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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十章 遠征編

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第211話 第二陣着任

 ソラ達がトレントを討伐した日から、時は少しだけ遡る。当たり前だがカイト達の居る冒険部でも普通に冒険者としての仕事は行われていたのだが、その日だけは、朝から別の仕事に時間が取られていた。


「おーい!荷物こっち3階組の荷物だ!」

「おーう!3階だな!」


 この日は、第二陣の就任の日だった。といっても、全員ではない。戦闘をメインとしない支援組の着任の日だった。なのでこの日は朝から彼らの荷物の運び入れを冒険部総出で手伝っていたのである。

 ちなみに、各個人の荷物としては、そこまで大量ではない。嵩張っているのは彼らが使う仕事道具一式だ。此方は壊れ物や地球で言う所の精密機器に近い道具も多く、厳重に梱包されていたり、また装置そのものが大きかったりしたのだ。


「いっせーのーで、で行くぞ!」

「おっけ!」

「いっせーのーで!」

「しょ!」


 ギルドホーム前に、第一陣の生徒達の大声が響いた。大きくて、数人掛かりでないと持てない荷物は数人掛かりで運び入れていく。流石に以前みたいに飛空艇を借り受ける事は出来ず、業者には頼まず自分たちで馬車を使ったのだ。それ故、馬車に荷物を乗せるのから荷物の運び入れまで、全て自分たちでするのであった。


「あ、それ割れ物だから気をつけてください!しかも、中身薬品なんで、割れるとやばいです!」

「おーう!これ、医務室でいいんだよな!」

「あ、はーい!そこでミースさんの指示に従ってください!」


 かつての襲撃で学園に来てくれていたミース達天族の医師達だが、まだ学園に留まってくれていた。というのも、第二陣が本格的に修行を開始した事で怪我も絶えなくなったし、さらに言えば第二陣の生徒達は治癒や料理等の支援を担当してくれる面子なのだ。実はかなり昔から彼らへの教示を依頼していたのである。

 尚、第二陣の教示が終わって学園での引き継ぎ作業が終われば、ミースは此方に赴任する予定であった。


「すんませーん!ライコフ商店のモンです!鉱石持って来ましたー!受領書お願いしまーす!」


 と、そこに更に業者の声が響く。此方は今後武器防具の修繕や新しい武具の作成に使う鉱石の納入だった。


「あ、おーい!天音ー!鉱石来たぞー!」


 ギルドホーム前で荷物の運び込みを行っていた生徒の一人が、運び込みの総監督を行っていたカイトに声を上げる。


「ああ!直ぐ行く!ユリィ、その間任せた。」

「うん!あ、そっちぶつかりそう!」


 大きな機材の運び込みの指揮をユリィに任せ、カイトは業者の下へと急ぎ足で駆けて行く。ちなみに、今カイトが指揮していたのは、機織り機の一種だ。防具を作るのに使うのである。流石に鉱物系の防具は出来ないが、桜や翔が使う服にも似た防具を製作するのには使えるのである。まあ、金槌で織物が出来ても変だろう。


「ここにサインお願いします。」

「はい。」

「あ、御主人様。ペンは此方に。」

「サンキュ……はい、では此方で。」

「……はい。ありがとうございました!荷台の方はまた後で取りに伺います!」

「はい。」


 受領書にサインを受け取ると、業者はそう言って荷台だけを置いて馬車を走らせる。荷台の方は中身の鉱物を運び込むのに時間が掛かるので、また後で取りに来る事になっているのだ。


「桔梗!撫子!鉱石が来たぞ!」

「あ、はい!」


 同じく引っ越しの手伝いをしていた桔梗と撫子が、少しだけ駆け足でカイトの所にまでやって来る。彼女らは第二陣が使う予定の金槌等の運び込みを行っていたのだ。

 カイトとて本職として鍛冶師を行わせるつもりは無かったが、それでも全てを彼女らがやっていては手間だ。メンテ等で繊細な作業をやらない事を前提に、補佐程度は必要なのだ。桔梗と撫子にはその第二陣の生徒達への面倒をお願いしていたのである。


