表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第88章 新たなる力編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2212/3935

第2173話 二つの槍 ――幻燈の里――

 瞬に起きていた異変の解決の為、中津国にある鬼族達の里である『幻燈の里(げんとうのさと)』へと足を運んでいたカイト。そんな彼は瞬と共に中津国の首都『暁』を出ると、一路『幻燈の里(げんとうのさと)』を目指して進んでいた。

 そうして道中で土木作業を行う巨大な鬼族やその護衛として周囲の警戒を行っていた女侍との出会いを経て、二人はついに『幻燈の里(げんとうのさと)』へと到着する。

 そこで『幻燈の里(げんとうのさと)』を守る鬼族達の軍勢の戦いを見ながら瞬はかつての酒呑童子としての記憶を垣間見る事になるのであるが、その間にも飛空艇は進み続け、『幻燈の里(げんとうのさと)』郊外にある空港に着陸していた。


「っ……すまん。世話を掛けたな」

「よいさ。どうせ戦いも起きていなかったし、飛空艇の操縦をするわけでもなかったからな」

「そう言ってもらえれば助かる」


 まぁ、言うまでもなく唐突に明後日の方向を見出して、押し黙ったのだ。カイトも一瞬は困惑したが、ここが鬼族達の里であり、瞬の中に酒呑童子が居る事を知っているので即座に状況を理解していたようだ。そうして一つ謝罪をした瞬であるが、改めて周囲を見回して、どこか懐かしさを得る。


「にしても……なんというか何時も思うが、中津国は和風だな」

「まぁな。そこらは文化交流というわけでもないが、文化のある程度の交わりがあったからこそだろう。それに……先輩の場合は血もあるだろう」


 これは例えば浮遊大陸でもそうだし、エネフィアでも異族の里になる所だとどこでもそうなのであるが、基本的に異族達の里は異族達が暮らしやすい様に設計されている。そしてここは鬼族の里。誰が一番暮らしやすいか、考えなくてもわかろうものであった。


「鬼族の里……か」

「ああ……鬼族が最も暮らしやすい様に設計されている里だ。先輩にとっては、戻ってきたような印象が殊更強いはずだ」

「ああ……なんというか、妙な懐かしさがある」


 来た事も見た事もないはずなのに、思わず嬉しくなる。そんな奇妙な感覚を瞬は得る。なお、そんな彼だがやはり元々地球では世界で活躍した陸上選手だからか郷愁の念はさほどの様子で、ホームシックになるような事は一切なかった。


「……っと。それで、とりあえずどこへ向かうんだ?」

「ああ。それは里の中心。大輝の所へ向かおう。兎にも角にもあいつに挨拶するのは筋だからな」

「筋は筋だが、それが出来るあたりがお前なんだろうな」


 一応、この里にとってカイト達は客人だ。なので里の長である大輝に挨拶をするのは至極当然の話だろう。が、日本で観光客や駐在員一人一人が総理大臣や天皇に挨拶をしないように、こちらでも単なる客人に長が挨拶する事はない。挨拶をする必要があるのはやはり、カイトだからという所が大きかった。

 というわけで、色々と話しながら『幻燈の里(げんとうのさと)』の中心を目指してを歩いていくわけであるが、里を歩くのはやはり鬼達が大半だった。というわけで、まるでというかまさにお上りさんのような瞬が、周囲をキョロキョロと見回しながら呟いた。


「はー……なんというか、日本で思い描くような鬼の里だな」

「そりゃ、鬼の里だからな」

「そ、それはそうだが……なんというか、巨漢が多いな」


 瞬はそこらを行き交う鬼族の男性達を見る。流石に全員が全員筋骨隆々というわけではないが、比較的小柄と思える男性でさえ180センチはあろうかという人間で言えば高身長の部類だ。平均身長であれば間違いなく2メートルはあろうだろう。


「そこらは種族としてな。鬼族の特徴として、パワータイプは多い」

「そうなのか……そう言えば確かに茨木童子はかなり大きかったな……」


 瞬は酒呑童子の記憶にある茨木童子を思い出し、近くで彼と飲み交わしたり話したりする時には少し上向きに視線があった事を思い出す。

 その時はさほど何も思わなかったが、酒呑童子もやはり鬼なので今の自分とそう変わらないか少し大きい程度の背丈だった。その彼が見上げるのだから茨木童子は間違いなく2メートル以上あり、酒呑童子が種族的に見て低身長だったのだと今更思ったらしい。と、そんな事に気付いた瞬に、ふと酒呑童子が若干威圧的に問いかけた。


