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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第89章 草原の戦い編

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第2229話 戦士達の戦い ――プラス・ワン――

 皇国全土で行われる演習に向けての支度に勤しんでいたカイト。そんな彼はギルド同盟で行われる会議の前日、自身の要請を受けて演習への参加を決めたアイナディス、同じく立場上参加する事にしたクオンの来訪を受ける事になっていた。

 というわけで、そんな二人と共に何時ものマクダウェル家の面子で夜遅くまで酒盛りをした翌日。カイトはさも平然とギルドホーム側に顔を出すと、午前中は演習に向けた支度を行い、午後からはソラを伴い同盟の会議に顔を出していた。


「カイトさん」

「おはよー」

「よぅ、昨日ぶり」


 ランテリジャとエルーシャの姉弟の言葉に、カイトも気軽に挨拶を交わす。そうして、カイトは自席に腰掛ける。そうして他の同盟のギルドマスター達を待つ間に、カイトは少しの雑談に興ずる事になった。というわけで、口火を切ったのはソラだった。


「そういえば……俺なにげに全体会合に出席するの初めてなんだけど」

「そうだったか?」

「おう……まぁ、小さめの会合にゃ何回か出てたけどさ」


 やはりこれは規模の大きな同盟であれば仕方がない事だったのであるが、どうしても全員が集まろうとすると依頼の関係やギルドの現状から日程の調整が最大のボトルネックになってくる。

 というわけで、勿論カイトも日程が合わない事はままあった。そういう時にはソラや瞬が代理として――桜は内政向きなので滅多には出ない――出ているのであるが、やはりここらはカイトの手腕という所だろう。基本的に大きな規模の会合には必ず自身が参加しており、外のギルドとの関係性から瞬が補佐として来る事が多かった。


「そうか……まぁ、確かにそうだったかもな。が、基本大凡は顔を合わせているだろう。問題は無いさ」

「かねぇ」

「そういえばソラさん。トリンさんは今日はご一緒ではないんですか?」

「え? ああ、トリン? トリンは今日は留守。俺がカイトの補佐って感じだ」


 ランテリジャの問いかけに、ソラはトリンの事を語る。基本ソラの補佐はトリンが行っているわけで、そうなると彼もギルドの会合に出る事はあった。というわけで、この両名に加えて瞬、翔の四人がカイト以外に会合に出席している面子だった。と、そんな彼にエルーシャがふとした疑問を語る。


「そういえば……あの人って強いの? 前に冒険者の登録証を見せて貰ったけど、あれ確か登録かなり昔でしょ?」

「あー……いや、あいつは強くはないよ……いや、ぶっちゃけ……うん」


 流石にソラもド直球に弱いと言うのは憚られたらしい。エルーシャの問いかけに若干言葉を濁していた。とはいえ、これで大凡全員が察したらしい。


「あー……」

「まぁ……明らか軍師っぽいもんなぁ……」

「あれでもマシにはなってるぞ? 何度かブロンザイトさんと一緒に旅した事あるんだが……」


 やはりブロンザイトは長く旅をしていたからだろう。カイト達より一回りも二回りも年重の冒険者達の中には、彼を見た事があったり知り合いだったりした者は少なくない様子だった。

 その中には勿論トリンを見知っていた者も少なくなく、一時は彼を心配したりしてわざわざ冒険部にまで来てくれた者も居たりした。というわけで、その縁でソラと懇意になったギルドマスターの一人が、ソラへと問いかける。


