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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第87章 馬車の旅路編

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第2137話 馬車での旅 ――出発――

 アストレア領での一連の依頼を終えて数日。マクスウェルに戻ってきて通常業務に戻ってカイトであったが、そんな彼の所に一通の依頼書が舞い込んでくる。

 それは新たに開拓されたルートを調査する調査任務の依頼で、カイトは自身の感情を読んだユリィに背を押され、依頼の受諾を決める。そうしてそんな彼が依頼の相方として選んだのは、丁度依頼から戻ってきた瞬だった。


「なるほど……そういう依頼は受けた事がなかったな」

「ああ。それでどうか、と思ってな」

「そういう事なら、是非受けよう」


 こういう依頼はカイトが述べた通り、ギルドに持ち込まれる事は珍しいものだ。なので瞬としても初めて見る依頼で、興味が惹かれたらしい。が、彼も一応これが依頼である事はわかっていた為、念の為に確認を行う事にする。


「今回、求められているのはあくまで戦闘力で良いんだな?」

「はい。現在、『リーナイト』の一件により実力者達が戦闘不能、もしくは一時的な戦力低下が否めない状態となっております。故にギルドにも依頼が回っているのだと思われます」

「良し。そういう事なら、問題無いだろう」


 求められているのが腕っぷしなら、これ以上ない適役だろう。瞬は自分があくまでも戦士であると自認している為、これを受ける事にしたようだ。というわけでそれを受けて、ソーニャがカイトへと確認を取った。


「ではお二人……での依頼で良い……ですか?」

「あのマスコット共は置いておけ……はいはい。わかってます」

「やたっ。用意してきまーす!」


 くいくい、と自身の袖を引っ張っていたソレイユが、カイトのどこか苦笑するような了承に小さくガッツポーズを浮かべる。どうやらユリィ以下日向と伊勢まで行く事になった為、勝手に乗り気になっていたらしい。


「やれやれ……一名追加で。まぁ、役職は森林の専門家で良いだろ。最悪はマスコット一名追加で良い。確か今回のルートには森林もあったな?」

「はい。森林にて一泊も行程に組み込まれています」

「なら、あいつほど専門家はいないだろう」

「わかりました」


 森林の専門家についても枠に空きはあるな。ソーニャはカイトの言葉に依頼の申請書にそちらも含めておく。どちらにせよ今回の依頼を取り仕切る相手もソレイユとなれば否やはない。資格としても十分満たすだろう。


「では、この三人で良いですね?」

「ああ……依頼は三泊四日で良いんだな?」

「はい。初日、指定の宿場町にて合流。その後、今回の新規ルート開拓に伴い設置される予定の宿場町予定地にて二泊。中一日で森林での一泊となります。また、今回のメインは危険性の調査。初回調査となりますので、結界の強度などは宿場町が設営された場合を想定した程度となります。その点はご注意を」


 カイトの確認に対して、ソーニャが改めて依頼の概要を語る。これにカイトも一つ頷いた。


「それについては問題ない。森林での一泊では、普通の結界を展開するんだろうからな」

「そちらはおそらく」

「森林での一泊は何を想定するんだ?」


 宿場町設営予定地での一泊が宿場町を想定してのものである事は瞬にも理解出来た。が、森林に宿場町がある、というのは彼も往々にして聞いた事がなかった。一応無いではないが、この様子だとそうではないだろうと予想出来た。そこが気になったようだ。


「森林で足止めを食らった場合だな。森林だと、どうしても雨期や台風の時期で土砂崩れなどで道が寸断される事がある。万が一森林で一泊しなければならなくなった場合、本当に安全か確認しておかねばならないからな」

「何か場所の目処は立っているのか?」

「それは勿論。まだ獣道で満足に移動出来るわけじゃないが……そこが確保出来るのなら、今度は道を舗装する事になる」


 どうやら無策に一泊するわけではないらしい。瞬はカイトからの情報にそれなら特に気にしなくても良いか、と僅かに肩の力を抜く。と、そんな彼であったが、カイトの言葉にふと気が付いた。


