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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十章 遠征編

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第205話 見回り

 本日21時から感謝の断章・4を更新していきます。そちらも楽しんで頂ければ。

 ソラ達がミナドの村に着いて翌日の朝。ソラ達は早朝に出発すると言うコラソン達村の警備隊の見送りに来ていた。


「父ちゃん!いってらっしゃい!」


 出発間際、コリンがコラソンへと言葉を送る。それにコラソンは準備を一時中断して、コリンの頭を撫ぜる。


「おう、お土産楽しみにしてろ!」

「うわ!父ちゃん!俺もうガキじゃねえって!」

「そう言っているうちはガキだ。」


 親子はそう言って軽口を叩き合う。そうして一頻りじゃれ合った後、コラソンはソラ達の方を向いた。


「じゃあ、留守を頼んだ。これ以降、依頼を開始してくれ。」

「確かに、請け負いました。」


 ソラは依頼開始なので、きちんとした口調で答える。


「よし……じゃあ、行くぞ!」


 そう言って公爵家が用意した竜車に乗り込み、コラソンたちは近くの街へと向うのであった。




 それから数時間後。ソラはアルと相談し、パーティを4つのチームに分け、一つを見張り台での見張りに、残りを村の見回りに配置する。尚、受け持つ場所は持ち回りで、2時間毎に交代し、アルは遊撃的に見回りだけである。尚、一日の中で見回りを行うのは朝8時から夜6時までの10時間である。


『定時連絡。此方スカイ。HQどうぞ。』


 現在、由利と二人一組で見回りをしているソラが、見張り台への20分毎の定時連絡を入れる。スカイとはソラのコードネームで、由利はリリィである。

 尚、HQとはヘッド・クオーターの略称で、軍の司令部などを指す言葉である。当然だが、此方の世界にHQなどという略称は無いので、隠語として最適であった。まあそもそもでこんなどうでもいい様な少年少女達の村の警護任務の代役なぞ盗聴する物好きは居ないだろうが、一応念の為、という名の気分であった。


『此方HQー。スカイどうぞー。』


 何も起きていないので、気の抜けた様子の女生徒の声が返って来た。現在の時間の見張り台担当の女生徒であった。


『此方異常なし。そっちは?』

『同じく、異常なーし。ユウはー?』

『こっちも異常無いよ。ゴブリンは?』


 ユウ、ことアルが女生徒に対して質問する。ゴブリンが最近活発であるという昨日の報告を念頭においていた。ちなみに、アルがユウなのはアル→有る→有→ユウらしい。そうして、司令部に値する見張り台の女子生徒が上がってきていた報告を伝える。


『さっきヒカリの所で出た5体だけだよ。』

『そっか、ありがとう。じゃあ、通信終了。』

『こっちも通信終わり。』


 アルが通信終了させるのに合わせて、ソラが定時連絡を終了させる。そうして、ソラは改めて携帯電話の利便性を実感していた。


「はー、やっぱ携帯って便利だったんだなー。」


 今回の遠征用に、とティナから渡された通信用のスマホ型魔道具の使用感覚に感嘆の声を漏らす。当然、エネフィアに携帯の基地局等という物は存在していない。それ故に学園にある個人用のスマホ等の携帯電話は使用できず、無用の長物と化していた。使えるのは校内に通信端末のある教員用のPHSだけである。久しぶりに簡単に連絡の取り合える通信用の小型魔導具の便利さを確かめ、ソラが少し懐かしげに呟いた。


「こっちで買おうとしたら市販品でも今の利益全部吹っ飛ぶらしいからな……天才の腕って怖い。」


 そう言ってソラが溜め息を吐く。本来、ソラ達が持つ手のひらサイズの通信用となると、一個で十分にミスリル銀貨30枚は超える。日本円にして約300万だ。現在のエネフィアの技術では、軍事用の特注品程度や一部上流階級用でしか実用化できない、超高級品であった。

 おまけに、このサイズとなると登録された魔導具同士の一対一でしか同時通信できないという制限もある。しかし、ソラ達の持つ小型魔導具からは、その制限が撤去されていた。理由はもちろん、ティナ謹製であるからである。


「ティナちゃん謹製だから、性能もピカイチだねー。」


 由利もソラと同じく与えられた通信用の魔導具を取り出し、感覚を確認している。二人とアルには、冒険部上層部用と嘯いてカイト達の正体を知る者用にカスタマイズされた、専用機が与えられていた。他の面子には、冒険部が所有している全員共有の一般品が貸し出されている。流石に全員分を用意するのは色々な事情で出来なかったのである。