「鉄鉱石が100キロ、銅鉱石30キロ……砂鉄もきちんと有りますね。お館様、後ほど砂鉄の精製をお願いできますか?」

「村正流で使うクラスの玉鋼で良いのか?」

「はい。」


 流石に一大商業都市であるマクスウェルとはいえど、良質な玉鋼を入手する事は困難だった。そもそも玉鋼が中津国の特産品であることが大きかった。購入出来ても高いのだ。

 まあ、買えないならば作れば良い。良質な砂鉄があれば、良質な玉鋼が作れるのだ。そして、土地が広いマクダウェル領。砂鉄の産地ならば山程ある。たたら製鉄という独特の製法上中津国でしか作られていないだけで、魔術を応用しさえすれば作れるのであった。

 ちなみに、マクダウェル領では良質な鉄鉱石が取れる事から、砂鉄はあまり使われていないおかげで安かった。まあ、そのせいで玉鋼があまり流通しないのだから、双剣士といっても結局刀を使うカイトとしては痛い所であった。


「ま、今晩中にやっとく。流石に先にこっちが優先だからな。」

「ええ、お願いします。」


 二人は同時に腰を折り、再び武具のメンテに携わる面子の監督に戻っていく。と、そこで再びカイトを呼ぶ声が響いてきた。


「カイトー!」

「皐月か?どこだ!」

「こっちこっち!」


 大きな荷物に囲まれて、皐月の姿が見えなかった。なのでカイトが大声で呼びかけると、皐月が3メートルほどジャンプして居場所を示した。


「っと。なんだ?っと、弥生さん、おはよ。」

「ええ、おはよ……反物来てないかしら?」


 どうやら弥生は荷物の中から衣服の修繕や被服に使う生地を探していた様だ。弥生は呉服屋の娘だし、カイトにしても彼女らと共に居る事が大きい。なので洋服に使う生地でも癖で反物と言ってしまう事が多かった。


「反物……椿!納入品リストに生地類はあるか!?」

「あ……いえ、無いです。」


 椿は納品されたリストを確認しながら、カイトに対して頭を振った。今日は第二陣が着任するので納品される物も多く、カイトも全てを管理しきれているわけではないのだ。というより、監督しながら管理までは不可能だ。なので管理は全て椿に一任して、自分は現場の監督を行っていたのだった。


「そう……」

「何か困りごとか?」

「ええ、今防具ボロボロだ、っていう意見が来てるのよ。鉱石で出来ている防具は二人で良いんだけど、それ以外がちょっと、ね。だから、今日中に仕事に取り掛かれる様にしたかったんだけど……」

「ああ、成る程……」


 弥生が少し困った様な表情でカイトに告げる。武器についてはほぼ桔梗と撫子が修繕してくれたし、鉱物で作られている防具についても二人が修繕可能だ。だが、流石に二人でも革や布で出来た防具については如何ともし難い。どう足掻いても分野が異なるのだ。それ故、そちらについては未だに外注のままだった。


「んー……取りに行くか。皐月、悪いが手を貸してくれ。」

「良いわよ。確か南町の商店街だったわよね。」

「ああ。」


 流石に専門外の購入なので、カイトは弥生、皐月、睦月の神楽坂三姉妹を連れて購入に出掛けたのだ。なので既に購入を終えて納品を待っている段階で今日の納品を依頼していたのだが、何らかの理由で遅れているのだろう。


「とりあえず、明日分だけでもあればいいわ。防具だから……革の生地が5つ。出来れば普段着の修繕用にシルクや麻や綿もあれば良いわね。」

「はいはい……椿!ちょっと反物の納品が遅れてる様子だから、少し確認に行って来る!その間の手筈は任せた!」

「はい、御主人様!行ってらっしゃいませ!」

「良し、皐月、ちょっと飛ばすぞ。」

「いいわよ。そっちこそ落っこちないでね。」


 カイトは椿に後事を託すと、皐月と共に隣家の屋根にジャンプ一つで飛び乗った。時間が無いので直線距離で進んだほうが早いのだ。そしてものの十分ほどで、二人は生地を購入した商店へとたどり着いた。


