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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第88章 新たなる力編

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第2171話 二つの槍 ――中津国――

 瞬に起きている異常の対応策の考案の為。そして彼の戦力低下を補う武器を手に入れるため、中津国へ向かう事になったカイトと瞬。そんな二人はティナ率いる<<無冠の部隊(ノー・オーダーズ)>>技術班が新たに開発した次元航行の実験機を搭載した飛空艇にて、中津国へと移動する事になる。そうして『転移門(ゲート)』の展開により次元の狭間へと移動した飛空艇の中では、瞬が思わず顔を顰める事になった。


「っ……なんだ、この光は」

「次元の狭間を満たす強大なエネルギーを遮断している際に出るエネルギーの一部が光に変換されている、というのがティナの説明だったが……やはりまだ完璧な再現は無理そうだな」


 瞬と同じくまばゆい光に顔を顰めるカイトがティナから教えられていた操作を行って、コクピット前面へと色ガラスの機能を展開する。それに瞬も少しだけ胸を撫で下ろす。


「ふぅ……にしても、すごいな……本当にワープというものがあるのなら、こういう風になるんだろうな」

「さて……流石にそれはオレにもわからん。ワープはオレもしたことがない」

「お前なら、意外とやっていそうと思うがな」

「それでも、したことはないさ」


 少しだけ冗談めかした瞬の言葉に、カイトは笑う。転移術に似ているワープであるが、転移術は長距離を一瞬で移動するのに対してワープはあくまでも移動の時間を短縮するだけだ。

 なので違うらしいし、カイトもティナも別物として出来ないそうだ。一応似たものとして地脈などの魔力の流れを利用した転移術があるそうなのであるが、これはワープとは別物というのが、ティナの解説であった。


「そうか……にしても、もしこれに触れたらどうなるんだ?」

「さぁな。ティナも何が起きるかわからん、と言っていたからやらない方が良いだろう」

「やらないぞ?」

「やったら正直引くがな……まぁ、後は一直線に進むだけ。適当に時間を潰しとけ。そこまで時間は掛からないらしいがな」


 瞬の返答に笑いながら、カイトは操縦席の椅子のリクライニングを倒して寝そべる様に腰掛ける。と、そんな彼であったが、ふと気がついた。


「……ああ、そうか」

「どうした?」

「単に近すぎるんだよ、これ。その点、誰も気付いてなかったな」


 言うまでもない事であるが、現在展開されているシールドの規模は『熾天の玉座』のシールドに比べて遥かに小さい。故に光源となるシールドの場所とカイト達の場所は近く、それ故に何時も以上に明るく感じてしまうのであった。


「ああ、なるほど……ということは、何時もこれぐらいだったのか」

「かもな……ま、後は寝て待っとくか」


 この様子だと特段変化も起きなさそうかな。カイトは展開されるシールドに問題が無い事を確認し、ひとまず肩の力を抜く。無論、それで油断するわけではないが、移動中ずっと気が休まらないのではいざというタイミングに仕損じる事になる。抜ける所で肩の力を抜けるのが、優れた戦士の証でもあった。というわけで、そんなカイトの姿勢を見習って瞬もまた休む事にした。


「じゃあ、俺は後ろで少しこの飛空艇を見せて貰って良いか?」

「ん? ああ、好きにしろ。が、電気のスイッチとか以外はあまり触らない様にな」

「わかってる」


 カイトの返答に、瞬は副操縦士の席から立ち上がる。そうして、二人は各々の方法で時間を潰す事になるのだった。




 さて、二人が出発しておよそ一時間。その頃に瞬は再度副操縦士の席に座っていた。理由は言うまでもなく、到着が近くなったからだ。


「もうか?」

「ああ。今回は距離も距離だったからな。さほど時間は掛からなかったみたいだ」


 カイトも久方ぶりだから少し驚いていた様子だったが、移動距離に応じて移動時間が異なるのは当然の事だろう。なのでカイトも倒していた椅子を元に戻して、何時でも操縦を行える様に準備を整える。


