第2167話 幕間 ――盗まれたもの――
千代女を介してもたらされたかつての皇都襲撃の裏で起きていた<<死魔将>>達の本命。その情報を掴んだカイトは、ティナらと共にオプロ遺跡を訪れていた。
そうしてヴァールハイトの研究室で彼が隠していた一角への扉を見つけ出した彼であったが、そんな彼はティナのオペレートの下で秘密の研究室へと通ずる隠し通路を開いていた。
「「「……」」」
唐突に開いた隠し扉に、研究室の誰しもが思わず目を丸くする。無論、その中にはツィアートも一緒で彼が思わずカイトへと問いかけた。
「な、何をしたんだ? というか、その扉は……」
「前にファルシュさんが隠した通路……みたいですね。まぁ、隠した理由は何をか言わんや、ですが」
「では、ここが……」
「ええ……おそらく彼があまり知られたくない、とした情報に繋がっているのでしょう。無論、中身は廃棄しているでしょうが」
構造そのものは隠せない。なら、中の情報は破棄しているだろう。カイトもツィアートも単に秘密の研究室へ繋がっているだけで、中の情報は一切合切破棄されているだろうと考えていた。と、そんな事を言っていると、唐突に通路の中に懐かしい姿が映し出された。
『あー、あー……こんな所かな? さて。ここに来ているのは、信頼のおける友のどちらかな? まぁ、そうじゃないと起動しない様にしているから、そうなんだろうね。すまない。この私はカイトくんかツィアートさんのどちらかに反応して、起動する様に設定しているんだが……どちらかまでは判断出来ないんだ。教えてくれると助かるよ』
少しだけ申し訳無さそうに問いかけるヴァールハイトに、ツィアートが口を開いた。現状、カイトは正体を隠しているのだ。口を開けなかった。
「私だ、ヴァールハイト。ツィアートだ」
『ああ、貴方か……なら、カイトくんに一つ伝えて欲しい。ここに君が来るより前に、すでに一人来たと』
「「「っ」」」
誰かがここにすでに侵入していた。ヴァールハイトから告げられた言葉に、その場の誰しもが思わず言葉を失った。そんな彼らを横目に、カイトは音波を操ってヴァールハイトが音を検出しているマイクの方向にだけ、声を発した。
「……ファルシュさん。オレも居ます」
『……プログラムCを起動。メッセージ内容は、これと……良し。では、メッセージを再生しよう』
どうやらこれは記録されたメッセージを再生するだけの物で、自意識と呼べる物は無いらしい。カイトもツィアートもそれを理解する。というわけで、記録されたヴァールハイトが告げる。
『さて……まず大切な事から。遺言は聞いてもらえているかな? そちらについての進捗はどうだろうか……まぁ、報告されても答えられないから、良い成果が出ている事を期待するよ』
「……」
実際はまだ成果は出せていませんけどね。ヴァールハイトの言葉にカイトは若干の苦笑を浮かべる。とはいえ、着実に痕跡は集められている為、決して進んでいないわけではなかった。
『さて……それで伝える事は一つだけ。この先に、君たちが旧文明と呼ぶ文明の闇の研究が行われていた研究室がある……私の、秘密研究室だ。おそらく察しの良い君たちの事だ。中の情報が全て抹消されている事はわかっている事だと思う』
やはり、か。カイトもツィアートもヴァールハイトが全ての情報を抹消していた事に驚く事はなく、それどころか彼ならやるだろう、と思っていた。なのでこれについては彼らは何も問いかける事はなく、そのままメッセージの続きを聞く事にする。
『ただ……うん。ここからのメッセージはパターンC-6。最悪のパターンか。このメッセージが再生されるという事は……どうやら私の考えたより遥かに高い技術を持った者が、闖入者だったらしい。データが入っていた情報媒体は完全に持ち去られたようだ。サーバの別領域にこのメッセージを遺しておいて正解だった……』
こちらとしても、貴方の慧眼には感謝しかない。僅かな安堵を滲ませるヴァールハイトに対して、カイトは内心で感謝を示す。おかげで誰かが先に入っている事を察する事が出来たのだ。これがなければ、もしかしたらヴァールハイトが痕跡を完全に抹消したと思うかもしれなかった。
『ツィアートさん。カイトくんに伝えてくれ。闖入者が入った時の映像情報をサブのサーバに入れておいた。場所はカナタに聞いてくれ、と』
「……確かに、請け負った」
