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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第88章 新たなる力編

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第2197話 二つの槍 ――大空を泳ぐもの――

 榊原家当主榊原・剛拳からの依頼を受けて以前に立ち入ったユニオン創設者の一人である榊原・花梨の墓所の地下に設けられていた迷宮(ダンジョン)へと足を踏み入れる事になったカイト。

 そんな彼はユリィと共に暗闇に覆われた第一階の部屋を攻略を成功。そのまま引き続き第二階の攻略に取り掛かる事になる。そうして二人がたどり着いたのは無重力の草原という摩訶不思議な空間であった。そんな空間に浮かんでいたのは、数百メートル級の巨大な魚のような魔物であった。それを上に、カイトとユリィは戦う意思を固めて上空へと舞い上がる。


「……」

「でかくない?」

「デカイな」

「反応薄いなー」

「最近このサイズとどんぱちやりまくってたからなー」


 呆れたようなユリィの言葉に、カイトは半分自嘲気味に笑って肩を竦める。ここ数ヶ月数百メートル級だの数キロ級だの、果ては数十数百キロ級の魔物やらと戦いまくっていたのだ。この程度のサイズになってももうさほど驚かなくなってしまっていた。


「感覚バグってるバグってる。普通このサイズだったら国軍が動くから」

「かー」


 実際、昔はよくこのサイズの魔物が出たと言われて駆り出されていたなぁ。カイトはしみじみとそう思う。と、そんな一方で空中に躍り出た事で、巨大な魚のような魔物もこちらに気付いたらしい。身体の各所に張り付いていたフジツボのような突起物から青白いフレアが溢れ出す。


「……はっ!」


 フジツボから光がこぼれ出るより前に、カイトが正拳突きで巨大な魚のような魔物の鼻っ柱を殴りつける。その衝撃でフジツボから青白い光がまるで火山の噴火のように溢れ出し、天と地を大きく切り裂いて吹き飛んでいった。そうして吹き飛んだ巨大な魚の魔物へ向けて、カイトは手のひらに小型の太陽を生み出す。


「吹っ飛べ!」


 立て直す暇なぞ与えない。カイトは笑いながら、生み出した太陽を握りしめて投げつける。そうして、巨大な魚の魔物は激突と共に肥大化した太陽に飲み込まれて消えた。


「さて……やったか?」

「どーかなー?」


 多分無理だろうなぁ。カイトもユリィも太陽が消し飛ぶのを待つ。が、その次の瞬間に極光を青白い光条が切り裂いて、太陽が消し飛んだ。


「む」

「迎撃いっきまーす!」

「あいよー」


 とりあえずホーミングしてくるらしい青白い光条については無視で良いか。カイトは光条の迎撃をユリィに任せると、自身は指先の一つ一つに先程の太陽を生み出す。そうして生み出された太陽は高速で手の周囲を回転すると、気付けば円盤のようになっていた。


「さ……って」


 巨大な魚の魔物の口腔から溢れる青白い極光を、カイトは笑いながら見る。そうして巨大な魚の魔物の口から青白い極光が光条として放たれると同時に、彼が円盤と化した五つの太陽を前面に投じて盾とする。


「おらよ!」


 激突する青白い極光と五つの太陽から生まれた円盤の盾であるが、そこにカイトは円盤の盾に向けて蹴りを叩き込んで一気に押し込む。そうして一気に押し込まれていく円盤の盾を隠れ蓑に、カイトは一気に巨大な魚の魔物に肉薄する。が、その次の瞬間だ。ユリィから声が飛んだ。


「カイト! 鰓!」

「っ!」


 ユリィが声を上げるとほぼ同時に、巨大な魚の魔物の鰓から青白い光が溢れて青白く光る粒子が溢れ出す。そして青白い粒子が溢れ出したと思った瞬間だ。口腔から放たれる光条が更に密度を増して、円盤の盾を押し戻してカイトへと叩きつけた。