「申し訳ありません。使いは送ったんですが……どうやらサボっているみたいですね。」

「そういうことでしたか……わかりました。では、此方の生地だけは先に頂いていきますね。」


 それから十分ほど。店に入り事情を説明した所、店員が申し訳なさそうに頭を下げた。どうにも今日別の大口の宅配で馬車を使ったらしのだが、その際に馬車の車輪が脱落して修理に時間が掛かって納品が遅れているとの事だった。それで遅れる事の連絡を少し前に送ったとの事だったのだが、その連絡員が何処かでサボっているらしく連絡が来なかったらしい。


「ええ、なんとか馬車は大急ぎで修復しているのですが、もう少し、お時間が……」

「今日中には可能ですか?」

「ええ、遅くとも日が暮れるまでには納品をさせて頂きます。」


 カイトの問い掛けに、店員が頭を下げる。弥生としても今日中に納品してくれれば問題は無さそうだったので、とりあえずカイトは弥生が指定した生地の中で取り急ぎ必要と言っていた革の生地だけを受け取っておく。


「皐月、生地の確認は?」

「ええ、大丈夫よ。」


 生地の受け取りは皐月に任せて、皐月が確認した生地をカイトが受け取る。つまりカイトは荷物持ちだった。まあ、受け取って速攻で異空間の中に突っ込むのだが。


「本当に、申し訳ありません。」

「いえ、では。」


 そうして、店員の謝罪を背に、カイトと皐月は店を後にする。そうして再び屋根の上を駆け抜け、ギルドホームへと舞い戻った。


「弥生さん。」

「あら、カイト、皐月。どうだった?」

「今朝方馬車が壊れたらしいわよ。夕方には持ってくるって。」

「で、一応革だけ貰ってきた。」

「あら、ありがと。」


 カイトは自らの異空間の中から、革の生地を5枚取り出した。


「じゃあ、それは被服科が使う部屋までお願い出来るかしら。」

「はいよ。」

「机の上に置いておいて。入った所のでいいわ。」


 弥生の指示を受けて、カイトが生地5枚を持ってギルドホームの中にある革や布系統の防具専用の修繕室へと入っていく。既に織物等の機材は運び込まれているらしく、何台ものミシン等と共に安置されていた。


「っと。これで良し。」

「あ、カイトさん。生地を持って来た、ということは納品されましたか?」


 そこで丁度出会ったのは睦月だった。彼――というか彼女というか――も被服は出来る。それ故に此方の作業も担当していたのである。本業は相変わらず料理であるが、そちらは既にギルドホームが活動している為準備が終わっていたのだ。尚、流石に料理だけが役割ではなく、睦月の役割は加えて医師見習いである。


「ああ、いや、なんか馬車が壊れたそうだ。夕方頃には納品出来るって。」

「あ、そうですか。じゃあ、棚だけでも先に用意してしまいますね。」

「地下室の鍵の在り処は知ってるか?」

「はい。」


 カイトの問い掛けに、睦月は頷いた。どうやら先に誰かに聞いていた様だ。流石に在庫を全て仕事場に置いておくはずも無く、地下の倉庫等は少しずつ手を加えて冒険部で使える倉庫にしたのだ。

 まあ、さすがにダンスホールはどうしようもなかったが。あそこは仕方がないので屋外で訓練出来ない時用の一般開放用の訓練場として使うことにした。流石に剣や魔術を使ったド派手な訓練は出来ないが、簡単なトレーニングぐらいならば出来るのだ。見栄えにそぐわなくはあったが、そこは元々が高級ホテルである事を考えれば仕方がないだろう。


