第2243話 戦士達の戦い ――作戦会議――
マクダウェル家とハイゼンベルグ家の合同軍事演習に参加していた冒険部。そんな中でソラと瞬率いる冒険部別働隊は最前線を戦っていたが、瞬率いる別働隊がハイゼンベルグ陣営の策略に危うく嵌まり包囲されかけたもののソラ率いる別働隊がカイトと彼の率いる本隊の支援を受けながらも、瞬率いる別働隊の救助に成功する。
というわけで撤退しひとまず隊列の再構築を行った二つの別働隊は一旦合流し、最後方にて全体の把握を行っているカイトと共に次の策を練っていた。
「とりあえず、これで撤退できたわけだけど……カイト。現在の前線の状態どうなってる?」
『前線はひとまず、膠着状態だ。最初と似た様な状態だな。先輩達が引いた事で向こうも隊列の再構築ができたようだ』
「となると、こっからまたどうにかしないといけない、ってわけか」
こればかりは仕方がない話かもしれないな。ソラはこちらに被害が出なかった事を良しとしておく事にする。というわけで、彼は一度被害状況の把握に努める事にする。
「先輩。そっちの被害は?」
「一応、まだ戦闘不能は出ていない。が、可能なら一度ここらで小休止を入れさせて傷の手当を行わせておきたい」
『わかった。こちらから救護部隊を向かわせる。一度けが人の手当を行わせてくれ。また、入れ替わりに本隊から二つ部隊を送る。ソラと共に部隊の再編成を行え』
「わかった」
カイトの助言に、瞬は一つ頷いた。やはり最前線を進んでいた以上、被害はそれ相応に出てしまっている。こればかりは戦闘だから仕方がないが、それ故にこそ再構築は必須だった。というわけで、今度はカイトがソラへと問いかける。
『ソラ。お前の方の被害は?』
「こっちもさっきの戦闘でいくらか、って所だ。まぁ、多分増援でなんとかなるレベルだとは思うけど……今、被害状況を洗い出させてる」
『そうか。もし追加で増援が欲しければ、即座に連絡してくれ』
「おう」
カイトの言葉に、ソラは一つ頷いた。というわけで一通りの現状に関する話を行い、次いで次に関する話を行う。
「で、カイト。現状、何かやれる手はあるのか?」
『そこが、若干面倒な所でな……上を見ればわかると思うが、謎のフードの集団が居る所為で上手く作戦を進められていない』
「「フード……?」」
どうやらソラも瞬もフードを被った戦士達に気付いていなかったらしい。まぁ、フードを被っている冒険者はそこそこ居るのだ。なので不思議に思わなかった、という所だろう。とはいえ、上を見て彼らも理解する。というわけで、瞬が少し驚き気味に問いかける。
「ああ、あれか……ああいうのが、まだまだ居るのか?」
『ああ……まだチラホラ、残っているようだ。それ故にソレイユも上手く敵に狙撃が出来なくてな。<<創造破壊>>で仕切り直しをさせた所だ』
「あの爆発、そういう意味もあったのかよ……」
『せっかくなんでな』
呆れるソラに、カイトは笑う。というわけで、一つ話を終わらせた所で改めて次の一手の話を行う。
「カイト。マクダウェル陣営として、次の一手はどうするんだ?」
『難しい所だ。一応、仕込みはしてるんだが……あのフードの集団をなんとかしない事には上手く策に嵌められん可能性が高い。いや、嵌めても、上手く効果が出ないという所か』
「ふむ……」
所詮、瞬らは一兵卒。末端の戦士だ。故に中枢が仕込んでいる仕掛けがどういうものなのか、というのはわからない。なのでカイト達が何かを考えているのであればそれに従うしか無いが、出来る事が無いか、と確認する事は出来た。
「フードの連中をどうにかすれば良いのか?」
『そうだな……が、被害を出さずに戦うのはまず無理だろう。見たらわかると思うが、基本的には三百年前のエース級とまともに戦える戦力だ。その力量はまちまち、ではあるが……一人一人の戦闘力が決して弱いわけじゃない』
「「……」」
カイトの言葉に、瞬とソラは戦場の中央の上空と地上で矛を交えるクオンとアイナディスを見る。その相手は共に、フードを被った者たちだ。その中でもこの二人が相対しているのは有数の戦闘力を持っているらしく、どちらも単騎で抑え込んでいた。それを見ながら、瞬は場違いな感嘆を得る。
