第2231話 戦士達の戦い ――同盟会議――
ふとした偶然からギルド同盟の会議に飛び入り参加して、即興でバルフレアの望む展開を打ち立てたカイト。そんな彼はバルフレアが去っていくのを見て、ため息を吐いた。
「はぁ……これでなんとかか」
「な、何が? え、ってか……今バルフレアさん来たよな。なんで?」
張っていた肩肘を緩めたカイトに、只々今の一幕にあっけにとられていたソラが慌てて問いかける。そして彼と同じ様に、多くのギルドマスター達が唖然となっていた。
「そうだ……はぁ。まさか来てるとはな」
「……え、お前マジ知らなかったの?」
「ああ……まぁ、皇国に来た事は聞いてたけどな。今回の演習で打ち合わせの為にな。まさかこっちに来てるとは思ってなかったが」
どうやら本当に今の一幕は即興だったらしい。というわけで、ソラが訝しげに問いかけた。
「どうやってえーっと……バルフレアさん? の求めてるのがわかったんだ?」
「ああ、この間ほら、クズハ様と会議やっただろ? その時に彼女がぽろりと冒険者達の動きが鈍いのを苦労されていて、と言ってたのを覚えてた。となると、何が欲しいと言うと理由だろ。自分が本気度上げる理由が」
「お、おぉ……あ、そっか……で、そうなるのか……」
どうやらソラはなぜあのタイミングでバルフレアが敢えて出て来たかの理由がわかったらしい。一人得心した様子で頷いていた。そして同じ様に理由を考えていたらしいランテリジャもまた、その理由に気付いたようだ。
「なるほど……最低僕か貴方ぐらいでないとだめでしょうが……僕じゃだめですね。いくらなんでも彼とは格が違い過ぎる」
「どういうこと?」
カイトが動いた理由を理解し苦笑するランテリジャに、エルーシャが問いかける。そうして、彼が口を開いた。
「さっき、カイトさんが言われていたでしょう? 本気度を上げたいけれども上げられなかった、って」
「なんで」
「怯えと捉えられかねないからですよ。無論、上の方々は全員揃ってそんな事は言わないのでしょうが……」
こればかりは三百年前を生きた者たちでないとわからないのだろうし、実際自分にはわからない。ランテリジャはバルフレアら当時エースとして生きてきた者たちの心情をそう慮る。それに、カイトが言葉を引き継いだ。
「良くも悪くも、あの時代を生き延びたからこそわかっている事。ですが、当時の事を知らない者からすれば何を過剰に怯えているんだ、と思われかねない。その線引が、難しい。だから敢えて、ここでこの話題を出す事で意図的に対応の度合いを上げる事にした、というわけです」
「……それを一瞬で理解した彼も彼だが、それを一瞬で編み出したお前もお前だ……」
カイトの解説に納得しながらも、一切の打ち合わせもなく即興で応じた二人にギルドマスターの一人は呆れ返る。とはいえ、こればかりは流石にカイトだから、バルフレアだから、という所があるだろう。
お互いにお互いの事を知っていればこそ出来たのであって、カイトもバルフレアもお互いに別の相手であったならわからなかっただろう、と後に語っていた。
「まぁ、それはとりあえず置いておきましょう。これでユニオン側からも演習の参加に関してはある程度のサポートが出る」
「でしょうね……っと。では、会議を続ける事にしましょう」
今の一幕はそもそも予定になかったものだ。故に誰もが呆気には取られたものの、上から更に潤沢なサポートが受けられるのであれば誰も異論はなかった。というわけで、そこからは再び各ギルドの現状の確認が行われる事になるのだった。
さて、そういうわけで暫くの間同盟に参加しているギルドの間で現状確認が行われるわけであるが、元々この会議が開かれる事になった理由の一つである各ギルド復帰が大凡なされたという言葉の通り、大凡のギルドは所属する冒険者達の復帰が成し遂げられていた。というわけで、全体の報告を受けたランテリジャがその報告を総括する。