「さてと……システム確認。シールド……うん。装置へのダメージは予想された範囲内に留まっているな」

「もし壊れていたら、お前が代役をしていたのか?」

「ああ……まぁ、壊れるより先に、オレが代役を務める事になるがな」


 壊れるより前に。カイトはモニターに表示されるシールド発生装置への負荷の状況を確認しながら、そう告げる。これは当然だろうとしか言いようがない。

 壊れてからだと機体にダメージが入るのだ。そして次元の狭間のエネルギーによるダメージに飛空艇がどれだけの時間を耐えられるかどうかは未知数だ。その前にカイトが障壁を展開していないといけないのは当然だろう。そしてそれは瞬もわかったらしい。特段疑問は呈さなかった。


「そうか……そういえばどうやって現在位置を割り出していたんだ? いや、割り出している、というよりどうやってお前がそれを把握しているのか、だが」

「ん? まぁ、現在位置の割り出しは単に世界地図と時間で大凡の位置を掴んでいるだけだが……大体の場所はこのモニターに表示されている。と言っても到着までの時間を書いてあるだけだが」

「ふむ……」


 瞬はカイトの見るモニターを覗き込む。それは非常に簡素な表示しか無く、カイトの言っていた通り到着までの残り時間しか表示されていなかった。


「これがゼロになると、どうなるんだ?」

「自動的に外に出るシステムが組まれている。そこまで難しいシステムを組むと、操作が難しくなるからな。基本は自動だ」

「なるほどな……俺でも出来そう……か?」

「出来るだろう。まぁ、完成したら、だが」

「流石に試作品に手は出さんさ」


 カイトの言葉に瞬は笑う。このワープ装置とでも言うべきシステムは今回が初使用という事で、おそらく自分にはわからない、聞いても投げ出したくなるような操作があると踏んでいた。実際、そうである。


「そうしておけ……良し。カウント、三分を切ったな。先輩、シートベルトを」

「ああ」


 カイトの指示に、瞬は再度シートベルトを確認する。到着時間は聞いていたし、五分前には再度カイトから連絡が来ていたので、すでに準備は万端だった。そうして三分。カウントがゼロとなると同時に、目の前の少し遠い所に亀裂が生まれる。


「『転移門(ゲート)』の出口……安定。出力上昇……ワープアウト……で良いのか? ま、どうでも良いか。とりあえず、現実世界へ転移」


 一応、今回のこの移動は試験的だ。故にログも取られており、操作の一つ一つをカイトは読み上げていたようだ。というわけで、そんな彼の言葉に合わせて飛空艇は次元の狭間から外へと飛び出す。


「ワープアウト確認。問題無し……現在位置確認開始……中津国政府へと信号発信……」

『届いておるのう。久しいな、カイト』

「おーう、久しぶりー。今オレらどの当たりだ?」

『『暁』から西へ百キロという所かのう』


 カイトの問いかけに対して、彼の飛空艇から発信された信号を受け取った――予めティナから連絡が行き、燈火が待機しておいてくれていた――燈火が彼の現在位置を伝える。そうして、カイトがそのデータを受け取った。


「……確認した。んー、まだ誤差が酷いな。直進した筈なんだが、北にも西にもズレまくってる」

『うむ。が、新技術の試験なんぞこんなもんじゃろ。移動距離を考えれば、妥当といえば妥当じゃしのう。本来飛空艇の旅でも一直線に進んでいる様に見えて、実際には微調整掛けてきちんとまっすぐ飛んでいる様にしておるし』

「それも、そうか」


 燈火の言う事は尤もだな。カイトはそう納得し、とりあえず往路の分のデータを別途保管しておく。そうして別に保管を終えた所で、ひとまずは『暁』を目指す事にした。


「で、空港に着陸させて良いのか?」

『それは構わんよ。元々、聞いておるからな』

「すまん。世話になる……まぁ、半日程度でまた出るが」

「なにかするのか?」


 一応、瞬も中津国の首都である『暁』で数時間滞在する事は聞いていた。故にそれそのものには疑問はなかったが、何故止まるのか少し気になったらしい。


「今回はあくまで試験的な装置で移動したからな。ダメージが無いか、一応のシステムチェックを行っておきたい。問題がなければそのまま再出発だ。ま、早い話がパーキングエリアで飯休憩とでも思ってくれ。システムチェックはなにかをするわけでもないからな。単に終わるのを待つだけだ」