「ん? ということは、今回行く道は基本舗装されていないのか?」

「ああ。そもそも新規で開拓されたルートだぞ? これから道を作るんだ。道があったらおかしいだろう」

「それはそうか」


 確かに、そのとおりだろう。瞬も笑うカイトの言葉に納得する。そしてそれ故、カイト達が興味を見せたというわけだ。久方ぶりの一切の標無しでの旅路になるからである。というわけで、依頼の受諾を決めた二人は改めて依頼の受諾を決めて打ち合わせを終えて、出立の準備を整える事になるのだった。




 さて、二人が新規開拓されたルートの確認を行う依頼の受諾を決めて数日。カイト達は改めて支度を整えると、どういうわけかカイトの自宅ことマクダウェル公爵邸にて集合していた。そんな中でもカイトは何時も以上に顔が輝いていた。


「久しぶりだなー、馬車での旅は」

「にぃと旅する方が久しぶりー」

「そうでもないだろ。ラエリアの内紛で旅してた」

「そうじゃなくて……こうやって呑気な旅ー」


 実際、何時以来だろうか。カイトはソレイユの言葉を聞きながら、久方ぶりに馬車での旅に心を躍らせる。馬旅としてはたった数日であるが、実は馬車で一週間近くも移動する事はエネフィアでも稀だ。

 三百年前も時代柄馬車を使わず徒歩で移動する日は少なくなく、一週間以上も継続して馬車に乗って移動したのは戦争終盤でも殆どなかった。なので今回の様に三泊四日という事は特に昔を思い出させていた様子であった。


「呑気ねぇ……遠足じゃないけれど」

「……お前が一番呑気だろ」


 何時も通りといえば何時も通りのフードの中なユリィに、カイトは思わずツッコミを入れる。今回、彼女は本気で戦うつもりは皆無らしい。呑気にフードの中で寝っ転がっていた。


「私はいーの。今更何か必要な事も無いでしょ」

「はいはい……さて。行くか」

「カイト。集合地点まではどうやって行くんだ?」

「ああ、それか」


 ユリィとのじゃれ合いを終わらせていざ出発となったカイトであったが、くるくると巻いていた巻物を取り出した。と言っても単なる依頼書である。


「マクスウェルからかなり離れた北東部の宿場町だ。こっからだと、だいたい100キロほどか」

「普通に考えれば、数日掛かりだな」

「普通は、だな」


 ゴキゴキ。カイトは首を鳴らしながら、瞬の言葉に笑う。あくまでも普通に考えれば。普通でない彼らにとって、問題となる距離ではない。そして今回は小回りの利く足も用意しておいた。というわけで、カイトが用意されておいたシャッターの前でスイッチを押し込む。


「ポチッとな」

「本当にこんな物を作っていたんだな……」

「移動の足で慣れてるからな。実際、オレも個人でバイクは持ってるし」

「確か昔言っていたな。天音カイトとしてもバイクは一台持ってるって」


 一応名分としては古く破棄寸前だったものを貰って自分でレストアした、という事になっていた。この知り合いは一応色々と誤魔化したりはしたが、兎にも角にも公然とバイクを保有していた。地球で活動するにあたり、遠方に居る事がバレた場合に足として偽装出来る為、という事だった。


「ああ……さて。ちび共全員乗り込んどけー」

「よいしょ」

「ほいしょ」

『ぽふ』

『失礼します』


 今回、ハーフリングのソレイユ以外全員が小型化出来る者たちだ。というわけで、彼女がカイトのサイドカーに乗り込んで他の面子はそれの空いたスペースに乗り込む形を取っていた。これでもまだスペースに余裕はあるらしく、狭さを感じている様子はなかった。


