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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2233話 戦士達の戦い ――演習・出立――

 ギルド同盟の会議の終了後にもたらされたランテリジャから相談。それはかつてエルーシャが蹴った縁談の相手方が裏ギルドに接触し、動かしている可能性があるという話であった。

 それを受け、何をするか考えるほどに暇だったカイトとソラは対応に動く事になるわけであるが、カイトはソラに冒険部の統率を任せ一人公爵邸に戻っていた。理由は簡単で、サリアと話す為だ。


「と、いうわけで情報が欲しい」

『まぁ……その程度造作もない事ではありますが。わざわざダーリンが動きますの?』

「動きたくはないがなぁ……」

『キスした以上、見過ごせないと』

「ごっ!?」


 楽しげに笑うサリアに、頬杖をついていたカイトが思わずずり落ちる。これにサリアは楽しげなまま告げる。


『ふふ。あの事件で手に入らない情報だとお思いですか? それは情報屋を甘く見ているというものですわ』

「いや、思っちゃいないけどさ……ありゃ事故だ」


 情報屋ギルドのヤバさは他の誰よりもカイトは理解しているつもりだった。それ故にサリアの言葉に首を振る彼であったが、それと同時にため息混じりに再度首を振るしかなかった。


『まぁ……大分すれば事故で良いのでしょう。が、どうにも昨今女の色と言いますか、艶が見え隠れする様になっているみたいですわね』

「やめてくれ……これ以上面倒事は増やしたくない」

『ふふっ……まぁ、それは兎も角として』


 心底辟易した様子のカイトに対して、サリアは楽しげに笑った。が、いつまでもカイトで遊んではいられない。彼女は大企業の社長。時間はどれだけあっても足りないのだ。故にここらで切り上げるか、と緩めていた顔を引き締める。


『フィオーリ家次女のエルーシャ・フィオーリの縁談ですわね。わかりました。少し調べさせましょう』

「頼む。一応、前に聞いた話だと嫁に出るという事で確定していたらしいから、こっちに来る事はなかったんだろうが……」

『こちらに来るとなると、話は別と』

「ウチで暴れるなら、話は別と言わざるを得んよ」


 別にカイトとしてもフィオーリ家が適切に対処してくれるのであれば、問題はない。が、フィオーリ家はマクスウェルでもかなり大きな商家で、そこが裏ギルドに繋がりがあると思われる家と繋がる事態は避けたい。

 無論、フィオーリ家も気付いたが故に避けようとしているが、知らずでも関わりを持ってしまった以上は相手も逃すまいと動いてくるだろう。自領地の問題になってしまう可能性が高い以上、面倒ではあったが、やらざるを得なかった。


『ですわね。まぁ、それにウチとしてもフィオーリ家とはお取引させて頂いておりますもの。あそこの乳製品やそういった乳製品を使った美容品はマクダウェル領における主力商品の一つ。品質が落ちる要因は困りますわね』

「そうか……まぁ、そこらはオレも預かり知らん所だが」

『そうでもありませんわ。あそこの牛乳をベースにした石鹸はダーリンの所であれば灯里さんが愛用されておりますわね』

「げっ……」


 よりによって灯里さんか。カイトは一番厄介な相手の愛用品の材料がフィオーリ家から卸されている事を聞いて、盛大に顔を顰める。灯里の場合、最悪はカイトがサリアに泣き付く羽目になりかねない。その事態を避ける為にも、早急に手を打つ必要があった。というわけで、しかめっ面のカイトにサリアが問いかける。


『わかった、みたいですわね』

「はぁ……最悪はあの人になんとかしてー、って言われてなんとかする為にオレが最後は動く羽目になるのか」

『そういう事ですわね。他にもダーリンが良く飲まれている牛乳もフィオーリ家だったりと、色々と無くなると代用は出来るけど困る部分はあると思われますわ……最たる例だとチーズですわね』

