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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第88章 新たなる力編

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第2206話 二つの槍 ――再会――

 榊原家からの依頼を終えて榊原・花梨の墓所地下にあった迷宮(ダンジョン)の事を報告して一日。カイト達は榊原家の大目付にして榊原・花梨の姪である大婆様からの要請を受けると、そのまま『榊原』を後にして『暁』へとやって来ていた。

 というわけで『暁』へと帰ってきたカイト達であったが、そんな中で瞬は新たに手に入れた<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>の取り扱いを学びながら旅館への道を歩く事となる。

 そうして道中、武器の持ち運びや取り扱いについて改めて話しながら旅館へと入ると、クー・フーリンは早速とばかりにカイトが見繕った酒屋へと赴き、一方のカイト達はというと連れ立って木蓮流を再興させたイズナの所へと向かう事になっていた。


「ああ、そういえば行きしなになにか話をしていたな。木蓮流だかなんだか……」

「ああ。木蓮流……または木練流とも書く鍛冶師の名門一族だ。特殊な木練を使う事で有名で、ここの武器は刀身がどれもこれも黒檀のような黒さがある事で有名だ」

「それが壊滅したのが、数年前だね」


 そう言えば前の『天覇繚乱祭』においてちらりと聞いた事があったな。カイトの言葉に続けたユリィの言葉に、瞬はおぼろげながらも記憶を取り戻す。


「確か……木蓮流の先代には子供が三人いて、その内の一人が、『天覇繚乱祭』にてアルを破った少女だったか」

「あれは状況として仕方がない所が多分にあったがな……まぁ、そうだな。睡蓮は剣技に掛けては天才だと言っても良かっただろう。それに加えて鬼気迫る、と言うしかない気迫が、本来はたどり着けぬ領域に彼女をたどり着かせた」

「あまり褒められる事じゃないけどねー」

「オレにゃ何も言えんな」


 ユリィのどこか茶化すような言葉に、カイトはわずかに苦笑する。そもそも彼自身が三百年前に無茶をしていた、というのは誰もが知る事だ。なので同じく無茶をした結果でこうなっている睡蓮に、何も言える立場ではなかった。とまぁ、それはさておき。そんな彼に瞬が問いかける。


「で、その睡蓮……? とやらを引き取ると」

「当主からの申し出だ。妹の睡蓮を預かってくれってな」

「そこら、確か複雑な関係があるとは聞いているが……何か注意しておく必要はあるか?」

「ああ、それなら特には。敢えて言えばオレが木蓮流の当主を黒羽丸と呼んでも、特に不思議がってくれるなという所だろう」


 基本的に瞬がイズナと話す事は無いと思われる。そして話したとて、この様子だと瞬には黒羽丸と名乗れば普通に黒羽丸として受け入れるだろう。が、万が一覚えていたら面倒なので、そう言っておく事にしたようだ。


「そうか……まぁ、話す事は無いだろうがな」

「だろうな……で、睡蓮に関しては元々ウチで引き取る事は最初から決まっていた事だった。ただあの後の『八岐大蛇(やまたのおろち)』だの『リーナイト』での一件などでゴタゴタしちまって、伸びただけだな……その結果、当主就任に参加出来たのは良い事だったろうが」


 カイトは少し前の事を思い出し、わずかに微笑んだ。実はイズナの当主就任の襲名披露ではカイトもマクダウェル家から依頼を受けた代理人として立会人の一人に名を連ね、その際に睡蓮を何時迎えに行くか、などの大凡の打ち合わせをしていたのであった。


「そうだ。それなら今日もう引き取るのか?」

「いや、引き取るのは明日の朝一番だ。今日は準備の進捗の確認、という所だな」

「そうなのか」

「いきなり行くぞー、で行けるわけないからね」


 どこか拍子抜けした様子の瞬に対して、ユリィが笑う。まぁ、これについてはそんなところという所だ。というわけで町並みを横目に歩くことしばらく。三人は鍛冶師達が軒を並べる一角にたどり着くと、そこの屋敷の一つに足を運ぶ。

