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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第87章 馬車の旅路編

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第2154話 馬車の旅路 ――戦いを終えて――

 森の中の湖に巣食って川へと毒を流し込んでいた<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>。成り行きからその討伐を行う事になったカイトと瞬であったが、そんな二人はカイトによる支援もありなんとか<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>の討伐を終える事に成功する。

 そうして、自身の槍投げによる余波――正確には一時的に授けられた風の加護が彼の力で増幅。加護による副次的な効果による浄化で消し飛んだ――で吹き飛んだ毒の煙を見て、思わずその場に腰掛けた。


「はぁ……さ、三重は流石にキツイな……と、というかカイト。お前は何時もこれをやっていたのか?」

「正確には契約者の力だから、もっと上だな。祝福側にバフ効果は無いし」

「お前は本当に……」


 加護を三つ同時に使うだけで、ここまで疲弊するのだ。これを更に上の契約者としての力を使い、しかも複数、最高で八個――本当は十二個だが瞬は知らない為――も同時に使えるというのだ。改めてカイトが世界最強だと瞬は思い知らされたが故に、ただただ呆れるしか出来なかった。


「まー、今は流石に使えんがな。本当はこれを使って戦えれば、大抵の戦いは楽なんだがね」

「まぁ、仕方がないのか」


 エネフィアで勇者カイトと言えば、死者達の力を使うと共に大精霊達の力を使える事が特徴として語り継がれている。とどのつまり、それを使う事こそが彼の証だ。

 故に彼は彼を最強足らしめる力を全部封ぜられた状態で戦わねばならないのである。それでも、ランクSまでなら余裕で勝ててしまうのが恐ろしい所であった。と、そんな彼らの所に声が掛けられる。


「お疲れ様ー。さっきの余波で毒が全部吹き飛んじゃってたからこっち来たよー」

『疲れたー』

「おっと」


 この戦いの間ずっと羽ばたいて、気流を生み出していたのだ。日向が疲れた様にカイトの肩へと肩車の様に伸し掛かる。そんな彼女をそのままに、カイトは笑ってユリィへと問いかける。


「そっちはどうだった?」

「んー。とりあえずこっちに来たのは全部伊勢が片付けたよ」

『さほど強くなかったです。が、やはり不死(アンデッド)系が多かったかと』

「そうか……まぁ、おそらく<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>がこの森の主化していたんだろう。そいつも消し飛んだ今、もう問題は無いだろうさ」


 やはり魔物の生態系にも若干の影響が出ていたか。カイトはこの森での道中に何度か見ていた不死(アンデッド)系の魔物を思い出し、そう判断する。そうして、そんな彼は改めて湖面を見る。


「氷が砕け始めてるな……ま、ソレイユは見えてるか」

『見てまーす』

「あはは……まぁ、妥当やっぱりランクAか」

『だねー。本来のにぃなら苦労せずに倒せちゃうんじゃない?』

「まぁな」


 実際、瞬が本気の本気。切り札である<<鬼島津(おにしまづ)>>を使わずとも――正確には今は使いたくとも使えないが――倒せた事から、カイトもソレイユもランクAも上位で良いだろう、と判断していた。

 今回の勝利としてもランクAでもエース格の一人に位置するカイトと瞬の二人であった事から倒せた、とされても大丈夫だろうという所であった。勿論、ソレイユが足場を整えた事も大きい。

 十分、勝利しておかしくない戦いだった。というわけで、ソレイユが凍らせていた湖面が元通りになったのを見届けて、カイトはバレる前に手早く処置を行う事にする。


「さてと……先輩。ちょっと下がってくれ」

「ああ」


 カイトの取り出した浄水器の役割を果たす深い青色の球体に、瞬は少しだけ離れてその様子を観察する。そうして、そんな彼の見ている前でカイトは魔力を操って青色の球体を操って、湖の中央へと沈める。


「……これでよし」

「閣下」

「ん? なんだ。写し身か」


 現れたのは、マクダウェル家において東町を取り仕切り、同時にマクダウェル家の暗部――と言っても単なる諜報員や対暗殺者部隊だが――を取り仕切るストラだ。そんな彼はカイトの言葉に笑う。


「は……とりあえず状況の確認の為、近隣を巡回していた巡視の部隊を向かわせると共に、私が……そうして合流したとほぼ同時に光が見えましたので、おそらく閣下なのでは、と」

「そうか……軍には討伐が終わった旨を伝達してくれ。一応、これ以上の毒素の進行は無いだろうし、ある程度の浄化の魔術が行える様に魔道具も仕込んだが……樹木医など専門の治療が必要だ。そちらは急げ。まだ、この森は助かる」