「あっぶね!」


 カイトは唐突に押し戻された円盤の盾を慌てて左手で支える。そうして、彼は肉薄と同時に巨大な魚の魔物を殴り付けようと引いていた右手で円盤の盾を殴りつけ、再度円盤の盾を押し戻す。


「ったく! せっかくてめぇの鼻っ面殴ってやろうと思ってたのに!」

「伊達に初代ユニオンマスターと榊原・花梨が何回かに一回は攻略失敗する、ってわけじゃないって事でしょ!」

「だな!」


 カイトは再度押し戻される円盤の盾に足を乗せて、それを足場に大空を舞う。そうして眼下を青白い光条が通り過ぎるのを見ながら、彼は軽やかに回転し虚空に着地。ユリィと合流した。


「あぁあぁ……こりゃ凄まじい連打で」

「はーい。また迎撃開始しまーす」

「いや、良いよ……えっと……」


 再度光条を放って巨大な魚の魔物から放たれる青白い光条を迎撃しようとしたユリィに対して、カイトは異空間に手を突っ込んでなにかを探す。そうしてすぐに、彼は両手剣の鞘を取り出した。


「ほいよ!」


 カイトが両手剣の鞘を放り投げると、まるでそれが正しい形であるかのように鞘が無数の部品に分裂。それぞれが光り輝いて半透明の障壁を生み出して、カイトを包み込む。


「なにこれ」

「<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の鞘。ヴィヴィがお仕事で渡したのを回り回ってオレの所へ」

「へー……これ、やばくない?」

「ヤバいな。擬似的な異界化による次元やらの断層が生じてる。防御用で考えれば一級品だ」


 青白い光条の一切を完全に無効化してのける半透明の盾を見ながら、カイトは笑う。伊達に地球で最も有名な騎士達の王様の栄華と凋落を司った鞘ではなかった。現状、カイトでもこの防壁を破るのはかなり厳しいらしい。そうして<<湖の聖剣(エクスカリバー)>>の鞘の防壁の内側で、カイトとユリィは少しの作戦会議を開く。


「ユリィ。あいつに見覚えは?」

「無いねー。流石にあのサイズで空飛ぶと普通に見覚えない方がありえないし」

「だわな」


 ここまで巨大な魔物なのだ。出たとすれば確実に各紙翌日の朝刊の一面を飾るだろう。一応大人として、教師として新聞などの報道機関の報道には目を通す事にしているユリィだ。知らない事はあり得なかった。


「どっか、別な異世界か別の星にしか出ない魔物か」

「なんとなーく天桜の書庫で見た地球のバハムートっぽい」

「あっはははは。そうだが……あれをバハムートと呼ぶのはご遠慮願いたいな」


 見た目は確かに地球の神話で語られる<<天翔ける巨大魚(バハムート)>>だ。が、カイトとて日本でゲーマーとして過ごしている。彼のイメージとしてはバハムートといえば巨大な西洋龍だ。これにその名を付けるのはご遠慮したい所であった。そんな彼に、ユリィが問いかける。


「じゃ、どうするのさ」

「んー……安直だが<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>で」

「そのままじゃん」

「いーんだよ。適当で。どうせ本当に決めるとなるとユニオンが決めるし」


 カイト自身も安直だとは思ったらしい。少しだけ恥ずかしげにそっぽを向く。とはいえ、別にこれは本題ではない。単に呼ぶのに困るから、名前を付けただけだ。


「ま、そーだけどね……で、どうするの?」

「どーすっかねぇ……まだ二階で力使いたくないっちゃ使いたくないんだがね」


 ここまでヤバそうな魔物が出ようと、ここはまだ二階である。何階まであるかは定かではないが、ここでいたずらに本気を出しすぎると後が困る可能性は大いにあり得た。と、そんな風に防壁の中に立てこもり作戦会議を開いていたからだろう。<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>が尾びれを振って、急加速した。


「「ん?」」

「……あ、カイト! これやばくない!?」

「ですねぇ!」


 大口を開けて迫りくる<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>に、カイトとユリィは慌てて距離を取る。どうやら動かないので捕食されそうになったらしい。そうして彼らの真横を音の壁を突き抜けソニックブームを纏いながら、<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>が通り過ぎた。


