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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2241話 戦士達の戦い ――それぞれの戦い――

 カイト率いるマクダウェル公爵家とハイゼンベルグ公ジェイク率いるハイゼンベルグ公爵家による演習。それは両陣営共に基本的な手札となる飛空艇、魔導機(魔導鎧)、冒険者や兵士達による白兵戦という基本的な三要素の戦いを繰り広げ、僅かな停滞を見せていた。そんな中、最前線も最前線。ソラと共に冒険部の一隊を率いる事になった瞬は自身も最前線で槍を取りながら戦っていた。


「はぁ!」

「っ! こいつ、強い!」

「油断するな! 小僧共だと油断すれば痛い目をみるぞ!」


 最前線で少し強い冒険者を一撃で吹き飛ばした瞬に、周囲の冒険者達が警戒を露わにする。それに彼は一つ槍を構え、周囲の状況を伺う。


(中々に難しいな)


 一言で言えば、一人で戦うのとはまるで違う。瞬は指揮官として戦うのと、一人の戦士として戦う差を如実に理解していた。


(目の前の敵だけに意識を向けていてはだめだ)

「「おぉおおおお!」」


 おそらくどこかの共通するギルドに所属しているか、コンビを組んでいる冒険者。迫ってくる二人の若い冒険者の息を合わせた攻撃に、瞬は一瞬だけ意識を割く。ランクはC相当。最初の壁はまだ超えておらず、今の瞬なら楽に倒せる相手だ。故に、彼はこの二人を利用してこの場からの離脱を図る事にする。


「はっ!」

「「ぐっ!」」


 二槍流に切り替え両者の間に槍を突き立て、隙間を広げる様に薙ぎ払う瞬の一撃――正確には二発だが――が二人の冒険者を打ち据える。そうして二人の冒険者を振り回す様にして、更に左右の冒険者達へと投げつけた。


「っ!」

「あぶない!」

「ふぅ……」


 僅かにできた隙間から、瞬は敵陣を離脱。冒険部の後方に戻る事にする。そうしてそれと共に、翔の支援が入った。


「部長! 追撃はこちらで!」

「翔か! すまん!」

「砲撃!? 魔銃か!?」

「いや、いくらかは幻影だ! 惑わされるな! ごっ!」

「っ! 幻影も攻撃力を持っている!?」

「本体だろうと偽物だろうと気にするな! 一気にやっちまえ!」


 引いた瞬を追撃しようとした冒険者達であるが、唐突に現れた翔の無数の分身に翻弄され追撃を取りやめる。そうして冒険部別働隊の後方に戻った瞬は、一息吐いて改めて全体の確認に戻る。


(今の所……被害は軽微か)


 この演習であるが、基本的には何時もの様に瀕死、もしくはそれに類するダメージを負うと判断された時点で結界により自動的に外に排出され傍観者とされる事になっている。

 それ以外にも負うダメージは特殊な魔術によりまるでゲームのノイズが入るかの様にモザイクに似た赤色で覆われ、一時的に使えなくされる。これについては本人の同意の上でこの結界に入っている為、クオン達だろうと通用する共通ルールだ。なので誰がどの程度のダメージを負っているかは一目瞭然で、壊滅的被害を負っている様子はなかった。


「部長! お疲れ様です!」

「ああ……ん? 怪我か」

「あ、いや……大丈夫っすよ。ちょっと右腕の反応鈍いっすけど」


 瞬の問いかけに、陸上部所属だった一年生の一人が首を振る。そんな彼の右腕には半ばまで赤い線が入っており、右腕はほとんど使えないような状況だった。が、これに瞬が僅かに頭を下げる。


「すまん……こちらの注意が疎かだったか」

「え、いや、いいっすよ! 俺が単に油断したってだけなんで!」


 この陸上部の生徒は瞬と共に最後尾にて戦う者の一人だった。それ故に瞬もこの戦場では良く話しており、自身が前線に出るまでは怪我は一つも負っていない事を理解していた。瞬が居ない間に攻められ、その間に怪我をしたのであった。


