、瞬へと僅かに笑い掛ける。幹部の一人として、彼もまたカイトの正体を聞いていた。あの当時カイトが出会った者の中では唯一だった。そんな彼に、瞬は頭を下げる。


「ありがとうございます……まぁ、それ以前に今は目の前の事を、ですが」

「ま、そだな……道中の護衛とあっちのお嬢ちゃんらの帰りは任せろ。行き帰りぐらいなら、なんとかなるだろう。お前さんらの戻りは保証出来ねぇがな」

「そこは、考えてます」

「なら、問題ねぇんだがな」


 瞬の返答に、バシルは一つ頷いた。彼はドワーフで尚且重武装の防御タイプだ。故に速度はほぼ無いに等しく、瞬らの道中の守りはしてくれるがそのまま一緒に行動する事はない。瑞樹達と共に瞬らを作戦ポイントまで送り届け、こちらに戻ってくる予定だった。と、そんな事を話していると、更に必要な人員がやってくる。


「お前が、瞬・一条か?」

「そうですが……貴方は?」

「デイビー・アトキンス。ランクAの冒険者だ」

「ありがとうございます」


 デイビー。そう名乗った男と瞬は握手を交わす。彼もまた今回の作戦に呼ばれた者の一人だった。と、そんな彼に続いて、更に女性の冒険者がカイトに連れられてやって来た。


「彼女はアンジェリカ・カンマーレ。ランクA冒険者だ」

「よろしく。貴方達の支援を本陣から行うわ。何かがあったら、即座に申し出て」

「お願いします……どこかでお会いしました?」

「前に、大陸間会議前の演習でね。それから、貴方の所のおチビさんとやり取りをしてるのよ。多分、そこで見たんじゃないかしら」


 何か見た事があるな。そんな様子の瞬の問いかけに、アンジェリカと名乗った女性が笑う。彼女はかつて大陸間会議前のユニオン主催の演習にてティナらを統率していた魔術師だった。

 あの時にティナの腕を見て友好関係を持ち、今に至っていたのである。故に今回の作戦において彼女が支援役としてアンジェリカを推挙したのであった。

 カイトと一緒に来たのも、彼とも顔見知りで彼の要請であったからだ。瞬が見た事があったのも、マクスウェルに来た際に偶然冒険部に立ち寄り、そこで見た可能性が高かった。


「ああ、なるほど……」

「ええ……とりあえず、私の役目は貴方達の支援。こっちに残る事になるけれど、魔術による攻撃や支援、通信の維持等はこちらで全て行うわ。貴方達はただひたすら敵を倒す事だけに専念すれば良い」

「はい」


 アンジェリカの明言に、瞬は一つ気を引き締める。今回の作戦で集められたのは、彼女とバシル、エルーシャ、そしてカイト自身がこの演習でも有数の腕利き、と推挙したこの二人だった。


「おまたせしました。瞬さん、お久しぶりです」

「久しぶりだ。遠目に見ていたが、相当な戦果みたいだな」

「あはは……瞬さんが戦士としてのみに専念していれば、私以上の戦果を上げられていましたよ」


 瞬の称賛に、セレスティアは少しだけ恥ずかしげに首を振る。そして彼女が居る以上、イミナもまた一緒だった。この面々が、今回の作戦に参加する中心人物達だった。そんな彼らに、公爵家代理として作戦の総指揮を担うカイトが告げる。


「全員、集まっているな。作戦は先に伝えた通り。現在、クオン、ソレイユらを筆頭にしたマクダウェル陣営の腕利き達がハイゼンベルグ陣営の謎のフードの戦士達により足止め、もしくは苦戦を強いられている状況だ。普通に考えると信じられない事態だが、相手はハイゼンベルグ家。十分、起こり得る事態だ」


 集合した一同に向けて、カイトは改めて今回の作戦概要を説明する。と、そんな彼にアンジェリカが問いかける。


「貴方は、行かないの? 貴方こそがこの場で最高戦力だと思うのだけれど」

「おいおい……わかって聞くのか?」

「いっそ彼と逆でも良いのじゃないか、と思っただけよ」


 カイトの問いかけに、アンジェリカは笑う。どうやら彼女も現在マクダウェル陣営が更に裏で進めている作戦を知っているらしく、どこか冗談めかした様子があった。なお、これ以外にも<<暁>>幹部であるバシルも作戦を聞いており、どこか呆れた様子であった。


「ま、それはさておき……作戦は先に説明していた通り。先輩、エルーシャ、セレスの三名には敵陣を強襲して貰う。膠着状態に陥っている現状を打開するには、現在苦戦しているソレイユ達を開放する必要がある。道中の支援砲撃は今回の作戦に協力してくれているギルドが行うが、マクダウェル艦隊からも支援がある」

「それ以外の専属的な支援を私が、というわけね」

「というわけだ。それ以外に、直撃が考えられる場合にはバシルさんが防御を行う」

「ま、これでも守りにゃ自信がある。任せてくれ」


 カイトの説明に、アンジェリカ、バシルの両名がはっきりと請け負う。無論、流石にこの二人もフードの戦士達の中でも更に上位に位置する猛者が出てくれば厳しいが、そうなればそうなったで次の手を打つだけだ。