『……うん。メッセージはここまで、かな。すまないね、止める事が出来なくて。これはあくまでも映像記録。幾つかの条件に従ってメッセージを遺しているだけなんだ。まぁ、このメッセージが再生されるという事はなにか良くない事が起きているのだろうけど……叶うのなら、もう一つの友人として、友人へ向けて送るメッセージを聞いてくれている事を願うよ。じゃあね』
それは、叶わぬ願いだったが。カイトもツィアートもヴァールハイトの心遣いに感謝を示す。そうして彼が消えたと同時に、通路のランプが点灯し通路の先を照らし出す。その先を見ながら、ツィアートがカイトへと問いかけた。
「エレベータ……か。どうする?」
「行きます。許可も出ましたので」
「……そうか。私も行こう。彼とは知り合いだった。何か、私が居る方が良いかもしれない」
「わかりました。ですが、決してオレより先には出ない様に」
ツィアートの言葉に、カイトは一つ頷いて通路へと足を踏み入れる。そうして入った通路だが、カイトとツィアートだと判断していたからか何も危険はなくエレベータへとたどり着いた。
「……カードリーダーだが……」
「カードキーなら、ここに」
「そうか」
カイトの取り出したヴァールハイトのカードキーを見て、ツィアートが一つ頷いた。そうしてカードリーダーにカードキーを読み込ませると、わずかにガコン、というような音が鳴ってエレベータの扉が開いた。
「あるのは……上と下のボタンだけ、ですか。今は上、と。直通……ですかね」
「だろう。良し。じゃあ、押すぞ」
カイトの言葉に頷いたツィアートが、上下の二つしかないパネルに触れて下へと移動させる。そうして扉が閉じて、エレベータはほとんど音もなく地下へと進んでいく。
「……先に入ったのは、<<死魔将>>なのか?」
「おそらくは。皇都襲撃を隠れ蓑に、ここに入ったのでしょう」
「どうやって掴んだのだろうか」
「……そこはわかりません。ですが、カナタ曰くファルシュさんは色々な所で研究を行っていたそうです。どこかで、掴んでいてもおかしくはない」
「それは、そうだが……」
気になるのはこのオプロ遺跡の秘密研究室をいとも簡単に見つけ出していた事だ。そんな事を気にするツィアートに、カイトが告げる。
「それはわかりませんよ。ただおそらくオレ達が気付いたのは、オレか貴方が居たからでしょう。ファルシュさんの遺産が闖入者があった時点で、隠し通路が分かる様にしていた可能性は高いでしょう」
「……それは、そうだろうね」
カイト達については、メッセージからその可能性が高い。ツィアートもカイトの推測に納得する。そして実際、後にティナが言う所によると隠された形跡があったが、カイトが今回ヴァールハイトの研究室に入ったタイミングで解除されていたらしかった。と、そんな少しの会話をしている間にエレベータが停止する。
「もうか」
「一つ下の物置の裏、だそうですからね。単に階層移動だけでしょう」
ぷしゅっ。そんな小さな音を立てて開いた扉の先を二人は見る。そこは地下の秘密区画の手術室によく似た場所が見える窓のある小部屋だった。
「……あちらは……見る必要も無いですか」
「……だろう」
窓の先の部屋は見る意味もないだろう。カイトのそんな言葉にツィアートも頷いた。そうして手前の小部屋を見回すわけであるが、そこは敢えて言えば監視室のようでもあった。
「モニターに、監視カメラ……椅子が幾つか。施術を監視する場所……ですかね」
「それと共に、情報を集約する小型のサーバもあったようだ」
「え?」
「これだ……ここに、先に彼が言っていたサーバがあったんだろう」
「これは……」
明らかになにかが置かれていた痕跡がある。カイトはツィアートが屈んで確認していた一角を見て、更にその付近にあった幾つかのケーブルを見る。そのケーブルの一本を見ながら、ツィアートが告げた。
「断面が鋭利な刃物で斬り裂かれている。このケーブル……見覚えがある。重要な装置に接続されるケーブル類だ。これを切断するのは、相当苦労するんだがな」
「それが、おそらく短時間で、と」
「だろう」
また面倒な事になりそうだ。カイトは若干呆れと苦笑の混じった笑みを浮かべながら他のケーブルを見るツィアートを横目に立ち上がる。そうして、彼は再度周囲を確認する。
(あれは……監視カメラか? 壊されているか……ん?)