「そういや、ソラ。お前今晩どうだ? 久しぶりにこっち来たから飲みに行きたくてよ。まぁ、今日じゃなくても暫く情勢見極めでこっち残ってるから、その間でも良いけどさ」

「あー……いっすね。時間、ちょっと探してみます。ただ、今日はパスっすね」

「あー。まぁ良いまぁ良い。ギルドの会合か?」

「いやー、まー……そんなとこっす」


 ギルドマスターの誘いに、ソラは少し恥ずかしげにはぐらかす。が、しかし。それ故にカイト側に懇意にしているギルドマスターの誤解を招いたらしい。


「ってことは、お前も無理か。今日は潰してやろうと思ってたんだが」

「ん? いや、別に会合は無いぞ? 単にこいつが彼女とデートだってだけで」

「何だ、そういう事か」

「「「おいおい」」」

「すんません」


 それならそうと正直に言えよ。ソラに馴染みのギルドマスター達が呆れ返り、そんな彼らにソラが恥ずかしげに、しかし少し嬉しそうに頭を下げる。

 まぁ、基本冒険者達は豪放磊落な人物が多く、しかも何時死ぬとも知れない職業だ。享楽的に刹那を生きるような性格の者は少なくなく、デートなら邪魔するのは野暮と心得ていた。というわけで、そんな話を暫くしながら時間を潰していると多くのギルドマスター達が勢揃いする事になった。


「さて。ではこれで全員です……かね」

「いや……確かにそりゃ全員なんだが……先に一言ツッコませて貰って良いか?」

「あはは……僕も可能ならツッコもうかと思ったんですが……誰も見て見ぬ振りをされていたので開始してからで良いかな、と」


 そりゃ誰もツッコめねぇよ。あるギルドマスターの言葉に対するランテリジャの返答に、全員がそう思う。とはいえ、これに数人平然としていた者が居た。その内一人は、言うまでもなくカイトであった。

 というわけで、当人や明らかに関係者と思われるセレスティアに聞くより、とランテリジャは平然とするカイトへと問いかける事にする。


「えーっと……カイトさん。一応、以前の『クシポス』の一件は伺っていたのですが……何かご存知ですか?」

「ん? ああ。えーっと……一応グリムで通した方が良いか?」

「……」


 こくん。カイトの問いかけに、グリムことレクトールが一つ頷いた。


「そか……となると、セレス。オレから語るか? それとも自分から?」

「私から語るのが筋かと」

「だわな」


 セレスティアの返答に、カイトは一つ頷いて場を譲る。というわけで、彼女が事の次第を語る事にする。が、そうして起きたのは、当然だが驚きだった。


「あんたが……」

「あの死神グリムの妹……?」

「はい……その節はお世話になりました。見付かりましたし、少々事情があり兄がこちらに来られていたので兄がご挨拶に、と」

「妹分が世話になった。一応の筋として、挨拶に寄らせてもらった。急に押しかけ申し訳ない」

「「「……」」」


 ぽかん。優雅ささえ滲むレクトールの謝意に、事情を初めて知らされたギルドマスター達が揃って間抜け面を晒す。そうして少し。気を取り直したギルドマスターの一人が問いかける。


「妹分? ってことは……血の繋がりはなかったのか?」

「はい……ここらは少し込み入った話にはなるのですが……義理の姉の婚約者が、兄さんになります」

「お、おぉ……」


 義理の姉の婚約者はほぼほぼ他人じゃなかろうか。一同そう思うが、同時に義理の姉という事はどこかしらで親戚関係にあるということもわかる。


「え、えーっと……そのお姉さんってのはあれか? 血の繋がりは無い……よな?」

「はい。一応更に古くは同じ一族ですので、完全に無関係というわけではありませんが」

「ってことは……謂わば親戚のお姉さんって所か」

「そうですね。そう考えて頂いて結構かと。それで言えば、兄さんもそうなりますが」


 ということはセレスティアはかなり大きな一族の少女だったわけか。そうして大凡セレスティアとレクトールの関係を把握した一同は、それはさておきと本題を問いかける事にする。


「では、もう冒険者は引退されるのですか?」

「いえ……少し理由があり、今後も冒険者を続けるつもりです。またその関係もあり、兄さんのギルドとは別個で同盟を結ぶつもりです」

「一応、貴殿らに迷惑は掛けない様に私が個人で設営した別のギルドで同盟を結ぶつもりだ。もしくは、門外顧問という形を取ろうと考えている」

「そんな事が出来るのか?」


 ランテリジャの問いかけに答えた二人に、訝しげにギルドマスターの一人が問いかける。これに、カイトが口を挟んだ。


「可能だ。まぁ、この中のどれだけの奴がユニオンの規約を読んでるかは知らんが……ギルドの掛け持ちはそもそも可能だし、襲名制を取っているギルドだと個人での設営は不可能じゃない。勿論、顧問の場合は一切の問題はないな」