 そこでは鉄を打つ音が何度となく響いており、熱気が外まで漏れ出ている様子だった。と、そうして屋敷の前に立ち止まった三人へと、門番らしい男が問いかける。


「なにか御用ですか?」

「カイト・天音です。以前の襲名式にてマクダウェル家の名代を務めさせて頂いた者、と黒羽丸さんにお伝えください。それでわかるはずです」

「ああ、天音様でしたか。黒羽丸様より伺っております。どうぞ、こちらへ」


 どうやら最初から話を通してくれていたらしい。カイトの話を聞くなり、男は三人を屋敷の中へと招き入れる。そうして更に案内人が現れ、応接室へと通された。


「……ここが、そうなのか? すごい豪華というか……確か再興する為に動いているんだろう? もうこんな大きな屋敷を構えているのか?」

「ここは寄宿舎みたいなものだ。実際には、黒羽丸以外もこの屋敷で暮らしている」

「寄宿舎?」

「ああ……訳あって上手く代替わりが出来なかった、というのは時々だが起きる。木蓮流みたいにな」


 寄宿舎。そう言われて瞬は自分が日本で使っていた寮を思い出す。どうやらここはそれに加えて練習用の鉄火場が備え付けられているらしく、鉄を鍛える音が鳴り響いているのであった。

 そして勿論、ここまで大きいのも寄宿舎だからだ。なお、実際には鍛冶師以外にも様々な分野の後継者達が将来的な継承を目指して訓練を積んでいるとの事であった。


「そうか……だがわざわざ門番を置くほどか?」

「……まぁ、オレ達からするとあまり有り難い話じゃないが、どうしても武器を作ったりする奴もいる。逆恨みで、とかで襲撃を受ける事が時々あるらしい」

「私達が活躍した更に前だけど、剣術家の一門の出で腕が未熟な内に芽を潰しておこう、と考える奴も昔居たらしよ。その時は幸い当人の腕が立ったから事なきを得たけど、そういう事があって門番置いたらしいねー」

「そうなのか……」


 道理で少し物々しいわけか。瞬は寄宿舎というには厳重な警備が敷かれている――あくまでも寄宿舎にしてはだ――様子の屋敷に、色々とあったのだろうと納得する。

 実際、カイトとしてもユリィとしても色々とあったのだろう、と思っているだけで後は全て噂話やここの出身者から聞いた話だった。と、そんな事を話していると応接室の扉が開いて、銀色の髪が顔を覗かせる。


「お久しぶりです、兄様」

「おう」

「兄様?」


 現れたのは言うまでもなく睡蓮であったが、そんな彼女の呼び方に瞬が困惑を露わにする。これにカイトが肩を竦めた。


「色々とあってな」

「色々?」

「世話になるのですから、家族と捉えるべきかと思いまして。それで色々呼び方を考えたんですが……おじさまや父様は……その、流石に違うかな、と」


 少しだけ恥ずかしげに、睡蓮は瞬の問いかけに視線を逸らす。これにカイトが笑った。


「名前で良いんだがね」

「こちらの方がしっくり来ました」

「だ、そうだ」


 好きにすれば良いだろう。カイトは肩を竦めながらも、別に気にしていないのかそんな様子だった。とはいえ、決してそれだけで好きにさせているわけではなかった。そうして、カイトが周囲に聞こえないように僅かに声のトーンを落とす。


「が、まぁ……そこらはイズナの正体を隠すにも一役買っている」

「どういう事だ?」

「兄として慕っている相手を兄様と呼んでいる……そう周囲が捉えてくれれば、睡蓮が黒羽丸を兄様と呼んでも不思議には思われない」

「なるほど……」


 言われてみれば尤もだ。そもそも黒羽丸の正体がイズナと知っているのは、カイトらを除けば中津国では燈火ら中津国政府の上層部だけだ。なので本来は睡蓮が黒羽丸を兄と呼べる道理がなく、普通に考えれば周囲はなぜ黒羽丸を兄と呼んでいるのだろう、と疑問に思うだろう。それへの対応も考えた結果、カイトも兄様と呼ぶ事で解決したのであった。


