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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第88章 新たなる力編

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第2181話 二つの槍 ――鍛錬――

 地球時代に陸上選手として師事したクー・フーリンより、彼が拵えた<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>のデッドコピーとでも言うべき槍を手に入れる事になった瞬。そんな彼はクー・フーリンから改めて正式に弟子として認められる事になり、今の『赤枝の戦士団』の見習いである事を示す『赤枝の飾り』を受け取る事になる。

 そうして瞬がケルトの一門の見習いとして再出発を果たした翌日。大輝の屋敷にて一泊した一同は、大輝に礼を告げると移動する事になっていた。


「このまま戻るんじゃないのか?」

「ああ……元々大輝には属性に関する事と鬼に関する解説を聞きに来ただけだし、そこにフリンの奴がついでだから槍持っていってやるっつって来ただけだ。で、その槍も一本だけだったしな。もう一本なんとかしないとダメだろ」

「もう一本?」


 瞬としては今回クー・フーリンから貰った<<束ね棘の槍(ゲイ・ボルグ)>>の模造品の真紅の槍で十分に思えた。なのでカイトの指摘に彼は首を傾げるわけであるが、これにカイトは呆れる。


「はぁ……そもそも先輩は二槍流だろうに。もう一振り、槍を持っとくべきだな」

「あ……そ、そういえばそうだったな」


 完全に失念していた。瞬は自身が二槍流を使う異質な戦士である事をうっかり忘れていたらしい。後に彼曰く、師から槍をプレゼントされてテンションが上がってしまっていた、との事であった。というわけで、そんな彼にカイトが告げる。


「おいおい……まぁ、どうにせよ流石に片方だけ魔槍で、というわけにもいかんだろ。片方は魔槍で片方が自分で編んだ槍になると、確実に自分で編んだ槍が押し負ける。それに比肩する、とまではいかなくても十分に押し負けないぐらいの槍は手に入れる必要がある」

「そうなのか……で、コーチはなんでこちらに?」

「ん? ああ、俺は師匠と合流する為だ。師匠、こいつの嫁の所に言ってるからな。挨拶だけしたらすぐ帰る、っつってたのに来ないんで昨日連絡してみたら、なんかとんでもない魔術師と会ったからこっちまで来い、ってな具合で言われちまった……おまけに、ゆっくり来いってな具合だ」


 はぁ。瞬の問いかけに、飛空艇の後部。リビングに相当する所の椅子に腰掛けるクー・フーリンがため息を吐いた。このゆっくり来い、という意味を彼はスカサハとの長い付き合いで理解していた。が、それが分かるのは彼とカイトだけだ。故に、瞬は困惑気味にその言葉を受け入れるだけであった。


「は、はぁ……」

「カイトも悪いな……と、言う必要もないか、お前には」

「あっはははは……はぁ。数日戻るな、ですね、わかります……」


 どこか慰める様に告げたクー・フーリンの言葉に、カイトもまたがっくりと肩を落とす。これでカイトも統率があるので、と言えれば良いのだろうが、ここで悲しいのはカイト自身が数日はこちらに滞在すると言っていた為、すぐに戻らなくて良い体制を整えていた事だ。

 で、スカサハもこう言った手前、なにかがあった場合は彼女が裏でなんとかしてくれる。そういう女だとカイトはわかっていた。そうなると、もう諦めてその指示に従うしかなかった。というわけで、そんな彼の言葉に瞬もようやく状況が飲み込めた。


「そ、そうなのか……」

「すまん。一応これでもオレもフリンも姉貴……スカサハの弟子の立場だ。姉貴がそうしろ、と言うならそうせんとダメでな」

「……なぁ、一つ思ったんだが、俺はどうなるんだ? 一応、コーチの……クー・フーリンの弟子になると思うんだが」


 前々からカイトが言っていた事であるが、カイトにとって瞬は兄弟子の弟子だ。それ即ち、瞬はスカサハの孫弟子と言うわけである。だから彼に武術の指南は出来ない。そして彼は彼で、スカサハに対してどう接すれば良いかわからなかったのである。そんな彼に、クー・フーリンは一応確認しておく。


「あー……師匠?」

「はい」

「さぁなぁ……そこらは好きにしろ。師匠も気にはせんだろ……お前、どう思う?」

「不安だからってこっちにぶん投げんなや」


 クー・フーリンの問いかけに、カイトはがっくりと肩を落とす。というわけで、カイトはため息混じりに瞬へと告げる。


「まぁ、普通に接すれば問題ない。あの人がそこら考えるかよ……対応間違えればぶっ刺されるけど」

「運良くてもぶん殴られるだけだな」

「まーな。まー、オレの知り得る限り全地球人上最強の殴りだから確定で死ねるけど。刺殺で死ぬか撲殺で死ぬか、ぐらいの選択肢はあるかな」

「……そうか」


 丁重に扱う事にしよう。全地球人上最強がどの程度かはわからないが、クー・フーリン相手に手も足も出ない自分が敵うとは瞬にも毛ほども思えなかった。間違いなく、誇張表現抜きで死ねる事だろう。というわけで、師の師である事もあり丁重に扱う事を決めた彼であるが、一つ問いかける。


「そういえば、ここからどうするんだ?」

「とりあえず武器見に行かないとな、って所ではあるんだが……ついでに、時間潰すかー」

「温泉行こー、温泉ー」

「そーすっかなー……」


 ユリィの提案に、カイトはため息混じりにそうするか考える。どうせ彼もここから数日はマクスウェルに帰還出来ないのだ。もしくは帰還しても良いが、帰還した場合は公爵邸に缶詰になるだろう。というわけで、適当に時間を潰す事も踏まえて行き先を考える事にする。が、そうなると場所は限られていた。と、その限られた候補地を選ぶ彼に、クー・フーリンが問いかける。


