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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第87章 馬車の旅路編

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第2148話 馬車の旅路 ――再開――

 <<腐敗する竜(カースド・ドラゴン)>という土地や水を汚染する魔物の影響を調べるべく立ち上げられた調査隊に志願していたカイト。そんな彼は瞬やソレイユらと共に、調査隊の一員として馬車で旅をしながら汚染された地域の調査を調査していた。そうして、一日目の調査を終えて宿場町跡地にて一泊。一同は昨日と同じ時間帯に、馬車を再度走らせる事にする。


「よし……カイト、瞬。周囲は大丈夫か?」

『はい……先輩。そっちは?』

『こっちも問題無い。今、最後の一体を……はっ!』


 どんっ。轟音が鳴り響いて、魔力が迸る。そうして少しの後、再度瞬が口を開いた。


『……討伐完了。これで周囲の安全は確保出来ました。今なら、問題なく進めるかと』

「よし。じゃあ、急いで戻ってくれ。カイト、お前はその場で待機。こっちから向かう」

『はい』


 やはり結界で身を隠している間に、魔物の群れが近付いていた――正確には朝方に餌を求め移動して、結果として近くに来ただけだろうが――ようだ。

 出発前にそれを討伐せねば、面倒になりかねない。なので瞬とカイトは二手に別れて討伐していたのであった。そうして、比較的近くの群れを討伐していた瞬が馬車へと戻ってきた。


「戻りました」

「よし……ヴァルト。頼む」

「はい」


 ゲンティフの指示を受けて、ヴァルトが馬達に指示を与えてゆっくりと馬車を走らせ始める。そうしてそれを受けて、瞬は一旦馬車の上に飛び上がった。


「ふぅ……これで大丈夫か」


 一度速度に乗ってしまえば、足の速い魔物でなければ馬の方が速い。周囲の魔物の討伐は終えていた為、これで十分だろうと思われた。そうして更に進む事三十分ほど。元々道だったと思われる場所を進み続けた馬車は、その路肩にて突っ立っていたカイト達の姿を発見する。それを見て、瞬が通信機を起動させる。


「カイト。こちらからお前が見えた」

『ああ。こちらも見えている……そのままで大丈夫だ。こっちから飛び移る』

「わかった。ゲンティフさん!」

「ああ! こっちも聞こえてた! ヴァルト! そのまま行け!」

「わかりました!」


 ゲンティフの指示に、ヴァルトは速度をそのままにする。流石にカイトであれば、短期的にはカイトの足の方が馬車より遥かに速い。並走も追い抜く事も出来る以上、飛び乗る事も余裕だった。そうして、数分後。彼の真横を馬車が通り抜ける。


「さて……」


 通り抜けた馬車を見送って、カイトは一度首を鳴らす。そうして軽やかに地面を蹴って、急加速。一気に馬車に並走した。


「とっ」


 並走と同時。カイトは馬車と速度を合わせると、一度だけ身を屈めて地面を蹴って馬車の天井へと飛び乗る。そうして着地して、一息吐いた。


「ふぅ……合流しました」

『聞いてた。そのまま待機で頼む』

「了解」


 ゲンティフの指示に、カイトは天井に腰を下ろす。このまま待機してくれ、というのであればこのまま待機するだけであった。と、そんな彼に同じく天井の上で待機をしていた瞬が問いかける。


「これからは、完全に新規ルートになるんだったな?」

「ああ。ここからは完全に新規……と言っても、後二時間ほどはこのままだな。途中まではこの道を進む」


 どうやら幸い、すでにある道はある程度は無事だったらしい。が、魔物が闊歩するこのエネフィアで一切の手入れもされず、数年だ。どうにせよ補修工事は必要になっており、新しく道を作る方が楽か、と言われると微妙な程度だった。故に、瞬は自分たちの目の前に伸びる道らしきものを見て、僅かな苦笑を浮かべる。


「道……か?」

「道だ……多分な」

「迷わないで進めるのか、これで……いや、おそらく人の往来があった頃にはもっとちゃんとした道だったんだろうが……」


 少なくとも今のこの状態で目印もなく進んで迷わないだろうか。瞬はある意味草原や荒野を行くと同じ様な状態の道を見ながら、若干の不安を滲ませる。


「問題は無いだろう。今までも実際迷ってないしな」

「それはそうだろうが……放置されるとたった数年でこうなるんだな」

「まぁ……な」


 たった数年。それだけ放置されただけで、道はもはや普通の地面と大差ない状態になっていた。一応まだ痕跡が残っている所は無いではないが、それでも道とは呼べないだろう。とはいえ、それを見て僅かな哀愁を漂わせたカイトは一転して笑う。