「さて……次は……」


 睦月を送り出した後、カイトは行程表を確認する。現在遅れが出ているのは、幸いにして生地の納入だけだった。それ以外はなんとか予定通りに進んでいると言えた。と、そこに緑色の髪の少女が現れる。言わずもがな、風の大精霊・偽名ルフィだ。


「ねー、カイトー。暇ー。ソラのお兄さんで遊ぶのも楽しいけど、やっぱりカイトと遊びたいー。お昼食べに行こー。」

「……ほう?この状況のオレに遊べと?」

「うん。」


 ルフィは平然とカイトの言葉に頷いた。


「お前昨日の晩も出て来て危うく桜に目撃される所だったよな?」

「えー、いいじゃん。そろそろ皆に紹介してくれてもさー。」

「んー……まあ、確かにそろそろ紹介はしてもいい頃か。とは言え……」

「とは言え?」


 カイトの作った溜めに、ルフィが首を傾げる。


「てめえの後ろの悪戯の後始末やったらな!」

「あ、バレてた?」

「平然としてんな!オレだったら余裕だが、他の奴が来たらどうすんだよ!」

「あはは!」

「笑い事じゃねえよ!」


 そうして、カイトは即座に後ろの落とし穴――というか、床の一部に出来た異空間へ通じる穴――を抹消させ、ルフィと暫く追っかけっ子する。


「捕まえた!」

「あぅ……」


 まあ、ルフィの方は本気では無かった。なので数分後にはカイトに首根っこを掴まれてぶらぶらと揺られるルフィの姿があった。流石に彼女も引っ越しの邪魔にならないように気を遣ったのだ。そうしてルフィを捕獲した所で、目の前にはミースとティナが居た。


「あ、カイト。丁度いいところに。あら、風の大精霊様。お久しぶりです。」

「久しぶりー。あ、ソラの方にコリンとナナミが向かってる。そっち行こ。」

「あ……ちっ。説教から逃げやがったか……」


 風になって消えたルフィに、カイトが舌打ちする。


「で、ミース。ティナも一緒か。どうした?」

「ほれ。ババ様から贈り物じゃ。」


 そう言うと、ティナは少しずれて机の上のいくつかの瓶入れの液体と粉末を見せる。


「相変わらずじゃのう。ババ様は。」


 ティナは送られてきた物品の内容を見て、思わず苦笑する。ババ様、とは彼女達魔女族の族長だった。ティナが頭が上がらない数少ない人物でもある。魔女族は薬剤の調合が得意なので、おそらく送られてきたのは各種薬の類だろう。


「ん……確かにこれから活動していく上で有り難い薬だな。ソラ達ももう少し後なら持って行かせたんだが。」


 上等過ぎる物では無かったが、上等な薬がいくつもリストアップされていた。とは言え、これら薬品はどれもこれも用法用量には細心の注意が必要な物で、冒険者と言えども安易に使える物では無かった。

 ミースが来ていて、更に今後ギルドホームに来る事を承知しているが故に送ってくれたのだろう。今までも学園から定期的に此方に来てくれていたのだが、第二陣が本格的に稼働するので、学園に詰めなくても良くなったのだ。


「あ、火傷用の軟膏は有り難いな。こっちは手にとって塗りこむだけだから、少し分けておいて台所に置いておくか。」

「それが良かろうな。」


 リストアップされた薬のリストを見て、カイトがめぼしい薬のリストを更に作る。これらはギルドホームの各所において、第二陣の生徒達が製作活動中に怪我をした場合に使えるのだ。


「ミース、ティナ。悪いがこのリストで小瓶程度を取り分けてくれ。オレはちょっと行って薬品用の小瓶を買ってくる。」

「はいはい。」

「うむ。では、先にこれら薬は薬品庫に片付けておくとするかのう。」

「そうしましょ。」


 薬品の取り扱いについて決定が為され、カイトとティナ、ミースの三人は別々に行動を始める。カイトはギルドホームを出て買い出しへ、二人は医務室だ。そうして、この日一日は第二陣の生徒達の為の用意で一日が終わるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第212話『禁呪』

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