「カイト。どっか俺も遊べる場所にしてくれや。どっちかな」

「分かるオレが嫌になるね……娼館系だと帰ってから面倒だから、お遊びの方で良いか? あんたも満足出来る場所だな」

「そりゃ良いね。かわいい女の子が居れば、尚良いんだが」

「さて……そればっかりは運次第……そして今回の目的地もまた、運次第」

「オーライ。決定だ」


 カイトの楽しげな発言に、クー・フーリンが笑って応ずる。どうやら意思の統一が見られたらしい。というわけで、カイトは一路飛空艇を『榊原(さかきはら)』へ向けて発進させるのだった。




 さて、クー・フーリンの要望を受けてカリンの故郷である『榊原(さかきはら)』へと向かう事になったカイト達であったが、そんな彼らを出迎えたのは何時もと変わらぬ武芸者達で賑わう『榊原(さかきはら)』の町並みであった。


「へぇ……こいつぁ、良いな。フェルグスの叔父貴にベーオウルフの奴やらが大いに興奮しそうな町並みだ」

「この中津国でも有数の武芸者が集まる街だ」

「で、何だ? ここで喧嘩売り放題ってのか?」

「まさか」


 楽しげなクー・フーリンに対して、カイトは肩を震わせる。そうして、彼は街の中心にある榊原家を指し示した。


「あの家に用事があってな。古い知り合いの家なんだが……今回はそこで地獄を見てもらおうかなー、と」

「へぇ……俺で、地獄をね」

「ああ。まぁ、何年も前だが、オレが諦めた地獄がある。楽しんでくれ」

「良いね。こいつも久しぶりに暴れられるって喜んでるぜ」


 挑発的なカイトの言葉に、クー・フーリンは獰猛に笑う。と、その一方瞬はあそこがどこかわかっていればこそ、こちらも楽しげであった。


「あそこか」

「お前、知ってんのか?」

「あ、はい……数ヶ月前、半分も到達出来ませんでした。最後はボロボロで……一瞬で終わりましたね」

「へー……」


 今の瞬が爆発的な戦闘力の増加があったわけであるが、それを加味しても数ヶ月前の瞬の戦闘力がどの程度かは分かる。その時点で瞬が半分も攻略できなかった、というのだ。

 相当楽しめる可能性が高いと察したようだ。クー・フーリンは猛犬さながらの笑みを浮かべていた。と、そんなわけで榊原家に向かう一同であるが、その道中でユリィが問いかける。


「そう言えばカイトー。泊まる場所どうすんの?」

「あー、ほら。前に泊まってた所がまだあったから、そこにしよっかなと。温泉もあるから丁度良いだろ」

「あー、あそこか」


 カイトが中津国へ何度も来ていた事は誰もが知っている。なのでここで何度か滞在しており、カイトの言う宿屋も知っていたのである。というわけで、カイトは先に使い魔を先行させていた。そうしてそんな一同は榊原家へと向かったわけであるが、そこで前と同じく普通に剛拳の前へと通される事になった。


「おぉ、カイト殿。急な来訪と驚いたのですが……これはまた。相当な方をお連れになられたご様子で」

「お初、お目にかかります。クー・フーリンと申します」

「これはご丁寧に。榊原家当主剛拳。貴殿の来訪、歓迎致します」


 頭を下げたクー・フーリンに、剛拳もまた頭を下げる。どうやらどちらもお互いが並々ならぬ猛者と察する事が出来たらしい。


「それで、カイト殿。此度の猛者はどのような方で?」

「地球より、私の兄弟子です」

「ほっ……相変わらず、とんでもない事を仰られる。おおよそ並の者であれば冗談としか捉えられないだろう言葉ですが……くっ。カイト殿なら、それが真実でしょう」


 カイトの端的な返答に、剛拳はこれが一切嘘とは思わなかった。実際、わずかに垣間見えるクー・フーリンの身のこなしはカイトと似通ったものがあり、同じ流派とするのなら納得もしやすかった。


「それで、今回の来訪は……聞くまでもありませんでしたな。その猛犬を思わせる荒々しい闘気。何を目的になぞ、問うまでもない」

「あははは……立ち入らせて頂いてもよろしいか?」

「勿論です。私も、貴殿がどこまで到達されるか興味がある。この『榊原』の一千年の歴史上、まだ数えられるほどしか到達していない最下層到達を為し得るか否か。ぜひ、見させていただきたい。まぁ、貴殿の場合最低でも私以上には到達出来るでしょうが……はてさて。どこまで到達出来ますかな?」

「……」


 この男まで、そう言うほどか。クー・フーリンは今回カイトが連れて来てくれた『遊び場』への期待値を更に高める。間違いなく、剛拳は今の瞬と比較してさえ比較にならないのだ。その彼でさえ、自分を数に入れていないのだ。下手をすると自分さえ無理かもしれない。そう思うと、知らず血が猛った。


「存分に、遊ばせて頂きます」

「存分に、楽しんでください。間違いなく、貴方を飽きさせはしません」


 興奮からか深く頭を下げたクー・フーリンに、剛拳が笑って頷いた。そうしてそんな彼の言葉に頷いた剛拳が、手を鳴らす。


「はっ」

「誰か酒を。クー・フーリン殿。お急ぎでなければ、一献如何か。無論、帰った後でも良いですが……」

「一杯、今頂けますか? 残りは、戻ってからという事に」


 これは楽しくなりそうだ。クー・フーリンは今の自分の心情を鑑みて、剛拳の言葉を受け入れる。そうして、そんな彼らの言葉を受けて榊原家の家人が酒を持ってきて、各々一杯ずつ酒を飲む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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