「とてつもないな……あの二人を単独で抑え込むのか」
「そんなのがまだまだ居るってのが、自分には悪夢っすね……」
「まぁ……な」
「カイトさん。何かわかっているんですか?」
ソラと瞬の会話を横目に、トリンはただ必要な事を問いかける。これに、カイトは首を振る。
『残念ながら、イマイチだ。クオンに聞くわけにもいかないし、アイナもアイナで手一杯という所だろうな。まぁ、どちらもまだまだ本気でやってない、というあれはあるが……』
クオンはそもそも本気でやれば周囲の被害が馬鹿にならないので演習で出来るわけもないし、アイナディスにとっての本気とは契約者の力を行使することだ。現代において契約者は誰も居ない事になっており、彼女も隠している。こちらもこちらでこんな演習で行使する事の出来るものではない。
が、どちらも本気になれば、上回れる相手ではありそうだった。と、そんな話を聞いて気を取り直したのか、ソラが口を挟む。
「カイト。ソレイユちゃん側はどうなんだ?」
『あっちは、どうやら集団対集団になっているみたいでな。ソレイユとあいつの率いる弓兵ちゃんズが揃って抑え込まれている。ここがなんとかなれば、という所ではあるんだが……あそこも後方からの攻撃だからなぁ……割と面倒だ』
「ふむ……」
「ん……」
「……カイトさん。一つ策が」
『ふむ』
少し考え込んだ瞬とソラに対して、少し先に考え込んでいたトリンが口を開く。それに、カイトは先を促した。
「と、いう作戦です」
『……許可はしかねるな。危険性が非常に高い。撤退も無理だろう』
「それは承知しています……そこで……」
厳しい顔のカイトに対して、トリンは更に自身の策を開陳する。これに、カイトは少し呆れ気味であったが、同時に若干だが眉間のシワを緩めた。
『……まぁ、それなら可能だが……ソラ。お前は良いのか?』
「んー……まぁ、なんとか? 若干、不安だけど」
『何を自信のない事を言う。これこそ、英雄の誉れではないか。どんと構え、受け入れよ』
「は?」
唐突に響いた何者かの声に、瞬が思わず周囲を確認する。が、彼以外は全員驚いた様子はなく、状況が理解出来ている様子だった。というわけで、ソラが謝罪する。
「あ、すんません……こいつの精霊です」
「<<偉大なる太陽>>の?」
『うむ……そうか。小僧の前に姿を見せるのは初か』
『ん? 何だ? 精霊が出ているのか?』
「ん? あ、そっか。そっち通信機越しだから、聞こえてないのか。ああ」
通信機から漏れ聞こえる会話の流れから、カイトはどうやら<<偉大なる太陽>>の精霊が出ている事に気付いたらしい。が、それでもわからないので確認、という塩梅の問いかけにソラは一つ頷いた。
『そうか……ソラ。<<偉大なる太陽>>の精霊には念話で繋ぐ様に頼んでくれ』
『いや、良い。聞こえている』
『ああ……まぁ、戦場で長々雑談というわけにもいかん。単刀直入に行こう。行けるか?』
『無論、可能だ。ソラが出来るかは、話が別であるが』
カイトの確認に対して、<<偉大なる太陽>>ははっきりとソラ次第である事を明言する。これに、話はソラへと向かう事になる。
『ソラ。お前は?』
「やるよ。やってみせるよ……いっちゃんヤバいのはこっちじゃないしな」
「……」
ソラの視線を受けて、瞬が僅かに呼吸を整え自問自答する。そうして、彼は一つ頷いた。
「……ああ、問題無い。その間に仕留めてくれるのなら、だが。おそらく様々な面から長くは保たないだろう」
『……ソレイユ。そちらは?』
瞬の返答を受けて、トリンの要請を受けて会話に参加していたソレイユ――フロドは単身息を潜めているので出られない――へと問いかける。これに、彼女は一つ頷いた。
『だいじょーぶ。とりあえずなんとかしてくれれば、後は私とにぃにぃでなんとかしてみせるよ』
『そうか……概ね、なんとかなりそうか』
これが最善の一手とは言い難いが、同時に出来る限りのベターな選択ではあるだろう。特に現状、カイトが動かせる手札が少ない。なら、現状カイトが出来る手としてはこれが限度だった。