「とりあえずは怪我の治療に専念しろ。こちらは俺が受け持つ」

「い、いやいやいや! それこそ部長こそ少し休んだ方が良いっすよ!」

「問題はない……幸い、今の俺は冒険部でも誰よりも頑強だ」

「「「……」」」


 荒々しく笑いながら、瞬は一度見得を切る様に槍を後ろに回し構える。その彼の前には多くのハイゼンベルグ陣営の冒険者達がやって来ており、だんだんと包囲されつつある様子を如実に示していた。

 そうして、瞬と相対する冒険者の集団が頷きを交わし、一瞬先の交戦を意識する。が、次の瞬間だ。唐突に地面が爆ぜた。


「……はぁ」

「……へ?」

「ああ、いや……すまん。実は前線に出る際、万が一の場合に備えて仕掛けておいたんだ」


 どうやら、戦う意思を見せたのは完全にブラフだったらしい。敢えて発動までの一瞬、敵を食い止めるべく慣れない見得まで切ったのである。そうして、後ろに続く者たちと自分達の撤退ルートを確保する事に成功する。


「もう少し、進めると思ったんだが……」


 中々上手く行かないものだ。瞬は先程カイトからの通信があったポイントから僅かも進めていない現状に、僅かに苦い顔を浮かべる。そうして、彼は僅かにソラとのやり取りを思い出す。


『俺が何を気をつけてるか、っすか?』

『ああ……久方ぶりに指揮官としての業務に専念しようと思ったが、久しぶりだったんでな。少し聞いておきたい』

『そっすね……まぁ……これは完全にお師匠さんの受け売りなんっすけど、基本は被害を出さない事、っすかね。これは完全にその人の主義主張になるらしいんで、これは単にお師匠さんの教えってだけですけどね』


 基本的に、ソラの指揮官や指導者としての考え方の根本にはブロンザイトが横たわっている。なので彼が最も重要視していた被害を出さない事をソラも重要視しており、トリンと共にその方針で部隊の運用を行っていた。そうして、そんな彼が笑う。


『まぁ、先輩なら一気に突き進んで敵の首取ってくるようなやり方でも良いんじゃないっすかね。それで早々に戦いを終わらせて自分達も敵も被害を減らす、ってやってる人も居るみたいですからね。そっちのが先輩らしいし』

『ふむ……確かに、そうなんだが……』

『……なんか苦そうっすね』

『……』


 冗談めかした顔から一転して僅かに真剣な顔をしたソラに、瞬はどうするべきか考える。


『……そうだな。俺もお前と同じ方針で行こう。どうすれば良いんだ?』

『へ?』

『……もうずっと前の話だ。まだ冒険部も無い事の時代のな。被害は出したくない……俺も、そうしたい』

『……覚えてたんっすね』


 一瞬、ソラは何の事か理解するのに時間が掛かってしまった。それほどに天桜学園で唯一の戦死者を出した事件は遠い過去になってしまっていた。それはそうだろう。地球で言えばすでに二年近くの月日が経過しているのだ。今なお覚えていた瞬にソラはびっくりしたぐらいであった。


『忘れるわけがない……あれで、多くのけが人も出た。俺はあれを忘れない……勿論、悪い意味で、ではないがな』

『まぁ……それなら良いと思うんっすけど……いや、俺が何か言う事じゃないっすね。良いっすよ。教えれる範囲、とかわかんない所にはなると思うんっすけど、何か話せる事はあると思うし』

『すまん』


 ソラの快諾に、瞬は一つ頭を下げる。そうしてそれから暫くの間、ソラから瞬は指揮官としての薫陶を受ける事になっていた。それを、瞬はここで改めて思い出す。


(基本的に、自分が全部やる必要は無い。前線を崩しそうなヤバい奴を適切に対処する……)


 というより、全部やれるわけがない。瞬は今自分がやってみた事を思い出し、一つ内心で首を振る。


(基本的に全部なんて見きれない。それで守ろうとするのなら、引いて全体を見て適時動くしかない)