「かしこまりました。では、これにて」


 ふっとストラが消える。カイトの指示を軍に伝達に向かったのである。そうして彼が去った後、カイトは改めて先に沈めた球体へと接続する。すると、湖の中央から淡い青色の光の柱が立ち昇る。


「これは……一気に水が……」


 今までまるで汚泥の様に濁っていた湖の水が一瞬蠢いて、ある程度の透明度を有する。と言っても勿論、完全に透明というわけではなく、まだ我慢すれば湖に入っても良いかな、という程度だ。可能な限り入りたくはない色ではあった。


「毒を中和した。ここがなんとかならないと、この先が元通りにならないからな。まぁ、すでに元凶も討伐しているから、後は流れていくだけではあるが……」

「最終的に施設で浄化されるか、ここで浄化しておくか、の差か」

「そういう事だ。それに、あまり汚れていても更にまた別の魔物を呼び寄せる原因にもなりかねん。さっさと対処しておくに限る」


 一同は今しばらく、水が正常に浄化されているのを確認する。が、どうやらやはりこれ以外に原因となっていた存在はなかったらしく、浄化された水が再び濁る事はなかった。


「……良し。これだけ待って問題なければ、もう大丈夫だろう。戻ろう」

「ああ」


 もうこれ以上無駄にここに居る意味はない。カイトと瞬はそう頷きを交わす。そうして、一同は伊勢が倒した魔物の群れの死骸を横目に見ながら、調査隊が待つ場所へと移動する事にするのだった。




 さて、一同が湖畔を離れて十分ほど。森をかき分け移動したわけであるが、そうして戻った開けた場所ではいくらかの魔物の死骸が転がっており、こちらにも襲撃があった事が察せられた。と、そんな魔物の死骸の処理を行っていたゲンティフが、こちらに気が付いた。


「よぉ、お前ら。どうやらそっちも戦闘になったみたいだな。どうだった?」

「討伐は終了です。若干手こずりましたが……なんとか、という所でしょうか」

「そうか……どんな程度の相手だった?」

「<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>と呼ばれる魔物です」

「<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>? 聞いた事がないな」


 一応、今回の調査隊ではゲンティフは魔物の専門家という扱いで来ている。そして彼自身、並の冒険者より魔物については詳しいと思っていたし、依頼の受諾にあたり依頼人の公爵家もそこを信頼した上で依頼を出していた。その彼さえ知らない魔物、というのが気になったようだ。


「あー、それ私もにぃも知らなかったから、にぃにぃに聞いてわかった奴だよー」

「にぃにぃ……あんたのにぃにぃ、っていうとフロドか?」

「うんー。そっちに仲介して話してたよー」

「そ、そうか」


 確かにフロドであれば、自分以上に魔物の事を詳しく知っていても不思議はないか。ゲンティフは口を挟んだソレイユの言葉に納得を得る。実際、並以上に魔物に詳しいカイトでさえ知らなかったのだ。彼が知らなくても攻められるべきではないだろう。と、そんな彼へとカイトは耳に着けていたイヤリングから情報収集用のアクセサリを外す。


「これ、お返しします」

「っと。悪いな。後でこいつを参考に報告書を纏めておく……えーっと、<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>だったな?」

「はい。私も知りませんでしたが、おそらくユニオンならば分かるかと」

「わかった。それで記載しておこう」


 カイトの返答にゲンティフは血で濡れた手を使い捨ての布で拭い、カイトからアクセサリを受け取ってポケットに乱雑にしまい込む。これは冒険者が使うものだ。多少手荒に扱ってもデータが破損する事はない。


「まぁ、ランクAもレアな魔物と戦ったんだ。お前らも疲れただろう? こっちの後始末はこっちに任せて、お前らは明日の備えてもう休んでおけ。結界もアンブラ曰く、この調子なら明日の朝までは余裕で大丈夫だって事だからな」

「わかりました。では、有り難くそうします」

「おう」


 カイト達の仕事は魔物との戦闘だ。その意味で言えば、今回の<<残骸の竜(ダスト・ドラゴン)>>との戦いは大一番であったと言ってよかっただろう。というわけでゲンティフの許可を受けて、カイト達はそのまま休ませて貰う事にする。と、言うわけで馬車に戻る事にしたカイト達であったが、その道中で瞬が問いかけた。