「ホント、天才ってすげえよなー。これ、スマホと全然変わんねえじゃん。」


 ソラも同じく自分用にカスタマイズされた魔道具を見て、少し嬉しそうに呟いた。自分たちの使うスマホと同様の使用感覚となるようにカスタマイズが施された通信用の魔導具には、普通にタッチパネルが存在している。それを操って必要とする機能を選択するのである。

 まあ、タッチパネル自体は一般生徒用の魔道具にも搭載されているが、彼ら用の物は各個人のスマホと同じサイズに設計されていたので、完全に自分のスマホと同感覚なのであった。


「私達のだと、他にも色々な場所のアドレスも入っているしねー。」


 色々とは、カイト達以外にも公爵家の通信網との通信ラインや、各種族の集落への詳細な地図、その地図に現在地を映し出すGPSに似た現在位置特定機能等である。この中には、各種の有力な種族の有力者達にも連絡が取る事も可能な情報等、ありとあらゆる貴族達が欲してやまない情報が大量に入っていた。

 当然だが、此方は専用機なので、本人が確認出来ない場合と、脅し等の場合にはそれを察知し機能を停止する機能も搭載されている。それ以外にも本人の趣味などが存分に反映されていた。

 尚、一般用には他の端末との通信機能の他は、映像録画機能と、盗難等にあった場合の自己破壊機能、一般に広まっている簡易な魔物の情報ぐらいしか搭載されていない。これらは全て専用機にも搭載され、魔物の情報に至っては一般には知られていない詳細なデータ他、カイト達の得た所感まで入っていた。


「つーか、ゲームまで移植してるって、著作権いいのかよ……」


 ソラの魔導具の中には、かつてティナに貸していたテレビゲームまで入っていた。ティナが開発しているヴァーチャル・リアリティ技術の開発途上でデータ化された物で、プレイする時には専用のゲームパッドまで出て来るという親切設計である。

 尚、同じ機能が移植されている端末同士での通信対戦も可能である。著作権に関しては、ティナとカイトが市販されているゲームは全て―18歳以下お断りのゲームや同人作品も含め―所持しているので、所有者二人と友人のソラ達がプレイする分には問題にならない筈、という考えであった。実際に問題とならないかは二人でも判別できないが、異世界まで来て注意する者もいない。大丈夫だろう。


「私のには料理本が入ってたねー。カイトがそこら辺の本けっこう持ってるんだってー。」

「ああ、それで作って無さそうな料理まで作れてたのか……つーか、あいつ料理するんだ。」


 由利の言葉にソラが少し意外そうにうなずいた。由利が得意とする料理は洋食なのだが、カイト達の正体を知って以降は時々和食も作っていた。村に着いてからもかき揚げ等の和食を作っていたのだが、ソラはその時は睦月辺りにでも聞いたのか、と思ったのだが、どうやらレシピ本を見たらしい。尚、日本好きのアルが大変興味深そうに食べていたのは良い思い出である。


「こっちで二人旅している時には、ユリィちゃんと交代で作ってたんだってー。それで多少は出来るらしいよ?」


 レシピ本を貰った時に聞いた話を由利が語る。実はその結果、カイトもユリィも狩りをして獣を捌く事も出来るのである。伊達に三年間も旅をしていない。ユリィが種族的な特徴として植物の見分けに長けるので野菜担当、カイトは狩りに特化したのでお肉担当である。二人して、食料の現地調達はお手の物であった。


「ああ、なるほど……」

「レシピ本はこっちに帰った時にコック長さんにお土産にするつもりだったらしいよー。」


 要には、気が向いたら作ってもらうから勉強しておけ、という事である。当然、既にデータを渡してある。


「へえー。」


 そうして二人で話をしながら見回りをしていると、交代の時間となった。


「あ、ソラー。交代の時間だよー。」

「次は……見張り台だっけ?」

「そだねー。」


 そうして見張り台へと向う二人。さすがに由利に注意されたので、今回はソラも梯子で見張り台に登る。


「上、覗かないでねー?」

「わかってるって。」


 現在の由利はスカート――尚、スカートの下にスパッツは履いている――なので、ソラにそう言う。そうして頂上にまで登った二人は見張り台にいた生徒と交代する。由利が上なのは、もしバランスを崩した時に支える為である。一応はソラもマナーを気遣ったのであった。