「あ……カイト、あれ」

「オーライオーライ」


 と、その真横を通り抜ける瞬間だ。ユリィがトントンとカイトの肩を叩いて<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の側面を指差す。が、これにカイトもほぼ同時に気付いていたらしく、楽しげに笑っていた。そうして、カイトが虚空を蹴って横を通り抜けた<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>を即座に追いかけた。


「カイト! 投げて!」

「あいよ!」


 超高速で離れていく<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>に対して、カイトは神速で追いかけるが直線的な距離だと現状では<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の方が速かったらしい。が、それを受けたユリィの提案にカイトが応ずると、大型化した彼女の手を取って思いっきり放り投げて更に加速させる。


「魚型の魔物の弱点、貰った!」


 カイトによる急加速で距離を詰めたユリィは<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の鰓に肉薄すると、鰓の中に向けて小型のナイフを二本投げつける。それは加速の際に吸い込まれる空気と共に<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の体内に吸い込まれ、その内部で小規模な爆発を引き起こした。


『ボォオオオオオオオオ!』

「良し!」


 苦悶の声を上げてのたうち回る<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>に向けて、ユリィは後ろへと飛びながら小さくガッツポーズをする。そうして後ろへ飛んだ彼女を、カイトが確保する。


「っと!」

「カイト! マーカーセット良し!」

「あいさぁ!」


 回転しユリィの勢いを殺したカイトは、小型化した彼女を肩に乗せると両手の指の間に使い捨てナイフを引っ掴み振りかぶるようにして<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>へと投げつける。そうして投げられたナイフであったが、一瞬にして消滅する。

 と、その次の瞬間だ。分厚い鱗を通しても分かるほど巨大な閃光が、<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の体内で迸った。投げつけた一本で攻撃の結果を確認し、成功した場合に二本目をマーカーとしたのである。そうして、内側からの衝撃で無数の鱗が吹き飛ばされ、四方八方に飛び散った。


「こーいう鱗が固い奴ってのは存外内側は脆いもんだ……っと。鱗記念に一個貰っといたろ」

「この調子だと、なんとかなりそうだねー」

「ちょーっと先行き不安になる程度の敵だけどな」

「まーね……あ、鱗案外きれい」


 どうやら飛翔のコントロールを失いゆっくりと墜落していく<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>を見下ろしながら、カイトとユリィがのんきに笑う。

 口ではこの先が不安なぞと言っている二人であるが、一切不安なぞ無い様子だった。その一方、地面に墜落した<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>が背びれ付近にある突起から、赤黒く変色した光条を放ってきた。


「うん?」

「……こっち来ないね」

「みたいだな」


 先程までの青白い状態なら弧を描くようにして急旋回しこちらへと向かってきたのに、赤黒く変色するや速度こそ速いが直線的な動きしか見せない光条を二人は訝しむ。

 が、そもそもこの二人は鞘の防壁に守られて気付いていなかった。赤黒く変色するのは<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>が怒っている証。攻撃力は倍以上に跳ね上がっていたのである。まぁ、この二人からしてみれば、倍だろうが三倍だろうが大差はなかった。というわけで、攻撃力の大幅上昇に気付かないカイトは、単に速度を上げただけと勘違い。終わらせる事にした。


「ま、良いか……んー……こいつで良いかな。ユリィ。念の為矢の周囲に防壁頼むわ」

「はーい」


 赤黒い鏃の付いた矢を取り出したカイトの要請を受けて、ユリィが万が一にも迎撃されないように矢の周辺に多重の障壁を展開する。そうして緑色に輝く矢をカイトは弓につがえて、先の爆発で生まれた<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の身体の亀裂へと狙い定めた。


「……ふぅ」


 残心のようにカイトが息を吐いたと同時。一直線に亀裂へと突入した矢が<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>の内部で炸裂。無数の閃光と共に内側から<<空飛ぶ巨大魚(スカイフィッシュ)>>を吹き飛ばすのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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