「そういえば……あれ、大丈夫だったのか?」

「ん?」

「あのアクセサリだ。撮影がされていたんだろう?」


 よく考えれば、風の加護を一時的に付与したのはまずかったのではないか。瞬は言外にそう問いかける。これにカイトが笑った。


「ああ、問題無い。情報は改善し、先輩が単独で風を纏っていただけにしておいた」

「会話は取られないのか?」

「あれは映像だけだ。録画時間の関係で、音声までは無理だそうだ。しかも画質もかなり荒いからな。問題はない」

「そうか」


 なら大丈夫か。瞬はカイトの返答に気にしない事にする。何よりここらの戦略について瞬は自身の先見の明の低さ――あくまでカイトやソラに対してだが――は自覚出来ており、考える事はやめてはいないが基本はこの二人に預ける事にしていた。何より、自分は戦う方が良いと思っていた。そんな彼に、カイトがふと問いかける。


「っと……そうだ。先輩」

「なんだ?」

「毒をもろに吸ったが、大丈夫か?」

「ああ、それか」


 ぐっぐっ、と瞬はカイトの問いかけに数度拳を握りしめて感覚を確認する。


「一応、鬼族の力を影響が出ない程度に展開して、なんとかなったようだ。やはり便利は便利なんだが……」

「それでも、過信すると暴走する。暴走して森一つ吹き飛ばす、なんてやりたくはないだろう?」

「ああ……ふむ……カイト。一つ思ったんだが、良いか?」


 どうやら話していて瞬は何かを思ったらしい。これにカイトは首を傾げ、頷いた。


「ん? 答えられる事なら、だが」

「ああ……一つ思ったんだが、異族によって得意な属性は異なるよな?」

「まぁ……異族の中でも大精霊達の眷属と言われる奴らならな……そこらはオレよりユリィのが良いだろ」

「はいはい。ということで、久方ぶりに教師ユリィちゃんとうじょー」


 くいっとメガネ――当然伊達――を装着したユリィが、カイトの肩の上から会話に参加する。そして瞬としても実際カイトより異族であるユリィの方が良いと言われればそう思う所ではあったので、そのまま彼女に問いかけてみる事にした。


「で、お問い合わせの内容は?」

「ああ……異族の力は属性とも密接に関係している事もある、とは今カイトから聞いた。それで一つ疑問なんだが、加護の力を使って力の暴走を抑える事は出来ないのか?」

「「ん……」」


 これは中々に興味深い提案か。瞬の問いかけにカイトとユリィは一度顔を見合わせる。


「んー……これ、どうなんだろ」

「ふむ……面白い提案ではある。おそらくお前らのような妖精族やドワーフら、人魚族らは明確に影響が出ると言って良いだろう。ふむ……鬼族に影響のある属性か……」

「基本、鬼族だと火属性だね。でも流石にそこを試した奴って誰か居たかなぁ……」


 少なくとも聞いた事はない。ユリィは記憶を辿りながら、一つ首を振る。が、それ以上に問題が無いではなかった。


「とはいえ……加護の力を抑制に使う、か。そこが微妙な所といえば微妙な所か」

「何故だ?」

「加護はあくまでも力を与えるものだ。それを用いて抑制、という事はまずやらん。だから実例が無いに等しいんだ」

「そうなのか……良案だと思ったんだが」


 どこか残念そうに瞬が肩を落とす。これに、ユリィが問いかけた。


「どういう事?」

「いや……加護の力で押さえつけられるのなら、俺であれば常に<<雷炎武(らいえんぶ)>>を最大にしておけば、使えるのではないかと思ってな」

「なるほど……むぅ……」


 確かに加護を用いて鬼族の力を抑制する事が出来るという前提が正しいのであれば、瞬にとってこれ以上ない朗報だろう。勿論、単に鬼族としての力を展開出来ない事に変わりはないが、彼の最大値は変わらなくなる。それだけでも十分だった。


「んー……カイト。一度中津国の酒呑童子に聞けば?」

「酒呑童子? こちらにも酒呑童子が居るのか?」

「うん……まぁ、瞬の酒呑童子と紛らわしいから、カイトは基本は大輝(たいき)って呼んでるけどね」


 驚いた様子の瞬に対して、ユリィはエネフィアの酒呑童子についてを語る。そしてこちらの酒呑童子も鬼族の長をしている為、鬼族の事なら彼に聞くのが一番良いと考えられたのである。


「……そうだな。一度武器の事もあるし、中津国に行くのは良いかもしれん」

「いや……行くのは良いかもしれん、で行けるのか?」

「いや……普通に入国審査の書類やら出してるのウチだぞ。更に言うと、オレに限っちゃ向こうからは顔パスで入って良い許可も得ているからな」

「そ、そうなのか」


 カイトと中津国の関わりを考えれば妥当だったのかもしれないが、それでも改めて言われては瞬も驚くしかなかった。というわけで、カイトと瞬は二つの問題を解決するべく中津国への渡航を決めて、休憩に入る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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