「これで、全部ですね……なんとか、ギルド同盟の被害は軽微と捉えて良いのでしょう」
「だろうな……完全に被害が無かった、ってわけじゃないが……」
幸いな事にどのギルドもギルドが維持できなくなるほどの被害は負っていなかったらしい。無論、それは死傷者が出ていなかった事を意味するという事ではないが、少なくともこのまま冒険者として活動出来るだけの力は残っていた。というわけでカイトの言葉にランテリジャも一つ頷いた。
「ええ……ですがそれでも、この場に集まっている全員が無事だった。それで十分でしょう」
「ま、それもそうか」
たしかにな。ランテリジャの言葉に、全員僅かな苦笑を滲ませながらも一つ頷いて納得を示す。少なくともどのギルドでもギルドマスターの死去という事態は起きておらず、最も大怪我を負ったのはカイトだという事だった。まぁ、実際考えれば彼は死んでいてもおかしくない怪我を負った。というわけで、それを知るギルドマスター達が笑う。
「お前だお前」
「土手っ腹に風穴空けられときながら、良く生きて帰ったもんだ」
「まだまだ死ねねぇよ。まだ数えられるほどしか生きてねぇからな」
「「「あっはははは」」」
カイトの冗談めかした言葉に、ギルドマスター達が楽しげに笑う。そうして一つ和気あいあいとしたムードが流れる事になるが、まだ議題は全部終わったわけではない。なのでランテリジャが改めて、話を進める事にした。
「あはは……それでは、次の議題。今度の演習についてどうするか、ですね」
「あはは……ウチは参加だ。それでクズハ様にも言っちまってるしな」
「そういや、噂にゃ聞いたがお前の所は今度の全軍の演習にも参加するのか?」
どうやらカイトがここ暫く皇国軍部やクズハらと会談を繰り広げていた事を聞いていたギルドマスターが居たらしい。そうだろうな、とは思っているが、念の為に確認したい、という様子で問いかける。これに、カイトは一つ頷いた。
「ああ。まぁ、これはすでにランとエルには話しているが……そもそもこの全軍での演習が実施される事になったきっかけの一つには、オレがクズハ様に話を……まぁ、早い話一応のご挨拶って所か。それをしに行って、色々とあって全軍でやる、という流れになった形だ」
「何があったんだ?」
「いや、他に何か演習を行う予定とかあるのか、と聞いたんだ。こういう実戦形式の仕事は受けて損無いからな」
「相変わらずっちゃ相変わらずか」
この場のギルドマスター達がカイトが若手ながらも誰しもが一目置いているのは、冒険者としての実力より彼がコネや伝手の重要性を理解し、各地の貴族や軍の高位高官ともつながりを保有しているからが大きかった。
少なくとも数多有能と言われる者たちを見てきている筈の者たちが一目置くぐらいの腕である。それを理解しているからこそ、カイトがこういった演習に参加し、軍高官達との伝手を得ようとした不思議に思われなかった。
「まーな。そこで何か地域毎とかでの大規模な演習はやらないのか、と聞いて、そこからマクダウェル家とハイゼンベルグ家が動いて、皇帝陛下が動かれたらしい」
「へー……」
そもそもハイゼンベルグ家がマクダウェル家の後見人の立ち位置にある事は皇国で住んでいれば当然と知っている事だ。なのでこの場合はアウラがハイゼンベルグ家に相談し、両家で話しをする事にしたのだろう、と誰もが考えたようだ。なお、これは実際のカバーストーリーであり、何かがあって流れを語る場合もこれになるらしかった。
「で、その流れでオレも意見が無いか聞きたい、という事で会議には時折参加してる」
「で、参加せにゃならん、と」
「そりゃ、この流れで参加しませんは言えないさ」
ギルドマスターの一人の確認に、カイトは少しだけ困った様子を見せながら笑う。これについてはそれ以上言える事がなく、無論ギルドマスター達も疑問はなかった。というわけでそこら特段確認するほどの事でも無いような話を交わした所で、カイトが仕切り直す。