「まぁ……顧問はわかる。ウチも先代に顧問って立場で居てもらってるからな。で、複数ギルドの設営が不可能じゃない? マジか? 聞いた事ねぇぞ?」

「ルールの抜け穴だ……襲名制を取っているギルドだと、代表の名は何代目何々となる。グリムの場合は三代目グリムという形だな。この場合、グリムと彼個人は別人という形となる。公人と私人というような考え方か」

「「「……」」」


 ヤバい。話が半分も理解出来ん。半分以上のギルドマスター達がカイトの説明に若干理解を放棄しつつあった。とはいえ、残り半分ほどは大凡の筋を理解出来ており、疑問を呈していた。


「だがそれならなんで誰もやってないんだ?」

「そもそも襲名制を採用しているギルドが少ない事。更にはユニオンに襲名制を採用していると認められるのにはそれ相応の年月が必要である事が最大の要因だ……確か……ユニオンに確認を取った所だと、最低でも五十年は必要で、尚且三代以上の代替わりが起きていることが最低条件だそうだ」

「そういや……襲名制なんて滅多にやらねぇもんな。俺も良く考えりゃ、死神の旦那以外知らねぇや」

「そういう事だな。襲名なぞ特に意味もない。敢えて利益があるとすれば、初代がそれ相応の偉業を打ち立て、襲名する利益がある場合ぐらいだ。が、そんなものは滅多に起きるもんじゃない。結果、誰も知らないんだ」


 長命の種族も多いエネフィアにおいて、五十年ギルドが存続するというのは決して難しい話ではない。なので条件としては決して厳しい条件ではないのだ。

 が、その襲名制を使用しているギルドが極端に少ない為、誰も知らないのであった。勿論、それ故に誰も使わないのでユニオンも敢えて禁止する意味がなく、抜け穴としてカイトが利用したのであった。


「にしても……お前良くそんな事知ってるな。聞いてたのか?」

「知恵を出したオレだが」

「「「お前かよ!」」」


 納得といえば納得だし、カイトだと言われれば更に納得も出来るのだが、やはり彼がそもそもそんな策をレクトール達に持ちかけていたとは仰天するしかなかったようだ。ギルドマスター達に加え、ソラまでもが声を揃えていた。そんな彼を見て、馴染みのギルドマスターが思わずツッコんだ。


「って、お前も知らないのかよ」

「いや、知らないっすよ? 兄妹までは聞いてたんっすけど……トリンに聞いときゃよかった、とは思ってますけど」

「あー……確かにあいつなら、わかってたかもなぁ……」


 賢者ブロンザイトの最後の弟子だ。彼なら確かに、カイト達の関係性を聞いた上でならどういう策を打つかと理解していた可能性はあったし、事実ソラが後に聞いた所その可能性は確かにあったと述べていた。まぁ、その彼も第一候補は先にグリムが述べていた代案の顧問という立ち位置だったそうで、こちらを第一案に持ってきていた事には驚きを得ていた。それはさておき。そんな話を横目に、ランテリジャが問いかける。


「ま、まぁ……それはさておき。という事はまだ暫くはギルドは解散しない、と?」

「はい。まず間違いなく、カイトさんの所が地球に帰還するよりは長くなるかと」

「それなら、安心です」


 ひとまず重要なのは今後のセレスティア達の方針だ。彼女らが解散しないのであれば、ランテリジャとしても多くのギルドマスター達としても問題はない。更に言えばレクトールについても強固な後ろ盾が手に入ったと好意的に捉えるギルドマスターは少なくなく、特段の異論は無い様子だった。

 というわけで、一旦レクトールはこの会合ではオブザーバーという立ち位置に収まる事になり、議論が本格的にスタートする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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