『……おい。失礼な事を考えていないか』

「い、いや、別に……」


 意外と気にしているのか。瞬は更に思い返してみれば四天王も大半が酒呑童子と同じかそれ以上だった事を思い出して、そんな言葉をそっと心にしまっておく。

 瞬自身は人間としてはずば抜けて高身長ではないが、同時に低身長と言う部類でもない。なので気にした事はないが、男として周囲で一番チビだというのは気にしたくなる気持ちはわからないではなかった。


『……ふん』


 拗ねたな。瞬はそんな様子の酒呑童子にそう思う。どうやら良くも悪くも酒呑童子自身にとっても鬼族の里は色々と思う所のある訪問になったらしい。と、そうして笑った瞬であったが、そんな彼の身体が咄嗟に奪われる。


「っ!」

「ど、どうした?」

「……いや、すまん。気の所為だ」

「……ああ、酒呑童子か」


 カイトは声音からこれが酒呑童子である事を察したらしい。僅かな苦笑を浮かべる瞬の顔から、これ以上は追求しない事にする。が、これに対して瞬は酒呑童子の揺れが見えたからこそ、彼が見たものがなんだったかを理解して思わず問わずにはいられなかった。


『……今のは』

『……(かや)だ。もしくは、茨姫(いばらき)(いばら)、と呼ぶ者も居た。俺も、時にはこちらで呼んでいた。(頼光)の妹にカヤという名の少女が居るのでな』

『……逢いたいのか?』


 艷やかな黒髪の美姫の幻影を垣間見た瞬は、酒呑童子とその茨姫の関係性を理解していた。


『……気にするな』

「っと……」

「何だ。もう戻ったのか」

「らしい」


 少しだけ楽しげに、瞬は恥ずかしげに自身の内側に引っ込んだ酒呑童子に笑う。というわけで、瞬はこれまでの仕返しとばかりに少しだけ語る。


「さっき、艷やかな黒髪の女性が通っただろう?」

「ああ」

「それが、奴の妻に見えたらしい」

「あー……(いばら)さん、かなり見事な黒髪だもんなー」

「知っているのか?」


 驚いた様に、瞬はカイトへと問いかける。一応酒呑童子が後任として鬼族の里を預けた茨木童子は里の安寧を考えてカイトの所に下っている。なので知っていても不思議はなかったといえば不思議はなかったが、それでも流石に驚くしかなかったようだ。


「まぁな……茨木童子から紹介を受けてるからな」

「なるほどな……確かにそんな記憶があるな……」

「だろうな……ああ、そうだ。そう言えば先輩は茨木童子と茨姫の関係はわかってるのか?」

「ん? いや……何かあるのか?」


 どうしても、酒呑童子が目覚めて少ししか経過していない。そして酒呑童子は他の前世の者たちとは違って瞬の中でも確固たる自意識を有している。なので彼の記憶は彼の許可がなければ、もしくは瞬が寝ているタイミングに無差別に見るしかなく、これと決め打ちして知る事は出来なかった。というわけで、カイトが教えてくれた。


「ああ……茨木童子の姉が、茨姫なんだ。だから酒呑童子は茨木童子にとって義理の兄になるわけだ」

「あ、それで茨木童子が時々酒呑童子の事を兄貴とか大兄貴って言っていたのか」

「ああ、それか。内々だと大兄貴、一族の前だと親父や大親父って言ってたらしいな」


 ここらは冒険部も組織である以上、瞬もまたわかるといえば分かる話だった。故に瞬は今まで少し疑問だった茨木童子の酒呑童子への呼びかけが異なっている理由に、得心がいったようだ。しきりに頷いて納得を示していた。というわけで、そんな彼にカイトが更に教えてくれた。


「茨木童子の逸話の中に彼が女だった、という話がある事を知っているか?」

「そうなのか?」

「ああ……ま、これは単に茨姫(いばらき)茨木(いばらぎ)という鬼の姉弟というのが伝達される間にごちゃまぜになり、いつしか茨木童子は実は女だった、という話になるわけだ。で、酒呑童子の妻である事は間違いないので、茨木童子が実は、という話にもなっていく」

「あー……あり得るというかよくある話か」

「そういう事だな」


 これについては別に驚く必要もなく、そういう事もあるだろう、と瞬も簡単に納得出来たらしい。


『……言っておくが、俺にそこの男の前世の様に衆道の趣味はないからな』

「わ、わかってる……そ、そう拗ねるなよ」


 少しだけ楽しげに、瞬は拗ねた様子でそう告げた酒呑童子に笑う。どうやら彼は鬼の弱肉強食の性格も持っているが、同時に長としてのしがらみが無い所では子供っぽい所があったらしい。