 如何に効率的かつ如何に最速で敵を倒すか。それが、前線の指揮官において求められるもの。瞬は現状の自分に求められているものをそう理解していた。無論、それだけでなくどこに増援を出すか等も判断する必要があり、その上で戦いにも出る必要があった。


(なるほど、わかった……それはトリン(軍師)が必要になるわけか)


 これらをすべて一人でこなそうとすると、とてもではないが手が足りない。いや、手も足も頭もすべて足りない。そんな事を考えていた彼であったが、そんな事を考えていられる時間は与えては貰えない。


「部長! 左翼からギルド単位で敵が!」

「ちっ……左翼は……」

「空手部を主軸とした格闘技の連中です」


 一瞬考えた瞬へと、陸上部の生徒の一人が即座に補足を入れる。それを前提に、瞬は敵を確認する。


(敵は……ちっ。割と厄介な腕を持っていそうだな……ちっ。押し返すべく、こちらに戦力を投入してきた、という所か? 今は綾人が中心となっているからまだなんとかなりそうだが……)


 おそらくこれでは終わらないだろう。瞬は敵の様子から、それを理解する。


(撤退……するか?)


 幸い、先程の一幕と冒険部以外の冒険者達が道を維持してくれているおかげで撤退は不可能ではない。なので瞬は甚大な被害を負う前に、撤退を考える。が、彼はその決断は下したくはなかった。


(後少し、後少し堪えられれば、ソラ達が来てくれるんだが……どうすれば)

『支援を要請しろ。それで片が付く』

『なるほど……って、カイトか?』

『ああ』


 悩んでいる所を見て、どうやらカイトが助け舟を出してくれたらしい。それに、瞬もまた手を決めた。


「本陣に支援要請を出す! 綾人達にはそれまで堪えろと伝達しろ! 合わせて、第三、第四隊もあっちに向かってくれ! ソラ達が来るまで、ここで堪えきる!」

「「「おぉおおおおお!」」」


 瞬の号令に、冒険部の別働隊が鬨の声を上げる。そうして瞬はウルカで教わった冒険者同士で通ずる支援要請の信号を打ち上げる。


「っ!」

「ちぃ! 敵の支援が来る! 気を付けろよ!」

「この小僧どもだ! 何が来るかわからねぇぞ!」

「何が来ても構わない! 撃ち落せ!」


 良かった。即興だったが、上手く行ったらしい。瞬が敢えて冒険者達が使う支援要請の信号弾を使った事で、ハイゼンベルグ陣営の冒険者達が警戒を滲ませ攻撃の手を若干だが緩める。来るとわかっている攻撃には、どうしても備えねばならないからだ。

 そうして、冒険部の本陣から無数の魔術が発射されて各種の攻撃が右翼を攻めようとしていたハイゼンベルグ陣営のギルドへと降り注ぐ。


「ちっ! こっちも応戦しろ!」

「指揮官を探せ! どっかに居るはずだ!」

「今の内だ! 一気に敵の前線を押し戻せ!」

「「「おぉおおおお!」」」


 雄叫びを上げる綾崎の姿を遠目に見ながら、瞬は一つ胸を撫で下ろす。これでなんとか、暫くは持ちそうだった。


「……なんとか、間に合ってくれよ」


 後は自分達に出来る事をするしかない。瞬はそう思いながら、ソラ達の到着を待つことにする。が、そんな彼は目の端にハイゼンベルグ陣営の冒険者の苦境を見た腕利きらしい冒険者の姿を見付け、槍を手にする。


「すまん。少し出る……すぐに、戻る」

「「「了解です!」」」

「全員、一条抜きでも堪えろよ!」

「やるぞ!」

「「「おぉおおおお!」」」


 瞬の言葉を受けて、彼が率いていた直属の冒険者達が鬨の声を上げて気勢を上げる。そうして、彼らはその後もソラ達の増援が来るまでの間その場で戦い続ける事にするのだった。

 

 お読み頂きありがとうございました。

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