「ま、イズナには盛大にしかめっ面されたがな」

「結局は承諾したのか」

「睡蓮ちゃんがすっごい悲しげな顔したら諦めたよー」

「兄様は泣き脅しに弱いのです」


 案外したたかなんだな。瞬は睡蓮の様子にそう思う。とはいえ、数年は<<百合水仙(ゆりすいせん)>>と共に二人で慣れない行商をしながら生活していたのだ。慣れないとはいえ商人だった以上、これぐらいのしたたかさが養われていても不思議はなかった。というわけで一通りの話に瞬が納得した所で、カイトが睡蓮へと問いかけた。


「それで睡蓮。もう一人の兄様は?」

「あ! ごめんなさい! そのクロ兄様からの言伝です。今炉を安定させていて手が離せないから、こっちに来て欲しい、と」


 カイトの問いかけに睡蓮が慌てて頭を下げる。それにカイトも納得した。


「なんだ。そうだったのか。まぁ、確かに今日ぐらいになりそう、とは伝えていたが時間は伝えていなかったしな」

「ごめんなさい……木蓮を作るのに炉の管理は重要で……まだクロ兄様だと上手くいかなくて、どうしても一度作業を開始すると手が離せなくなってしまうんです」

「そりゃしゃーない。木蓮流において木蓮の精製は最重要。修行をサボったツケが回った、と諦めさせるしかないさ」

「はい」


 カイトの言葉に、睡蓮もまた笑って同意する。こればかりは長く修行を積んで本来はしっかり身体に覚え込ましておかねばならない事だったが、木蓮流から放逐されていた彼は今からみっちり身体に叩き込まねばならなかった。それもほぼほぼ独学で、だ。

 その大変さは想像を絶するものだっただろう。というわけで、カイト達はイズナ専用に設けられた一角――木蓮流再興の為の中津国からの支援の一環――へと足を運ぶ。するとそこではとてつもない熱気で溢れかえっていた。


「っ……暑いな。いや、これはもう熱いの領域だ」

「鉄火場だからな。出来た木蓮を即座に刀鍛冶に回すんだ。まだ、そこまではたどり着けてないだろうがな」


 冬が近いにも関わらず真夏の直射日光の中よりも更に暑い鍛冶場の熱気に、流石にカイトも瞬も思わずしかめっ面だ。そしてこの中で作業をしているイズナはというと、流石にもろ肌を見せていた。


「クロ兄様! お連れしました!」

「おう、悪いな! 後二十分は手が離せねぇから、横の部屋で茶出してやってくれ!」

「はい! すいません、そういうわけですので、こっちです」


 中から響いてきたイズナの声を受けて、睡蓮がカイト達を鍛冶場の横に併設されている休憩室へと案内する。そこはどうやら熱気を防ぐ構造になっていたのか、真夏のような熱気は感じなかった。

 と言ってもやはり横に鍛冶場があるからか若干暑くはあり、コートなどは必要ない程度だった。というわけで、休憩室にてお茶の用意をする睡蓮に、瞬がふと問いかけた。


「そういえば、お兄さんの事はクロ兄様なのか?」

「色々と考えたんですが……昔みたいにイズ兄様は呼べませんし……かといって、黒羽丸様は死んでも呼びたくなかったんです。となると、私が呼ぶならどれが一番かな、って……」


 天覇繚乱祭の時に言われていたが、実際にはイズナと睡蓮の間にはもう一人兄弟がいる。なので睡蓮はそのもう一人の兄とイズナを区別する為に名前を縮めて呼んでいたそうだ。なのでそこから考えて、自分が妥協出来る妥協点としてクロ兄様としたらしかった。そんな話を聞いて、しかし瞬は逆に首を傾げた。


「でもカイトは兄様なのか」

「あ、いえ……カイ兄様で分ける時には言っています。けど、一人しか居ない時は兄様と呼んだ方が楽ですから」

「そ、そうか……」


 合理的というかなんというか。しっぽを振りながらお茶の用意を行う睡蓮の背を見ながら、瞬は思わず呆気に取られる。そんな彼女に、今度はカイトが問いかける。


「睡蓮。支度はどれぐらい出来てる?」

「あ、はい。明日には全部整って、大きな荷物についてはもう発送しています」

「そうか……っと、悪いな」


 ことん、と差し出された湯呑を受け取って、カイトは一つ礼を述べる。そうして、四人はお茶を飲みながらイズナの作業終わりを待つ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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