 それにセレスティア、イミナの両名であれば並の戦士であれば負けないし、エルーシャと瞬は共にランクAの名に恥じない戦闘力を有している。ランクSクラスの猛者がフードの戦士達に居ない限りは、なんとかなりそうではあった。とまぁ、それはさておき。バシルの言葉に、カイトは更に話を続ける。


「で、移動はウチの竜騎士部隊が行う。ギルドで竜騎士を持ってきてるのなんて、ウチぐらいなものだからな」

「安全、とまではいきませんが、迅速な送迎をお約束しましょう」

「頼む……さて、それで質問は?」


 瑞樹の言葉に一つ頷いたカイトであるが、そのまま瞬達に何か質問が無いか促す。これに、エルーシャが問いかけた。


「撤退は強引にやる、って聞いたけど……大丈夫?」

「当人は兎も角、その相棒はやる気満々だ。そして相棒の方の実績はオレが保証する。当人がしくじらなきゃ、問題はない。但し、逃げ遅れたらアウトだがな。そこは責任は持てん。というより、敵陣のど真ん中に切り込んで救助は求めてくれるな、って話だ」

「りょーかい……ま、逃げ遅れない様にずらかるわ」


 腕を鳴らしながら、エルーシャが笑う。なお、ランテリジャの方は他のギルドメンバー達を率いてエルーシャの支援か冒険部と共に前線の維持を行っていた。


「他に、質問は?」

「一つ」

「何だ?」

「どれぐらい、相手にする必要がありそうだ?」


 現状、敵の全容を完璧に把握しているのはカイト一人と言って良い。瞬が気になるのも無理はなかった。


「……とりあえず、二、三人。まぁ、本当に動くか、は微妙だが」

「動かない可能性とかあるのか?」

「わからん。そこばかりはやってみないとな……あの連中。動きが奇妙過ぎる。何が起きても不思議はない、と考えておいてくれ」

「わかった……もし動かなければ、即座に作戦目標を達成して帰還する」

「そうしろ」


 瞬の言葉に、カイトははっきりと頷いた。今回の作戦目標は確定済みだ。それ以上をすると確実に痛いでは済まない被害を負わされる可能性は非常に高かった。というわけで、そこらの話を終えた瞬は竜騎士部隊の飛竜の中でも特に大きな数体の背に別れて乗り込む。


『一条会頭。大丈夫ですわね?』

「ああ……なにげに、こうやって乗って飛んだ経験はほとんど無いんだが……」

『安全運転は心掛けられませんが……そこは、諦めてくださいませ』

「承知の上だ」


 どこか冗談めかした瑞樹の言葉に、瞬は一つ笑う。ソラもそうであったが、瞬もまた飛竜というか竜達には乗る事があまりない。乗る必要が無いからだ。と、そんな話をしている内に各所での用意が整い、瑞樹を乗せたレイアを先頭にして竜騎士部隊が飛び上がった。それを見ながら、カイトが号令を下す。


「本隊、魔術師部隊及び弓兵部隊に伝達! 竜騎士部隊の支援を開始しろ! 特に魔術師部隊は敵艦隊の砲撃を相殺する事に専念! 可能な限り、一直線に飛べる様に支援しろ!」

「「「了解!」」」


 カイトの指示に、魔術師達が竜騎士部隊狙いの攻撃に対して一斉に迎撃を開始する。その一方で弓兵達はハイゼンベルグ陣営側の地上から放たれる魔術による迎撃に対して魔術師を狙う事で、攻撃を減らしていく。とはいえ、それでも完全に防げるわけではない。故に、バシルが居た。


「そのまま一気に飛ばせ! 消しきれなかった奴は俺が全部防いでやる!」

『お願いします!』


 バシルの言葉に、瑞樹は彼の生み出す半透明の障壁を眼前に見ながらレイアの速度を更に上げさせる。彼女の仕事は迎撃。瞬達を運ぶ竜騎士達を守る役目だ。そんな彼女らに、ハイゼンベルグ陣営は必死の応戦を開始した。


「何だ!?」

「奴ら、一直線に本陣めがけて飛びやがった!」

「今だ! 奴らの注意が上に向いた隙きに、一気に攻め込め!」

「ちぃ! 上には構うな! どうせ最後まではたどり着けん! 前の敵に集中しろ!」


 瑞樹達が一直線にハイゼンベルグ陣営本陣を目指し始めた事を受けて、陸上でも一気に戦闘が激化し始める。が、多くの戦士達はまだハイゼンベルグ艦隊が健在で、本陣の戦士達もほとんどダメージを負っていない事で無視を決め込んだようだ。そしてそれこそが、トリンの狙いだった。


「良し……基本は無視されてるね」

「えっぐいなぁ……」

「無視されるなら、無視される事を前提として策を練るだけだよ」


 作戦がドハマリしている。それが遠目だからこそわかるが故に、ソラは只々呆れる様に笑うしか出来なかった。そうして、そんな二人の見守る前で瞬らは戦場のど真ん中より少し後ろに舞い降りるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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