第2163話 幕間 ――オプロ遺跡・再訪――
千代女の来訪を受けて、彼女から得た情報をティナへと報告したソラ。そんな彼の報告を受けて、ティナはカイトを呼び寄せる事を決める。
というわけで、そんな彼女の要請を受けたカイトは今回の事態の重要性を鑑み、即座に皇帝レオンハルトへと奏上。今回は代役は立てず使い魔を代理として残し、その日の内に皇都へとやって来ていた。
「陛下」
「マクダウェル公。報告は聞いた。オプロ遺跡へ行く、との事だったな」
「は」
皇帝レオンハルトの確認に対して、カイトははっきりと頷いた。久秀が動き、こちらに情報を伝えてきたのだ。その真偽を含めて調べる為にも、即座に動く意義はあった。
「宗矩とやらから話は聞いていた。久秀なる男は最初から奴らを裏切るつもりで動いていた、との事であったな」
「は……元々、彼はかつての私の部下。嘆かわしくも歴史書には稀代の裏切り者として名を残しましたが、かの者の統治、決して乱世の奸雄なぞではございません。その先進的な視点や意欲的な姿勢は私も参考にさせて頂きました。特に、その築城に関する見識は今も尚有益と」
「ふむ……まぁ、公が信用に足るというのであれば、信用して良いのだろう。が、気になるのは何故、そのような者たちを引き入れたかという所」
別に皇帝レオンハルトとしてもカイトがなんとかするのであれば、気にするつもりはなかった。が、同時にそれ故にこそその意図が気になったらしい。これに、カイトが口を開いた。
「おそらく、奴らにとって宗矩殿や久秀は単なる時間稼ぎに過ぎないのでしょう。単なる使い捨ての駒……どれだけ勝手をしようと、自分達の仕事さえ片付ければ問題が無い。そういう事なのでしょう」
「か……相変わらず、敵ながら厄介と言うしかないな」
「でもなければ、世界中が奴らの動き一つに翻弄なぞされないでしょう」
皇帝レオンハルトの言葉に、カイトもまた同意して頷いた。と、そんな彼は更に続ける。
「それはそれとして、奴らがオプロ遺跡に何かしらの興味を見せたのは事実でしょう。もとより先の皇都への襲撃が陽動であったのは陛下も存じている所です。奴らがどのような思惑を有しているかは定かではありませんが……」
「何も手がかりのない現状では行ってみるしかない、か」
カイトの言外の言葉を、皇帝レオンハルトが口にする。兎にも角にもあの一件の本命が何なのかは未だにわからないのだ。これが敵の策略だろうと、ひとまず乗ってみないと何もならなかった。
「すまぬが、調査は任せる。何が目的で彼奴らがオプロ遺跡と言っているのか。それを探らねばなるまい」
「は……その言葉が真実であれ偽りであれ、そこには何かしらの情報がある筈。調べねばならないでしょう」
「うむ」
カイトの言葉に皇帝レオンハルトが同意を示す。というわけで、カイトのオプロ遺跡行きが承諾された後。彼はティナやソラと合流する。
「というわけで、オレが来たわけなんだが」
「すまん。なんか面倒掛けちまった」
「構わんさ。にしても、まさかあの……千代女? が来たとはな。しかもやっぱお前と因縁があるみたいだし……」
「なんだよなー……こっちの前世は相変わらずなーんにも言わないし」
あの後のソラであるが、何度か前世の某と対話が可能かやってみていたらしい。彼とてランクA級の冒険者。それが不可能ではない。が、結果としては一応反応はしてくれるものの、何も教えてはくれないとの事であった。これに、カイトは型を竦めた。
「ま、そういう奴も居るだろ……で、それはともかくとして。その千代女。ひとまず、なんとか話は出来たんだな?」
「ああ……まぁ、何回か殺されかけたけどな……」
カイトの問いかけに対して、ソラは盛大にため息を吐いた。千代女は単にソラをソラとして認識する事でなんとか平静を保っただけで、ややもすればソラの前世を思い出して殺しかねなかった。が、それでは吉乃の命令に背く事になってしまう為、努めて話さない事でなんとか回避していたのであった。
「誰なんだろうな、お前の過去は……まぁ、時代としちゃオレと同じ時代だろうとは思うが」
「そこについちゃ、そもそも大半同時代なんだろ?」
「まな」
ソラの問いかけに、カイトは一つ笑う。そもそも輪廻転生のスパンはおよそ三百年から五百年。よほどの例外がなければ、全員ほぼほぼ同年代の前世を持つはずだった。なので実質、織田信長と同時期を生きた、というのは何らヒントになっていなかった。