『ティナ。とりあえずは先の通りで進める』
『まぁ、良いがのう……いや、確かにマクダウェル公爵家としてはそうするしかないのであるが……』
『どうにせよ、どっかで一手打って状況を変える必要がある。どうやら、爺の側は待ちの手になっているみたいだしな』
『むぅ……』
カイトより更に最後方。マクダウェル陣営の最後方にあるマクダウェル公爵軍旗艦の艦橋から戦場を見るティナは、ハイゼンベルグ公ジェイクが動きを見せない事を理解していた。おそらく動くつもりが無いのだ、と察したのだ。
『おそらく、フードの者たちが動かぬ理由なのであろうな。余らへのカウンター。そういう者らなのじゃろう』
『なら基本はオレ達以外でなんとかするしかない、というトリンの指摘は尤もだ。違うか?』
『そうじゃのう』
トリンの指摘を改めてカイトから聞いたティナは、現状それしかないと半ば諦め気味に同意する。カイト達――この場合は三百年前のエース達――を使えばカウンターとしてフードの戦士達が出るのだ。
これは現状を鑑みれば確定と言うしかなかった。というわけで、若干の不安要素はありつつも、ティナも了承を示した。
『良かろう。その作戦、許可しよう。が、更に修正を加えるが良いな?』
『教えてくれ』
『まず襲撃の面子に変更を更に加える。その面子では到底どうにもなるまい。確かに、その面子であれば隙きを生むぐらいは出来るじゃろうがな。瞬以外で生還出来る可能性は皆無じゃろうて』
カイトの促しに対して、ティナはトリンの作戦に対する修正を加えていく。そうして更にティナを混じえトリンと彼女を中心として、作戦が再構築される。
『と、言う感じじゃな。これが限度じゃろうて』
『……まぁ、そこらが一番生還の可能性が高い作戦か。良し。じゃあ、作戦に入るか』
『うむ。それが上手く行けば、作戦を次のフェーズに進めさせられよう』
まだ不安要素は多いが、現状何か手を打たなければならないのもまた事実だ。故にカイトのゴーサインにティナもまた了承を示す。というわけで、一度冒険部はそれを前提として部隊の再編成を行う事になった。
「良し! 全員へ次の作戦通達! 一旦別働隊は全て俺の指揮下に入ってくれ!」
「一条はどうする?」
「一条先輩は一旦、別行動になります。とはいえ、一旦なんでまた後で合流しますんで、そっからは別働隊は先輩の指揮下に入ってもらいます」
「わかった」
どうやら瞬の戦闘力が作戦上必要になる為、一時的に指揮系統から外れるだけらしい。綾崎は瞬の不在をそう理解する。そうして残る別働隊の総指揮を行うソラの一方、瞬は最後方の本陣まで撤退。カイト達と合流していた。
「先輩。作戦はわかっていると思うが、相当厄介な手合ばかりだ。まず真正面から戦っても負ける可能性が非常に高い事だけは理解しておけ」
「わかっている……が、幸い他の面子は腕利き揃いだ。なんとかは、なるだろう」
「ああ。その点だけは、唯一この作戦での良い要素だ。が、後はヤバい要素しかない。撤退も含め、だ」
今回はかなり賭けの要素が強い作戦だ。カイトは現状を考え、そう判断していた。が、そろそろ賭けに出ないと、このままダラダラと演習終了まで進む事になりかねない。単なる演習なのでそれは良いだろうが、そこは演習だからと手を抜くつもりはなかった。と、そんな彼に瞬は笑う。
「わかっている……暴走しない様にだけは、注意する」
「そうしろ……じゃあ、後はこちらで可能な限り支援を行う。が、今回は派手に動く事になる。あまり期待はするなよ」
「わかった……後は、待てば良いんだな?」
「ああ。揃うまでな」
基本的な話として、トリンは冒険部の人員は把握しているがマクダウェル領の冒険者達全てを把握しているわけではない。なので彼の作戦では冒険部の人員のみで構成されていたが、全体を把握しているティナはそうする必要がない。というわけで、他のギルド等からも増援要請を行ったのであった。そうして、瞬は他のギルドの腕利き達が集合するまでの間、暫く待つ事になるのだった。
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