「ま、そういった事を調べるのも、仕事の内だ。こうなってましたよ、と調べとかないと費用対効果がわからないからな」

「なるほどな。それは確かに」


 今自分達が調べているのは、あくまでもプランの一つとしての新規ルート開拓だ。このルートが採用される事が決定ではない。確かに、現状を報告するのも必要な仕事だった。そうして、二人はその後もしばらくの間、道の現状を確認しながら馬車に揺られる事になるのだった。




 さて、それから数時間。数度の調査を経た一同は今回の調査において重要な新規ルートとなる森を通るルートの確認を行う事になっていた。が、そこでカイトはソレイユ、ユリィと並んで馬車の上で見張りに就いていたのだが、見えた森の光景に思わず笑うしかない状況に陥っていた。


「うーわー……はい、専門家ソレイユさん。この現状に一言どうぞ」

「んー……にぃの出番ですねー」

「カイトの出番ですねー」

「ですよねー……はぁ。最終報告から二ヶ月で森一つ壊滅とか……あー……」


 まぁ、わかりやすく言ってしまえば、冬に近い事を加味しても落ち葉が多すぎた。勿論、木々からも活力が失われ、目に見えてやせ細っていた。

 故にカイトはソレイユとユリィの言葉に、ただただ深くため息を吐くしか出来なかった。というわけで、これは流石に見過ごせない、とカイトは即座に緊急用で持ってきていた通信機を起動させる。


「はーい。こちらマスター。マイハウスどうぞー」

『はい。こちらマクダウェル公爵邸』

「ああ、オレ……プランH。樹木医の手配を。クズハに頼んでエルフ達の樹木医も用意させてくれ。少し範囲が広い」

『かしこまりました。プラン・ヒーリング。樹木医の手配を行います。人数は?』

「百は欲しい。森の通行中になんとか出来る範囲はやる。まだ死んでないから、なんとかは出来る」

『了解。偽装工作も平行して行います』

「頼む」


 会話の終了と同時にカイトは通信機を懐にしまうと、改めて森の様子を伺い見る。


「うーん。毒にやられてるなー……しかも結構な広範囲……アンブラー」

「おー。私も見たぞー……入る前に調査やる予定立てて正解だったなー」


 これは酷い。アンブラも森の状況の悪さがひと目でわかったらしい。故に彼女も苦笑混じりにカイトにそう返答するしかなかった。そうして、そんな彼女にカイトは手を差し伸べて、彼女を天井の上へと引っ張り上げる。


「だな……ほらよっ」

「っと……すまんなー……あー……これは酷いなー」


 まだ最悪には至っていない。が、それでも森の有様は酷い状況で、土壌汚染もかなり気になる所だった。


「はぁ……ったく……まーた仕事増やしやがって」

「まー、それが仕事なんだから諦めろー」

「で、にぃー。あれ、どうするー?」

「やんないと駄目だろうなー……」


 どうすっかねー。カイトはいっそここで馬車を引き返させて、後で単騎でやった方が良いのではないか、という気持ちが鎌首をもたげる。が、流石にここで引き返す事は出来ないだろう、とも思っていた。と、そんな彼の所にゲンティフが通信を入れた。


『カイト。まだ上か?』

「ええ……見えてますか?」

『ああ……森がかなりやられてる。毒……かその類だと思うが』

「ええ……森が相当弱っています。まだ死んでいるわけではないですが……」


 死んだ森はもっと実感として死んだと分かる。カイトは何度となく死んだ森を見てきていればこそ、助かる森助からない森の区別が出来る様になっていた。そしてこの森はまだ、助けられる森だった。


『ああ……最後の問いかけだ。行くか?』

「ええ……といっても、最終的な判断は貴方にお預けします。戻るなら、戻るでも良いかと」

『流石に、ここで戻るは言えねぇさ……最低限、どんな魔物が居たかだけは確認しなくちゃ金は貰えねぇ。行くしかない』


 それに冒険者として、森の異変に怯えて何も確認せずに逃げ出しました、は恥ずかしいも良い所だ。ならば、このまま進んで最低限原因究明に繋がる何かを見つけ出す必要があった。