「ああ、なるほど」


 それならわかりやすい。カイトの返答に瞬は納得を示す。というわけで、二人は一旦『暁』に移動し、休憩を取る事にするのだった。




 さて、『暁』にて停泊し、飛空艇のシステムチェックを行う間。カイト達は時間が空いた事もあり、せっかくなので燈火の所へお邪魔させて貰っていた。


「で、話は聞いておるよ。武器と酒呑の小僧の所へ用事じゃとな」

「ああ……彼の話は?」

「それも聞いておる。先の<<八岐大蛇(やまたのおろち)>>の件では世話になったな」

「あ、いえ……あれは自分の役目を果たしただけです」


 燈火の礼に対して、瞬が少し恥ずかしげに首を振る。彼からしてみればあの一件は勝手に酒呑童子が出てきて暴れまわった挙げ句、その力を間借りして戦っただけだ。特段誇らしい事でもなかった。とはいえ、燈火はこれを単なる謙遜として処理する。


「そう言ってもらえれば助かる……まぁ、その礼と言ってはなんじゃが、武器についてはこちらから紹介状も(したた)めよう。使うと良い」

「ありがとうございます」


 今回の瞬の中津国来訪の目的は二つ。一つは大輝から自身の状態を確認してもらい、助言をもらう事。もう一つは現在の戦闘力の低下を受けて、武器を手に入れる事だ。

 この内武器を手に入れる事については今の彼の力量から言って、量産品では到底耐えられない。となると一品物しかなく、そうなると武器職人と直接交渉する可能性は非常に高かった。


「うむ……それについては出発までに整えよう。で、カイト。例の件じゃが、今良いか?」

「ああ。あれ、どうなった?」

「うむ。とりあえず、なんとか体裁は整った。見るか?」

「おう」


 楽しげな燈火の問いかけに、カイトもまた楽しげに応ずる。その彼の返答を受けて、燈火が手を鳴らした。


「誰か、カイトに例の写真を」

「は……こちらを」

「うむ。ほれ」

「おう……おー、流石元が良いだけに似合うな。当人の恥ずかしげな顔が笑えるが」


 燈火から渡された写真を見て、カイトが笑う。その彼が見ていた写真を、瞬が覗き込む。


「これは……天覇繚乱祭の時の……誰だったか……」

「黒羽丸か?」

「ああ、そうだ。何かお前といろいろと話をしていたと思うんだが……あの後、ドタバタしてしまったからなぁ……」


 すっかり忘れていた。瞬は数度しか見なかった上、話もしていなかった事もあって黒羽丸ことイズナの事をほとんど覚えていなかったらしい。とはいえ、これは仕方がない事だっただろう。

 『リーナイト』の一件で忘れられがちだが、あの時の一件は本来エネフィアの歴史上でも有数の事件だった。被害が軽微で済んだのでそう思われないだけである。瞬の印象に残らないでも無理はなかった。


「あはは。そうだな……まぁ、それで彼が木蓮流という刀鍛冶の流派の再興を行う事になっていてな。オレも裏で支援していたんだ。その襲名披露、という所か。まだまだ、鍛冶師としては駆け出しだが……」

「ようやっておるよ。少なくとも、名に驕るだけの若造よりは凄まじい気迫と技を見せておる」

「そうか……ああ、ありがとう。これについてはもう大丈夫だ」


 燈火から聞かされた経過報告にひとまず頷いたカイトが、写真を彼女へと返却する。そうしてそれを受け取った燈火が、更に話を進める。


「うむ。それで、その妹の睡蓮。これについて、ひとまず出立の準備は整えておる」

「助かる。あの時は本当に色々とありすぎて、連れて行けなかったからな」

「仕方があるまい。あの時の一件はそれだけ大きかった」


 本当なら、帰還するマクダウェル艦隊に乗せて連れて帰って欲しくはあった。カイトはそう思いながら、出来なかった事に若干の苦笑を浮かべる。というわけで、カイトが引き取る事になっていた彼女はまだ中津国に居たらしい。


「今回の帰還に合わせて、こっちで引き取る。戻りにまた来るから、その時まで頼むわ」

「良いよ。こちらとて木蓮流再興の恩があるしのう」


 カイトの言葉に、燈火が快諾を示す。そうして、その後もしばらく種々のやり取りを行いながら、出発までの時間を費やす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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