「そりゃ困る。ワインが楽しめなくなるな」


 サリアの言葉に、カイトは楽しげに笑う。基本的にカイトは牛乳やチーズなどの乳製品を良く飲んだり食べたりしている。他にもブルーベリーなどの果物で作られた酢などを入れて飲む事などもあり、生活必需品の一つと言い切れた。そこに影響が出るのであれば、他人事ではなかった。


「まぁ、そういう事なら最悪はオレが動くよ。言ってくれ」

『頼みますわね』


 まぁ、おそらくこの流れはサリアが意図的に作っているんだろうが。カイトは自身が良い様に乗せられている事を理解しながらも、どうせ動かねばならないならと受け入れる事にしたようだ。というわけで、サリアもカイトが動く事への言質を取り、本格的に動き出す事にするのだった。




 さて、カイトがサリアを介してエルーシャとランテリジャの実家であるフィオーリ家の問題に取り掛かる事を決めて数日。皇帝レオンハルトによって通達が出された演習に向けた準備も各地で本格化し始めた頃に、一足先に演習の打ち合わせを行っていたマクダウェル家とハイゼンベルグ家の演習は大凡の支度を終えていた。

 そしてそれとほぼ時同じくして、冒険部の支度も終わりつつあった。が、ここで仕方がない事情により、不参加となった者が居た。


「そうか。じゃあ、ルーは全体の演習からの参加か」

「申し訳ない。本国から、そういう指示が来たようだ」

「いや、それはしょうがないさ。逆に、全体の演習に参加してくれるだけ十分だろう」

「そちらには、エードラム殿らも参加する。俺もその一人として、参加だ。アリスもな」


 カイトの許諾に、謝罪していたルーファウスは一転してやる気を見せる。どうやら今回は彼と妹のアリスは教国側からの指示により、マクダウェル家とハイゼンベルグ家で行われる演習については不参加となってしまったらしい。

 とはいえ、元々カイトとしてもこの可能性はあるかな、と想定していた事ではあったので、特別気にした事はなかった。


「そうか……ということは、指揮系統はそちらになりそうか?」

「だろうが……いや、どうなのだろうか」


 基本、教国として動く場合は一見するとルーファウスはエードラムの指揮下に入る方が良い様に思える。が、現状の彼は見習い騎士として海外留学に近いアリスのお目付け役――名目上――として冒険部に出向している形で、エードラム達の出向とはまた別の形だ。であれば出向先のカイト達と歩調を合わせる方が良い様にも思われた。


「さてなぁ……まぁ、そこらは一度また確認しておいてくれ。お前ほどの戦闘力だ。間違いなくウチじゃ特記戦力として配置はきちんと考えにゃならんからな」

「そう言ってもらえると有り難い……わかった。一度確認を取らせて貰おう」

「頼む」


 改めて言うまでもないが、ルーファウスは素ではランクA冒険者にも匹敵し、現在では浅はかならぬ縁により<<原初の魂(オリジン)>>さえ展開出来る領域の戦士でもある。間違いなく特筆するべき存在であり、その存在一つが布陣を左右すると言っても良かった。というわけでルーファウスが再度の確認に動く一方で、カイトは現状を再確認する。


「部隊分けは……完了済み。物資……飛空艇に積み込み中。残留の面子の統率など……問題無し。まぁ、こっちは数日で戻るから問題無いといえば問題ないか」


 今回、全体での演習が決まった関係でマクダウェル家とハイゼンベルグ家の演習は若干短めに時間を設定しておいた。なので演習そのものは一日で終わる予定になっており、あくまでも演習に向けた演習という色合いを濃く設けていた。


「良し……ひとまずは、演習に向けては完了かな。後は、また現地で考えるか……ソラ。そっちの手配は?」

「出来てるけど……思ったより多くて若干気後れしてる」

「はじめは、そんなもんだ。まぁ、お前もここらで戦場での部隊統率に慣れとけ、って話だ。先輩もな」


 今回、カイト以下冒険部の上層部は基本は率先して前に出ない様にさせている。というわけで何時もとは違う立ち回りが求められるわけであるが、そんな話を振られた瞬は眉をひそめていた。