「うーっす。先輩、交代っす。」

「代わりまーす。」

「え?あ、もうそんな時間か……じゃあ、お願いね。」

「んあ?終わりか?」


 杖を持っていた女生徒と、することがなく暇そうに片手剣を鞘から少しだけ出し入れして音を出していた男子生徒がソラ達に気付いて顔を上げる。


「んじゃ、頼むわ。」


 そう言って男子生徒とソラがハイタッチして正式に交代した。そうして直ぐに先に居た二人は、見張り台から降りていったのだった。



 それから一時間。結局何事も起きること無く、只々時間だけが流れていく。


「んあー、やっぱ何も無いな……」

「まあ、良いことじゃないかなー。」

「そだなー。」


 そうして二人でのんびりと村ののどかな景観を楽しんでいると、下からナナミとコリン、そしてルフィが登ってきた。


「うっす!兄ちゃん!」

「やっほー、お兄さん。お仕事ご苦労様。」


 その言葉と同時にコリンが手を上げたので、ソラは屈んでコリンとハイタッチする。更に同じように手を上げたルフィともハイタッチする。そんな少年二人を他所に、ナナミが笑顔で告げる。


「二人共お疲れ様。お昼持って来たよ。私達もまだだから、一緒に食べよ?」


 ナナミが手提げの籠を掲げる。


「僕も途中でお呼ばれしちゃった。今日は暇でちょっと知り合いに遊ぼ、ついでにお昼もって言ったら忙しいって言われたからどうしようかなーって思ってた所だったんだ。誰か来るらしくってねー。ご飯ぐらいくれたっていいのに、酷いよねー。」

「俺は遊び相手が来てくれて嬉しいけどな!」


 ぷくー、と頬を膨らませ、ルフィは愚痴を言う。そんなルフィにソラと由利、ナナミは家は大丈夫かと少し心配になるが、出会ってまだ2日。口出しできる事ではないと考えて何も言わなかった。一方、そんな事を思っていないコリンは、遊び相手がこっちに来てくれたと喜んでいた。


「じゃあ、皆揃って、頂きます。」


 そう言ってナナミの号令で5人は一緒に昼食を食べ始める。籠の中身は目を離さなくても良いように、と片手で食べられる簡単な料理であった。そうして20分程で5人は全ての料理を食べ終える。


「ごっそーさん。」


 そう言ってソラが手を合わせる。


「ナナミさん、美味かったよ。」

「ありがとう。」


 ソラの感想に気を良くしたナナミは、笑顔を浮かべて微笑む。尻尾もそれに合せて嬉しそうに揺れていた。同じく由利もナナミに感謝する。


「うん、美味しかったよー。ありがとねー。」

「ううん、皆には村の警護をお願いしてるからね。このぐらいはさせてよ。」

「あはは、こんな言い方はどうかと思うけど、お仕事だしな。」


 そう言ってソラが笑う。だが、それでも守られているのは事実だ。なので、ナナミが改めて頭を下げた。


「それでも、ありがとうございます。」


 そんなナナミにソラと由利は遠慮しようとするが、その前にルフィが声を上げた。


「ねえ、お兄さん。あれ。」


 そう言ってソラがルフィの指差す方を見ると、そこには数体のゴブリンが徘徊していた。後少しで、村の畑に侵入しそうであった。


「由利。」

「うん。」


 そう言って頷くやいなや、由利は弓に矢を番えた。


「はぁー……」


 距離的にも相手的にも、この程度ならばカイトから教わった切り札を使うまでもない。なので由利はただ気負うこともなく、意識を集中させる。そうして少し深呼吸をして呼吸を整え、対象との距離を図る。目測で十分に射程内であることを見て取ると、そのまま矢を放った。放たれた矢は一直線にゴブリンを目指して飛翔し、見事、命中した。


「このまま……」


 更に由利は連続して矢を放ち、残るゴブリンも全て討伐する。


「凄い……」


 その様子を見たナナミが呟く。コリンは口を開けてただ、眺めているだけであった。


「お見事ー!」


 だが、そんな二人を横目に、ルフィが楽しげに拍手を送る。どこかこんな光景に慣れている様な雰囲気があり、驚いてはいなさそうだった。


「距離は大体1キロって所だけど、見事な腕だねー。」

「あはは、訓練してるからー。」


 ルフィの言葉に、照れた様子の由利が笑う。顔が少し赤らんでいた。そうして由利が賞賛されている内に、ソラは他の面子に情報を提供する。


『此方HQ東側の畑近くでゴブリン4体を発見。全て討伐した。』

『了解。』


 そう言う返答を聞いて、ソラは通信を終了させる。そうして、その後数日今日と同じ様な状況が続くのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第206話『不穏な空気』

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