「ま、そりゃどうでも良いさ。ウチは参加せにゃならん。それだけの話だ」
「まな……」
「そうですね……ああ、姉さん」
「あ、うん。これは同盟とは別として、ウチも話の流れですでにクズハ様に向けて参加の意向を話させて貰ってる。ギルドは別にして師匠も参加する、って話だったから、ウチも断れないからね。元々、仮契約で受諾しちゃってたし……」
ランテリジャの促しを受けたエルーシャが彼女の所のギルド単位での参加の是非を報告する。なお、やはり規模が大きくなった為、今回ギルド同盟で参加する予定だった演習は一旦白紙になり、参加の是非は各ギルドに委ねられる事になったらしい。というわけで、この時点ですでに参加が確定的な二つがそれを報告した所で、ランテリジャが問いかける。
「他に、今の所参加の意向がおありの所は?」
「私の所も、参加します。今後を考えれば、軍事行動に慣れておきたい所でもあるので……」
ランテリジャの問いかけを受けて、セレスティアが参加を明言する。まぁ、彼女にしてみればカイトへの助力という所で、今後を考えればカイトと共同歩調を取る事は利益だ。彼が主導している以上、参加しない道理がなかった。そしてそんな彼女の言葉で、他のギルドマスター達も少し考える。
「軍事行動か……」
「確かに、慣れとかにゃならんかもなぁ……」
「俺達、各自好き勝手は得意だけどなぁ……そこら、集団行動ってあんま得意じゃねぇからなぁ……」
「得意だったら軍入ってるからな」
「「「あっはははは!」」」
集団行動の出来ないはみ出しもの。ギルドマスター達はそんな言外の言葉に楽しげに笑う。とはいえ、セレスティアの指摘は考える所があったらしく、かなり好意的な流れになっていた。と、そんな所で。ふとギルドマスターの一人が片手を小さく挙げる。
「っと……悪い。外から連絡だ……どうした? ……ああ、それか」
少し待ってくれ。ギルドマスターの一人は一度上げかけた腰を下ろし、全員に一時停止をジェスチャーで示す。そうして、彼が通信機を机に置いて机に備え付けられていた拡声器へと接続させる。
「この話に関係ありそうなニュースが今届いたらしい。全員、聞いてくれ」
「「「……」」」
おそらく、そうなのだろう。ギルドマスター達はこの場での流れに、大凡を察して通信機から流れる音声に耳を傾ける。
『ギルド<<森の小人>>及び<<熾天の剣>>の演習への参加が表明されました。両ギルドは共に今後予定されている皇国全土を上げての演習にはギルド全体で参加すると共に、マクダウェル家、ハイゼンベルグ家が実施予定の演習にも……』
やはりそうか。通信機から流れてくるニュースの音声に、一同は僅かに険しい顔を浮かべる。そうして更に暫くの間、ニュースの内容を聞いていたわけであるが、次の話に入った所で通信機を停止させた。
「……やっぱりか」
「まぁ、マクダウェル家とハイゼンベルグ家だからなぁ……」
「ということは、<<暁>>も動くか」
やはり八大も動くし、そうなると動きを見せるギルドは増えてくるだろう。全員が険しい顔でお互いの反応を伺い合う。とはいえ、冒険者にとって決断力は必要不可欠な物だ。故に、即座に決断した者も少なくなかった。
「ウチは参加だ。八大まで動くのなら、参加する意味もあるだろう」
「ウチも同じく……まぁ、この流れが出た時点で参加、ってのはギルドで合意してた。異論はねぇな」
「だな……ああ、ウチも同じだ」
やはり八大ギルドが参加を表明した時点で、参加を示そうという者はかなり多かったようだ。クオンとアイナディスの参加表明をきっかけとして、流れが出来たらしかった。そうして、演習については多くが参加の意向を示し、終わりを迎えるのだった。
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