小部屋にあった監視カメラは破壊されていて機能を失っていた事を確認したカイトであったが、そんな彼は目の端に光るものがある事に気がついた。
(……光った? いや、あれは……監視カメラ? なるほど。手術室を監視する監視カメラの一つを、入り口側に向けていたのか。角度はかなり悪いが……情報がなにかありそうか)
自身が気付くと同時に消灯したランプを見て、カイトはおそらくヴァールハイトの遺したシステムが敢えて気付かせたのだろうと判断する。
(これが、さっきファルシュさんが言っていたデータはあれから取られたのか。まぁ、なにが映っているか、などはわかっちゃいないだろうが……少なくとも映像は撮れていそう……かな)
そうだと良いんだが。そして運良く情報が得られれば良いんだが。カイトはヴァールハイトが遺してくれた情報が敵の手がかりになれば、と僅かに願う。と、そんな所にティナから連絡が入った。
『カイト。どうじゃ? なにか見付かったか?』
「ん? あ、ああ。悪い……やはり情報は完全に持ち去られた後のようだ。小型のサーバがあった痕跡があった」
『そうか……データは完全に抹消されておるじゃろうが……いや、彼奴らであれば、そこから復元も出来るやもしれん。楽観的な見方はやめた方が良いな』
「ああ」
データが完全に抹消されている事はおそらく、奴らもわかった上。カイトもティナも<<死魔将>>達が何かしらの復元の見込みがあると踏んで、ここに来たと判断する。
「とりあえず、これからどうする?」
『とりあえず、カナタを今呼んでおる。サブのサーバとやらの映像情報をぶっこ抜いて、今回は終わりじゃ。お主は後はカナタを待て。合流してからの方が良いじゃろう』
「りょーかい」
ティナの指示にカイトは了承を示す。そうしてそんな彼が、ツィアートへと問いかけた。
「ツィアートさん。オレの方にはしばらくの待機指示が出ました。貴方はどうされますか?」
「そうか……私がこれ以上居ても、邪魔になるだけだろう。この部屋は?」
「先に軍が入るべきかと。一応、危険はないと思いますが……」
「そうか。わかった」
やはりカイトの言葉だったからだろう。ツィアートはそれを素直に受け入れる。そうして二人は一旦ヴァールハイトの秘密研究室を後にして、カイトは一度外に出てカナタと合流する。
「それで、あのお父様がサブのサーバにデータと?」
「ああ。カナタなら分かるだろう、と」
「そう……ふふ。そうね。私でないとわからないわ」
カイトから聞いた情報に、カナタが一つ笑う。そうして、彼女が教えてくれた。
「そんなもの、どこにも無いわ」
「は?」
「無いのよ。最初からそんなものは無い……単にお父様がどこかで敵に聞かれている可能性を考えて、そう言ったのよ」
「なるほど……」
納得だ。カイトはカナタの言葉に得心する。とはいえ、それならどこにデータが保存されているかが、気になる所であった。
「じゃあ、どこ何だ?」
「私の飛空艇よ。あそこに、万が一の場合はデータが送られる事になっているの」
「そうか……あそこなら、手は出せないか」
「ええ。何より今はマクダウェル邸だしね」
「となると……」
「善は急げ。戻るだけね……私はとんぼ返りになってしまうのだけど」
言うまでも無い事であるが、この場にカナタの武器庫とも移動要塞とも言える飛空艇は存在していない。そこに情報があるのなら、そこを確認するだけであった。というわけで、二人はソラと合流し急いで戻る手配を整えると、後を他の者達に任せて一路マクスウェルへと帰還する事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