「……すごい事になっているな」

「いつもの事だ……で、先輩。そっちの初心者用の物使え。設定とか全部されてる奴だから、ペーパーでも使える」

「ペーパーどころか免許も持っていないんだが……」


 良いのだろうか。瞬はカイトの言葉にそう思いながら、少し興味はあったのでヘルメットをかぶっておく。と、そうして彼はすぐに驚く事になった。


「うおっ!? 何だこれは!?」

「ああ、すまん。言い忘れてた。それ、ヘッドマウントディスプレイの役割も果たすから、速度や危険物の接近なんかもそっちでわかるぞ。オンオフは右の顎の部分にスイッチがあるから、慣れない内はそっちで切り替えろ」

「……地球のバイクとヘルメットより遥かに上じゃないか……」


 これか。試しにスイッチのオンオフを試してみる瞬が、エネフィアの技術を利用して作られているヘルメットに感嘆とも呆れとも取れる呟きを放つ。その一方、カイトもまた自身専用にカスタムされたバイクのハンドル部分に掛かっていたゴーグルを掴み、サイズの微調整を行っていた。


「……良し。ティナ、聞こえるか?」

『うむ……いや、助かった。初心者用のバイクを開発したは良いが、ウチの奴ら(技術班の面々)は揃って使った事あるからのう。かといって脳筋共(戦闘員)はぶっ壊しかねんから、誰を実験だ……んん。テスターとするか悩んでおった所じゃった』

「そうか……で、一応聞いておくけど、設定は問題無いんだな?」


 そもそも瞬は今までこのバイクどころか地球でのバイクに乗った事もない。勿論、免許も持っていない。が、このバイクは魔術を使って再現されたバイクだ。子供でも乗れるような物が開発されており、今回その試験も兼ねていたらしかった。


『うむ。こちらで設定しておいた。バランサーなどもきちんとしておるから、基本的にはハンドルを握ってアクセルを回すだけじゃ。バイクはアクセルを踏むんじゃないからのう。バランスを取る必要はないし、練習していくならバランサーを段階的に緩めれば良い』

「知ってるし、今使えりゃ良い」


 今回、移動の足で使いたいだけだ。瞬がその後練習するか否かは彼次第という所なので、そちらについて今は言っても詮無きことだった。というわけで、カイトはゴーグルを操って拡張現実を表示させる。


「良し……こっちも問題無し」

『うむ。で、バランサーについては一応お主の方でも確認出来るようにはしておる。万が一の場合にはそちらからなんとかせい』

「なんとかって言われましてもね……」

「まぁ、俺とてこれでも高ランク冒険者だ。多少バランスが崩れたぐらいなら問題はない」


 一応、現在の瞬の反射神経などはランクA相当と言っても過言ではない。故に彼なら確かに問題は無いと思われた。というわけで、それに納得したカイトは自身専用に拵えられたバイクへと跨る。


「良し……先輩。基本は普通のバイクと一緒だ。使い方の簡単なレクチャーはヘルメットを確認しろ。そっちのが早い」

「ああ、もうそうさせて貰っている」


 これはカイトが知らなかった事であるが、どうやらヘルメットも初心者用にカスタマイズされたものだったらしい。装着と同時に自動的にチュートリアルが流れる様になっており、簡易な操作が学べる様になっていた。まぁ、それだけで良いほどには簡単な操作で動かせるという事であった。

 というわけで、簡易なレクチャーとヘッドマウントディスプレイ機能を利用したシミュレーションを行った後、改めて出発となった。


「良し……これで大丈夫だ。流石に戦闘は難しいが……移動ぐらいならなんとでもなる」

「戦闘は任せてね。私こっちで暇だからー」

「そこからも撃てる」

「ね?」

「……すまない。俺が悪かった」


 自身の言葉を遮って放たれた矢に、瞬が両手を挙げて降参を示す。弓を抜く瞬間さえ見えなかったほどの早業であった。そうして、二台のバイクに跨った一同は一路集合地点となるマクダウェル領北東部の宿場町を目指す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ハンドルを握ってアクセルを踏み込む」 地球のバイクだとアクセルは右ハンドルを回すのでこの場合は右足か左足のと書いた方が良いかと思います。
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