「わかりました。では、このまま。とはいえ、当初の目的通り森の入り口での調査は行っておきましょう」

『だな……アンブラもそっちか?』

「ええ」

『そっちも異論は?』


 あくまでもサンプルを確保するのはアンブラ――と助手――とユーラだ。そしてここは幸か不幸か土壌汚染の調査だけでよく、彼女の返答一つでどうするかが決められた。


「無いぞー。そこらの話を今カイトとしてた所だー」

『そうか……なら、仕事の準備を頼む。サンプルの取り方やら数はそっちに任せる。時間が必要なら言ってくれ。こっちは森に入れる場所を探る』

「おーう……んー。てか、今やっとかんと駄目かー」

「しか、無いでしょ……今早急に手を打たないと、この森が危ない。森を救うには、行くしかない」


 アンブラの指摘に、ユリィもまた同意する。アンブラは見える土の状態から。ユリィは妖精族としての力で森に満ちる活力から。共に森が危機的状況である事を理解していた。

 というわけで、曲がりなりにもマクダウェル家にて勤める者として、アンブラもユリィも行くしかない、と判断した。その一方、カイトは屋上へ出て来た瞬へと指示を出す。


「先輩……そちらは万が一に備えて、ここで警戒を」

「ああ……いざという時は?」

「無い、とは思うが……なるべく遠距離で攻撃してくれ。おそらくこの魔物……毒を使う。性質は水棲だろうな」

「わかるのか?」


 まだ調べても居ないのに出した結論に、瞬が一つ問いかける。毒を使うだろう、というのは状況から彼も理解出来た。が、水棲かどうかは、まだ分かり得ない所であった。


「水の方に影響が濃い事と……上、見えるか?」

「上? 何も……無いが」

「むぅ……こればっかりは毒を見せた事がなかった弊害かな……」


 そもそも毒なんて危険物をおいそれと使えるものではないのだから。仕方がないか。カイトはわからない様子の瞬に仕方がない、と諦める。こればかりは経験を積むしかなかったし、カイトは対暗殺者の訓練で身に付けたものだ。そういった訓練をしていない瞬がわからないでも無理はなかった。


「森の中心付近から、毒の気配がもうもうと立ち昇っている。煙みたいにな」

「見えない……な。俺には」

「だろうな。人一人を殺す程度の毒ならオレも見えんが……あそこまで大々的な空気の淀みになると、流石にわかりやすい」

「ふむ……」


 カイトの言葉に、瞬は彼が見ている方向と同じ方向を向いて目を凝らす。が、どれだけ凝らしても、何も見えなかった。


「こればっかりは仕方がない。びみょーにな。空気の流れがおかしいんだよ。なんっていうか……こう、いやーな気配っていうか……」

「まー、こればっかは毒見慣れとかないとわかんないだろー。私は鉱物系の毒やら鉱山の毒ガス、カイトは知らんけど、ユリィとかソレイユだったら動植物の出す毒気で見慣れてるからなー」

「あ、あまり見慣れたくないですね……」


 毒を見慣れるほどに見れば分かる。そう言われた瞬はしかし、それ故にこそ頬を引き攣らせるしかできなかった。勿論、それが出来る様になった結果、ここで両者の性能の差が如実に出ていたのだから、一概に否定も出来なかった。というわけで、そんなアンブラと共に森の状況を話し合っていたユリィが教えてくれる。


「なんていうか、空気が濁ってるっていうか……若干風の流れが違うの。粘ついてるっていうか……まともじゃない風だって分かるの」

「それが、上に漂っていると」

「そだね」


 瞬とユリィは揃って、再度森の中央付近の上を見る。瞬にはわからなかったが、そこでは今微妙に空気の流れが淀んでいるとの事であった。と、そんな事を話した所でゲンティフから再度の連絡が入った。


『ああ、俺だ。今、良い場所を見付けた。そこに向かうから、中に入る奴は中に入ってくれ』

「おーし。じゃあ、私らはさっさと調査の準備しちまうかー。流石に長居したくはないなー」

「そーしろ。オレはこのまま待機しておく。誰か一人は、外に居ないといけないだろうからな……先輩。先輩も毒の影響が怖い。中に入っておけ」

「そうしよう」


 カイトの指示を聞いて、瞬はアンブラと共に馬車の中に戻っていく。そうして、カイトは自らの精神世界に語り掛ける。


『シルフィ……風の膜を。万が一に備えておきたい』

『はーい』


 カイトの要請を受けて、シルフィが彼の周囲に空気の断層を生み出す。これで、万が一毒が吹き出してきた場合も安全だった。そうして、改めて馬車がゆっくりと動き出し、森での調査が開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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