「でだ……オプロ遺跡に行くわけなんだが、なにか他に言っていたか?」
「なにか他に、ねぇ……いや、何も。ただオプロ遺跡に目的があった、とだけ。後は一応、松永久秀が裏で操ってるっぽい事を匂わせたぐらいか」
「そこは今更といえば今更だ。何故奴らがそれを泳がせてるのか、ってのも気になるっちゃ気になるし、奴もそれは勘案に入れて動いているだろう」
泳がされているのをわかった上で動いている以上、ここでおそらく自分がオプロ遺跡に行く事は<<死魔将>>達にとって想定の範囲内、もしくは予定に沿った行動なのだろう。カイトは彼らの思惑をそう理解する。もしこれが想定外だったなら、確実に久秀は止められていただろうからだ。
「それなら、どうするんだ?」
「今はとりあえず一つでも情報が欲しい。それが思惑に沿う形で動く事になっても、な」
「罠の可能性は考えた上で、か」
「そういう事だな」
罠の可能性は十分に考慮した上。ソラの問いかけにカイトははっきりと頷いた。そうして少し話をしていると、ティナがやって来た。
「む。戻っておったか」
「ああ。で、そっちは?」
「こちらも、一通り終わったのう。今回は幸い戦闘班ではなく技術班が来ておったので、飛空艇の調整やらは手間取らん。まぁ、どうにせよお主単騎でなんとかはなろうがな」
「そうであって欲しいもんだがね」
「最悪は余もおるから、なんとかはなるじゃろ……ならんかったらならんかった時に考えればよかろう」
ため息混じりのカイトの言葉に、ティナは一つ肩を竦めた。今回行うのはあくまでも調査だ。その上でなにかが起きていた場合、と考えても何が起きるかは考えられない。なら、後はぶっつけ本番でやってみるしかなかった。
「か……わかった。後は行って考えよう」
「うむ……ああ、そうじゃ。一応、来訪に関しては余もお主も軍の定期調査の一環として通しておる。軍の認識票は忘れるな」
「あいよ」
ティナの言葉に、カイトは異空間に仕舞っておいた軍服を取り出す。そうして、彼らはオプロ遺跡に向かうべく支度を急ぎ行う事になるのだった。
さて、カイトが皇都へとやって来て一日。皇国の上層部と共に急ぎで用意を終わらせたカイトは、少し小さめの軍の飛空艇に乗ってソラや<<無冠の部隊>>のオペレーターと共にマクスウェルへの帰還から少し寄り道をしてオプロ遺跡へと再びやって来ていた。そうしてやって来たオプロ遺跡であったが、かつての騒動はもう片付けもほぼほぼ終わった状態だった。
「うわー……前あんだけ荒れまくったのに、もう片付けられてるのな」
「そりゃ、数ヶ月前だ。片付けも終わるだろ」
「かー……でもまだまだ軍は駐屯してるのな」
「あの一件で新しく色々と見付かったからな。一ヶ月ほどは軍が様子見をしていたが、その後は皇都の研究者達がやって来て大規模な再調査を行っていたんだ」
「へー……」
自分達が去った後も研究者達が調査を行っていたのか。ソラは自分達が終わった後も続いていた調査に、少し興味深げに頷いていた。と、そんなソラであったが、一転気を取り直して問いかける。
「で、こっからはお前一人なのか?」
「ああ。一応、今回は表向き単なる定期的な調査だからな。あまり大人数で押しかけるわけにもいかん」
「そか……なら、俺もこっちで待機か」
「そうしてくれ」
下に降りる準備を行いながら、カイトはソラの問いかけに頷いた。ここから先、何が起きても不思議はない。最悪は下で研究を行っている研究者達から軍の兵士達までが一気に敵に回る可能性さえあった。油断は出来なかった。というわけで支度を行う彼は通信機を起動させると、距離を置いて待機している艦隊を率いるティナへと連絡を入れる。
「ティナ。そちらからなにか異変は感知出来るか?」
『今の所、何も見付かってはおらん。が、何かしらの罠が仕掛けられておる可能性はあり得る。十分に注意せよ』
「あいよ」
どうやら来て早々悪い意味で歓迎を受ける事はないらしい。カイトは一つ頷いた。そうして、彼はゆっくりと飛空艇を降下させてオプロ遺跡へと降り立つ事になるのだった。
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