 瞬としては新たな発見で、酒呑童子がそこまで怖くないのかも、と思うきっかけになっていた。というわけで、言うだけ言って酒呑童子はまた瞬の中へと沈んでいく。そうして沈んでいった彼をスルーして、瞬は改めて前を向く。


「で……あの建物で良いのか?」

「ああ……あの一際大きなお屋敷が、大輝の屋敷だ」


 どうやら話しながら歩いていたからか、気づけばかなりの距離を歩いていたらしい。見えてきた屋敷について一度だけ確認を行う。と言ってもそこまで仰々しい守りがあるわけでもなく、純和風のお屋敷というだけだ。

 瞬としては自身の実家――彼は実は旧家の令息――に近く、さほど気後れや緊張は感じていなかった。とはいえ、流石に長の家だ。門番が居ないわけがなく、黒鉄の棒を持つ二人の門番が出入りをしっかり守っている様子だった。というわけで、更に少し歩くと二人は門番に止められる事になる。


「ここは我ら鬼族が長である酒呑童子様のお屋敷だ」

「如何な用事で参られた」


 二人の門番が棒を交差させ出入りを封ずる。一応黒鉄の棒なので相当な重さがある筈であるが、それをまるで軽い木の棒でも扱うかの様に扱っていた。そんな二人に、カイトが笑いかける。


「大輝に会いに来た。奴からも連絡は入っているはずだ。今日、カイトっていう奴が来るってな」

「「む?」」


 カイトの問いかけに、門番二人は思わず目を丸くして顔を見合わせる。そうしてカイト達から見て右側に立っていた門番が問いかける。


「一つ、お聞かせ願いたい。酒呑童子様はたしかにご友人が来られると仰られていた。が、名前は誰もが知っている名で、証拠を持っているのでそれを提示する様に言えば自分の友人と分かる、と言われていた。それを提示していただく事は出来るか?」

「うん? 証拠……?」


 何も聞いてないんだがな。カイトは大輝の言葉に困惑気味な門番達にわずかに顔を顰める。が、すぐに彼は何を言っているかを理解した。そうしてそんな彼が取り出したのは、先端が若干尖った赤黒い骨のような物体だった。


「ああ、それならこれか。魔力が残留しているから、分かるはずだ」

「それは……酒呑童子様の角の破片!」

「申し訳ない。酒呑童子様は誰が何時来るか、と仰られていなかったのだ。今日客が二人来る、とは仰られていたのだが……片方は見るからに異質なので分かるだろう。もう片方は証明を求めれば、すぐに分かるだろうと言われていた」


 どうやら何が答えかは聞いていなかったらしい。門番達はカイトと瞬が客であった事もあり、若干困った様子で謝罪していた。まぁ、たしかにカイトの名はエネフィアでは一般的で、知らない者の無い名だ。

 そして大輝の角の欠片となれば必然で分かるだろう。確かに、大輝の指示通りだった。ただ一つわかりにくい、という点を除けばだが。というわけで門番二人はカイトと瞬に一つ謝罪をすると、そのまま通してくれる事になった。と、そうして門の中へ入って、瞬は自身の姿を確認する。


「……そんな変な格好……だろうか?」

「ああ、そういう事じゃないだろう。オレ達じゃない、ってだけだろう」


 瞬の服装はエネフィアの冒険者が一般的に着る服装だ。なので困惑気味な彼に、カイトは笑う。そしてそんな彼の言葉に、瞬は首をかしげる。


「だが二人と言っていたぞ?」

「さてな……大方、先輩が来る事までは考えてなかったというだけだろう」

「ふむ……」


 確かに鬼の長からしてみれば、カイトは古い友人でわかりやすい。が、自身はまだ見た事もない相手だ。となると、忘れられても仕方がない。彼はそう判断する。と、そんな二人に一人の色白の男性が近付いてきた。


「おまたせしました。酒呑童子・大輝様よりご命令を受け、ご案内に参りました」

「ありがとう。カイト・天音。それとこっちが……」

「瞬・一条です」

「はい……ああ、申し遅れました。(いつき)と申します」


 樹。そう名乗った男性は優雅に腰を折る。彼は鬼にしてはかなりの低身長で、瞬よりも少し小さい程度だ。が、鬼族の特徴である鬼の角はしっかりあり、全体的には白雪の様に真っ白だが先端はわずかに真紅に染まっている特徴的な柄だった。そうして、二人はそんな樹に案内されながら、大輝の所へと向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