「先輩。悩みすぎだ。そこまで固くなる必要はない」

「そう……なんだろうか」

「今回は演習だ。規模も大きくはあるが……それでも、次に行われる全体の演習に比べれば随分と小さい。お試し、というと言い方はあれだが、そこまで気張るものではないさ」


 気後れしている、と言いながらも何度か部隊の統率を行い戦闘もこなしているソラはともかく、瞬は基本は前線に出て戦う為、こういった部隊の統率が中心となる戦いはあまり経験していない。

 なので何時もと勝手の違う戦いに若干の気後れとまでは言わないものの、戸惑いが見て取れていた。そんな彼に、カイトが助言を与える。


「まぁ、あえて言えば今までは流れを自分で作り出す事に注力していたが、ここでは出来た流れ読み取って動く事に注力するわけか。何時も何時でも自分で流れを生み出せるわけじゃない。大きな戦いだと、それが顕著だ。その生まれた流れに上手く乗る事や、上手く周囲を乗せる事。また生まれた流れを途絶えさせない様にする事などをしっかり把握する練習だ」

「そ、そう言われると余計に難しく感じるんだが……」

「そうでもないさ。先輩の場合、存外自分一人の時はそれが出来てる」

「そう……か?」


 どうやら瞬当人にその流れを読んだ上で動いている印象は薄いらしかった。これに、カイトははっきりと頷いた。


「ああ。先輩だと、ほら。ここが攻め時とわかると一気に攻め込んだりするだろう?」

「それは当然だろう。相手が引こうとするタイミングを読めないと、一気に攻めきれないからな」


 何を当たり前な。そんな様子で瞬が答える。これに、カイトは笑った。


「だろう? それを広げ、全体に目を向けるんだ。無論、タイマンと集団戦じゃ話は違うが……そこを慣らす為の演習だ」

「ふむ……なるほど。ということは、攻めるべき時と思えば攻め込め、と言ったり、引くべきと思った所で全員を引かせたりすれば良いのか」

「基本はそれで良い。その上で、攻め込む際に自分が切り込み役となり周囲を鼓舞したり、引く際に自分が敵を一瞬食い止めたりはして良い。というより、それは高位冒険者の役目だ。そこは怠って良いものじゃない」


 あくまでも、指揮官として振る舞う事。カイトは今回の演習でソラと瞬に課していたのは、そんな課題だった。それについては瞬もまた、納得して受け入れていた。


「……わかった。とりあえず周囲の流れ……? を見ながら動いてみる」

「そうしろ。重要なのは、如何に好機を逃さないか。それがわかるようになると、冒険者としてもデカイ戦いで上に飛躍出来る。全体の流れを読んで動く、というのはソロとして動く上でも存外重要だからな」

「……そう、だな。良し。わかった。一つやってみよう」


 なんとかフォロー出来たかな。カイトは先程より随分と気が楽になった様子の瞬に、内心でそう思う。こればかりは当人の性質やその他様々な要因があるので、瞬が気後れしていても仕方がないと思っていた。そしてそういった所をフォローするのが、ギルドマスターの役目だった。というわけで瞬へのフォローが終わった所で、桜が瑞樹と共に戻ってきた。


「ん? 二人一緒だったのか」

「ええ。玄関口で一緒になりまして。別に別れる必要も無かったので、そのまま一緒に来ましたわ」

「そうか……ああ、そうだ。二人共、それぞれの状態を教えてくれ」


 瑞樹は今回の演習に参加する竜騎士部隊の最終調整。桜は出立に備えて飛空艇に資材の搬送の統率を行っていた。というわけで、カイトは次いで二人から報告を受ける事にして、その後も出立までせわしなく動く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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